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かっこよさが、クセになる!【大量ためし読み】『怪盗ファンタジスタ』先行連載 第3回



「――待たせたね。はじめようか、胸おどるSHOW TIME(ショータイム)を」


織戸恭也、15歳。 ある日「師匠」に呼びだされ「2代目怪盗ファンタジスタ」を受け継ぐことに!?

「おまえには翼がある。どこまでも、飛んでいけ――」

そしてはじまる、恭也の胸のすくような大冒険。 怪盗レッドシリーズの秋木真さんが贈る、痛快無比な怪盗ストーリーです。
このかっこよさは、クセになる!
6月14日発売のつばさ発の単行本『怪盗ファンタジスタ』を、どこよりも先にためし読みできます。
あなたもぜひ、この風に乗ってね!(毎週火曜日、全4回)

【このお話は…】
荒くれ者たちに追われた「子猫ちゃん」が逃げこんだのは、下町。
でも、だれも彼女を助けようとしない。
まるで「関わりたくない」と言うように、ドアや窓はしめきられたまま。
だが、しかし。
恭也(と彼に従うマサキ)だけはちがう。
男たちを相手に堂々とした戦いぶりを見せ「子猫ちゃん」を気に入った恭也は、彼女を自分の屋敷へとさそって…。



※これまでのお話はコチラから



8 護衛者はストイック

取りかこむ荒くれ者たちの円の外側に、おれは無造作に近づいていく。
殺気だつチンピラたちは、ゲパールのほうばかり見て、おれになかなか気がつかない。
「ちょっと、そこを通してくれないか」
おれは、近くにいたチンピラに声をかける。
「ああ、すまねえな……って、てめえはなんだ! ガキがくるところじゃねえぞ!」
チンピラは、道を空けようとして、おれの顔を見て、急にどなる。
「ここは立入禁止だ! 痛い目みたくないなら、とっとといけ!」
ほかのチンピラが、どなりつけてくる。
恫喝することに慣れている様子だが、問答無用に殴りかかってこないあたりは、存外おだやかなほうかもしれない。
「ご忠告ありがとう。――でも、おれも彼女に用があってね」
おれはそう言って、民家の屋根に上っているゲパールへと、視線をむける。
「なんだと!? てめえ、敵か!」
チンピラが、おれの肩をつかもうと手を伸ばす。
――が、それより先にマサキの拳が、チンピラの横っつらにめりこんだ。
「ぐはぁ!」
チンピラがふきとばされ、地面にころがる。
「――汚い手で、主様にさわるな」
マサキが、殺気のこもった目で、チンピラを見おろす。
チンピラたちが、新しく出現した敵に、気圧されたように黙りこむ。
「それじゃあマサキ、半分はまかせたよ」
「半分と言わず、すべて引き受けます」
マサキは、さらりとかえす。
たしかにマサキの実力なら、このチンピラていどに手こずることはないだろう。だが……。
「おれだって、少しは子猫ちゃんにいいところを、見せたいだろう?」
おれは、にっこり笑う。
「……わかりました。半分はおまかせします」
マサキはため息を残しながら、そのままチンピラの集団の中につっこんでいく。
「さて、かるく運動といこうか」
おれも、マサキとはちがう方向のチンピラの集団に、むかっていく。
チンピラたちも、おれに気づいていたらしく、臨戦態勢で待ちかまえている。
だが、問題ない。
「がっ!」
おれの右のフックが、手前にいたチンピラを横倒しにする。
「てめえ、なにもんだ!」
「やっちまえ!」
倒れこんで動かない仲間に、呆気にとられていたチンピラたちだが、すぐさま怒りの形相に変わって、おれに殺到してくる。
半分となると、15人ぐらいか。
殴りかかってくるチンピラ2人の拳を、おれは冷静にさばいて、叩き落とす。
体勢を崩してよろめいたところを、足を引っかけて、一回転させて地面に投げ飛ばす。
「「げほっ!」」
背中を叩きつけたチンピラ2人は、そのまま地面で横になってうめいて、おきあがってこない。
それを見て、ほかのチンピラが怖気づいたのか、足が止まっている。
