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地理って、一体何を学ぶ? 第1回 地図の表現|『すごすぎる地理の図鑑』


地理を身近なテーマで楽しく学べる『地理がわかれば世界がわかる!すごすぎる地理の図鑑』の試し読みです。地図記号や地形など知っているようで知らないトリビアが満載。社会の勉強にも役立つかも!
※ためし読みでは、本書の内容の一部を抜粋してお届けします。
 

はじめに

地理って、一体何を学ぶのでしょうか? 地名の暗記? 地図を眺める?
いえいえ、地理はもっと奥深いんです。地名を暗記するのではなく、その地名になった理由から、その地域のナゾを考えてみましょう。地図を眺めるだけではなく、そこに描かれている情報を読み取れると、その地域の自然環境、歴史や暮らしぶりがより深く理解できるのです。
世界には、ひとつとして「地理的な条件が同じ場所」はありません。地理を学ぶと、その地域がそうなった理由がわかります。地理は地域についての謎解き、地域の冒険なのです。 
この本では、いろいろな話題を取り上げて、地域の謎の答えを解き明かしていきます。本を片手に、地域の冒険へ出かけましょう!


・地形などの観察に出かける際は、施設や市町村のルールに従い、周囲の環境や安全に配慮して行動しましょう。
・掲載している情報は2023年3月末現在のものです。





01.そもそも「地図」ってなんだろう?

 みなさんは地図と聞いて、まず何を思い浮かべますか? スマホの地図、街中で見る案内板、それとも日本が中心にある世界地図でしょうか。
 地図は、自分のいる場所や行きたい場所を正しく知るのに役立つものです。例えば、遊園地の地図では目当てのアトラクションの場所がわかり、どんな順番で回ればよいか考える手助けをしてくれます。
 また、建物内の案内用といった狭い範囲のものから、都市、全世界など、さまざまな縮尺(スケール)の地図があります。限られたスペースに対象地を縮めて収めるためのルールが縮尺です。スマホやパソコン上の地図では自由に縮尺を変えて、建物ひとつひとつから地球全体までをつぎ目なく見ることもできます。また、地図には必ず方位が示されており、北が上になるのが一般的です。
 地図さえあれば、移動する際の距離や移動手段、方向がわかり、初めての場所でも迷わず移動することができるのです。

こんなのもある!? 地図のいろいろ




💡

地図の歴史は文字よりも古いといわれ、北イタリアの岩壁に村の様子を描いた岩絵地図(紀元前1500年頃)や、古代バビロニアなどの都市で発見された粘土板に描かれた地図(紀元前700年頃)などがあります。




03.頭の中の地図を描いてみよう

 家から学校やよく行くお店までの道のりを紙に描いてみましょう。描きあがった地図と実際の地図を比べてみると、特定の場所を誇張して大きく描いたり、建物の順番が異なったり、どこかが歪んだりしていませんか? 頭の中の地図は、人が成長し、行動範囲が広がるとともに広く、詳しくなっていくといわれています。
 左ページの2枚の地図は、幼稚園年長と小学3年生の子どもがそれぞれ自宅から幼稚園・学校までの道のりを描いたものです。まだ行動範囲の狭い幼稚園児は、通園路しか描いていません。お母さんの運転する車で通園するため、信号機のある交差点には「とまれ」の文字が目立ちます。
 一方、最近自転車で行動しはじめた小学生の地図には、通学路から少し外れたところの友人の家や公共施設があり、横断歩道や川、自動車など、注意しなければならないものが強調して描かれています。
 人がどのように空間を認識するのかというのも地理学の重要な研究テーマです。

実際に地図を描いてみるとどうなる?



PICK UP:アンカー・ポイント理論
見知らぬ土地に引っ越してきた人は、まず最初に自分の生活の拠点となる自宅やお店、職場や学校などの場所と、そこに行くための道を覚える。第2段階は、そのような場所の周りにある施設や道路を覚える。少しずつ行動範囲が広がっていくと第3段階で、新しい拠点とそこへの道を覚える。このように人の頭の中の地図がだんだん詳細になっていくという考え方をアンカー・ポイント理論という。


 

💡

人がどのように地図を描き、道を選んで移動できるのかは、古くからの難問でした。2014年のノーベル生理学・医学賞では脳内にGPSなどの衛星測位システムに似た働きをもつ細胞を発見したことが評価されました。



06.地図記号は国によってかたちが全然違ちがう!

