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ものがたり

かっこよさが、クセになる!【大量ためし読み】『怪盗ファンタジスタ』先行連載 第2回



「――待たせたね。はじめようか、胸おどるSHOW TIME(ショータイム)を」


織戸恭也、15歳。 ある日「師匠」に呼びだされ「2代目怪盗ファンタジスタ」を受け継ぐことに!?

「おまえには翼がある。どこまでも、飛んでいけ――」

そしてはじまる、恭也の胸のすくような大冒険。 怪盗レッドシリーズの秋木真さんが贈る、痛快無比な怪盗ストーリーです。
このかっこよさは、クセになる!
6月14日発売のつばさ発の単行本『怪盗ファンタジスタ』を、どこよりも先にためし読みできます。
あなたもぜひ、この風に乗ってね!(毎週火曜日、全4回)

【このお話は…】
従者マサキをつれてくりだした下町で、なにものかに追われている「子猫ちゃん」を見かけた恭也。
「こまっている子猫ちゃんがいるなら、それを助けないという選択肢があるか?」
「……恭也さまにはないんでしょうね」
ため息をつく従者のマサキとともに、その後をおいかけていった恭也が見たものは!?



※これまでのお話はコチラから



5 逃げ足の速い子猫ちゃん

家々の屋根を飛びうつり、ときには壁を蹴って移動しながら、おれとマサキは、少女のあとを追いかける。
崩壊しかかっている家に被害を与えないようにすることが、少々骨がおれるが。
「な、なに!?」
「だれだ!」
あり得ない場所を通ってくる人影を、住人たちは驚いた顔で見あげているが、瞬時に飛びうつっていくすがたがおれたちだとは、ばれていないようだ。
少女は、おれたちが追っていることに気づくと、ギョッとした顔をし、さらに速度をあげた。
猛然と、といってよい速さだ。彼女の身体能力は、かなりのものだ。
「どうして、彼女は逃げるんだろうか」
「追いかけるからじゃないですか」
おれの質問に、息も乱さずならんで走るマサキが、冷めた口調でこたえる。
10分ほどの追いかけっこのあと、スラム街のとある路地裏で、少女の足がやっと止まった。
どんなに逃げつづけても、おれたちがあきらめないと悟ったらしい。
おれたちも止まると、少女は息をぜえぜえ切らしている。
おれとマサキは、少し汗はかいたが、息はまったく切らしていない。
このぐらいなら、師匠の訓練に比べれば、準備運動のようなものだ。
「はあはあ……おまえら、なにもんだ。はあぁ……あんたらも、こいつが目当てなのかっ!」
少女は荒い息のあいまに叫び、提げていたアタッシェケースをその胸にしっかりとかかえる。
「あんな非常識なやつらといっしょにされるのは、心外だな」
おれは、かるく肩をすくめる。
……なぜか、横からマサキの冷たい目線が送られてきているが。
「あたしの仕事を邪魔するなら、いっしょだ!」
少女は、追いつめられた表情ながら、あきらめず、じりじりとあとずさる。
「子猫ちゃんに、危害を加える趣味はないんだけどなあ……と言っても、信用してもらえそうにないね」
「当然でしょうね。いきなり追われれば、警戒されても」
マサキの顔に、「もうあきらめて、ほうっておきましょう」と書いてある。
その選択肢は、もともとないから却下するとして……さて、どうしたものかな。
かなり警戒されてしまったが、追わないわけにもいかなかった。
いままで何度も、さっきのチンピラのようにアタッシェケースを狙うやつらに追われてきたのだろう。
いずれ悪党どもの手に落ちるであろう子猫ちゃんを、見過ごすような罪は犯せない。
ひとまず、アタッシェケースの中身に、興味が湧くわけだが。
「余裕ぶりやがって!」
少女がポケットから、なにかをとりだすのが見える。
すぐさま、マサキが一歩前に出て、おれをかばう体勢をとる。
  パンッ!
少女が、とりだしたなにかを地面にたたきつける。
すると、はじける音がして、あっという間に、煙があたりにたちこめる。
煙幕か。
おれとマサキが、煙が晴れるのを待っていると、少女のすがたはなかった。
ふむ、不意を打った、いい煙幕の使いかただった。
スカウトしたいぐらいだが、おそらく彼女は……。
「ご無事ですね」
念のためだろう、マサキが確認してくる。
「ああ、問題ないよ。子猫ちゃんには、逃げられてしまったけどね」
少女が逃げただろう方角に、おれは目をむける。
「追いますか?」
「いや。……ツバキ」
おれが名を呼ぶと、瞬時に、目の前にツバキがひざをついた姿勢で現れる。
「はっ。ご用でしょうか、恭也様」
ツバキが、すがたを見せずに近くにひかえていることには、当然気づいていた。
護衛であるマサキとちがい、ツバキはおれが呼ばなければ、主が危険であっても、すがたを現すことはない。
そういう訓練を、徹底されている。
「さっきの少女のあとをつけて、潜伏先を見つけてきてくれるかい。もし、また彼女が襲われることがあれば、それと気づかれないように助けてあげてほしい」
おれは、ツバキに命じる。
「わかりました」
ツバキは短く返事をすると、すぐにすがたを消す。
一瞬、マサキに目をくれて笑った気がしたが、気のせいではなかったらしい。マサキが、あからさまに不満げな顔をしている。
「……自分でも事足りました」
マサキが、不服そうにつげる。
「従者が、主のそばをかんたんに離れるものじゃないよ。それに、向き不向きというものがあるからね。もどって、のんびり、いい連絡を待つとしようか」
おれは言うと、スラム街から大通りの喧騒のある街中にもどるために、歩きだした。


