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仮面の剣士・メタナイトが主人公の特別編がスペシャルためし読みれんさいで登場!
ケーキ作りで有名なシフォン星のお姫さまがゆくえ不明になってしまった!? メタナイトは、カービィたちとシフォン星へ向かうのだが…? ドキドキ&ハラハラいっぱいのお話です!
◆第4回
宮殿(きゅうでん)での聞きこみで、バニラ通りのケーキ屋さんに手がかかりがありそうだとつきとめたメタナイトたち。
メタナイトたちは、マローナ姫のゆくえをつかむことができるのか……?
☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・
二人との再会
☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・
「バニラ通り十二番地のケーキ屋……ここか」
侍女(じじょ)から教えられた番地をたよりに、メタナイトたちはケーキ屋にやって来た。
明るい店内は、たくさんの客でにぎわっている。ショーウィンドウには、色とりどりのケーキがならべられていた。どれも、おいしそうなものばかり。
「マローナ姫はこの店のケーキが大好きで、毎日のように通っていたそうだ」
「さいみん術のせいで、そんなに好きだったケーキを、きらいになってしまうなんて……お姫様、かわいそうですね……」
ワドルディが、しょんぼりして顔をくもらせた。
デデデ大王は、「フン」と鼻を鳴らした。
「さいみん術ごときでケーキをきらいになるなんて、信じられんわい。そんなやつに、ケーキを食べる資格はない!」
「いや、それほどまでに、ガリック男爵(だんしゃく)の術が強力だということだ。君たちもゆだんをすると、やられるぞ」
「フン! オレ様が、さいみん術なんかにかかるものか!」
あいかわらず、強気なデデデ大王。
「ねえねえ、そんなことより、早くお店に入ろうよ〜」
カービィが、メタナイトの手を引っぱった。
「カービィ、私たちは姫の手がかりを探しに来たのだ。ケーキを食べに来たのではない」
「わかってるって! さあ、調査、調査〜!」
カービィは真っ先にケーキ屋に飛びこんでいった。
「あ、待て、カービィ! ぬけがけはゆるさん!」
デデデ大王もカービィを追いかける。
メタナイトは大きなため息をついた。
「やれやれ……やはり、連れてくるのではなかったな。ワドルディ、せめて君だけでも協力してくれ」
「はい、メタナイト様」
メタナイトはワドルディをともなって店に入った。すぐに、店員が声をかけてきた。
「いらっしゃいませ! 窓ぎわのお席へどうぞ!」
「いや、ケーキを食べに来たわけではない。私は、マローナ姫を探しているのだ。この店によく来ていたそうだが、話を聞かせてくれないか」
「マローナ姫様……?」
その名を聞くと、店員は悲しげな顔になった。
「まだ、ゆくえがわからないんですね……心配です」
「姫は、毎日のようにこの店をおとずれていたそうだな」
「はい。いつもあの窓ぎわの席にすわって、ケーキをめしあがっていました」
店員は、大きなガラス窓のそばの席を指さした。
「マローナ姫様は、みんなから愛されるお姫様。いつでもどこでも、注目のまとです。その姫様が気に入ってくださったので、当店は大ひょうばんになったのです。当店がシフォン星でいちばんの人気店になったのは、姫様のおかげなんです」
「なるほど」
「姫様のことが、とても心配です。今ごろ、どこで、何をしていらっしゃるのか……」
店員がそう言ったとき、店のドアが開いた。
店員は顔を上げた。
「いらっしゃいま……ああ!?」
店員の目が大きく見開かれた。
店に入ってきたのは、まんまるい顔をした、かわいらしい少女だった。頭に、大きなリボンをつけている。
店員はのけぞって、大声を上げた。
「ひ、姫様ぁ! マローナ姫様じゃありませんか! ご無事で……!」