 国土地理院が現在2万5千分の1地形図で使っている地図記号は、全部で134種類あります。もし地図記号がなかったら、地図は文字だらけのごちゃごちゃしたものになってしまうでしょう。
 じつは、地図記号は国ごとにまったく違います。日本は海外に比べてかなり記号の数が多く、明治から大正にかけて使われていたものはなんと300種類以上! 記号のかたちも独特で、漢字やカタカナに由来する記号は日本語を使う人しか思いつかないでしょうし、鳥居を示す神社の記号や、火消しが使っていた「刺股」がもとになった消防署の記号なども日本の文化を知らないと理解できないことでしょう。
 一方、欧米諸国の地図では、教会の記号が細かく分類・表示されていますが、学校を表す記号はなく、文字でそのまま学校を意味する「school」などと書いてある場合が多いようです。
 地図記号には、それぞれの国の文化や生活様式が詰め込まれているのです。


ひと目でわかる記号の力ってすごい!



PICK UP:欧米の地図記号
国によって地図記号もさまざま。その国の文化や風習が色濃く反映されます。日本の現在の地形図に教会の地図記号はありませんが、教会の多い欧米では複数の地図記号があることも!



イギリスの教会


イギリスの教会の地図記号
(左から)塔のある礼拝所/尖塔、ミナレットまたはドームのある礼拝所/付加物がない礼拝所の3種類。



フランスの教会


フランスの教会の地図記号
(左から)教会/チャペル/礼拝堂/小礼拝堂/十字架像の5種類。



 

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地図記号は、通常は国土地理院が決定しますが、2006年に定められた「風車」と「老人ホーム」の地図記号は、全国の小学生からデザインを募集して決められました。みなさんも新しい地図記号を考えてみませんか?




14.国境、県境、境界線はどうやって決まる?


 国境や県境はどうやって決まっているのでしょうか。地図を眺めると、国や県の境界線はくねくね曲がったり、直線だったりします。地域を何かの条件で境界線を設けて区分したものを、地域区分(P133/P144)といいます。国や県も地域区分のひとつです。
 高い山や大きな川などの自然障壁が境界線になっている例が多くあります(自然的境界)。それらは人の移動が困難なため、生活空間も分断され、境界になったのです。この境界線を境に、人々の生活習慣や言葉などが大きく異なることもあります。
 干拓や埋立てなどで新たな土地をつくったり、山を切り開いて開発した地域などの中には、直線的な境界線があります。新しくつくった場所に境界線を引くため、地形ではなく道路の中心線などを目印として、境界線を引きました(人為的境界)。境界線をまたいだ人の行き来に苦労しないため、文化や習慣にも違いが見られない場合が多いのです。


いろいろなタイプがある境界線

①自然的境界の例



境界線を設定したときと現在では地形が変化して、自然障壁の位置が変わってしまったものもある。茨城県取手市と千葉県我孫子市の市境もその例。利根川の河道が変わってしまったため、茨城県取手市の一部が利根川の南で離れ小島のようになった。


 ②人為的境界の例 



北海道札幌市は明治維新後、豊平川の扇状地につくられた都市。開拓者たちは河川を整えて改良し、札幌のまちを計画的に建設した。市や区の境界線を見ると、自然河川などの自然的境界だけでなく、道路や人工河川などの人為的境界も用いられていることがわかる。




もっと知りたい! 地域の分け方▼



💡

静岡県浜松市と長野県飯田市は隣どうし。1987年から毎年1回、県境界線でもある兵越峠で両県の境界線を決める綱引き大会があります。行政上の境界線は変わりませんが、大人が必死に綱を引く姿が話題です。


次回は、「すごすぎる地形と自然」をご紹介します!(6月27日公開予定)



好評発売中!『すごすぎる地理の図鑑』




監修:日本地理学会 編著:山本 健太 編著:長谷川 直子 執筆:宇根 寛 執筆:平野 淳平 執筆:矢野 桂司 執筆:秋山 千亜紀 執筆:宋 苑瑞

定価
1,430円(本体1,300円+税)
発売日
サイズ
四六判
ISBN
9784046060044

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