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中学生5人のさわやかで甘ずっぱい青春を描く、『ソノリティ はじまりのうた』大ボリューム先行れんさいがスタート!
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#14 歌ってあげたい
他のことは結構いい加減だけど、バスケへの執着については人を寄せ付けないほどの岳。
ピアノの即興を、さらりと弾いてしまう井川。
負けたくないと思ったら、クラスをぐいぐい仕切ってしまえるキンタ。
そして、放課後ひとりで歌いながら、指揮の練習をしていた……水野。
なんかみんな、熱いな。
俺がもっている熱の温度と、違うんだ。
行事なんかで一生懸命真面目にやるって、なんか格好良くない気がして。なんかダサいような、なんかこっぱずかしいような、実際めんどくさかったりもして。
考えごとをしていたら、となりの男子がサッと足を開いた。顔を上げると、早紀が指揮棒を頭上に掲げている。涼万(りょうま)は少し遅れて、足を肩幅に開いた。
合唱が始まる。背筋がぴりっと伸びた。
どうか今日は咳が出ませんように。俺のせいで合唱がめちゃくちゃになりませんように。
涼万はゆっくりとつばを飲み込んだ。喉は落ち着いている。
早紀が音心(そうる)の方を向いて指揮棒で合図をすると、音心はCDプレイヤーのボタンを押した。前奏が始まる。CDから流れる伴奏は、音心の生伴奏とは全然違う。楽譜通りに正しく弾かれているのだろうが、伴奏にだって臨場感や迫力に差がずいぶんあることを、昨日の音心の演奏で実感した。
早紀が正面に向き直って、前奏のあいだ抑え気味に指揮をする。そして歌い出しの合図で、指揮棒を大きく右に振り出した。
──はじめはひとり孤独だった
ふとした出会いに希望が生まれ
……
早紀の上体はなめらかに優雅に揺れる。指揮棒は弧を描くように宙を舞う。
涼万は歌うのも忘れて、その姿に一瞬で吸い込まれた。不思議なことに、涼万の頭の中では、みんなの歌声の代わりに、昨日こっそり聴いた早紀の歌声が流れていた。
やがて、早紀の指揮棒からなめらかさが消えた。男声パートが始まったのだ。
──迷いながら躓きながら
歩いてきた
岳やあと何人かは合唱の練習に来ていなかったが、ここにいる十数人の声とは思えぬ、ぼそぼそとした辛気くさい歌声が、床に這うように広がった。何とか歌ってもらおうと、早紀は必死に指揮棒を振った。でも必死になればなるほど、今までとはうってかわってぎこちない姿になった。涼万は我に返った。
歌わなきゃ。
水野のために、歌わなきゃ。
そのために、俺、来たんだ。
※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。
#15へつづく(2022年4月12日 7時公開予定)
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