スーパーでまだ生きている生きものを見て「飼ってみたい」と思ったことはありませんか?
魚売り場や漁港での偶然の出会いから始まった、ゆかいな飼育記録が本になりました。
海から水槽へ暮らしの舞台を移した水の生きものたちの「セカンドライフ」をのぞくと、感動・笑い・学びがたくさん!
子どもから大人まで、読むたびに心温まる物語の数々をぜひお楽しみください。
連載第1回は、「さよならはまだ早い 水辺の生きものとのキセキ」の中から、「クサフグの『てっちり』」を紹介します。
※本連載は『水の生きものセカンドライフ 瀕死の生きものを救ったら、ゆかいな日々が訪れた』から一部抜粋して構成された記事です。
釣り人に嫌われるクサフグ
僕が運営しているYouTubeの「エマスちゃんねる」でも紹介しているのだが、漁港や釣り場へ行くと大量のクサフグがアスファルトの上に打ち捨てられていることがある。
クサフグの死骸に虫がたかったり、そのままアスファルトのうえで干からびてしまったり……見るも無残な状態になってしまうのだ。
なんでこんな現象が起きるのかというと、釣り人のなかにはクサフグを嫌う人が少なくないから。実は、このクサフグは釣り人たちのなかで“外道”と呼ばれている。簡単に言うと、「釣れてもまったく嬉しくない魚」という意味だ。
釣りに馴染みがない人のなかには「え? 釣れたなら持って帰って食べればいいじゃない」と考える人もいるかもしれない。しかし、そう簡単な話ではないのだ。フグという魚は体内にテトロドトキシンという猛毒を持っていて、誤って口にしたら最悪の場合死んでしまう。専門的な知識がない状態でフグを捌くのは、自殺行為とも言えるだろう。
さて、ここで釣り人の話に戻ろう。安全に食べることを考えれば、毒のない魚がいいというのは分かってもらえたと思う。しかしクサフグが嫌われるのは、毒があるからという理由だけではない。
クサフグは群れで移動する習性があるので、何度エサを垂らしてもクサフグしか釣れないというガッカリな時間を過ごすことになってしまうのだ。さらに、フグには強靭な歯があるため仕掛けを簡単に食いちぎっていってしまう。
釣り人からすれば、釣りたい魚は釣れないし、仕掛けはまた作らないといけない。だから、同じクサフグがエサに引っかからないように、釣れたクサフグをアスファルトに打ち捨てる人がいる……というわけだ。一か所の漁港を訪れるだけで、10匹前後のクサフグが捨てられていることがあるので、本当によくある光景なのだと思う。
だけど、ここで少しだけ考えてみてほしい。
フグはなにも悪いことをしていない。ただ、目の前にエサがあってそれを食べようとしただけだ。生きるために。
だから、もし自分が狙っていた魚じゃなく“外道”が釣れてしまったとしても、優しい気持ちでリリースしてあげてほしいと思う。釣り人全体が“外道”だと思われないような配慮、そして最低限のマナーだという認識が定着してくれることを願って。
「てっちり」との出会い
いつものように海沿いを歩いていると、またもや動かなくなっているクサフグを見つけた。まだ体の表面に水分はあるようだが、ピクリとも動かない。すでにクサフグの体には虫が集まり、目玉の上をお構いなしに歩いていたので、これはもう死んでいるなと思った。
まぁでも念のため……と思いながら指先でお腹のあたりを触ってみると、突然ヒレをバタバタと動かしはじめるクサフグ。
「うわっ!」
死んでいると思っていたので、信じられないくらい大きな声が出てしまった。その後、急いで海水をバケツに汲み、クサフグを入れて様子を見てみることにした。若干元気はないものの、しっかりとヒレを動かして泳いでいる。これなら、何とか生きられるかもしれない。
家に持ちかえり、水槽に移し替える。すると、環境の変化に驚いたのか、しばらくは忙しそうに水中をパトロールしている。しかし、時間が経つにつれて水底にお腹をくっつけてくつろぎはじめた。どうやら、ひとまずは安全な場所だと認識してくれたらしい。
エサを水槽越しに揺らして見せてみると、多少は興味がありそうな様子。ダメもとでエサを水槽に落としてみたが、やはり口をつけることはなかった。体が弱っているのか、まだ水槽の環境に慣れていないのか、エサ自体が気に入らなかったのか……食べない理由は分からないが、瀕死だったクサフグが僕の目の前で生きている。それだけで、十分な気がした。
このままずっとクサフグと呼ぶのも味気ない気がしたので、YouTubeチャンネルの視聴者さんに名付け親になってもらい、「てっちり」と呼ぶことにした。うん、なんか味が出てきた気がする。
どう猛なのにシャイな性格
家に「てっちり」をお迎えして数日後、アオイソメとユムシというエサを与えてみると、元気よく食べるようになった。このエサは、釣具屋などでは定番のムカデのような虫(苦手な方は調べないほうがよいかも)もので、その動きや水に入れたときのにおいに反応して、魚の食欲を刺激してくれるのだ。
フグの歯は強靭なので、一噛みしただけで簡単にエサの体が千切れてゆく。柔らかくて食べやすい虫だけではなく、小型のエビやカニでも気にすることなくバリバリと食べてしまうのだ。なんとどう猛な生きものだろう。
もう少し食べそうだなと思い、てっちりの顔前までアオイソメを持っていってみるが、あまり興味を示さない。お腹がいっぱいなわけではなくて、人間が近くにいるのが分かっているので警戒しているらしい。ためしに、少し離れたところから観察してみると、すぐにエサの近くに泳いでいって豪快に食べはじめた。……やっぱりお腹が空いていたんだ(笑)。
クサフグは、寝るときに砂の中に潜る習性があり、砂から顔だけを出してこちらを見ていることがあるのだが、そんな姿を見ているとエサを食べているときのどう猛さは少しも感じない。むしろ控えめでシャイといった印象だ。
魚とコミュニケーションを取るのは、犬や猫と違ってそう簡単にはできない。それでも「以前より僕が近くにいてもエサを食べてくれるようになった」とか、「こちらをポーッと見ている時間が増えた気がする」というような変化を感じる時間があって、本当にうれしくて少しずつ心が満たされるのを感じる。
この感覚は、他の動物と触れ合っているときとはまた違った印象があるので、興味のある人はぜひ飼育してみてほしい。
水の生きものとのひょんな出会いの物語はいかがだったでしたか?
本書では、その後の成長記録や貴重な写真はもちろん、生きものとの関わりから見つけた生きもののおもしろさ、いのちの大切さについてもつづられています。
朝の読書タイムや、自由研究にもぴったりな1冊、ぜひお手に取って、新しい世界をのぞいてみてください。