6 好奇心は止められない

夜の10時過ぎのことだ。
屋敷の執務室で、マサキがいれた紅茶を飲んでいると、
「失礼いたします」
ひかえめな声がしてから、ツバキが、すがたを現した。
「どうだった?」
おれは、すぐにツバキに尋ねる。
ツバキがもどったということは、少女の追跡を終えたのだろう。
「はっ。潜伏場所をつき止めました。かなり警戒して、攪乱の移動をくりかえしていたため、遅くなり、申しわけありません」
「かまわないよ。それで場所は?」
「北の街はずれにある、使われていない民家です」
街の外には出なかったというわけか。
だが、拠点にするには、心もとない。
仮宿のようなものだろう。
「なるほどな……このあたりに、きちんとした拠点がないということは、別の土地からきた者か」
流れ者か。
どこかへいく途中なのか。
どちらにせよ、あの子が大事そうにかかえていたアタッシェケースが、その鍵なのだろうな。
「それで、あいつはどこの何者なんだ?」
マサキが、ツバキにきく。
「おまえにこたえてやる義理はない」
ツバキが、いま存在に気づいたというふうな顔で、マサキを見る。
「なにを!」
マサキが表情をけわしくして、ツバキをにらみつける。
またこの2人は……。
顔を合わせば角つきあわせるというのは、ある意味では、ものすごく仲がいいのかもしれない。
が、まったく話が進まない。
「おれもききたいところだな、ツバキ。調べはすんでいるんだろう?」
ツバキにむけて言うと、2人はすぐさまおれのほうにむきなおり、姿勢を正す。
「はい、調査済みです。少女の正体ですが……」
「最近、話題になっている、『裏の運び屋』ゲパール――だったんじゃないか?」
おれが、1秒早く、指摘する。
「! そのとおりです。恭也様は、すでにご存じだったのですね」
ツバキが、驚いた表情になる。
「ただの推測だよ。あの少女は、アタッシェケースを守っていた。それに、あれだけの逃げ足や、煙幕を張るタイミングなどから、素人ではない。『運び屋』だと考えるのが自然だ。それだけの腕を持つ運び屋で、しかも年端のいかない少女……といえば、最近話題になっているゲパールが第一に思いうかぶ」
「ご慧眼です。恭也様へはよけいなことかもしれませんが、このまぬけもおりますので……念のため、運び屋ゲパールについて、あらためてご説明させていただきます」
「ああ、たのむよ」
まぬけと呼ばれたマサキが、小さく舌打ちするのを無視して、おれは、ツバキにうなずきかける。
「まず、『運び屋』についてですが、おもに表に出せないものを運ぶさいに使われる、裏の運送業者と考えていただいてまちがいありません。運ぶものは、封書1つから、トラック1台分の荷物まで、さまざまです。いまは流通が発達し、運び屋をあきなう者は減りましたが、それでも入国がむずかしい場所や、流通が滞っているような地域にも届けるので、一部の人間には重宝されているようです」
