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「三題噺」とは、その名の通り、3つのお題からなる物語。
もともとは、落語の形態の一つで、寄席で演じる際に観客に適当な言葉・題目を出させ、そうして出された題目3つを折り込んで即興で演じる落語です。
現代では、落語のみならず、漫才やトーク番組などでも応用されて用いられています。
ヨメルバに応募してくれた作品の中から、審査員お気に入りの作品を選評とともにご紹介します。今回ご紹介するのは、ペンネーム:支織つづり さんの作品。
ペンネーム 支織つづり さん
(13歳女性)の作品
『不思議な交番』
幼稚園時代に、戻りたい。何度そう思っただろう。
卒業式の日の午後。私は一人、ベッドに寝転がる。
私には、湊(そう)ちゃんという幼馴染の男子がいる。幼稚園の頃、よく絵本を読んであげていた。
「リコちゃん、これよんで!」
「また~? もう五かいめだよ」
それは、ミオという女の子が、失くしたぬいぐるみを探す物語。ミオちゃんは、思い出たちが届く『不思議な交番』にたどり着くんだ。
(私も、不思議な交番で、湊ちゃんとの思い出を見つけられたらなぁ)
小学生になってから、湊ちゃんとは違うクラスだし、彼はサッカーに励んでいて忙しい。そのせいで、何だか遠い存在になってしまった。
それに、春からサッカーの強豪校に通う彼とは、学校すらも別々になってしまう。
二人で幼稚園の頃を思い出して、懐かしいねって語り合いたい。
……でも、ずっと悩んだまま、湊ちゃんと話す機会が巡ってこなかったら?
(だったら、悩んでる場合じゃない!)
不思議な交番はなくても、自分で思い出を探しに行けば良いんだ!
ミオちゃんだって、大切なぬいぐるみのために、迷わず行動した。
なら、私だって、いつまでも行動しないままじゃダメだよ。
私は家を飛び出し、直感のままに、ある場所へと向かう。
湊ちゃんや、あの絵本に出会った、懐かしい場所。
桜並木を抜け、その場所――幼稚園の前に着いた、その時。
「――璃子⁉」
ふいに、背後から大好きな声が聞こえてきた!
「――湊ちゃん⁉ 何でここに⁉」
「璃子に会えるかなって思って。春から別の学校だし、話したくてさ」
彼は少し恥ずかしげにつぶやく。
湊ちゃんも、私と同じことを考えていたの⁉
「私も、ずっとずっと話したかった……! 遠い存在になったみたいで、寂しかったよ」
「璃子、泣くなって。離れても、オレらの絆はそのまんまだろ」
彼の優しい笑みに、私は泣き笑いで頷く。
――私にとっての『不思議な交番』は、きっと、この幼稚園なんだ。
湊ちゃんとの思い出が、今やっと見つかった。
選 評
文字数が限られているなか、3つのお題を盛り込みつつも登場人物ふたりの描写は自然で、とてもさわやかな物語でした。読了後も心地よい余韻に浸らせてもらいました。
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