店内にいた客たちも、みんな、歓声(かんせい)を上げた。
店員は、両手を広げて駆けよろうとしたが、姫のするどい目でにらみつけられて、足を止めた。
マローナ姫は、冷たい声で言った。
「近づかないで!」
「え? 姫様? あの……」
「なんていまいましい、あまったるいにおいかしら! 国民を虫歯にする、悪の店だわ!」
「は……はああ!?」
「こんな店、ゆるしません!」
姫はさけぶやいなや、ショーウィンドウにかざってあるケーキをすばやく手に取り、床にたたきつけた。
美しいデコレーションがくずれ、生クリームが飛び散った。
あまりのことに、店員は声も出せずにいる。その間に、マローナ姫は二つ目のケーキを手にしていた。
「こんなもの……!」
姫は、それをカベに向かって投げつけようとした。
とっさに姫の前に立ちはだかったのは、メタナイトだった。
「やめたまえ、マローナ姫」
おちついた声を聞くと、マローナ姫はびっくりしたように動きを止めた。
「あなたは……前に会ったことがあるわね。メタナイト……」
「覚えていてくれたとは光栄だ、姫」
たちまち、マローナ姫の目がつり上がった。
「そこをどいて! じゃまをするなら、ただじゃおかないから……!」
「気を確かにもちたまえ。ここは、あなたがいちばん好きだったケーキ屋だろう」
「どいてったら……!」
姫は怒りをこめてさけぶと、メタナイトめがけてケーキを投げつけた。
メタナイトはすばやく飛び上がってかわした。ケーキは、メタナイトの後ろにいたデデデ大王のおなかにぶつかった。
「おおお!?」
クリームまみれになってしまったデデデ大王は、大声を上げた。
その大王よりも、もっと大きな声を上げたのは、カービィだった。
「何をするんだ! デデデ大王にケーキをぶつけるなんて……!」
カービィはカンカンに怒ってさけぶと、姫の前に飛び出した。
「もったいない! 投げるなら、ぼくに投げてよ! さあ!」
カービィは大きく口をあけた。
デデデ大王が、カービィを押しのけた。
「でしゃばるな! ここはオレ様の出番だ! さあ、マローナ姫、もう一度投げろ! 今度は、腹じゃなく口で受け止めてやるぞ!」
デデデ大王も、カービィとならんで口をあけた。
思いもよらない二人の反応に、マローナ姫は目をぱちくりさせた。
「な、なんなのよ、あなたたち? わたしは、この邪悪(じゃあく)なケーキ屋をこわしに来たのよ! じゃましないで!」
姫はケーキを両手に持って、めちゃくちゃに投げつけ始めた。
ケーキは宙を飛び、まったく関係ない客に当たった。
「うわあ! やめてください、姫様!」
生クリームまみれになってしまった客は、頭をかかえて床につっぷした。
たちまち、店内は大混乱。
飛び散った生クリームで足をすべらせる者もいれば、クリームが目に入ってしまって泣き出す者もいる。中には、こうふんのあまり、姫に向かってケーキを投げ返す客もいた。
カービィとデデデ大王は、大よろこび。宙を飛ぶケーキを、かたっぱしから口で受け止めた。
「もっともっと〜! こっちこっち! たくさん投げて〜!」
「どけ、カービィ! オレ様のケーキだぞ! 横取りするな!」
「負けないよ〜!」
一方、メタナイトは、飛びかうケーキをよけながら、マローナ姫の背後に回りこんだ。ケーキを投げることに夢中のマローナ姫は、気づいていない。
姫が特大のケーキを頭上にかかげた瞬間、メタナイトはすばやくその手を取り押さえた。
「やめるんだ、マローナ姫」
マローナ姫は、キッと目をつり上げて振り返った。
「メタナイト! じゃまをしないでって言ったでしょう! わたしは、このケーキ屋をこわしてやるって決めたんだから!」
「ばかなことはやめるんだ」
「ばかですって!? 失礼な! わたしをだれだと思っているの!?」
「伝統あるシフォン王家の一人むすめ、ほこり高きマローナ姫……のはずだが」
メタナイトは、ふっと笑った。
「今は、ただの乱暴なばかものにしか見えない」
「なんですって―!? 失礼なやつ!」