「こないなら、こっちからいかせてもらうよ」
おれは、チンピラたちと間合いを詰めると、左にいたチンピラの首筋にハイキックを決める。
そのまま、回転しながらもう1人に、うしろまわし蹴りを食らわせる。
「ぎゃっ!」
「ぐっ!」
むこうでは、マサキが暴れている。
マサキは左のフックを決めると、続けて足ばらいでチンピラを転倒させる。
キレのある動きに、チンピラはマサキを追えていない。
そこまでくると、相手も実力のちがいに気づいたようだ。
角材をふりかぶったり、ナイフを取りだしたりするチンピラもいたが、冷静にさばいて叩きのめしていく。
10人ほどを倒したところで、残ったチンピラたちが顔を見合わせて、あとずさりしていく。
「退却だ!」
まだ立っているチンピラたちが、いっせいに逃げていく。
倒れて動けなかったり、気絶したりしているチンピラは放置されたままだ。
マサキのほうを見ると、同じ状況らしい。
足もとの地面に倒れているのも、それぞれ10人ほど。
「だいたい引き分け、かな?」
おれが倒れているチンピラを見て、マサキに言う。
「恭也様と勝負をした覚えはありません」
マサキは口ではそう言ったものの、表情は少し不満げだ。
護衛として、おれのカバーに入れなかったことに、満足していないといったところか。
ストイックな気質だからな、マサキは。
それはそうと。
おれはチンピラにかこまれていた、民家の屋根を見あげる。
そこには、昼間に出会った褐色の肌の少女が立ちつくして、こちらを見下ろしている。
「あんたたち……なにもの?」
目を見開いたゲパールが、きいてくる。
「ちょっときみと、きみの持っている荷物に、興味があるんだ――ゲパール」
おれがこたえると、ゲパールの表情がけわしくなった。
アタッシェケースを、強く抱きかかえる。
「つまり、あんたたちも、これが狙いってわけ!」
「むりやり奪いとるつもりはないさ。子猫ちゃん自身にも、興味があるしね」
ゲパールが、どう反応していいのかと迷うような顔になる。
「……主様。とても困っているようですよ」
マサキがおれに、ささやくように忠告してくる。
「だけど、警戒心は少しうすれただろう」
「ちがう意味で、警戒されただけでは?」
そんなことはないさ。
おれとマサキが話している間に、ゲパールは調子を立てなおしたらしい。
表情に冷静さがもどっている。
「さっき、あんたたちの実力は見たし、逃げられないってことはわかってる。でも、これをわたすつもりはないわ……意地にかけてね」
ゲパールは、決意のこもった目をしている。
おれの言葉がまったく信用されていないのは残念だ。
だが、追いかけっこをする必要がないのは助かるな。
「それならそれでかまわないさ。なあ、落ちつける場所で少し話をしないか。……そうだな。うちの屋敷に招待しよう」
「主様!?」
となりに立つマサキが、驚いている。
「子猫ちゃん1人を招待できない屋敷ではないだろう?」
「それはそうですが……」
マサキが反論の言葉を呑みこむ。
「……わかった。案内して」
少し迷ってから、ゲパールがうなずく。
「ずいぶん、素直になったな」
マサキが、ゲパールのこたえを意外に思ったらしい。
「断って戦いになれば、問答無用でアタッシェケースが奪われるでしょう。話ができるというなら、さっきの連中よりマシだわ」
なかなか冷静な判断だ。
さすが、新進気鋭の運び屋だけある。
「まだおれへの評価が辛いけど、まあそれはおいおい変えていこうか――おいで、子猫ちゃん」
おれは、鼻歌まじりで歩きだす。
ゲパールは、するすると身がるにおりてくると、おそるおそるといった様子でついてくる。
マサキがため息をつき、ゲパールのうしろについた。
一応、はさみこむかたちになっているが、ゲパールには逃げるつもりはないだろう。
いまさら、油断を誘って逃げられると思っているとは考えにくい。
そうであれば、少しばかりがっかりだしね。
大勢のチンピラに狙われるアタッシェケース。
それを運ぶ、少女の運び屋。
さて。なにが出てくるかな。


