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ものがたり

【先行連載】海斗くんと、この家で。 第6回


「1%」「スキ・キライ相関図」で大人気! 
このはなさくらさんの新シリーズ『海斗くんと、この家で。』を一足早く公開中!
『海斗くんと、この家で。 ①初恋はひとつ屋根の下』は、2022年2月9日発売予定です!

      6 転校生の妹

 

 

 海斗(かいと)くんの転校初日なので、学校へはケンさんの車で行った。

 わたしは二人を職員室の前に案内した。

「海斗くん、同じクラスだね。またあとで教室で会おうね」

 けれど、海斗くんは「ああ」とひと言言って、うなずいただけだった。

「………………」

 少しこわばった横顔。

 緊張……しているんだろうな。いくら言葉が話せるからって、今までとまったくちがう、新しいところに飛びこんでいくわけだし。

 ふいに、ひとりぼっちの部屋で、ぞうきんをぬう自分を想像してしまった。

 わたしじゃ頼りになるかわからないけど、海斗くんのためにも、なんか言わなくちゃ!

「心配いらないよ、海斗くん! 担任の先生やさしいし、わたしもついてるから!」

 と、言ってから。

 あっ! ほっぺに血が集まった。

 わたしったら、家を出る直前まで怒っていたくせに……!

「え?」

 職員室を見つめていた海斗くんが、わたしをふり向いた。

 その瞬間、パッと目をそらし、うつむいちゃった。

 どうしよ、顔が赤いの気づかれたかな……!

 いたたまれないキモチになった。手をもじもじ動かしていると。

 

「サンキュー」

 

 ――え。

 ドキッとして顔をあげる。

 そこにはサッパリとした笑みを浮かべた海斗くんがいた。

 こんな笑顔、はじめてだった。目が離せなくなって、ポーッと見とれちゃった。

「海斗、行こうか」

 ケンさんが海斗くんをうながす。

 二人は職員室に入っていった。

 しばらくたって、じわじわうれしさがこみあげてきた。

「サンキュー」だって……。

 海斗くんに言われた!

 すうっと何かよけいなものが落ちたみたい。心もからだも軽くなったような気がするよ。

 わたしったら、ちょっとゲンキンかな?

 

 それから自分の教室に向かった。

 教室の前の廊下(ろうか)で、和花(わか)とバッタリ。

「あれー、ひとり?」

 と、目を丸くされた。

「海斗くんはね、先生のとこに行ってるよ」

 そう言っているあいだにも、顔がにやけているのが自分でもわかった。

「ほほーう」

 名探偵のように、和花は手をアゴにそえた。スッと目が細くなる。

「何か、あったな~!」

 ギクッ。

「なっ、なんにもないよっ」

「えー? はくじょうしなよ、海斗くんと絶対なんかあったでしょ?」

 和花はメモ帳とペンを持って、さらに迫ってくる。

「そんなー!」

 わたしが声をあげたとき。

 海斗くんが担任の先生とともに、廊下を歩いてやってくるのが見えた。

「どうして彼がいるの~!?」

 岡野(おかの)さんのさけび声が、廊下じゅうに響きわたる。

「えっ、何?」

「どうした!?」

 教室にいたほかのみんなが窓に駆(か)けよって、次々と顔をのぞかせた。

 

      *

 

