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ものがたり

【スペシャルれんさい】『星のカービィ メタナイトとあやつり姫』第5回 王立ケーキ工場での対決


仮面の剣士・メタナイトが主人公の特別編がスペシャルためし読みれんさいで登場!
ケーキ作りで有名なシフォン星のお姫さまがゆくえ不明になってしまった!? メタナイトは、カービィたちとシフォン星へ向かうのだが…? ドキドキ&ハラハラいっぱいのお話です!

◆第5回

ついにガリック男爵(だんしゃく)とマローナ姫に会うことができたメタナイトたち。しかし、ガリック男爵(だんしゃく)の術にかかり、二人を取り逃がしてしまった……。
次に、メタナイトがとる作戦とは!?


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王立ケーキ工場での対決

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 王宮(おうきゅう)にもどったメタナイトたちを待っていたのは、つかれた様子のブレイドナイトとソードナイトだった。

「我々は、姫の手がかりを求めて、町中のケーキ屋を片っぱしから当たろうと思ったのですが」

 ブレイドナイトが、にがにがしい口調で報告した。

「二人では、とても手が足りませんでした」

「なにしろ、ケーキ屋が多すぎるんです。通りの両側にならんでる店が、ぜんぶケーキ屋なんです!」

「当然ですわ」

 侍女(じじょ)が、ほこらしげに言って、大きな地図をテーブルの上に広げた。

 地図をかこんだメタナイトたちは、思わずうなった。

 王宮を中心に、道路や建物がこまかく書きこまれている。それだけなら、ふつうの地図と同じだが、この地図には、かわった特徴(とくちょう)があった。

 道路ぞいにびっしりと、赤い丸印がついている。

 メタナイトが言った。

「まさかとは思うが。この、無数の赤い丸が……」

「ええ、ケーキ屋さんですわ。この首都だけで、1000軒以上のケーキ屋さんがひしめいています。ほかの町まで合わせたら、シフォン星にあるケーキ屋さんは、なんと2419軒!」