9 大富豪の恩義

屋敷の応接間。
そのソファに座りながら、おれはマサキのいれた紅茶を飲んでいた。
むかいのソファには、ゲパールの二つ名を持つ少女が、アタッシェケースを両腕にかかえたまま、身をかたくして座っている。
あらためて見ると、少女の年齢はおれやマサキと、さほど変わらなそうだ。
動きやすさと、この土地の気温を考えたのか、ノースリーブに短パンとスポーティーな服装だ。
ショートカットの髪は、さっきの争いのせいか少しばかり乱れている。
紅茶を運ばせたのだが、少女は手をつけようとしない。
警戒と緊張。
これから、どういう話の展開になるのか、という不安。
色々な感情が入り混じっているのが、少女の表情からうかがえる。
「そのアタッシェケースの届け先は、どこなんだい?」
前置きはないほうがよさそうだ、と判断して、単刀直入に質問する。
「運び屋が、依頼について話すわけがないでしょ」
「まあ、それもそうか。なら、きみの名前を教えてくれないか」
「ゲパールよ。知ってるでしょ」
「それは、運び屋としての名前だ。きみの名前は別にあるだろう」
「………………サラよ」
少し間があってから、運び屋ゲパール――サラがこたえる。
「サラか。いい名前だ。サラは紅茶はきらいかい? この茶葉はとっておきなんだけどね」
おれはティーカップを口に運びながら、たずねる。
マサキは紅茶もコーヒーもいれるが、日に日に腕を上げている。
飲まずに冷ましてしまうのは、もったいない。
「あなたの目的はなに?」
サラは警戒した様子をくずさずに、おれを見る。
「さっきもこたえたとおりさ。アタッシェケースもだけど、きみ自身にも興味がある。どうして運び屋をやっているのか、とかね。教えてくれないか?」
「……はあぁ。本気だったのね。そんなことをきいて、どうするのっていう気がするけど」
サラはため息をつくと、少しだけ警戒がうすれる。
「ある恩人が、勧めてくれたの」
「運び屋を?」
「ええ。すばしっこいから、むいているって。あたしはスラムの生まれで、だれかのおこぼれをもらう以外、金を稼ぐことなんて考えたこともなかった。でも、運び屋になってからは、ちゃんと仕事をしてお金をもらえてる」
サラは、どことなくほこらしげにこたえる。
スラムからぬけだすのは、かんたんなことじゃない。
仕事を得て、スラムの外で稼いで暮らしているというのは、たいしたものだ。
それがたとえ、世の中から真っ当と言われない仕事だとしても。
まあ、人のことは言えないが。
「それで、きみの恩人というのは、だれ?」
「言わない」
サラは、きっぱりと拒絶する。
だろうね。
恩人というぐらいだ。サラがその名を口にするとは思えない。
ただし……。
「……イザク・ファーディナンドです」
ツバキが、サラの背後にとつぜんすがたを現して、つげる。
「どうして……って、あなた、いつの間に!?」
サラはイザクの名前が出たことに目をむいてから、ツバキの存在に、もう一度驚く。
気配を消してタイミングを計っていたツバキには、なかなか気づけないだろう。
「落ちついて、子猫ちゃん。すわって、紅茶を飲むといい」
おれは、サラに言う。
動揺したせいか、サラは、一度も口をつけていなかった紅茶を飲む。
飲んでから、「しまった!」という顔になったから、完全にうっかり忘れてしまったようだ。
サラは、自分の身に異変がおきないことを確認して、ほっとした顔になる。
「毒や睡眠薬なんて、まぜないさ。必要もないし、紅茶の味がにごるだろう? それよりも、イザク・ファーディナンドとは、大物の名前が出てきたね」
そして興味深い名だ。