「アンダーソン海斗です。ハワイから来ました。よろしくお願いします」

 海斗くんは日本語でアイサツし、日本風にペコリと深く頭をさげて、おじぎをした。

「アンダーソンさんは、小倉(おぐら)さんのおにいさんです。慣れるまで、みんなも学校生活を助けてあげてくださいね」

 担任の村元(むらもと)先生が説明したとたん、みんなの目がわたしに集まった。

「おにいちゃんだって!」

「へえー、きょうだいかあ」

 教室じゅうが、ざわざわしだす。

 ……わたしまで注目されちゃった。

 どちらかといえば、あまり目立ちたくないわたし。困っちゃうなあと思っていると。

「にてないね」

 ボソッとだれかの声が大きく聞こえた。

 恥ずかしいキモチがこみあげてきて、パッとまつげをふせる。

 ふつりあいな妹だって言われたみたい……。

 ドサッとカバンをおろす音がしたので、ふと横を見ると、海斗くんがすわっていた。

「ええっ、席もとなり!?」

「ここにすわれって言われた」

「そ、そっか、席もとなりなんだ……」

「イヤだった?」

 ジッと見つめられてしまった。

 ドキッ。ブンブンと首を横にふる。

「そんなことないよっ、ビックリしただけ……」

「なら、よかった」

 海斗くんはニコッと笑った。

「えへへ……」

 と、わたしも苦笑い。

「!」

 岡野さんがムスッと不満げに、こっちを向いていた。眉間(みけん)のしわが深くなってる。

 や、ヤバい!

 わたしはピタッと口を閉じた。

 

      *

 

 帰りの会が終わり、下校時間になった。いつものように和花が席にやってくる。

「ごめん、和花。今日は海斗くんと帰るんだ」

「あ、そっかあ。初日だもんね。通学路、覚えないといけないし」

 でも、海斗くんは、岡野さんたちにつかまっていて、

「ハワイってどんなところ?」

「サーフィンのほかに得意なことってある?」

 あれやこれや質問攻めにされている。

「あららー、盛りあがってる! すぐに帰れそうにないね」

「うん、待っているしかないみたい……」

「あ、小倉さん! ちょっとちょっと!」

 突然、廊下側からよばれたので「ん?」と首をひねった。

 ひとりの男子が窓からひょっこり顔をだし、わたしをてまねきしている。

 となりのクラスの水野(みずの)くんだ。うわー、スゴい。夏休み前より日焼けしているような。

「どうしたんだろ? ちょっと行ってくるね」

 和花にそう言ってから、廊下にでると。

「きみのおにいさん、水泳クラブに入る気ない? サーフィンできるんだろ? なあ、わるいけど聞いてみてくれよ!」

 水野くんからコーフン気味におねがいされた。

 思わず目がテン。

 海斗くんのこと、となりのクラスまでもう知ってるの!?

「どうして、わたしに?」

「だって、ほら、あんな調子だし、待ってたって話できそうにないじゃん」

「なるほど、将(しょう)を射(い)んと欲(ほっ)すればまず馬を射(い)よ、ってわけね」

 気づいたら、和花がとなりにいた。メモ帳とペンを持って、シッカリ話を聞く準備もできている。

「和花、聞いてたの!?」

「えへへ、ゴメン。なんの話か気になって……」

「そうだ! 小倉さんも入部しない? 歓迎(かんげい)するよっ」

 水野くん、なんてことをっ!

「えーっ、ムリ! ムリだよ~!」

 ひええ!

 ちょうどいいタイミングで、「あのー、すみません!」と、だれかに話しかけられた。

 た、助かった~! と思いながらふり向くと。

 今度は二人組の女の子だった。上靴のラインの色がちがう……六年生だ!

「ハワイから転校生が来たのは、このクラス?」

 また海斗くん!

 話を聞くと、彼女たちは放送クラブと新聞クラブだった。海斗くんに取材の申し込みをしたいんだって。

「とりあえず伝えといてくれよ! 水泳クラブの入部を考えてくれって。頼むよ! なっ?」

 こっちが先だ、と言わんばかりに、水野くんがまた迫ってくる。

「ちょっと待って! 忘れないようにメモするから! えーと、水野くんに、放送クラブと新聞クラブ……」

 和花のメモ帳とペンをかりて、必死に書き書きしていると。

「まるで芸能人のマネージャーになったみたいだね」

 って、和花に言われちゃった。

 た、たしかに! なんか焦(あせ)っちゃうね……。

 

<第7回へつづく>

※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。 


作:このはな さくら 絵:壱 コトコ

定価
748円(本体680円+税)
発売日
ISBN
9784046321367

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