合法だろうが、非合法だろうが。どんな品物だろうが。
手段を問わず、内容を問わず受けつけるからこそ「裏の運び屋」というわけか。
それなら、たしかにこの時代でも存在価値がある。
「ゲパールですが、2年ほど前から個人で活動をはじめ、身体能力の高さで、着実に仕事をこなし、信用を得てきました。ただし、ゲパールの正体が年若い少女であることも知られており、依頼人が侮り、報酬を支払わないなどの裏切り行為もあったようです」
「少女が1人で仕事をしているとなれば、舐めてかかる依頼人もいるだろうな」
法の保護が受けられる、表の世界ではない。
相手に契約を守らせるだけの実力がなければ、生きてはいけないのが、こちら側のルールだ。
「だが、彼女が仕事をつづけているということは……どうにかなってきたということか?」
マサキが、ツバキにたずねる。
「まあ、そうだな」
ツバキは、そっけなくマサキにこたえてから、おれにむきなおる。
「依頼人が裏切るような真似をした場合は、報復があったようです。その報復は、少女1人でおこなえるようなものではなかったと――つまり、何者かのうしろ盾を得ている、と考えるべきでしょう」
「なるほどな。それで、今回の彼女の仕事が、あのアタッシェケースというわけか。ケースを狙っていた人間や、依頼人については、なにかわかったかい?」
おれは、ツバキにたずねる。
「いいえ。そこまでは、まだつかめていません」
ツバキは、申しわけなさそうにこたえる。
「仕事が遅いんじゃないのか?」
マサキが、ジロリとツバキを見る。
「うるさい。恭也様のまわりをただうろうろしているだけのおまえには、言われたくない」
ツバキが冷ややかに言いかえす。
「ツバキ、おまえとは一度、決着をつける必要がありそうだな」
マサキが、ツバキのほうに一歩出て、牙をむくような表情になる。
「のぞむところだ」
ツバキも、応じてかまえをとる。
……まったく、この2人は。
「仲がいいのはわかるが、これからひと仕事だというのに、じゃれ合ってケガでもされたら困るな」
「「こいつと仲良くなどありません!!」」
マサキとツバキの声が、完全にそろう。
ほらね。
仲がいいだろう?
「……恭也様、ひと仕事、とは。予定はなかったはずですが」
マサキは、おれの言葉に怪訝な顔をする。
ツバキも、きいていないという表情だ。
「いま、予定ができたんだよ? ――新進気鋭の裏の運び屋ゲパールに託された、謎のアタッシェケース。ね? なかなか興味深いじゃないか」
「恭也様、もしや……」
マサキは、いやな予感がしたというように、表情をくもらせる。
残念だが、あたりだな。
「――これから、ゲパールのかくれ家にむかう」
おれの宣言に、マサキとツバキは「やっぱりか」という顔になって、そろってため息をついた。