起業家として、一代で巨万の富を築いた大富豪だ。
彼のおこした事業の数々は、世界の国々のインフラや、経済の発展にまで影響したと言われている。
とはいえ、それも5年ぐらい前までの話で、今年で81歳、ここ数年は、なかば隠居していたはずだ。
隠居したとはいっても、それだけの大物だ。陰ながらその影響力は絶大だっただろうけどね。
「有名な富豪ですね。それが彼女のスポンサーだと?」
マサキが、疑わし気な目をツバキにむける。
「私の調査を疑うの?」
ツバキが、鋭くマサキをにらむ。
「2人とも、そのへんで。お客さんの前だよ」
また言い争いの気配を感じて、おれは先まわりして2人を止める。
マサキとツバキは、すぐさまひかえて口を閉じた。
「イザク・ファーディナンド。それがきみの恩人でスポンサーだとしたら、ますます興味深い」
「どういうこと?」
サラは、怪訝そうにおれを見る。
「おれが知るかぎり、イザク・ファーディナンドは、1週間前に亡くなったからさ」
「ウソをつかないで!」
顔色を変えて立ちあがったサラが、大声をあげる。
恩人だというのは、本当らしい。
サラがここまで感情的になるのは、はじめて見た。
「ウソじゃないさ。たしかに表にはまだ出ていないようだが、裏にはすでに出まわっている情報だ」
「そんな……おじい様が」
サラがショックを受けた顔で、トスン、とソファに腰を下ろす。
「ふむ……。もしかしたらだけど、そのアタッシェケースの届け先は、イザク翁か?」
おれは話がつながった気がして、サラに確認する。
「なっ!」
サラが顔色を変えて、ふたたびアタッシェケースをかかえこむ。
その様子が、雄弁に語っている。
どうやら、あたりのようだ。
「あれだけ危険な目にあっても、アタッシェケースを手放さない。いくら運び屋だからといって、命までかけるのは、違和感がある。つまり……そこには報酬以上の恩があるからかと思ってね」
「だとしたら、どうするの?」
サラは、おれをにらみつけながら、きいてくる。
「どうもしないさ。興味の半分は、こたえがわかった。きみの正体や背後にいる人物については、ね。アタッシェケースの中身も気になるが、女性からなにかを、むりやり奪いとるのは、おれの趣味じゃない」
おれは肩をすくめる。
「なら、もう出ていくわ」
サラはそう言って、立ちあがろうとする。
ふらっ。
サラが、めまいをおこしたのか、体が傾く。
とっさに、おれはテーブル越しに手を伸ばして、サラの体を支える。
よく見れば、かなり顔色がわるい。
「ここのところ狙われつづけて、ろくに眠れてもいないんだろう。ひと晩ここに泊まっていけばいい」
「……どうして、あたしの世話を焼こうとするの?」
サラは、おれの目的がわからない、と言いたげだ。
「子猫ちゃんが困っていたら、助ける。それがポリシーだからさ」
片目をつむって言うと、
「キザすぎるわ」
「たまに言われる。で、どうする?」
おれは、もう一度確認する。
「……泊めてもらうわ。限界なのは、自分でもわかっていたから」
サラは、迷った様子だったが、いまの状態で外を出歩くのも危険だと判断したらしい。
この場でその判断ができるだけ、サラが優秀で、まだ冷静な証拠だ。
おれが目でマサキに合図すると、マサキが部屋の外にひかえていた執事に指示を出しにいく。
部屋の準備は、すぐに整うだろう。
もどってきたマサキと、ひかえていたツバキは、「また主様の困った性格が出た」と言わんばかりだが、おれは素知らぬ顔をする。
それより、いまは考えておくことがある。
サラを狙う連中が、おとなしくしているとも思えない。
さて。相手はどう出るかな?