「すご〜い!」

 カービィが、興奮(こうふん)して飛び上がった。

「毎日100軒(けん)ずつ回っても、えーと、えーと……」

「20日以上もかかるということですわ!」

「すごい、すご〜い!」

 カービィと侍女(じじょ)はハイタッチをかわした。

「……毎日100軒(けん)ずつという前提(ぜんてい)が、そもそもおかしいと思わないのか」

 メタナイトは冷静なコメントを口にし、ふたたび地図をにらんだ。

「これほどケーキ屋だらけとは……姫が次に襲撃(しゅうげき)しそうな店は、どこだ?」

「うーん……どこでしょう……」

 侍女(じじょ)は考えこんだ。

「いちばん大きな店は、王宮(おうきゅう)前広場にある『シュガーツリー』ですけど……最近、人気が高まっているのはシナモン通りの『スイートルーム』かしら……」

「でも、ねえさん、わたしはマーマレード広場の『ハッピーデザート』が最高においしいと思うわ」

 口をはさんだのは、侍女(じじょ)みならいだった。

 男爵(だんしゃく)に心をあやつられた侍女(じじょ)が、絶交していた妹である。二人は仲直りをし、元のとおりの仲良し姉妹にもどっている。

 侍女(じじょ)は、「うーん」と考えこんだ。

「そうねえ。でも、ドーナツ通りの『チョコレートハウス』もすてがたいわよねえ。あの店のチョコパフェは絶品(ぜっぴん)だわ」

「クリーム公園にある『ハニーポット』のはちみつパイはどう? あれほどおいしいパイは他にないわよ」

「おいしいケーキ屋さんが多すぎて、まよっちゃうわね!」

「ほんと、ほんと! わたしのおすすめは……」

 侍女(じじょ)とその妹は夢中になって、ケーキ屋の名前を次々にならべ始めた。

「まって、まって! 覚えきれない!」

 カービィが、今にもよだれをたらしそうな顔でさけんだ。

 デデデ大王は、うっとりした声で、ワドルディに命じた。

「ぜんぶ、メモしておけ! 場所とおすすめメニューも書いておくんだぞ」

「はいっ」

 ワドルディはメモ帳を取り出し、ペンをかまえた。

 メタナイトが言った。

「……私たちは、グルメ情報を集めているのではない。姫が襲撃(しゅうげき)しそうな店をさがしているのだ」

「そ、そうでしたわ」

 侍女(じじょ)はわれに返って、地図に向き直った。

「でも、候補(こうほ)が多すぎて、しぼりきれませんわ」

「人が多く集まる人気店があぶないと思うのだが」

「それでしたらやっぱり、シナモン通りの……」

 侍女(じじょ)が言いかけたとき。

 爆発音がとどろき、宮殿(きゅうでん)がゆれた。

「きゃあっ!」

 侍女(じじょ)たちは悲鳴をあげ、頭をかかえた。

 デデデ大王がさけんだ。

「姫の襲撃(しゅうげき)か!? ケーキ屋じゃなく、王宮をおそうとは、どういうつもりだ!」

「今の爆発音は、王宮(おうきゅう)のうらてから聞こえたぞ」

 メタナイトが言うと、侍女(じじょ)が「あっ」とさけんだ。

「うらてには、王立ケーキ工場がありますわ。わたくしったら、うっかりしてました。どのケーキ屋さんよりおいしいケーキを、毎日たくさん作っている場所……それは、王立ケーキ工場ですわ!」

「行くぞ!」

 メタナイトは、すばやく身をひるがえした。


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 王立ケーキ工場は、白いけむりにつつまれていた。

 工場ではたらいている人々が、せきこみながら逃げ出している。

「げほっ、げほっ……けむい!」

「前が見えないわ! 助けて!」

 人々の悲鳴がひびき、パニックが広がっていた。

 そこへ、メタナイトたちが駆けつけた。

「みんな、だいじょーぶ!?」

 カービィが大声でたずねると、一人の男性が答えた。

「従業員は無事です。でも……!」

「でも!?」

「フルーツケーキ部門の部長が、まだ工場内に残っているんです!」

「どういうことだ!」

 メタナイトがたずねた。

 男は、目をこすりながら答えた。

「がんこで、責任感の強い人なんです。持ち場をはなれることなんてできないって言い張って、中に残っているのです!」

「襲撃者(しゅうげきしゃ)の顔を見た者はいるか?」

 メタナイトの問いに、男は暗い顔でうなだれた。

 まわりに集まったケーキ職人たちが、口々に答えた。

「わたし、はっきり見ました。まちがいありません、マローナ姫様でした!」

「わたしは声を聞いたわ。『この工場の機械を、ぜんぶこわしてやる』ってさけんでた……あれはたしかに、マローナ姫様の声だったわ」

「姫はわるものにあやつられて、すっかり別人になってしまったんだ! あんなに、おやさしかった姫様が……」

 メタナイトは、なげく人々を見回して、言った。

「姫は、まだ工場の中にいるのか?」

「はい。ガリック男爵(だんしゃく)といっしょに!」

「よし、行こう」

 工場はまだ、けむりにつつまれている。しかし、メタナイトにためらいはなかった。

 彼は剣に手をかけて、飛ぶような速さで工場に飛びこんだ。

 ソードナイトとブレイドナイトが、すばやく後に続く。

 カービィたちも、もちろん後れをとらなかった。


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 広い工場に、ガツン、ガツンという大きな音がひびいていた。

