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ものがたり

【三題噺「卒業式」「絵本」「こうばん」】ペンネーム:はなぶさ よ さんの作品


「三題噺」とは、その名の通り、3つのお題からなる物語。
もともとは、落語の形態の一つで、寄席で演じる際に観客に適当な言葉・題目を出させ、そうして出された題目3つを折り込んで即興で演じる落語です。
現代では、落語のみならず、漫才やトーク番組などでも応用されて用いられています。
ヨメルバに応募してくれた作品の中から、審査員お気に入りの作品を選評とともにご紹介します。今回ご紹介するのは、ペンネームはなぶさ よさんの作品。

ペンネーム はなぶさ よ さん
(49歳男性)の作品

 ――その絵本、どうしたの?

~~逃げ出した卒業~~
「卒業さんがどこかへいっちゃった」と、女の子が交番へやってきた。
「卒業さんがいないと、中学生になれないの。卒業さんをさがしてください」
 この町の平和を守る警察官として、困っている子供を見過ごすワケにはいかない。
 とにかくまずは聞き込みだ。
 交番の前をうろうろしている男性に声をかける。彼は役者さんだった。
「ちょうど僕も探していたんです。僕は劇団を卒業するのであって、後輩に役を奪われたワケでも降板させられたワケでもないですからね」
 どうやら卒業がいなくなって困っているのは学生だけじゃないらしい。
 今度はうつむきながら歩く女性に聞いてみた。彼女はアイドルグループの一員らしい。
「わたしはアイドルを卒業したいのよ。でないと、辞めさせられるみたいじゃない」
 どこもかしこも卒業がいなくなって大騒ぎだ。
 そんなとき、小さな男の子が交番にやってきた。
「僕、絵本を卒業して小説を買おうとしていたのに、買えなくなっちゃった。もうちょっとで買えそうだったのに」
 なんだって? ということは、さっきまで卒業がいたってことか。
 男の子が話していた辺りをくまなく探す……あれは……いた! 卒業を見つけた。
 卒業は真っ黒なケムリのような姿で公園のブランコに座っていた。
「見つけたよ、卒業。どうしてみんなのところから逃げたんだい?」
「だって、僕がいるとみんな泣いちゃうから。僕なんかいない方がいいんだよ」
 なるほど、卒業はみんなを悲しませたくなくて逃げ出したのか。でも……
「たとえお別れの悲しみがあったとしても、みんなは卒業(きみ)が必要なんだよ。あたらしい出会いのために、ね」
 自信を取り戻した卒業は、胸を張って帰っていった。
 みんなの明るい未来のために。
 おしまい

 ――卒業式にもらったの。先生が描いたんだって。

 

 選 評 
卒業式の日の出来事を描いた作品が多い中で、「卒業」という概念がなくなってしまうという展開、そしてそれを絵本の内容として描くという、意外性と説得力が面白いなと思いました。「卒業」というものを上手く捉え、明るい気持ちにさせてくれる作品でした。

 


 

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