日常の“こまった”は、全部「魔物」のせい!?
「銭天堂」「十年屋」「魔女犬ボンボン」シリーズなどでおなじみの廣嶋玲子がおくる、新しい魔法のものがたり!
『おっちょこ魔女先生 保健室は魔法がいっぱい!』第1章を公開中です!
花丸小学校に、新しい保健室の先生がやってきました。小柄で、若くて、かわいらしいえくぼを持った先生です。
その名は乙千代子。
子供達は、すぐにこの先生のことが好きになりました。
乙先生には、子供みたいなところがありました。話しやすくて、子供達よりちょっと年上のお姉さんというのがぴったり。この人になら、何か悩みを打ち明けても大丈夫。そんな気持ちになれる相手なのです。
でも、少しドジなところもありました。薬や絆創膏の場所を年がら年中忘れるし、物をうっかり壊したり、コーヒーやお茶をこぼしたりすることもしょっちゅうです。かと思えば、ちゃっかり保健室のベッドで昼寝をしていたりするのです。
いつしか、花丸小学校の子供達はおっちょこちょいの先生、おっちょこ先生と呼ぶようになりました。
でも、このおっちょこ先生にはじつは、とても大きな秘密があったのです。
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「あちっ!」
給食のお味噌汁をすすったとたん、いさなは小さく叫んでしまいました。
「ああ、もう! またやっちゃった!」
この頃、やたら熱いものが苦手になってしまったのです。前は熱々のラーメンだって、がつがつ食べられたのに。
「気をつけてたのになぁ。ててて。舌を火傷しちゃったかな?」
もう一度、お味噌汁をじっくり見てみました。そんなに湯気も出ていないし、熱々には見えません。他のクラスメート達をこっそり見まわしましたが、みんな、平気で飲んでいます。
「うーん。やっぱりあたしだけかぁ。……いてて」
五年生にもなって、舌を火傷するなんてと、いさなはちょっと落ちこみました。舌の先がぴりぴりとして、残りの給食も急においしく感じられなくなりました。せっかく大好物のプリンを最後までとっておいたのに。
こんなことなら最初に食べておけばよかったと後悔しながら、いさなはもそもそと給食をたいらげました。
そのまま昼休みとなりましたが、火傷の痛みはしつこくて、気に障ってたまりません。
「ああもう! もう我慢できない!」
いさなは保健室に行くことにしました。保健室の先生、おっちょこ先生にキャンディをもらおうと思ったのです。
おっちょこ先生は、けっこう子供を甘やかしてくれる先生でした。それに、いつも白衣のポケットにおいしいキャンディを入れていて、なにかというと、それをくれるのです。これがまたとびきりおいしいキャンディで、食べると痛みがやわらいだり、気分がよくなったりするのです。
元気が良くて暴れまわっているいさなは、よく怪我もするので、保健室の常連です。今日も、勝手知ったるなんとやらで、さっさと保健室のドアを開きました。
「こんちはー! おっちょこ先生、いますかー?」
返事はなし。先生の姿も見当たりません。でも、いさなは慌てませんでした。おっちょこ先生のことはよく知っています。こういう時はきっと、奥にあるベッドで寝ているに違いないのです。
案の定、ベッドはカーテンで囲まれ、中が見えないようになっていました。
「もう! おっちょこ先生、起きてよ。怪我人だよ! 手当てしてよ」
文句を言いながら、いさなはばっとカーテンを開きました。
「えっ?」
いさなは目を見はりました。
ベッドにはおっちょこ先生の姿はなく、かわりにポケットの中に入ってしまうような小さな金茶色のハムスターがいたのです。しかも、そのハムスターはおたおたと頭をかきむしり、人間の声でぴーぴー叫んでいました。
「ああ、うそ! うそでしょ? こんなはずじゃなかったのに! なんで、自分に魔法がかかっちゃうの? だめだめ! 落ち着いて! 大丈夫よ、千代子。大丈夫。あなたは一人前の魔女なんだから。とにかく師匠に知られなければ大丈夫。ばれる前に魔法を解いて、もとの姿に……って、この姿でどうやってロッカーとか開ければいいのよー!」
こちらに気づいた様子もなく叫び続けるハムスター。
この声、この言葉遣い、なによりこの慌てぶり。
いさなはようやく我に返り、そっと声をかけました。
「お、おっちょこ先生? 乙千代子先生?」
「なんですか? わたし、今、忙しいんですけど! んげっ!」
ようやくいさなに気づいたのか、ハムスターはぎくりと固まりました。そのまん丸に見開いた目に、いさなはうなずきました。
「やっぱり、おっちょこ先生なんだ」
「ち、違います。わたしはハムスターです!」
「ハムスターはしゃべったりしないよ、おっちょこ先生」
「ち、違いますって」
これはまずいと思ったのか、ハムスターはぱっと逃げだそうとしました。でも、運動神経抜群のいさなが逃がすはずもありません。あっという間に捕まえました。
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