 マローナ姫が、大きなこんぼうを、生クリーム製造マシンにたたきつけている。

 クリームをまぜるための羽根がはじけ飛び、あたりに生クリームが飛び散っていた。

 細い目で姫を見守っているのは、ガリック男爵(だんしゃく)。口もとには、冷酷(れいこく)きわまりないほほえみが浮かんでいた。

「そうそう、その調子だ、たけだけしき姫よ。もっと力をこめるのだ。人々を不幸にする機械など、こわしつくしてしまえ」

「……」

 姫は手を休めて、男爵(だんしゃく)に背を向けた。
 元気なく、うなだれている。その様子を見て、男爵(だんしゃく)の顔からほほえみが消えた。


「どうかしたかね、姫?」

「……なんでもないわ」

「もっと力をこめなければ、その機械はこわせないよ。休んでいるひまはない」

「……」

 姫がこんぼうをにぎり直そうとした時だった。

「やめてください、姫様!」

 姫は手を止めて、振り返った。

 白いパティシエ服を身につけた男が、床にひざまずいて、マローナ姫を見上げていた。
 姫はつぶやいた。


「あなたは……フルーツケーキ部門の……」

「そうです! 姫様がいちばんお好きなフルーツケーキを、毎日作り続けていた者でございますぞ!」

 フルーツケーキ部門の部長は、悲しげにうったえた。

「なぜ、こんなひどいことをなさるのです。姫様は毎日、この工場をおとずれて、ケーキ職人たちにやさしい言葉をかけてくださったではありませんか」

「……」

「わたしたちは、姫様のお言葉と、明るい笑顔をはげみに、毎日がんばってケーキを作り続けてきたのです。どうか、思い出してください!」

 姫は顔をそむけ、力なく首をふった。

 ガリック男爵(だんしゃく)が進み出て、せせら笑った。

「下がっていろ、おろか者め。姫のおこないを、じゃまするな!」

「ガリック男爵(だんしゃく)! やはり、おまえが姫様をそそのかしたんだな……!」

「ふん! わがはいに向かって、なんという口のききかた!」

 男爵(だんしゃく)は、ベルトにさした細いナイフを引き抜いた。

「……! やめて!」

 マローナ姫が悲鳴を上げて、男爵(だんしゃく)の腕に飛びついた。

 しかし男爵(だんしゃく)は、姫をふりほどいて、ナイフを投げた。

 フルーツケーキ部長が、恐怖のあまり目を見開いた瞬間――。

 するどい音がひびき、男爵(だんしゃく)が投げたナイフははじき返された。

 部長と男爵(だんしゃく)の間に舞いおりたのは、メタナイト。彼がとっさに剣を抜いて、ナイフの攻撃を防いだのだった。

「メタナイト君! また、君かね!」

 ガリック男爵(だんしゃく)はいらだたしげにさけぶと、一歩とびすさった。

「目ざわりだ。失せたまえ!」

 男爵(だんしゃく)は、続けざまにナイフを投げた。メタナイトはそれをすべて、剣ではじき返した。

 そこへ、ソードナイトとブレイドナイトが駆けつけてきた。

 二人は剣をかまえて、男爵(だんしゃく)をにらみつけた。

「ガリック……!」

「今度という今度は、にがさないぞ!」

「おやおや、だれかと思ったら」

 男爵(だんしゃく)は、せせら笑った。

「ソードナイト君とブレイドナイト君ではないか。いつぞやは、楽しかったねえ」

「……なんだと……」

「また、君たちと食事をともにしたいものだよ。おろかで単純(たんじゅん)な者たちと話すのは、実に楽しいからね!」

「きさまぁ!」

 二人は逆上(ぎゃくじょう)して、おどり上がった。

 左右からくり出された攻撃を、ガリック男爵(だんしゃく)はゆうゆうとかわした。

 そのとき、工場をゆるがすような大きな声がひびきわたった。

「ガックリ男爵―! きさまの相手は、このオレ様だぁぁぁ―!」

 ハンマーをふり上げて飛びかかってきたのは、デデデ大王。

 そのすぐ後ろから、カービィも飛びこんできた。

「お姫様をはなせ―!」

 二人の攻撃をひらりとかわして、ガリック男爵(だんしゃく)は顔をしかめた。

「なんと、無作法(ぶさほう)な。下品な顔の君よ、今、わがはいをなんと呼んだ?」

「だれが下品な顔だと―!?」

「わがはいはガリック男爵(だんしゃく)だ! ガックリではない!」

「おまえなんか、ガックリでじゅうぶんだわい!」

 デデデ大王はハンマーをふり回した。

 カービィも、空気弾をはき出した。

 しかし、男爵(だんしゃく)は軽くかわし、ナイフを投げた。

 ソードナイトとブレイドナイトが、すばやく剣をふり上げて、ナイフをたたき落とした。

「ふん……ザコどもが、よってたかって……!」

 不利をさとったガリック男爵(だんしゃく)は、上着の内ポケットに手をやった。

 メタナイトがさけんだ。

「みんな、目をとじろ! 男爵(だんしゃく)の宝石を見てはだめだ!」

 ブレイドナイトもソードナイトも、デデデ大王もワドルディも、そしてフルーツケーキ部長も、みんな急いで目をとじた。

