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ものがたり

【大ボリュームためしよみ】ソノリティ はじまりのうた #15


中学生5人のさわやかで甘ずっぱい青春を描く、『ソノリティ はじまりのうた』大ボリューム先行れんさいがスタート!
音楽や部活の物語、恋の物語が好きな人はチェックしてね♪


#15 大ピンチ?!

 ──どうしようもない

 迷っているうちに、メロディーに置き去りにされる。
 歌うぞ。さ、早く!
 すっと息を吸い込んだ。吐く息とともに、これ以上は出せないというくらいの大きな声を出した。肺の息をすっからかんに出して、全てを歌声に注ぐ。

「苛立ちをー」

 自分でもびっくりするくらいの大音量だった。涼万(りょうま)以外の男子生徒十数人を合わせた歌声よりも、涼万ひとりの声の方が圧倒的に大きかった。周りの男子があれっというふうに反応した。涼万は構わず続けた。

「感じなーーー・がら」

 涼万の額からボッと火が出た。高音の「な」の音が完全にひっくり返り、素っ頓狂な声が飛び出したのだ。メロディーラインを逸脱した「な」は、派手にイレギュラーしてあさっての方向にバウンドし、続く「がら」を蹴飛ばしていった。
 となりの男子がついに吹き出した。もう混声のフレーズにメロディーはうつっているのに、それが伝染したみたいに、前の男子も涼万を振り返って笑った。女子は笑いをこらえながら歌っている。
 昨日の咳に続き、またやらかしてしまった……。
 うなだれかけたときだった。突然、大音量の伴奏で窓ガラスがびりっと震えた。みんな同時に肩を縮めて、号令がかかったみたいに音心(そうる)の方を見た。
 音心は何くわぬ顔をして、いったん最大にひねったボリュームのつまみを、調整してもとに戻した。
 音心のおかげで、涼万のひっくり返った声で乱れた空気が、リセットされた。指揮者の早紀は、何があっても止めることなく、懸命に指揮棒を振り続けている。
 晴美がまた歌い出すと、女子も引っ張られるように歌い出す。涼万も恥ずかしさをこらえて歌に加わる。すると他の男子もつられて、真面目に声を出し始めた。
 井川、サンキュ。
 長い前髪に隠されて表情の分からない音心に、涼万は心の中で手を合わせて、失敗しないよう慎重に、でも一生懸命歌い続けた。
 早紀の目が輝きだした。初めて合唱らしい合唱になってきた。ひとつひとつの声が重なって、一本の帯のような流れになる。ソプラノ、アルト、男声のそれぞれが、自分のメロディーに忠実に、でも別のパートを感じながら歌っていた。それがうまく調和し、互いに互いの良さを引き出した。


※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。

#16へつづく(2022年4月13日 7時公開予定)

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著者:佐藤 いつ子

定価
1,650円(本体1,500円+税)
発売日
サイズ
四六判
ISBN
9784041124109

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