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ものがたり

スペシャルれんさい「神スキル!!! キセキの三きょうだい、登場!」第5回 星夜のヒミツのお手伝い


大人気シリーズ『世界一クラブ』の大空なつきさんの新シリーズが読める!
だれにも言えない〈神スキル〉を持つ三きょうだいが、犯罪組織にねらわれたクラスメイトを、警察に代わって、大事件から救いだす! ハラハラドキドキの物語の幕が開く!
(全5回・毎週金曜更新予定♪)


大空なつきさんの新シリーズをどこよりも早くヨメルバで大公開! 
ぜひ、れんさいを読んで、みんなの感想を聞かせてね。感想はコチラ
『神スキル!!! キセキの三きょうだい、登場!』は2023年1月12日発売予定です! お楽しみに♪

☆「神スキル!!!」動画はコチラから!
 



・朝陽 小6〈ふれずに物を動かすスキル〉でも、重いものはムリ!?



・まひる 中1〈はなれた場所を視るスキル〉ただし、近い場所だけ!?



・星夜 中2〈人の心を読むスキル〉知りたくないことも聞こえちゃう!?


第5回 星夜のヒミツのお手伝い





 オレ、星夜(せいや)は、いつもの習慣で一人、図書館へ向かっていた。
 廊下には、たくさんの生徒があちこちに固まって、楽しそうにおしゃべりしている。その全員をよけて歩くのは、意外と一苦労だ。
 でも、できればぶつかりたくない。触れてしまうと、めんどうだから――。
 あっ。
 ドンッ
 後ろから走ってきた男子が、勢いよくぶつかってくる。
「っつ!」
「どけよ!」
(ああ、ムカムカする! ぜんぶ、朝陽(あさひ)ってやつのせいだ!)
 朝陽?
 思わず、ぶつかった男子を視ると、意識を向けたせいで、その男子の心の声が聞こえてくた。
(小学生のくせに、中学生のおれたちにたてつくなんて生意気なんだよ! バスケで負けて恥までかかされるし……おれは悪くないのに!)
 朝陽とバスケで勝負? でも、朝陽は意味もなく勝負を挑むようなことはしない。
 ……ということは、単なる逆恨みか。
 謝りもせず去っていく先輩を見て、オレは心の中で小さくため息をつく。
 はあ……聞きたくなかったな。
 やっぱり、学校は少し苦手だ。
 オレは、スキルを常にコントロールして、ふだんは、他人の心の声は意識しないと聞こえないようにしている。
 でも、油断しているときに人と振れてしまうと、勝手に心の声が聞こえてしまう。
 そのせいで、つい聞こえてしまう他人の心の声に落ちこんだり、いやな気持ちになったりするときもある。
〈神スキル〉――朝陽がつけた呼び方だけど、いいことばかりじゃない。
 特に、オレのスキルは……。
「……早く図書館に行こう」
 気を取りなおして中庭の奥へ向かう。
 この学校の図書館は、二階建ての大きな建物だ。
 小学校と中学校、両方の児童生徒が使うから利用者は多いけれど、図書館の建物は広く、人とぶつかることはない。
 図書館の中に入ると、しんとした静かな空気に包まれる。
 人の話し声も、心の声もしない。もしスキルのコントロールがゆるんで、心の声が聞こえたとしても、みんな、自分が読んでいる本の世界に夢中だ。
(えっ、この話、ここからどうなっちゃうのー?)
(この本おもしろい! 友だちにオススメしなきゃ)
 ……やっぱり図書館は落ちつく。人がたくさんいても不安にならない。
 ぐっと伸びをすると、少し緊張していた心と体がほぐれていく。
 よし、何か本を借りよう。そういえば、小説のコーナーに読みたい本があったな。
「たしか、この棚に」
 ぱたぱた、ぱたぱたぱた……
 本棚が並んだ通路から足音が聞こえてくる。
 小学校低学年の男の子が、本棚の間を歩いてる。きっと二年生くらいだろう。
 なんだか、朝陽の小さいころを思いだすな。まあ、朝陽は図書館に来るより、外で遊んでるほうが好きなタイプだったけど……。
 あれ? あの男の子、不思議な動きをしてる。
 男の子は本棚を見あげると、すぐとなりの棚に移動する。こっそりのぞきこむと、男の子はその棚を見て、さらにとなりの棚へと走っていった。
 不安そうに、きゅっとくちびるをかんでいる。
 ……何か、困ってる?
「コホン、コホン」
 近くにある読書用の席から、せきばらいがする。その方向を見つめて意識を集中すると、何人かの心の声がすぐに聞こえた。
(あの男の子、ずっとうろうろ歩きまわってる。読書のじゃまだなあ)
(さっきから足音が聞こえて気が散っちゃう! せっかく静かな図書館なのに)