10 背中合わせの信頼関係

眠る前に、食事を勧めると、もう警戒するのもやめたのか、サラは素直に食事をとってから、用意された部屋で、眠ってしまった。
信用されたというより、それだけ疲労がたまっていたのだろう。
真夜中の2時半。
まだ夜明けまでは数時間ある。
「お客さんは、きているかい?」
おれはツバキにたずねる。
「はい。50名ほどで屋敷を取りかこんでいます」
なるほど。
思ったよりは、人数をそろえてきたな。
サラを助けたおれの住まいがここだということは、すぐにチンピラどもに知られるとは予想していた。
とくに顔をかくしたりもしなかったから、この街に住んでいれば、この屋敷の人間だと気づいただろうし。
街の人間にも、義理を立てておれの居場所をかくしたりしなくていい、と伝えてある。
そのせいで、街の人があいつらにケガでも負わされるほうが困る、と。
街には、いつも変わらずに、日常を送ってもらいたい。
これは、あくまでおれの用件だ。
「出ますか?」
マサキがきいてくる。
「いや。まずは、この屋敷を堪能してもらおう」
おれは、ニヤリと笑う。
屋敷の2階から、テラスに出る。
「おお、よくこれだけ集めたな」
おれはテラスから、屋敷の正門に集まるチンピラたちを見る。
まるで、これからライブでもはじまるかのようだ。
そのチンピラたちが、門にしがみつき、登って越えようとしてくる。
この屋敷に住むのが何者なのか、知らないからこその、強引な手段だな。
門を乗り越えたチンピラたちが、着地しようとした瞬間、足が着くはずの地面に穴が開く。
「ぎゃあああっ!」
「へ、蛇だ!!」
「やめ、やめろぉ!」
入り口の前には、落とし穴を掘り、その中には毒蛇を棲まわせてある。
毒蛇といっても、すぐに命を奪うようなものじゃない。
その日のうちに手当てをすれば、問題ないていどだ。
それでも、毒蛇に噛まれれば恐怖はあるし、毒の効果で、くるしさが生じる。
毒が命に関わらないと知っているのは、こちらだけだから、罠にかかったチンピラたちは、気が気でないはずだ。
「穴を飛び越えていけ!」
穴があることがわかれば、当然、それを飛び越えて進むチンピラも出てくる。
それに対応するのが……。
「ぎゃっ!」
「痛えええっ! なんだこれ!」
「顔が! 目が!」
落とし穴を飛び越えたあとには、自動で侵入者を迎撃する発射装置が、20個以上設置してある。
発射装置といっても、こちらも命に関わるものではなく、発射しているのはトウガラシ水だ。
サーモグラフィーを使って、人の位置を把握し、的確に顔面を狙っていく。
その精密な射撃で、チンピラたちは次々に目もとにトウガラシ水を受け、その場にくずれ落ちる。
トウガラシ水を避けようとして退がり、毒蛇の落とし穴に落ちる者もいる。
落とし穴も、一度閉じたあと、また開くようになっていたりと、凝った造りなのだ。 
「まったく。師匠が考えたものとはいえ、性格がわるいな」
おれはチンピラたちの惨状を見て、肩をすくめる。
この侵入者迎撃システムは、肉体的に深刻なダメージを与えずに、戦意を喪失させるようにつくられている。
罠自体は古典的なものだが、それを動かしているのは、最新式のシステムだ。
かんたんに突破はできない。
おれもマサキも、以前、師匠にこの迎撃システムを突破する訓練をやらされたが、何度毒蛇に噛まれ、トウガラシ水を浴びたことか。
思いだしたくない記憶だ。
チンピラたちの阿鼻叫喚の中、壁を乗り越えてくる影がある。
黒ずくめで顔面をおおった連中が、トウガラシ水を避けながら、屋敷に忍びよっている。
わざと、迎撃システムに穴を作っておいたとはいえ、なかなか腕が立つ者がいるようだ。
「お出迎えが必要かな?」
おれはその場で腕を伸ばして、かるく準備運動をする。
「おともします」
マサキが、ななめうしろでひかえている。
「ツバキ、この場はまかせる」
おれが、つぶやくように言うと、
「かしこまりました」
ツバキが、おれの背後にひざをついたすがたで現れる。
チンピラたちは、迎撃システムで、ほぼ全滅だろうが、念のために監視はいるだろう。
ここは、戦闘むきではないツバキにまかせるのが、ちょうどいい。
「じゃあ、おもてなしにいこうか」
おれは2階のテラスから、飛び降りる。
一度、壁を蹴ってクッションにしてから、地面に降り立つ。
おれはそのまま、黒ずくめの連中がむかったほうに走りだす。
マサキも、ピタリとおれのうしろにつけている。
「さて。チンピラを囮にしたのか――勝手に囮になってくれたのか」
おれは口に出して考える。
「表のやつらとは、別動隊という可能性が?」
マサキがきいてくる。
「アタッシェケースの中身が、イザク・ファーディナンドのものだとしたら、それを狙う勢力が1つだけとは考えにくい。あれだけの大富豪だ。狙う人間は山ほどいるだろう」
「それを知っても、主様は、この件に関わるおつもりですか?」
マサキの問いに、おれは少し走るスピードを落とす。
横を走るマサキは、おれのことを心配しているようにも見える。
今回は、おれが事件に首をつっこむかたちだからな。
こちらからターゲットに仕掛ける、いつもの怪盗の仕事とはちがう。
「気に入らないか?」
「そういうわけでは……」
マサキは、口ごもる。
「いまのところ決めていない。気のむくままだ」
おれは、思っているままのことをこたえる。