 ただひとり――カービィだけは、まっすぐ男爵(だんしゃく)をにらみつけていた。

「お姫様をはなせー!」

 カービィは叫んで、男爵(だんしゃく)に飛びかかった。

「な、なに!?」

 ガリック男爵(だんしゃく)はあわてて、カービィに赤い宝石を突きつけた。

 でも、カービィは少しもひるまない。

 からだいっぱいに空気を吸いこむと、男爵(だんしゃく)めがけて、いきおいよくはき出した。

「うわっ!?」

 空気弾に直撃されて、男爵(だんしゃく)はあおむけにひっくり返った。

 カービィは、びっくりして立ちつくしているマローナ姫の手を取った。

「お姫様! こっちへ来て!」

 メタナイトは、仮面の前に手をかざして宝石を見ないようにしながら、さけんだ。

「カービィ! 無事なのか!?」

「うん!」

「なぜ君は、赤い石を見ても平気でいられるんだ?」

「石? あんなもの! ぜんぜん、おいしそうじゃないもん!」

「そう……か……そういうことか」

 メタナイトは理解した。

「カービィはつねに食べ物のことで頭がいっぱいだから、術にかかるスキがないのだな」

 ワドルディが言った。

「あの術は、大好きなものを思い浮かべると、とけるんですよね。カービィは、いつも大好きな食べ物のことばかり考えているから、術がきかないんだ!」

「なんだと〜!? 食欲なら、オレ様だって負けていないぞ!」

 デデデ大王がおこりだした。

「なぜ、オレ様は術にかかったのに、カービィはかからないんだ! オレ様の食欲が、カービィ以下だというのか!」

「だ、大王様、そんなことで張り合わなくても……」

「うるさいわいっ。オレ様は偉大(いだい)なる大王だぞ! 食欲でもなんでも、いちばんでなければ気がすまんわい〜!」

 目をつぶったままじだんだをふんでいるデデデ大王に、メタナイトが言った。

「君は、カービィにくらべて、よけいな欲が多すぎるのだろう。かっこいいと思われたいとか、有名になりたいとか、尊敬されたいとか」

「な、な……なんだと! お、オレ様は別に……そんなこと思わなくても、十分かっこよくて、有名で、尊敬されているわいっ!」

「とにかく、今はカービィが頼みのつなだ」

「まかせてっ!」

 カービィは、起き上がろうとする男爵(だんしゃく)にもう一度空気弾をたたきつけておいて、マローナ姫の手を引っぱった。

「メタナイト、お姫様を安全な場所に連れていってあげて! ガックリ男爵(だんしゃく)は、ぼくがやっつける!」

「わがはいはガックリではない―!」

 はね起きたガリック男爵(だんしゃく)が、目を血走らせてカービィにおそいかかった。

 カービィはひらりと身をかわした。

 メタナイトは、マローナ姫の手をつかんで言った。

「行くぞ、姫」

「あ……わ……わたしは……でも……」

「話は後だ。ここはたのんだぞ、カービィ!」

「うん!」

 メタナイトは、姫をマントでかばいながら出口へ向かった。

「まちたまえ……にがしはせん……!」

 ガリック男爵(だんしゃく)が、二人の背中めがけてナイフを投げつけようとかまえた。

「そうはいかないよ!」

 カービィは、またもや空気弾をはいたが、男爵(だんしゃく)はすばやく飛びのいていた。

 おそろしいほどの身の軽さ。彼はナイフをもてあそび、目を細めて笑った。

「何度も同じ手がきくと思うな。君の空気弾は読みきった。もう、通用せんよ!」

「え〜……」

 カービィは一瞬、しょんぼりしたが、すぐに気を取り直した。

「ぼくの武器は、空気弾だけじゃないよ! みてろ!」

 カービィは、くるっと向きを変えた。ソードナイトとブレイドナイトのほうへ。

 二人は目をつぶったままだが、カービィの視線を感じて、びくっとした。

「カ……カービィ?」

「なぜ、おれたちを見るんだ……?」

「ぼくに力をかして! ソードナイトとブレイドナイト、どっちでもいいから!」

「え……!?」

「お、おい、まさか……!」

 二人はあわてて、たがいを前に押し出そうと取っ組み合った。

「お、おれよりブレイドナイトのほうがおいしいぞ、カービィ」

「何を言ってるんだ! カービィ、ソードナイトのほうが、おれよりたよりになるぞ!」

「どっちでもいいってば!」

 カービィは思いきり息をすいこんだ。

 カービィの吸いこみパワーは超強力。手前にいたソードナイトのほうが、たちまち宙を飛んだ。

「うわあああっ! やめろ、カービィィィィ!」

 悲鳴を残して、ソードナイトはカービィにすいこまれてしまった。

 後に残されたブレイドナイトは、ぺたんとその場にすわりこんだ。

「す、すまない、ソードナイト……おれのぶんまで、がんばってくれ……」

 カービィは、元気いっぱい。

 その頭の上に、ぽんっと音を立てて、緑色のぼうしが出現した。

 そして、カービィの右手には、みごとにきらめく剣がにぎられている。