 ……このままだと、トラブルになるかも。
 それに、あの男の子、何か事情があるような気がする。
 さりげなく、その男の子の後を追っていくと、男の子は本棚の間を抜け、貸し出しカウンターへ向かい、カウンターにいる二人の司書に近づく。
 話しかけるのかな? でも、司書は男の子に気づいていないみたいだ。
「そういえば、春休みに来るって言っていた六年生の女の子が、さっき久しぶりに来ていましたよ。ほら、六年生の本好きの女の子、わかります?」
「ああ、久遠さんね。わたしも会ったわ。なんでも春休みは家庭の事情で来られなかったって……あら、こんにちは、何か探しもの?」
「あ、い、いいえ……」
 男の子は、話しこむ司書の前まで来たものの、急に向きを変えた。
 あれ、司書に声をかけないのか? てっきり本を探しているのかと思ったけど。
 男の子が本棚へUターンすると、またどこかからせきばらいが聞こえる。
 気がつくと、棚を見つめる男の子の目に、うっすらと涙がにじんでいる。
 男の子も気にしてるんだ。でも……どうにもできなくて困ってる。
 ……ごめん。少し聞かせて。
 オレは心の中で謝ると、腕を軽く組む。
 人の心を読むときに、決まった姿勢は必要ない。でも、すみずみまでもれなく人の心の声を聞こうとするなら、集中が必要だ。
 男の子の背中を、じっと見つめる。
 その瞬間、オレの心に不安な気持ちがするりと入ってきた。
(ここにもない……あの本、どこにあるのかな?)
 男の子の心の声だ。はっきり聞こえる。
(はやく本を見つけなきゃ。昼休みが終わっちゃう。でも、本のタイトルがわからないから、としょかんの人にもきけないよ。ふしぎな、ふしぎの?)
 ……不思議?
(ううん、ちがうかな。女の子がうさぎを追いかけて、おかしな国に行っちゃうお話で……まちがったタイトルを言ったら、わらわれちゃうかもしれない)
 なるほど。さっきはまちがったことを言うのがこわくて、司書(ししょ)に聞けなかったのか。
 ……そういう気持ちは、だれにでもあるよな。
 探している本が何かは予想がついたけど、いきなりオレがその本をわたすと驚かれるか。
 けど、男の子はまったく違う本棚を見てる。このままじゃ見つかりそうもないな。
 それなら、こうするのがいいか。
「すみません」
 オレは、そばを通りかかった司書に声をかける。
この距離なら、男の子にもこの会話が聞こえるはずだ。そうすれば、きっとうまくいく。
「じつは、『不思議の国のアリス』を探しているんですけど、図書館にありますか?」
(あっ! それだ! ぼくが探してた本!)
 男の子が、目を輝かせてこちらを見てくる。
 よかった。合っていたみたいだ。
「『不思議の国のアリス』ですね。何冊かありますよ」
 司書が、通路の奥にある棚を指さした。
「置いてあるのは、すべて、あそこの本棚ですね。下から二段目にあります。貸し出しはされていないので、棚にあると思いますよ」
「ありがとうございます」
 お礼を言って、司書に言われた棚へすぐに向かう。
後ろから、小さな足音が聞こえる――あの男の子だ。
 ついてきている。よし、いいかんじだ。
 あとは、オレが目的の本を見つけないと。
 不思議の、不思議の……これだ。
 司書が言ったとおりの棚に、『不思議の国のアリス』が二冊、並んでいる。一冊は、漢字が多い大人向け、もう一冊は絵が多くて読みやすい、小学生向けの角川つばさ文庫の『ふしぎの国のアリス』だ。
 オレは男の子に気づいていないフリをしながら、大人向けの本を取る。棚の前から移動すると、すぐに、後をついてきた男の子とすれちがった。
 ちらり、と後ろを向くと、男の子が本棚に身を乗りだすところだった。
 小さな手が、棚から『ふしぎの国のアリス』を取りだして、ぎゅっと大事そうににぎる。
 まるで宝物を見つけたような、男の子のうれしそうな心の声が聞こえた。
(よかった! さがしてた本、あった。あったよ!)
「……スキルがあっても、悪いことばかりじゃないか」
 オレはあたたかい気持ちで、カウンターへスキップしていく男の子を見おくった。

 

 




お話の続きは、新刊『神スキル!!! キセキの三きょうだい、登場』を読んでみてね!


作:大空 なつき  絵:アルセチカ

定価
792円(本体720円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046321930

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