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ものがたり

【先行連載】第10回つばさ文庫小説賞《金賞》受賞作『泣き虫スマッシュ!』第7回


第10回角川つばさ文庫小説賞《金賞》受賞作☆
大注目の新シリーズをひと足はやく公開中!
泣き虫スマッシュ! がけっぷちのバドミントンペア、はじまる!?』は、2022年11月9日発売予定です!

 



※前回までのお話を読む

転校先で、同級生のことりをバドミントンのペアに誘うが、断わられてしまった奈央(なお)。いっぽうの、ことりは……。

 土日をはさんだ月曜日の朝、とぼとぼと廊下(ろうか)を歩いて教室へ向かう。
 大鳥さんと顔を合わせるかもしれないと思うと、気が重い。


 身長がぐんぐん伸び始めたのは、四年生になったころからだ。
 お父さんの背が高いから大きくなるかもとは言われてたけど、まさかこんなに早く伸びるなんて。自分でもびっくりする。
 野球をやってみないかと言い出したのは、お父さんだった。
 自分が高校まで野球をやってたから、わたしにもやらせたかったみたい。
 でも、男の子ばかりの中で続けるのはなかなかきびしかった。
 キャッチボールやバッティングはけっこう楽しかった気はするけど、三か月でやめちゃった。男の子たちとあまり話が合わなかったのが大きいかもしれない。
 バレーボールをやろうと言ったのはお母さん。
 バレーなら女の子が多いし、続けられるんじゃないかって。
 実際、野球よりは続いたんだ。でも、半年がせいいっぱいだった。
 今度はもう少し続けようと、わたしなりにがんばったつもりなんだ。
 けど、いつのまにか練習へ行くのが苦しくなってきた。
 おなかが痛くなって練習を休むことが増えて、結局やめることになったんだ。


『その身長なら、絶対に有利だよ! 練習すれば、すごい選手になるぞ!』
『ことりちゃん、あなたがいれば、きっとうちのチームは強くなる!』


 コーチたちは、そんなことを言ってた。
 ずば抜けて背が高い分、期待されてるのがわかる。
 お父さんやお母さん、コーチたちがよろこぶ顔を見るのは、うれしかった。
 その分、うまくいかないとすごくがっかりされるのもわかる。
 それが、苦しかった。
 うまくいったのにねたまれたり、ミスしてバカにされたりすることも、しょっちゅうあった。
 コーチだったり、チームメイトだったり、その親だったり、練習試合の相手だったり。


『ことりちゃん、そこはちゃんとしてくれないと! せっかく大きな体してるんだから
ことりちゃんはずるいよね。それだけ背が高ければ、うまくいくに決まってるよ』
『なんであの子ばかり試合に出ているんですか。背が高いからですか? うちの子が出られないの、おかしくないですか!』
『あいつ、でかいだけでたいしたことないよ。勝てる勝てる』


 わたしは、好きで背が高いわけじゃないのに!

 そんな声は気にしないほうがいいってことは、わかってる。
 でも、どうしても気になる……。
 そして、そんな声を無視してがんばるほど競技に夢中になれなかったんだ。
 去年の秋にバレーをやめてからは、お父さんもお母さんもスポーツをすすめてこなくなった。
 中学生になれば周りが運動部に誘ってくるかもしれないけど、きっぱり断るんだ。
 スポーツと関係ない人生を送るんだ……。


 そう思ってたときに、大鳥(おおとり)さんが現れたんだ。
「日下部(くさかべ)さん」
 そう、こんな感じのかわいい声で……。


「日下部さんっ」
「わっ! ……大鳥さん」
 廊下に、気まずそうな顔をした大鳥さんが立っている。
 いつのまにか、五年一組の教室の前まで来ていた。
 大鳥さんはわたしを待っていたみたい。ぜんぜん気が付かなかった。
 ど、どうしよう。金曜にあんなことになったから、何を話していいかわからないよ……。
 わたしが固まっていると、大鳥さんのほうから声をかけてくれた。
「……おはよう」
「お、おはよう」
「この間は、ごめんね」
「いや、わたしのほうこそ、あんな、さけんじゃって……」
「……面と向かってどう言えばいいかわかんないし、連絡先も知らないから、手紙書いたんだ」
 大鳥さんはそう言って、ポケットからピンク色の封筒(ふうとう)を取り出した。
「むりにとは言わないから、読んでほしい」
 その表情から、緊張していることがわかる。
「う、うん……」
 とまどいつつ、封筒を受け取った。
「ありがとう。もう、しつこく誘うのはやめるね。じゃあね!」
 そう言うと大鳥さんはくるっと体を回し、となりの教室へと向かう。
 わたしは封筒を手にしたまま、彼女の小さな背中から目が離せなかった。


 その日、学校から帰ってきた後で、わたしは手紙を机に置いたまま考えこんでいた。
 まだ封筒は開けていない。
 たぶん、バドミントンやろうって書いてあると思う。
 読んだら、流されてしまうかもしれない。
 体を動かすこと自体は、別にいやじゃないんだ。
 スマッシュを打ったときは気持ちよかったし。
 だからって誘われるままにバドミントンを始めたら、いやな思いをするんだ、きっと。
 手紙を読んだらダメだ。また同じような思いはしたくない。
 ……だったら、大事に手紙を持っておく必要もないんじゃないの?


 そのとき、ふと大鳥さんの顔が思い浮かんだ。

『今から始めても、ぜんぜん遅くない。バドミントン、やろうよっ! いろいろ教えてあげるから、あたしとペアを組んでほしい!

 ……とりあえず、手紙は取っておこう。
 でも、今は読む気になれない。
 あの子と向き合いたくない。
 何が書いてあるのか気になる。
 気になるけど、今はまだ……。


 手紙を引き出しの奥にしまいこんで、逃げるように部屋を出た。

 今はこれでいい。
 とりあえず、これで……。



この物語の続きは、「泣き虫スマッシュ! がけっぷちのバドミントンペア、はじまる!?」の紹介ページにある、ためし読みボタンから読めるようになるよ。

奈央の想いは、ことりへ届くのか……? ぜひチェックしてね☆



※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。


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『泣き虫スマッシュ! がけっぷちのバドミントンペア、はじまる!?』11月9日発売!

信じてみてよ、二人だからできること! 

あたし奈央! バドミントンが大好きな小学5年生。
二人で一つのチームを組む「ダブルス」の大切な試合、あたしのせいで負けちゃった。
けれど、このままじゃ終われない!

転校先で出会ったのは、トクベツな才能(!?)をもった、ことりちゃん。
最高の新しいパートナーを見つけた!
でも「スポーツはもう絶対にしない」って完全キョヒ!?
それには、あたしと同じように、「らしさ」を押し付けられたことが関係していて? 

「好き」のために一歩をふみ出したいキミへ、勇気をくれる応援ストーリーです!!


作:平河 ゆうき 絵:むっしゅ

定価
770円(本体700円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322067

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