マローナ姫は、メタナイトの手を思いっきり振りほどいて、ケーキを投げつけようと身がまえた。
メタナイトは少しもあわてずに、言った。
「よく見たまえ、マローナ姫。あなたがめちゃくちゃにしたこの店を」
「……なんですって?」
「床に投げ捨てられ、踏みにじられたケーキを見て、何も感じないというのか?」
「……!」
マローナ姫は店内を見回し、ハッとした。
「あなたが大好きだったケーキ屋が、このありさまだ。パティシエが心をこめて焼き上げたケーキを、あなたは台なしにしたのだぞ」
メタナイトの声が、少しけわしくなった。
マローナ姫は、ぼうぜんとして、立ちつくしていた。
ケーキをたくさんぶつけられて、顔も服も生クリームまみれになっている。口のまわりについたクリームをぺろっとなめると、姫はつぶやいた。
「……あ……あま……い……」
「……マローナ姫?」
「あまくて……おいし……これ……お母様が好きだった……」
姫の目に、ひとしずくのなみだが浮かんだ。
姫のなみだを見ると、大さわぎしていた店内の人々は、ハッとして動きを止めた。
「姫様……」
「マローナ様!」
「だいじょうぶですか、姫様!」
みんな、マローナ姫に駆け寄ろうとした。
――と、そのとき。
突然、大きな音がして、店の窓ガラスがこっぱみじんに吹き飛ばされた。
メタナイトはとっさにマントを広げ、ガラスの破片(はへん)から姫をかばった。
大きく割られた窓――そこにあらわれたのは、漆黒(しっこく)の服に身をつつんだ、背の高い男だった。
男は、青白い顔にほほえみを浮かべていた。だが、細い目は少しも笑っていない。
メタナイトはすばやく剣を抜き、かまえた。
「ガリック……!」
「やあ、メタナイト君。ごきげんうるわしゅう」
ガリック男爵(だんしゃく)は胸に手を当てて、うやうやしく礼をした。
「まさか、このような場所でお目にかかれるとは、おどろきだ。君もケーキを食べに来たのかね?」
「……きさま……」
「そうそう、君の部下たちは元気かね? ブレイドナイト君とソードナイト君……だったかな。また会いたいものだと、伝えてくれたまえ」
「ガリック!」
メタナイトは剣を振り上げ、ガリック男爵(だんしゃく)に切りかかった。
ガリックはその動きを読みきっていた。
笑い声を上げ、飛びすさる。
「おっと、あぶないじゃないか。何をするのかね、メタナイト君」
「……!」
「わがはいはただ、マローナ姫をむかえに来ただけなのだよ。剣を向けられる覚えはないね」
ガリック男爵(だんしゃく)は、メタナイトにかばわれているマローナ姫に、手をさしのべた。
マローナ姫は、まようように、首をふった。
「わたし……どうかしてたわ。もう、あなたといっしょには行かない」
「フム? 何を言っている、おろかしき姫よ。君は、もう王宮(おうきゅう)には戻らないと決めたのではなかったのかね」
「それは……それは……」
マローナ姫は、苦しそうに目をふせた。
「おやおや、今さら、まよっているのかね。困った姫君だ」
ガリック男爵(だんしゃく)はふくみ笑いをすると、上着の内ポケットに手をやった。
ハッとしたメタナイトは、姫を背にかばおうとしたが、間に合わなかった。
ガリックが取り出したのは、もえるように赤い宝石。
彼はそれを手のひらにのせて、高くかかげた。
メタナイトは、ふっと意識をうばわれそうになり、あわてて目をそらした。
(あれが……やつの力のみなもとか)
マローナ姫が、ふらりと足をふみ出した。ガリック男爵(だんしゃく)のほうへ。
メタナイトはさけんだ。
「止まれ、マローナ姫。行ってはならない!」
姫は振り返らなかった。
ガリック男爵(だんしゃく)が、姫の手をつかんだ。
「マローナ姫!」
メタナイトは止めようとしたが、ガリック男爵(だんしゃく)のほうへ顔を向けることができない。赤い宝石を見つめれば、たちまち男爵(だんしゃく)にあやつられてしまう。
男爵(だんしゃく)は、片手で姫の手をにぎり、もう片方の手で赤い宝石をかかげながら、静かにあとずさりした。
