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ものがたり

【先行連載】『さよならは、言えない。』ためし読みれんさい! 第1回 忘れられない人


『君のとなりで。』シリーズの高杉六花さんの新シリーズ『さよならは、言えない。』を、ためし読み連載でチェックしよう!


中学1年生になったばかりの心陽(こはる)には、もう一度会いたい、ぜったいにわすれられない人がいて……。
会いたいのに、会えない。伝えたいのに、伝えられない――切なくて苦しいけれど、大切にしたい想いの物語が、はじまります。

中学1年生になったばかりの山口心陽(やまぐち こはる)には、毎日、家に帰ってまず一番先に『やること』がある。
それは、家のゆうびん受けに、手紙がとどいていないか確認すること。
心陽(こはる)がずっと待ちつづけている『手紙』とは……?
第1回目は、物語の始まりを、大増量でおとどけします!



* ゜゚** ゜゚** ゜゚** ゜゚** ゜゚*

 

忘れられない人

 

* ゜゚** ゜゚** ゜゚** ゜゚** ゜゚*

 

 雲ひとつない水色の空の下で、緑の若葉が太陽をあびている。

 

 心が浮き立つようなきれいな景色をながめながら。 

 

 私、山口心陽(やまぐち こはる)は、学校からの帰り道を急いだ。

 

「ただいま!」

 

 今日こそは届いてるかもしれない。

 

 そんな期待に胸をはずませて、ゆうびん受けをのぞきこんだけれど……。

 

「……今日も手紙、来てないか……」

 

 さっきまでふくらんでいた希望が、いっきにしぼんでしまった。

 

 トボトボと自分の部屋に入り、つくえの引き出しから宝箱を取り出す。

 

 宝箱の中には、手紙のたばと、小さな箱。

 

 手紙を開くと、ととのったきれいな文字がならんでいる。

 

『心陽ががんばってるとき、きっと俺もがんばってる。俺たち、離れてもがんばれるよな?』

 

 何度も何度も読んだ手紙。

 

 最後に書かれた、大好きな「またな」の文字。

 

 思わず目を閉じると、優しい笑顔が浮かんできた。

 

「はぁ……」

 

 ぎゅっと手紙を抱きしめて、大きく息をはくと、宝箱から小さな箱を取り出した。

 

 中に入っている、キラキラかがやく王冠(おうかん)のバッジを手に取り、窓を開けて空を見上げた。

 

 私には、会いたい人がいる。

 

 会いたいけど、会えなくて……。

 

 忘れられない、あこがれで、目標の人。

 

 さらさらの黒髪。涼しげな目元。

 

 クールだけど本当は優しくて、まっすぐな人。

 

「玲央、会いたいよ……」

 

 想いをこめた私のつぶやきは、どこまでも広がる澄(す)んだ空に、すいこまれていく。

 

 

 

 その願いがかなう日が近づいているなんて、思ってもいなかった。

 

 でも、待ちのぞんでいた再会が、あんなに私の心を引きさくことになるなんて。

 

 このときの私は、想像すらしていなかったんだ――……。

 

 

 

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ため息と親友

 

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 受験勉強をがんばって、『私立里見(さとみ)中学校』に入学してから、1ヶ月がたったある日。

 

「授業はこれでおわりだ。じゃあ、先月受けた、全国模試の結果をくばるぞ」

 

 5時間目の最後に、担任の渋谷(しぶや)先生が上きげんでそう言った。

 

「うわっ。やべぇ。俺、半分くらいしかわかんなかったんだよな……」

 

 入学してから野球部の練習に集中してた健介(けんすけ)が、大げさにため息をつく。

 

 教室内がいっせいにざわつく中、田沢杏璃(たざわ あんり)さんがひときわ大きな声で言った。

 

「先生、どうしてそんなにうれしそうなの?」

 

「えっ。顔に出てたか? そんなつもりはなかったんだけど」

 

 渋谷先生は、めずらしく私たちに満面の笑みを向けた。

 

「実は、模試の学年1位と、数学の学年1位がこのクラスから出た」

 