本当に、とくに決めていないのだから、しょうがない。
おもしろそうなら、このまま首をつっこむし、そうでないなら手を引くかもしれない。
おれのこたえに、案の定、マサキは渋い顔をしている。
また、おれにふりまわされると考えているのだろう。
そういうことが顔に出てしまうのが、マサキの甘さであり、気に入っているところだ。
そのうち、感情をかくす術を覚えるだろうが、もうしばらくは、そのままでいてもらいたいものだ。
見ていておもしろいからね。
おれとマサキが、黒ずくめの男たちのところへたどりつく。
窓を割って、屋敷の中に侵入しようとしている。
「うちの屋敷に、ずいぶんとひどいことをしてくれるじゃないか」
おれが声をかけると、黒ずくめの中の2人が、ビクッと肩を震わせてこちらを見る。
屋敷の敷地内でも、ライトから少し離れていて、真夜中のいまは、かなり暗い。
それに加えて、おれもマサキも気配を消してきたから、声をかけられるまで気づいていなかったらしい。
残りの2人には、驚いた様子がないから、こちらの接近に気づいていたようだ。
「――女とアタッシェケースをわたせ」
黒ずくめの男の1人が、無機質な声で言う。
顔も黒いマスクでおおわれているため、表情はうかがえない。
だが、おれたちの姿を見て、わずかな侮りを持った様子が感じられる。
あまり楽しい会話相手ではなさそうだ。
「うちの客人に用があるなら、おれを通してもらいたいね」
「わたさないと言うなら、奪うまで」
黒ずくめの男たちが、かまえをとる。
主からの命を果たすことしか、考えていない。
外のチンピラとはちがう、裏の仕事のプロといったところか。
「まったく。こういうやつらは、話が義務的でよくないな。わざわざ、迎撃システムに穴を作ってまで招待したんだ。丁重にお迎えしようじゃないか」
おれとマサキも、かまえをとる。
それを見て、間髪をいれずに黒ずくめの男2人が、一気に間合いを詰めてくる。
「ちっ!」
喉を狙ってきた手刀を、左手でそらしてうしろに退がる。
その間に、残りの2人が背後にまわってくる。
訓練された連係だな。
背後にまわろうとする黒ずくめの1人にむけて、蹴りを放つ。
だが、バックステップで、うまくかわされる。
「くっ、あぶなっ!」
蹴りを放った直後を、前からきていた黒ずくめから、顔にむけて手刀が飛んでくる。
ギリギリでかわして、カウンターでパンチを放つ。
両手で受けて、いきおいをうまく殺される。
マサキも、戦況はあまりよくなさそうだ。
それぞれが、2対1をやっている状態だからな。
相手有利のかたちで戦ってしまっている。
それなら、こっちのペースに巻きこもうか。
正面と背後から、黒ずくめの男たちが仕掛けてくる。
「マサキ!」
マサキの名を呼び、一瞬、視線を交わす。
意図は通じただろう。
おれとマサキは、背中合わせになると、同時にステップを踏んで位置をずらす。
おれは正面の敵、マサキは背後の敵だけに集中できるように。
おれから見て右側の黒ずくめは、いきなり相手がマサキからおれに変わって、動きに迷いが出ている。
思った通りだ。これなら捌ける。
おれは、黒ずくめ2人から飛んでくる手刀を、叩き落とす。
いきなり相手が変わったことに、右側の黒ずくめはまだ対応できていない。
それは一瞬だが、十分な隙だ。
おれは一瞬、動きが止まった黒ずくめにむけて、ボディブローを叩きこむ。
「がはっ!」
黒ずくめの体がうきあがってから、地面に落ちる。
ボディブローを食らった黒ずくめが、ひざをつく。
「ぐがっ!」
うしろでもマサキが、ハイキックでカウンターを決める。
黒ずくめの1人が、よろよろとうしろに退がっている。
それを見て、攻撃を食らっていない残りの黒ずくめ2人が、視線を交わす。
ダメージを受けた黒ずくめを支えて、夜の闇の中に後退していく。
引きぎわの判断が早い。
もし、もう1人やられてしまえば、全員を連れての撤退がむずかしくなる。
それも計算して早めに撤退したのだろう。
「追いますか?」
マサキが確認してくる。
「必要ない。それに、ああいうやつらは、追っ手に備えて罠でも張っているさ」
あの手の手練れは、追跡すれば藪蛇になる可能性が高い。
できれば捕まえたかったが、追いはらうだけでも十分だ。
「主様」
テラスで迎撃システムの監視をしていたツバキが、ひざをついてすがたを現す。
「表をさわがしていた者たちも、引きあげました。8割がダメージを受けたものと推定されます」
ツバキが報告する。
チンピラたちも、逃げだしたらしい。
あの迎撃システムを受ければ、しばらくはここに攻めこもうなんて気は、おこらないだろう。
「わかった。すまないが、片づけを指示しておいてくれ。だいぶ散らかってしまっただろうからな」
「かしこまりました」
ツバキがすがたを消す。
片づけは、屋敷の者にまかせ、おれたちは中にもどることにする。
屋敷の玄関前にいくと、ドタバタと足音を鳴らして、サラがすがたを見せる。
寝おきなのか、左頬に、まくらの跡がついている。
目もまだ眠たげだ。
よほどつかれて眠りこけていたらしい、まるで年相応の少女のような風情だ。
「い、いったいなにがおきてるの!?」
サラは、あせった様子で言う。
「いま、片づいたところさ。やはり目的は、きみとアタッシェケースだそうだ。おれたちは、もう一度、話し合う必要がありそうだね」
おれは、サラにむけて、にっこりと微笑んだ。



