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第6回 「わたしがさくらの弁護士になるッ!」/『ともだち弁護士リッカ』ためし読み


角川つばさ文庫小説賞《金賞》受賞作の意欲作★
『ともだち弁護士リッカ 転校生は正義のミカタ!?』が、もうすぐ発売! 
発売前にドドンと【ためし読み】しちゃおう!


わたし、六法律花の夢はカッコイイ弁護士になることっ! 1年生にまちがえられちゃう「おちび」な6年生だけど、ナカミには法律とあきらめないココロがつまってる。転校した学校でおこる事件だって、絶対見のがさない! 「呪いの手紙事件」に、「宿題の神様事件」。犯人だと疑われてる子たち、ホントにそうなのか!? モヤモヤしているのにだまっているのは、もうイヤなんだ。真相をあきらかにするため、やろうよ、「おたすけ裁判」! もちろんわたしが、こまってる子の弁護士になるから――!



『ともだち弁護士リッカ 転校生は正義のミカタ!?』
(夢乃ひいろ・作 霧海ななせ・絵)
4月8日発売予定!





 【6】 わたしがさくらの弁護士になるッ!

「さくら! ここにいたのか」

 図工室のドアをあけたとき、わたしは心底ホッとした。

 だって、このままいなくなって、二度と学校に来てくれないんじゃないかって思ったから。

 ───芽々(めめ)みたいに。

 さくらは作業台にすわって、さなぎのお腹に顔を近づけ、ちょっとずつボンドをつけている。

 肩をたたこうとしたら、「木の枝にくっつけたら助かるから」と小さく言った。

「さくらは……犯人じゃないよな。美咲の手紙をやぶって捨てたり、みんなに呪いの手紙を送ったり、黒板に落書きしたり、していない。そうだな?」

 さくらは静かにうなずいて、虫かごのふたをしめた。

「あたし、なにもしてない。……桜の花びらを集めてたのも、ただキレイだなって思ったから。でも、だれも信じてくれない」

「わたしは信じるぞ、さくら!」

 背伸びして、すわっているさくらをそっとだきしめたら、ふるえているのが伝わってきた。

 さくらの涙が、ポタポタとわたしの肩に落ちる。

 美咲たちは決めつけていたけど、やっぱりさくらはなにもしてない。

 遠足にうらみをもつ犯人が他にいる。それを、みんなにわかってもらわなくちゃ。

「そうだ!」

 さくらの両肩をガッとつかみ、前のめりになる。

「わたしが、さくらの弁護士になるよ! それで、無実を証明する。真犯人も見つけてみせる!」

「え……? でもあたし……」

 さくらの涙がとまり、なにかを言いかけた。

「だいじょうぶ。ぜんぶ、まかせて!」

 ドンとこぶしで胸をたたき、わたしはさっそうと図工室をでる。

 待っててね、さくら! 

 さくらの無実、絶対はらすから!


 ビュンビュン走って家に帰り、本棚から本をひっぱりだす。

 選んだのはズバリ、『大切な人を守る! サイキョー弁護術』。

 こまったときは、法律にたよれ! さくらを助けるヒントが見つかるかも。

 本に夢中になってたらスマホが鳴った。出張中のママからだ!

『リッカ〜♡ 元気?』

 画面のなかで、パジャマ姿のママが手をふる。

 時差があるから、今ニューヨークは真夜中。

『新しい学校はどう? 友達できた? 給食おいしい? ちゃんと勉強してる?』

 まったくママは。

 わたしはもう赤ちゃんじゃないぞ。

「案ずるな。すべて順調だ。でも、ひとつだけ……」

 わたしはママに、さくらのこと、呪いの手紙事件のことを話した。

『なるほど。なかなかむずかしそうな事件ね……』

「それでね、わたし、さくらの弁護士になろうと思うんだ。さくらは犯人じゃない。だから、わたしが真犯人を見つけて謝ってもらう!」

 意気込んでそう言ったら、ママは画面のむこうで首をふった。

『リッカ、ちょっと、かんちがいしてるわ』

「かんちがい?」

『弁護士の仕事ってね、犯人を見つけたり、法律をかざしてだれかを責めたりすることじゃないの。目の前の人を大切にすること、守ることなの。自分の気持ちがうまく言えない依頼人のそばに立って、「この人の話をちゃんと聞いてください!」って、裁判官に伝えるのが仕事なのよ』

 目の前の人を、大切にする? 守る?