「「「ええ~~~~!!!」」」

 

 その瞬間、クラス中が大さわぎ。

 

「俺じゃないことだけは、たしかだ」

 

 そうつぶやいて苦笑いする健介以外、みんなドキドキわくわくした顔をしてる。

 

「私、数学は自信があるんだよね~」

 

「杏璃、数学得意だもんね」

 

「絶対に杏璃が1位だよ!」

 

 田沢さんと、仲のいい女子たちが、わいわいもり上がってる。

 

 里見中は、わりと進学校。

 

 中学生になって初めての模試だったから、みんな気合いをいれて猛勉強してたみたい。

 

 私も、いっしょうけんめい勉強したんだ。

 

 どうかどうかいい結果でありますように!って、心の中でいのった。

 

「先生、模試の学年1位と、数学の学年1位って誰ですか~」

 

 飛んできた声に、クラス中が期待と緊張(きんちょう)でいっぱいになった。

 

「発表するぞ。模試の学年1位は……松本香奈(まつもと かな)!」

 

「「「おおおおお~~~!!!!」」」

 

 歓声(かんせい)と拍手(はくしゅ)と、「やっぱり香奈か~」っていう納得(なっとく)の声がわき起こる。

 

 さすが、香奈! すごいよ!

 

 親友の香奈に、おめでとうって口パクで伝えると、ふふっと満足げな笑顔を返してくれた。

 

 香奈は、入試でも、学年1位の成績で入学したんだ。

 

「そして、数学学年1位は……山口心陽!

 

「えっ」

 

 私!?

 

 びっくりしちゃって、目をまたたいた。

 

 たくさんの注目と、拍手(はくしゅ)と、「おめでとう~!」をあびて、ちょっとてれくさい。

 

 香奈も、「やったね!」って顔でピースしてくれた。

 

「すげーーーー! 心陽、数学学年1位とか、マジすごくね?」

 

 わわっ。健介ったら、大げさだよ! 

 

 3教科総合点で、学年1位をとった香奈のほうが、ずっとずっとすごいんだから。

 

 はずかしいのと、香奈にもうしわけないのとで、肩をすぼめる。

 

 私の視線に気がつくと、香奈は『健介ってああいうところあるよね』とでも言いたげに、肩をすくめて、笑ってくれた。

 

 香奈の反応にほっと胸をなでおろすと、ふと、ななめ前から視線を感じた。

 

 そっちを向いたら、田沢さんと目が合った。

 

「……っ」

 

 私は、思わず息をのんだ。

 

 田沢さんが、不満げな顔で私をじっと見ていたから……。

 

 その刺すような視線に、心がざわめく。

 

 だけどすぐに、田沢さんは視線を外して、ふいっと前を向いた。

 

「じゃあ、ひとりずつ模試の結果を返していくぞ。名前を呼んだら取りに来て」

 

「「「はい」」」

 

 結果を返してもらった子の、明るい声や悲鳴が教室内にひびき渡る。

 

 田沢さん、なんで私をあんな目で見てたんだろう……。

 

 私は首を振って、胸にわきあがる、イヤな予感を振り払った。

 

* ゜゚** ゜゚** ゜゚** ゜゚** ゜゚*

 

 帰りのホームルームが終わり、渋谷先生が教室を出る。

 

 みんなはいっせいに、帰るじゅんびを始めた。

 

「じゃあな、心陽! 今度、数学1位のおいわいしようぜ!」

 

「あ、うん。ありがとう、健介」

 

 私に声をかけてくれた健介は、カバンをかつぐと、教室を飛び出していく。

 

 私は、さっきもらったばかりの模試の結果をながめた。

 

「はぁ……」

 

 思わず出たためいきが、模試の結果表に落ちる。

 

 数学学年1位は、とってもうれしい。

 

 だけど、3教科総合の順位は、目標の『全国500位以内』に届かなかったんだ。

 

 絶対に500位以内に入りたくて、猛勉強したんだけどな……。

 