メタナイトは視線を落としたまま、剣をかまえ直した。
目で見ることはできなくても、気配を感じることはできる。一か八か、男爵(だんしゃく)に切りかかろうとしたとき。
いきなり、メタナイトは背後に殺気を感じて飛び上がった。
デデデ大王が、大きなテーブルを持ち上げ、振りかざしている。その目はうつろで、光がやどっていなかった。
「デデデ大王!?」
ぼうぜんとするメタナイトめがけて、デデデ大王はテーブルを投げつけた。
メタナイトはすばやく剣を振り上げ、テーブルをまっ二つにたたき割った。
「まさか、君は……」
「目ざわりだ、メタナイト……オレ様の……行く手をふさぐな……」
いつもの大王とはぜんぜんちがう、低くて感情のこもらない声だった。
デデデ大王は大きくジャンプすると、メタナイトを踏みつぶそうとした。
メタナイトは軽くかわして、ため息をついた。
「どうやら、ガリックの術にかかったようだな。口ほどにもない……」
「何だと……何か言ったか?」
「そこをどけ、デデデ大王。私は姫を追わねばならない」
「フン。きさまの好きになど、させるか……!」
デデデ大王はにくしみのこもった声で叫ぶと、メタナイトになぐりかかってきた。
メタナイトがひらりと身をかわすと、デデデ大王はショーウィンドウに頭からつっこんでいった。
「ぎゃわわああっ!? や、やったな、メタナイト!」
「特に、何も」
「た、ただじゃおかんぞ……!」
デデデ大王は身動きが取れなくなって、じたばたした。
「やれやれ、だ。早く姫を追わなければ……」
店の外に飛び出そうとしたメタナイトだったが――。
ふと気づくと、あやつられているのはデデデ大王だけではなかった。
店じゅうの客が、皿を投げつけたり、わめき散らしたりしている。
客ばかりではない。店員まで、口ぎたなく客をののしっていた。不幸にも、あの赤い宝石を直視してしまったのだ。
一瞬、メタナイトは迷ったが、この人々をほうっておくわけにはいかなかった。
さっきのケーキ投げとは、わけがちがう。みんな、殺気だっている。このままでは、ケガ人がたくさん出るかもしれない。
「……すまない、マローナ姫。無事でいてくれ」
小さくつぶやいて、メタナイトは店内を見回した。
店員と客が、今にもなぐり合いを始めそうになっている。
メタナイトが止めに入ろうとしたが、横合いからカービィが飛び出してきた。
「やめて! ケンカはダメだよ!」
「カービィ……」
メタナイトはホッとした。どうやら、カービィは無事なようだ。カービィまで心を失ってしまったら、手がつけられないところだった。
カービィは、店員の腕にしがみついて、暴力をやめさせようとした。店員は顔をまっかにして、カービィを振りほどこうとする。
「はなせ……この……!」
「ダメだったら、ダメ〜!」
もつれ合った店員とカービィは、床にぶちまけられたホイップクリームに足をとられ、いっしょにひっくり返った。
店員の顔は、クリームまみれになった。
「くっ……何をする……」
店員は顔をゆがめたが、ふと、その表情が変わった。
店員は、口のまわりについたクリームをなめ、ため息をついた。
「なんておいしいんだ……これは、当店じまんの、ふわふわホイップクリーム……」
店員の目に、いつもの光がもどった。
彼はあわてて顔をぬぐうと、店じゅうの客に呼びかけた。
「やめてください、みなさん! どうか落ちついて! 店をこわさないでください!」
とっくみあいになりそうな客たちを、店員が必死で引きはなした。
興奮(こうふん)していた客たちが、次々にわれに返った。
「あ……あれ? わたしったら、なんてことを!」
「ごめんなさい、乱暴なことをしてしまって……」
みんな、口々にあやまり、たおれたイスを起こしたり、割れたガラスを片づけたりし始めた。
メタナイトは、店員の様子を見守りながらつぶやいた。
「クリームの味が、店員を正気に返した……か? そういえば、さっきマローナ姫も……」
