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ものがたり

【大ボリュームためしよみ】ソノリティ はじまりのうた #6


中学生5人のさわやかで甘ずっぱい青春を描く、『ソノリティ はじまりのうた』大ボリューム先行れんさいがスタート!
音楽や部活の物語、恋の物語が好きな人はチェックしてね♪


#6 親友とモヤモヤ

2
「だりぃよな。朝練なんてマジめんどい」
 部活が終わって一年部員がそろって部室を出ると、岳が舌打ちした。
「お、おぅ」
 涼万(りょうま)はあいまいに相づちをうった。目を合わせなくてすむように、首に巻いたスポーツタオルで顔をぬぐう。ぬぐってもぬぐっても、汗はじわじわとしみ出てくる。
「部活の朝練もめんどくなっちゃったの?」
 バスケに関してだけは積極的な岳のセリフに、他の部員が意外そうな顔をして首をつっこんできた。
「ちげぇよ。明日からうちのクラス、合唱コンの朝練やるんだってよ」
「へぇ~。五組気合い入ってきたね。まさか優勝狙ってんの?」
「あいつが急に張り切り出してよぉ」
 岳は、少し前を歩いていく女子バスケの集団に向かって、あごをしゃくった。
「あぁ、キンタね。そんなのシカトしちゃえばいいじゃん。岳たちは部活の朝練に来いよ」
「そっか、それもありだな。涼万、どうする?」
 岳の声がにわかに弾んだ。
「いや、キンタ怒らす方がめんどい気がすっけど」
 涼万は間髪いれずに、さらりとかわした。
「それな。でも俺、バスケのためなら早起き出来るけど、合唱コンの練習のために早起き出来る自信ないわー」
 岳が言うと、まわりのみんなも同調するように笑った。
「やっぱ部活に行こっと。涼万もそうするべ。なっ」
「う、うん」
 岳のいかつくて鋭い目が迫ってきて、ついうなずいてしまった。岳の目力にはいつも圧倒される。
「俺たち、合唱なんてガラじゃないしー。やっぱ部活に行くわ」
「……」
 強引な岳に反発を感じながらも、涼万ははっきり断れない自分に対して、もっとイラついた。
 部活に行きたいなら、お前ひとりで行けばいいじゃん。いちいち俺を巻き込むな。
 心の中では鮮明な言葉になっているのに、ひとことも口に出せない自分がもどかしい。情けない。
 岳とつるんでいることで、目立つ存在でいられる。それは恩恵かも知れないが、こんな風にいっしょの行動を強要されると、うっとうしい。
 校門に向かってみんなといっしょに歩き出した涼万は、突然両手をパッと広げた。
「あっ、ごめん。俺、弁当箱、教室に忘れてきたかも。みんな先に行ってて」
 今日は手で持ちかえるはずだった弁当箱がないことに気づいた。ふだんはリュックに押し込むのだが、体育着袋のせいで入らなくなったのだ。
 昼休みになんか忘れそうだなぁと思いながら、弁当バッグを机の横のフックに引っかけたのだが、案の定、忘れてしまった。
 涼万はみんなに片手を上げると、引き返した。もう一度上履きに履き替えて、小走りに教室に向かう。三階まで階段を一気に駆け上がり、誰もいない教室に滑りこむと、せっかく引きかけた汗がまたどっと噴き出した。
 真ん中あたりの列、後ろから二番目の涼万の席には、予想通り弁当バッグがかかっていた。涼万はひとり苦笑いしながら、弁当バッグをひょいとつかんだ。
 そのとき、机の中からはみ出したプリントに目がとまった。プリントを押し戻そうと、伸ばしかけた手がふと止まる。合唱コンクールの自由曲『ソノリティ』の楽譜だった。楽譜をそっと引き出した。
「はじめはひとり孤独だった」という最初のフレーズが頭を流れた。気づくと、早紀があの声で歌ったらどんな風だろう、と妄想していた。
 やっぱり俺、かなり変。


※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。

#7へつづく(2022年4月4日 7時公開予定)

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著者:佐藤 いつ子

定価
1,650円(本体1,500円+税)
発売日
サイズ
四六判
ISBN
9784041124109

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