「なにそのため息。イヤミ?」

 

「えっ」

 

    ふきげんな声におどろいて、いきおいよく顔を上げると。

 

 田沢さんが私の机の横に立って、私をにらみつけていた。

 

「ご、ごめん。そんなつもりじゃなくて」

 

「私、模試で数学の学年1位をとりたくて、すごく勉強したの。ほかの教科は捨てて、数学だけに一点集中でがんばったのに……。あんたは1位なのに、なにが不満なの?」

 

「……」

 

「私から1位をうばったくせに、そんな態度(たいど)されたらムカつくんだけど」

 

「……ごめん」

 

 キツい口調で次々に言われて、言葉につまってしまう。

 

 田沢さんと仲のいい友だちも集まってきて、さらにたたみかける。

 

「山口さんさ、ちょっと感じ悪いんじゃない?」

 

「……っ」

 

 そんなふうに、悪意のある言葉にされてしまったら、何にも言えない。

 

 私がため息をついてしまったのには、理由があるのに。

 

「……ごめんね。今度から気をつけるよ」

 

 ちがう。本当は、そうじゃない。

 

 そんな心の声を押し殺し、なんとかこの場をおさめたくて、思いつく言葉をかき集めるようにして、口にする。

 

 だけど、どんどん田沢さんたちの顔がけわしくなっていった。

 

「それって、次も1位とるから、そのときはため息つきません……ってこと?」

 

「そ、そういうわけじゃ……」

 

 もう、何をどう言ったらいのか、わからない。

 

 こまり果てていたそのとき、香奈が飛びこんできた。

 

「ちょっと! 心陽に、変な言いがかりつけないでよ」

 

「な、なによ。私の気持ちを伝えただけでしょ」

 

「そうだよ。杏璃が傷ついた気持ちはどうなるわけ?」

 

「私たちの言ったことが、言いがかりだって証明、できるの?」

 

 どうしよう。田沢さんたちの怒りの矛先(ほこさき)が、香奈に向いちゃった!

 

 申しわけなくてオロオロしていると、香奈はふっ、と鼻で笑った。

 

「証明? いいよ。あなたたちが心陽に言った言葉を全部、書き出して全校生徒にアンケートとってみる? 結果は見えてるし、恥(はじ)をかくのはあなたたちだけど」

 

「……っ」

 

 香奈をにらみつけたまま、田沢さんがギリッと奥歯を噛(か)んだ。

 

「ふんっ! くだらない」

 

 田沢さんはそう言い残して、帰って行った。

 

 女子2人も、あわてて追いかける。

 

「ほんっと、あの人たち、わけわかんない」

 

「香奈、ごめん。ありがとう」

 

 香奈はくるっと振り向くと、しょんぼり肩を落とす私に、明るい笑顔を向けてくれた。

 

「心陽、気にしなくていいからね。またなんか言われたら、私が追いはらってやるんだから!」

 

「うん。ありがとう」

 

 香奈は、いつもこうやって私を守ってくれるんだ。

 

 成績優秀なだけじゃなくて、ズバッと言いたいことを言える、強くてかっこいい人。

 

 私も、誤解(ごかい)をおそれずに、はっきり言えたり、うまく立ち回れたらいいのに……。

 

 香奈と出会う前の去年にも、自分の気持ちを言える自分になれるようにって、私のそばにいて、助けてくれた人がいた。

 

 今はそのとき決めた、理想の自分に向かって、がんばっているとちゅうなんだ。

 

 だから、中学校でも、同じように背中を押してくれる香奈に会えてよかった。

 

 香奈と親友になれて、本当によかったな。


 

努力のかいあって、うれしい結果を出すことができた心陽。でも、目指すところはもっともっと高いところ!
心陽がここまで『がんばろう』と思うのは、ある『理由』があるから。
次回は、その理由が明らかに……? 第2回「見つけた名前」を今すぐチェック


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\新シリーズを、先行連載でだれよりも早くおためし読み!/



作:高杉六花  絵:杏堂まい

定価
770円(本体700円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322166

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