「どうする、メタナイト!?」
カービィがたずねた。
「お姫様を助けなくちゃ! ガリック男爵(だんしゃく)を追いかけようよ!」
「ああ。行こう、カービィ」
メタナイトはそう言って、身をひるがえした。
――が。その行く手に、またも立ちふさがった者が。
「ここは……通さないぞ……メタナイト……」
両手を広げてメタナイトをにらんでいるのは、なんと。
「ワドルディ〜!?」
カービィが、すっとんきょうな声を上げた。
メタナイトも、あぜんとして言った。
「ワドルディ! まさか、君まで男爵(だんしゃく)の術にやられてしまったのか!」
「気やすく呼ぶな……ぼくは闇のプリンス、ダーク・ワドルディだぞ……」
「……。しっかりしたまえ、ワドルディ」
「だまれ……くらえ、スーパー・ワドルディ・キック!」
ワドルディは、うつろな目でメタナイトをにらむと、ぴょこんと飛び上がって、キックをはなった。
もっとも、パワーはまったくない。メタナイトは、かんたんに片手でふせいで言った。
「デデデ大王ばかりか、君までも……やれやれ、だ」
「ごちゃごちゃ言うな……スーパー・ワドルディ・パンチを受けてみろ!」
ワドルディは手をぐるぐる振り回しておそいかかった。
メタナイトは軽く飛んでかわした。
「ワドルディ、私は君と戦う気はない。その手を下ろすんだ」
「いやだ。くらえ!」
ワドルディは、もう一度パンチをくり出した。
メタナイトとワドルディの前におどり出たのは、カービィ。
「……!」
ワドルディのぐるぐるパンチが、カービィの顔に当たった。
けれど、カービィは少しもひるまなかった。
「しっかりして、ワドルディ!」
「……」
「ぼくだよ! わすれちゃったの!?」
こわばっていたワドルディの表情が、だんだん元にもどり始めた。
振り上げていた手を下ろして、ワドルディはつぶやいた。
「カー……ビィ……」
「ワドルディ!」
カービィはワドルディに飛びついた。
ワドルディはよろけながら、おろおろした声で言った。
「カービィ、ぼく……どうしたんだろう……カービィをなぐっちゃった……!」
「だいじょーぶ! ぜんぜん、いたくなかったよ!」
「どうしよう。ごめんね! ごめんね、カービィ……」
ワドルディは泣きそうな顔であやまった。カービィは「だいじょーぶ!」と笑って、くるんと宙返りをしてみせた。
メタナイトは言った。
「なるほど……わかってきたぞ」
「何が?」
「男爵(だんしゃく)の術は、きっかけがあれば、かんたんにやぶれるんだ」
「きっかけって?」
「自分が大好きなものや、たいせつなものを思い出せば、にくしみが消えるのだろう。王宮の侍女は、妹との思い出がよみがえった瞬間に、術から抜け出すことができた。ケーキ屋の店員は、店のじまんの味を思い出して助かった」
ワドルディは、いきおいよくうなずいた。
「ぼくは、カービィの顔を見て、声を聞いて、いっしょに遊んだときのことを思い出したから!」
「そうだ。カービィが君を救ったんだ。マローナ姫も、あまいクリームを口にして、正気を取りもどしかけていたのだが……間に合わなかった」
メタナイトは、残念そうに言った。
「ともかく、術を破る方法はわかった。早く、姫を連れもどさなければ……」
「うん! 急ごう、メタナイト!」
「メタナイト様、ぼくも行きます!」
カービィとワドルディが、いっしょに店を飛び出していこうとしたが――。
ワドルディのからだが、ひょいっと宙に浮いた。
しのび寄ったデデデ大王が、片手でワドルディをつかみ上げたのだ。
「わあっ!?」
ワドルディは悲鳴を上げた。
ふり返ったカービィは、デデデ大王を見上げて、さけんだ。
「デデデ大王……! まだ、心をあやつられてるの!? ワドルディをはなせ!」
「うるさい……オレ様のじゃまをすると、きさまも、ただじゃおかんぞ」
デデデ大王は、カービィを踏みつぶそうと、片足を上げた。
カービィはすばやく飛びのいた。
メタナイトが言った。
