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【第1章ためし読み】廣嶋玲子『おっちょこ魔女先生 保健室は魔法がいっぱい!』

「ちょ! こら、放しなさい! あ、違う。今のはなしなし! なんにも言っていませんよ、わたしは。ただのハムスターでーす!」

「もうごまかすのは無理(むり)があるってば、おっちょこ先生」

いさなはあきれながら言いました。

「つまり、おっちょこ先生は魔女で、間違って自分に魔法をかけて、ハムスターになっちゃったわけだ」

「な、なんでわたしが魔女だと!」

「だって、さっき自分でぺらぺらしゃべっていたでしょ? あれで、だいたいのことはわかるって」

「うう……」

頭をかかえるハムスター。

もう逃げないだろうと思ったいさなは、ハムスターをベッドの上に下ろしてあげました。

「ほんとにおっちょこ先生なんだ。……変(へん)な先生だとは思ってたけど、まさか魔女だったとは思わなかったなあ」

「ええ、ええ、そうですよ! わたしは乙(おつ)千(ち)代(よ)子(こ)で、魔(ま)女(じょ)ですよ!」

開き直ったかのように、ついにハムスターは認(みと)めました。

「魔女なのに、どうして保(ほ)健(けん)室(しつ)の先生なんてやってるの?」

「あら、けっこう多いんですよ。学校の保健室って、色々な子がやってくるでしょ? 怪我(けが)人や病人だけじゃなくて、悩(なや)みがある子、寂(さび)しい子とかが。いい魔女はそういう子(こ)供(ども)達(たち)を癒(い)やすのが仕事だから、保健室の先生はうってつけなんです」

「じゃあ、おっちょこ先生の前にいた大(おお)岩(いわ)先生も?」

「あの人もそう。というか大魔女で、わたしの師(し)匠(しょう)でもあるんです。……怒(おこ)ると、すっごく怖(こわ)いんですよ」

おっちょこ先生は大(おお)岩(いわ)先生のことが相当怖いようで、ぶるぶると震(ふる)え出しました。

「そうかなぁ? 大(おお)岩(いわ)先生って、すごく優しそうに見えたけど」

「あんなの、見せかけです! 本当はほんとにほんとに怖いんだから! あれ? というか、松(まつ)谷(たに)さん、どうしてここに? 見たところ、怪我はしてないようだけど、お腹(なか)とか頭とか痛(いた)いんですか?」

「……今(いま)頃(ごろ)、それに気づくなんて、やっぱりおっちょこ先生だ」

いさなは苦(にが)笑(わら)いしながら、舌を火傷したんだと話しました。

「ああ、舌の火傷って、けっこうぴりぴりしますよね。そこの机(つくえ)のびんの中に、いつものキャンディが入っていますよ」

「ありがと」

いさなはさっそくキャンディをつまみとり、口の中に放りこみました。なんともいえない甘(あま)みが広がり、舌の痛みがどんどんうすれていきます。

「そっか。おっちょこ先生が魔女ってことは、このキャンディも魔(ま)法(ほう)の薬ってことだよね?」

「そのとおり。ちょっとだけ回(かい)復(ふく)魔法がこめてあります」

「なるほどね。だから、食べると気分がよくなったり、痛みがひいたりするんだ。……もしかして、これ、先生が作ってるの?」

「当(とう)然(ぜん)です。回復キャンディ作りは、魔女学校で最(さい)初(しょ)に習うことですからね。効(き)き目抜(ばつ)群(ぐん)のキャンディをおいしく作れることは、一人前の魔女のあかしなんですよ」

 むふんと、自(じ)慢(まん)そうに鼻息をつくおっちょこ先生。まるで自分をほめてと言っているかのようです。

キャンディをなめながら、いさなはおっちょこ先生に聞きました。

「じゃ、先生は一人前の立(りっ)派(ぱ)な魔女ってことだよね?」

「もちろんです」

「その立派な魔女が、どうして、ハムスターになっちゃったの?」

「う……」

 たちまちおっちょこ先生は弱気な顔になりました。もじもじと両手をもみながら、小さな声で言いました。

「それがその、暇(ひま)だったから、変(へん)身(しん)魔法の練習をしようと思って。そこの枕(まくら)をハムスターにしてみようとしたんです。でも、どういうわけか、魔法がはねかえってきて、わたしに当たっちゃったんです」

「自分で元には戻(もど)れないの?」

いさなの言葉に、ハムスターはイライラした様子で耳をかきました。

「それができたら、とっくのとうにやってますよ」

「あ、そっか」

「自分にかけた変身魔法は、自分ではとけないんです。魔法の基(き)本(ほん)第十一条(じょう)にも書いてある常識ですよ」

「いや、あたし、そんな常識知らないし」

「ああ、大(だい)失(しっ)敗(ぱい)ですよ。魔法に失敗したあげく、子供に正体を知られるなんて、師匠にばれたら……だいたい、昼間の学校では魔法は使っちゃいけないことになってるし。うー、どうしようどうしよう」

めそめそしているハムスターに、いさなは冷(れい)静(せい)にアドバイスをしました。

「しょうがないと思うよ。さっさと大(おお)岩(いわ)先生に謝(あやま)って、魔法を解(と)いてもらったほうがいいって。師匠ってことは、先生よりすごい魔女なんでしょ? 大岩先生なら、元通りにできるんでしょ?」

「できるでしょうね。ちょちょいのちょいと魔法を解いて、その後、地(じ)獄(ごく)の悪(あく)魔(ま)みたいにわたしのことをしかるに決まっていますよ。ああ、やだやだー! それだけはほんとにかんべんですよー!」

「しかられるのがいやって、そんな子(こ)供(ども)みたいなこと言ってちゃだめだよ」

「そんなことが言えるのは、師(し)匠(しょう)の怖(こわ)さを知らないからですよ! もし今回のことがばれたら、きっとタワシの刑(けい)を受けます。タワシに変(か)えられて、一日中鍋(なべ)の底(そこ)をこするのに使われるんです。いや、もしかしたら、ほうきの刑かも。でも、なにより最悪なのはぞうきんの刑ですよ! 汚(きたな)い床(ゆか)やトイレそうじに使われるぞうきんにされるんですよ? こんな恐ろしい罰(ばつ)、他(ほか)にないでしょう?」

「た、確(たし)かに、それはおっかないね」

「……こうなったら、最後の手(しゅ)段(だん)です」

きりっと、おっちょこ先生はいさなを見つめてきました。見た目はかわいいハムスターなのに、なんだか鬼(き)気(き)迫(せま)るような迫(はく)力(りょく)が漂(ただよ)いだしていました。

「松(まつ)谷(たに)いさなさん、あなたにわたしの魔法を解いてくれるよう、依(い)頼(らい)します」

 


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