「それって……依頼人の、一番のミカタになるってこと……?」

『そう。友達を弁護して無実を証明したいなら、まずは、その子の気持ちと、どうしたいのかを聞いてごらん。そして友達が気持ちを伝えるって決めたなら、あなたがそれを助けるの。言葉と法律の力をかりて』

 ドキッとした。

 わたし─さくらの話、ちゃんと聞こうとしたか?

『正義感は諸刃の剣よ、リッカ。使い方をまちがえると、かえって人を傷つけることもある。でもね、一人一人を大切にする強くて優しい心と正義感が合体したら、だれかを守る盾にもなる』

 ママは自分の心臓にこぶしをあて、想いをとどけるように画面越しにのばした。

『そのことをわすれずに─リッカが「正しい」と思うことをしなさい。「おかしい」と思うことには声をあげなさい。だれにでも、その権利があるんだから』



 頭のなかにかかっていたモヤモヤが、パーッと晴れていく。

「りっちゃーん。そろそろ図書館、行かんでよかと?」

 そのとき、エプロン姿のおばあちゃんが呼びにきた。

 わすれてた! 

 今日は本の返却日だった。

「ママ、感謝するッ!」

 急いで電話を切り、ベッドからとびおきる。

 ママがくれた言葉で体中が燃えていた。

 もう、まよわない。

 わたしがこれからなにをすればいいか、ぜんぶわかったから! 


              ☆☆☆


 バーン!

 勢いよく玄関をでたら、なぜか、そこに岸本静流(きしもとしずる)がいた。

「ちょうどよかった。これ、六法(むつのり)さん家のネコだろ? うちに来てたよ」

「キャロット!?」

「ふにゃあ〜」

 のどをゴロゴロ鳴らしているキャロットを受けとり、ふと、おとなりの表札を見ると─

    『岸本』

 ……? え? 

「えええ──っ!?」

「あぁ、気づいてなかった?」

 ウソウソウソー! となりの家に、クラスの男子が住んでる!?

 待って、いったん落ち着こう。

 キャロットを家にもどし、スーハーと深呼吸して、ふたたび玄関をでた……んだけど。

「なぜまだいるんだ、岸本静流ーッ」

 しかもバッグを持って、おでかけの準備バッチリじゃないか。

「おれ、これからスポーツショップ行くから」

 図書館と、お、同じ方向だ……。

 ううう、男子と二人で歩くなんて、なんかドキドキするぞ。

 ええい! 心みだれているのをさとられたくない。ここは、堂々とふるまう!


 なんとなく連れだって歩いていたら、風にのって桜の花びらがとんできた。

「どこも満開だな」

 岸本静流が、服についた桜の花びらを指でつまんで、まじまじと見つめた。

 桜を見ると、どうしても今朝の「呪いの手紙事件」のことを思い出してしまう。

 ため息をついたら、岸本静流が「今日の事件のことなんだけどさ」と切りだした。

「晴海さんってさ、学校の花壇に毎日水やりしてるんだよね……。そういう人が、桜の花びらをあんなふうにばらまくって、ちょっと考えられなくて」

 風が吹き、岸本静流の髪がふわりとゆれた。

「おれは、犯人は晴海さんじゃないと思う」

 ───さくらを信じてるの、わたしだけじゃなかった!

「もちろん、さくらは無実だ! 犯人は他にいる!」

 さけんだとたん、赤信号で足がとまって、岸本静流がわたしを見た。

「そっか、六法さんもそう思ってるんだ。うーん、こういうとき大人だったら、どうやって『無実だ』ってみんなにわかってもらうんだ?」 

 大人だったら……。

 弁護士に相談したり、警察に捜査してもらったり、できることはきっと色々ある。

 でも岸本静流は子ども。しかも、わたしは転校生。

 教室で、いくら「さくらは無実だ!」ってさけんでも、一度作られてしまった「犯人=晴海さくら」っていう空気はかんたんには変えられない。

 かといって、このままだまっていたら、さくらは本当に犯人にされてしまう。

 それだけは、絶対ダメ! 

 だから───。

「裁判だよ、岸本静流! 裁判だ!」

「裁判?」

「そう! 関係する人たちの話を聞いて、証拠を見て、なにが正しいか、だれが罪をおかしたのかを裁判ではっきりさせる!」

 いいアイデア、と思ったんだけど、岸本静流は眉をひそめた。

「それって、一方的にだれかを裁くってこと? おれはイヤだな。イジメみたいでこわい」

 そっか……やり方によっては、そんな雰囲気になるかもしれない。それはわたしも絶対イヤ。

 だったら……!