「ワドルディをはなしたまえ。思い出すんだ、デデデ大王。ワドルディは、君のたいせつな部下だぞ!」
「……」
一瞬だけ、デデデ大王の表情が、元にもどりかけた。
だが、彼はすぐに思い直したように、うなり声を上げた。
「フン……! うるさいわい! きさまのさしずは受けん、メタナイト!」
「さしずなどではない。すなおになりたまえ、デデデ大王」
「だまれ!」
大王の顔には、冷たいほほえみが浮かんでいた。今まで、だれも見たことがないほど、暗くてこわい顔だった。
低い声で、大王は言った。
「うるさいわい……きさまら、みんな、目ざわりだ。オレ様のこの手で、ひねりつぶしてやるぞ……!」
大王の大きな手でつかまれたワドルディは、必死にからだをよじって、さけんだ。
「大王様ぁぁぁ!」
「だまれぇぇ!」
「た、たまご焼き!」
ワドルディは、苦しげにさけんだ。
大王は、動きを止めて、いぶかしげに問い返した。
「……なんと言った?」
「チャーシューメン! ローストビーフ! シュークリーム!」
「……む……?」
「あんパン! カレーライス! てんぷらそば!」
「……う……うぉ……?」
「やきそば! チーズトースト! ホットケーキ!」
「ぬ……むむむ……ぐぁぁ!」
デデデ大王は顔をしかめると、ぱっと手をはなした。
そのまま、つっぷして、頭をかかえている。
床に落ちたワドルディは、デデデ大王の顔をのぞきこんで、心配そうにささやいた。
「ハンバーグ……ポテトフライ……クリームコロッケ……」
「もういいわいっ! やめろ、腹がへる」
「よかった! 大王様、元にもどったんですね!」
「う……うう……オレ様は……どうしたっていうんだ」
自分の頭をぽかぽかたたきながら、デデデ大王は顔を上げた。
メタナイトもカービィも、ほっと息をついた。大王の顔は、にくたらしいけれど、にくみきれない、いつもの表情にもどっていた。
「突然、頭にカッと血がのぼって、わけがわからなくなったわい……いったい、何がおきたというんだ?」
「君は、ガリック男爵(だんしゃく)の術にかかったのだ」
メタナイトが説明した。
「やつの力のみなもとは、赤い宝石だ。あれを見ると、意識を支配され、にくしみで満たされてしまうのだ」
「なんだと? オレ様が、さいみん術にかかったというのか?」
「そのようだな」
「バカな! オレ様は偉大なる大王だぞ! インチキなさいみん術なんかに、かかってたまるか……!」
デデデ大王は、顔をまっかにして言い張ろうとしたが、自分がしてしまった行動は消せない。
彼はうめき声を上げてこぶしをにぎると、床を乱暴にたたいた。
「くっ……ガリックめ……! このオレ様をもてあそぶとは……ただじゃおかん!」
「ワドルディの機転のおかげで助かったな」
メタナイトが言った。
「とっさに君の好きなものをならべたので、にくしみを打ち消し、正気に返すことができたんだ。ワドルディ、よくやった」
「は、はい!」
ワドルディは、うれしそう。
カービィが、デデデ大王をからかった。
「デデデ大王にとって、いちばんたいせつなのは、食べ物なんだ〜。食いしんぼ〜」
「フン! きさまに言われたくないわいっ!」
デデデ大王がこぶしを振り回し、カービィは笑いながら飛び上がった。
メタナイトが言った。
「ひとまず、王宮(おうきゅう)に戻ろう。ガリックにあやつられた姫は、また別のケーキ屋を襲撃(しゅうげき)するかもしれない。姫があらわれそうな場所を、王宮の人たちに聞いてみるんだ」
「わかった!」
メタナイトたちは、店を後にした。
思わぬかたちで、マローナ姫と会うことができたメタナイトたち。でも、ガリック男爵(だんしゃく)はものすごく手ごわそう!
メタナイトたちは、ガリック男爵(だんしゃく)に、どうやって立ち向かうのか!?
次回「王立ケーキ工場での対決」をおたのしみに!(1月20日公開予定)
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