Memory とどめを刺さない理由

――あれは5年くらい前だっただろうか。
「ねえ、師匠。なぜ、この屋敷の迎撃システムは、妙なものばかりなんですか?」
おれは屋敷の庭で、水で顔を洗い流しながら、師匠にたずねた。
「妙とは、なにがだ?」
師匠は、わずかに眉をひそめて、ききかえす。
「だって、毒蛇もトウガラシ水も。すぐに回復するようなダメージしか敵に与えられません」
とはいえ、かなりのダメージではあるが……いまのおれみたいに。
さきほど、この迎撃システムを突破する訓練をしていて、トウガラシ水をまともに顔面に受けた。
一応、通常仕込まれているものよりうすめたトウガラシ水だったが、それでも、水で洗っているあいだ中も、皮膚がひりひりする。
とはいえ、やはり、手ぬるいだろう。
「おまえは、命に関わるトラップをしかけたほうがいいと思うか?」
師匠は、いかめしい顔つきでおれを見る。
「そのほうが、二度と立ちむかってこないのでは?」
「ちがうな。致命的なダメージを受ければ、深い恨みを抱く。より相手はこだわり、執念深くなるだけだ。このていどのいやがらせで追いはらっておけば、やりかえすほどの恨みを抱くものはいない。もう近寄らないようにしようと考えるだけだ」
「……よくわかりません。恨みは恨みじゃないですか」
いまのおれも、少しばかり師匠を恨めしく思っているし。
おれを見て、師匠はかすかに笑った気がする。
「かもしれん。だが、そう気にとめておくほうが、長生きができるものだ。気休めだとしても、な。覚えておくといい」
「……わかりました」
まったくわからなかったが、とりあえず、おれはうなずいておいた。
そもそも、この鬼神のように強い師匠が、屋敷のトラップごときに引っかかるようなヤツに、負けるとは、とても思えない。
トラップの作動実験を兼ねていると言われたほうが、納得するぐらいだ。
でも、師匠は、決しておれに嘘を言わない。
覚えておけと言うのなら、おれは覚えておくべきなのだろう。
おれは、師匠の言葉を頭の片隅にしまっておく。
「……もう1本だ。次は壁を突破してみろ」
「はいっ」
どうせまた、地味に嫌すぎるトラップがしかけられているのだろう。
おれは、内心でため息をつきつつ、地面を蹴った。



第4回へ続く(6月13日公開予定)

【6月14日発売!】つばさ発の単行本「角川つばさBOOKS」、『怪盗ファンタジスタ』、乞うご期待!

 


怪盗ファンタジスタ 黄金の翼は、もがれない

  • 作:秋木 真 絵:丹地 陽子
  • 【定価】1,430円(本体1,300円+税)
  • 【発売日】
  • 【サイズ】四六判
  • 【ISBN】9784041136386

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