7 世界が彼女を見捨てても

ツバキの案内で、おれとマサキは夜の街を進んでいく。
「こちらです」
ツバキが、このあたりでは高めの4階の建物の屋上に、おれたちを連れてくる。
「ありがとう、ご苦労だったね」
おれが言うと、ツバキは一礼して、すがたを消す。
どこかで身をひそめているのだろう。
「本当に首をつっこむおつもりですか? アタッシェケースの中身が、価値のあるものかどうかも、わかりませんが」
となりに立つマサキが、念を押してくる。
「価値なんか、かまわないさ。ここまで関わったのに、興味を止められるわけないだろう?」
「恭也様の好奇心の旺盛さは、いまにはじまったことじゃないですが……」
マサキも、説得できるとは思っていなかったのか、あきらめ顔だ。
ツバキも、無表情ながら困惑が隠せていなかったしな。
先代のファンタジスタ――師匠は、あらゆる仕事で、緻密な計画を立て、実行にうつしていた。
師匠の時代から配下をつとめるマサキとツバキは、思いつきで動くおれのやりかたに、まだ慣れないらしい。
いずれ、慣れてもらわなければ困る。
……だが、2人の当惑する顔もわるくないから、もうしばらくは、このままでいいだろう。
「しかし、少女1人を捕まえるのにこれだけとは、すごいな……」
おれは、目の前の光景を見ながら呟く。
屋上から50メートルほど離れた先に、一軒の民家がある。
かなり古い民家だ。ボロボロ、と言ってもいい。
この場所では、それ自体、めずらしくもない。
が、問題は、そのまわりだ。
いかにも荒くれ者といった男たちが、30人ほどで、その民家をとりかこんでいる。
どの家に、ゲパールがひそんでいるか、見ればわかるほどだ。
これだけの人数が集まれば、さわぎになりそうなものだが、街の人間は関わり合いにならないようにか、夏だというのに扉を閉ざしている。
冷たいようだが、彼らにとっては自分たち家族の命を守るための行動だから、責めることはできない。
まして、狙われているゲパールは、この街とも縁のない人間だ。
助けの手をさしのべるほうが、おかしい。
……おれのように。
「人数だけ集めた、烏合の衆です」
マサキは、冷ややかにチンピラたちを見下ろしている。
「だとしても、数は力さ。やっかいではある」
「……これから、どうされるのですか?」
マサキは、心配そうにきいてくる。
「とりあえずは様子見だな」
おれのこたえに、マサキは意外そうな顔をする。
「なんだ? おれがすぐに飛びだしていくとでも、思ったか?」
「いいえ……。いや、そのとおりです」
マサキが、否定しかけてから、認める。
ふだんのおれの行動を考えれば、そう思われてもしかたがない。
助けるというなら、早いほうがいい。
が、見ておきたいことがあった。
「ちょうどいいだろう? 運び屋ゲパールの実力を見きわめるのには」
「この場面をどうにかできるほどの実力は、ないかと思われますが」
「それもふくめてさ」
この状況で、どう動く人間なのか。
それを知っておきたい。
話していると、さきほどの少女、ゲパールが、かくれていた家の屋根に飛びだしてくるのが見えた。
手には、例のアタッシェケースを持っている。
「自分から出てきたな」
「狙撃しようとする者があれば、いまだ、と言っているようなものです」
マサキは、辛口な評価だ。
「そうでもないさ。あのまま閉じこもっていても袋のネズミになるだけで、逆転の目は100%ない。しかし、外に出れば、わずかでも可能性が生まれる。それに日も落ちてきているし、狙撃はそうそうないだろう。腕の良いスナイパーを雇えるのなら、あんなチンピラを最初から使うはずもない」
そこまで判断できているかどうかはともかく、多勢の前にあきらめたり、みずから動く判断もできないよりは、だいぶいい。
「それでも、彼女の実力では、突破はむずかしいと思います」
「だろうね。でも、あきらめないところが気に入った」
おれはこたえながら、その場でかるく体をほぐす。
「いくのですか?」
「アタッシェケースを奪われるのは困るからな。それにゲパールの判断がわるくないこともわかった。おもしろそうな娘じゃないか」
おれはニヤリと笑う。
「……わかりました。おともします」
マサキは、止めるのをあきらめた表情で、おれの横に立つ。
「じゃあ、いこうか!」
おれは叫ぶと、マサキとともに、屋上を飛び降りた。



第3回へ続く(6月6日公開予定)

【6月14日発売!】つばさ発の単行本「角川つばさBOOKS」、『怪盗ファンタジスタ』、乞うご期待!

 


作:秋木 真 絵:丹地 陽子

定価
1,430円(本体1,300円+税)
発売日
サイズ
四六判
ISBN
9784041136386

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