 カービィは、得意げに剣を振りかざした。

「みてみて! これで、戦えるよ!」

 ワドルディは、がまんできなくなって目を開き、カービィの姿を見て手をたたいた。

「わあ! ソードナイトさんを吸いこんで、『ソード』の能力をコピーしたんだね! さすが、カービィ!」

「いっくよ〜!」

 カービィは飛び上がり、ガリック男爵(だんしゃく)に向き直った。

「ふん、こしゃくな!」

 ガリック男爵(だんしゃく)は、両手の指の間に、ぜんぶで8本ものナイフをかまえ、同時にはなった。

 8本のナイフが、うなりを上げておそいかかる。1本ずつはじき返していたのでは、とても間に合わない。

 けれど、カービィはあわてなかった。

「えーいっ!」

 剣を水平にかまえて、高速回転。

 ワドルディがさけんだ。

「すごい! 回転ぎりだ!」

 目をつぶって避難(ひなん)していたブレイドナイトとデデデ大王も、思わず目をあけた。

「おお……俺の回転ぎりより速い!」

「なかなかやるわい、カービィ!」

 カービィの動きはあまりに速すぎて、目にもとまらない。まるで、するどい刃(やいば)をもつコマのよう。

 男爵(だんしゃく)が投げた8本のナイフは、すべてはじき飛ばされた。見守っていたワドルディたちは、はくしゅかっさいした。

「な……なんだと……!?」

 さすがのガリック男爵(だんしゃく)も、まっさおになった。

 カービィは回転を止めると、床をけって高く飛び上がった。

「かくごしろ―!」

 剣の切っ先を下に向け、男爵(だんしゃく)めがけて突っこんでいく。

 ガリック男爵(だんしゃく)は、かろうじて飛びのいた。

「くっ……このわがはいとしたことが、不覚(ふかく)だったよ! 君のような、けたはずれの戦士がいたとは!」

「こうさんするなら、ゆるしてあげるよ! まいったって言え!」

「まいった、まいった……などと、このわがはいが言うと思うか!」

 ガリック男爵(だんしゃく)はひきつった笑みをうかべると、内ポケットに手をやった。

 その動きに気づいたデデデ大王が、あわててさけぶ。

「ぬ!? いかん、みんな、目をつぶれ!」

 さけびながら、大王は目をとじてワドルディをひっつかみ、床にたたきつけた。

「いたいですぅぅぅ―!」

 ワドルディの悲鳴が上がる。しかし、大王の判断は正しかった。床につっぷしたおかげで、ワドルディは赤い宝石を見ずにすんだ。

 だが、ブレイドナイトの行動は、一瞬おくれてしまった。

「う……!?」

 ブレイドナイトはあわてたが――その目に、男爵(だんしゃく)がかかげる赤い宝石のかがやきが、はっきり焼きつけられた。

「お……おお……なんと……美しい……」

「ブレイドナイト!」

 カービィがさけんだ。

 ブレイドナイトは、ふらふらと男爵(だんしゃく)に近づいていく。赤い宝石の魔力に、すっかり取りつかれている。

「ダメだよ、ブレイドナイト! しっかりして!」

 カービィが引き止めようとしたが、むだだった。

 ブレイドナイトはカービィをつきとばして、男爵(だんしゃく)に駆けよった。

 ガリック男爵(だんしゃく)はよゆうをとりもどして、うす笑いをうかべた。

「フフン。王女をうばわれたのは残念だが、かわりに、おもしろいものが手に入ったよ」

「……ガリック様……」

 ブレイドナイトは、うっとりして赤い宝石にみとれている。

「しっかりしてよ〜、ブレイドナイト!」

 カービィの呼びかけにも、反応なし。

 ガリック男爵(だんしゃく)は、高らかに叫んだ。

「行くぞ、ブレイドナイトよ。おまえは今より、わがはいを守る騎士(きし)となるのだ!」

「……はっ、ガリック様」

 ブレイドナイトは、うやうやしく答えた。

 ガリック男爵(だんしゃく)は出口に向かって走った。

「まて〜!」

 追いかけようとしたカービィを、ブレイドナイトがはばんだ。

「ガリック様のじゃまはさせぬぞ……!」

「ブレイドナイト〜! しっかりしてよ、ぼくだよ、カービィだよ〜!」

「おまえは、ピンクの悪魔だ……!」

 ブレイドナイトは剣をぬき、カービィを追い散らして、ガリック男爵(だんしゃく)の後を追った。

「まって、ブレイドナイト! 行っちゃダメ! もどってきて!」

 カービィの必死の呼びかけにも、振り返らない。

 たちまち、男爵(だんしゃく)とブレイドナイトは姿を消してしまった。

     

強力なガリック男爵(だんしゃく)の術にもうち勝つのは、カービィの食欲! でも、ブレイドナイトがあやつられて、男爵(だんしゃく)に連れ去られてしまった……!
ブレイドナイトは、どうなるの? メタナイトたちは、ガリック男爵(だんしゃく)の悪事を止めることができるの!?
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