「『おたすけ裁判』はどうだ!? だれかを責めるためじゃない、だれかを守るための裁判だ。さくらみたいに、自分の気持ちをうまく言えない人の代わりに、弁護士が声をとどけるんだ」

 いつのまにか、にぎっていたこぶしのなかが汗でぬれていた。

「『おたすけ裁判』か。だったらいいかもな。でも、だれが晴海さんを弁護するんだ?」

「わたし。わたしが、さくらの弁護士になる」

「六法さんが? そんなことできるの?」

「わかんない。わかんないけど、このままだまってるのはイヤなんだ!」

 めいっぱいの声をはりあげると、岸本静流はおどろいたように目を見張って、ふっと、おかしそうに少し笑った。

「六法さんって転校生なのに、すごいな」

「転校生かどうかは関係ないよ。わたしは、わたしにできる方法で友達を守りたいだけ」

「……なら、おれも手伝う。本当のことがわからないのに、だれかが一方的に責められてるのは許せないから」

 信号が青に変わる瞬間、わたしたちの視線がガッチリとまじわった。 


              ☆☆☆


 つぎの日の昼休み。

 わたしとさくら、そして岸本静流は、だれもいない図工室に集合した。

 さくらの無実を証明するための『おたすけ裁判』は、来週の金曜日。

 宮部先生にたのみこんで、学活の時間をもらえることになった。(先生はめちゃくちゃ反対してたけど、進行役の『裁判官』は先生がやる、って条件でなんとか許してくれた)

 美咲たちにも『おたすけ裁判』の話をした。

 恵麻と雪子は「もう晴海さんで犯人は決まりだよ? 話し合う必要ないし」とあきれていたけど、美咲は「おもしろそう! だったらあたし、呪いの手紙事件の容疑者として晴海さんを訴える!」と、はりきってる。

 絶対に、さくらの無実を証明しなきゃ!

 でも───。

「『おたすけ裁判』!? そんなのしなくていいよ〜。あたし目立つのイヤだし……山城さんたち、こわいし。リッカちゃんと岸本くんが信じてくれただけで、じゅうぶんだよ」

 かんじんのさくらに、『おたすけ裁判』をやる気が……ない!?

「だけど、さくら! そんなこと言ってたら、ほんとに犯人にされるぞ!? やってないのに、罪をおかしたことにされることを『冤罪』っていうんだ。勝手に決めつけられるなんて、それでいいわけないだろ!」 

 わたしが『ミニ六法』をふりまわしながら言うと、さくらはゆっくり首をふった。

「あたしが犯人ってことでおさまるなら、それでもいいよ。どうせ、なにを言っても聞いてもらえない。あたし、全然うまく話せないし。だから、しかたがないよ」

「さくら……」

 自分の気持ちや意見を伝えて笑われる。

 ばかにされる。変わり者だと思われる。

 その恐怖は、わたしだってよーく知ってる。

 だけど……。

 そのとき、わたしたちの様子を見ていた岸本静流が口をはさんだ。

「疑われてる晴海さん本人がやりたくないなら、しかたないんじゃないか? 六法さんの気持ちはわかるけど、みんながみんな、同じことを『正しい』と思うわけじゃないからな」

 さくらが、うなずく。

「うん。あのね、あたし、正しいとか正しくないとかよりも、目立たないでいたい」

「それなら、さくらはなにもしなくていい! わたしが代わりにさくらの無実を訴えるから!」

 さくらは目を丸くしながら、首をふる。

「リッカちゃん、ほんとにありがと。でもいいの。もう、そっとしておいてほしい」

 そう言って、図工室からでていってしまった。


 ───「おかしい」と思うことには声をあげなさい。

 ママはそう言ってたけど、ぜんぜんうまくいかないよ。

 ここはさくらの気持ちを大事にして、ほうっておくべき? 

 でも、それじゃあ、さくらは疑われたまま……。やっぱりそれはダメ!

「弁護士もなかなか大変だな」

 岸本静流が、うーんと伸びをしながら言った。

「おれは、晴海さんの気持ちもわかる。みんなの前で自分の意見を言うのって、そこそこ勇気がいるからさ。ぶっちゃけ、だまってるのが一番楽だし」

 わたしは両手をぎゅっとにぎりしめた。

「そんなの……わかってるよ。でも、わたしは過去のあやまちを繰り返したくないんだ」

 思わず言い返したら、岸本静流の動きがとまった。

 ゆっくりとわたしのほうに体を向ける。

「……過去の、あやまち?」

 そう。

だれにも言えなかった過去だけど、岸本静流になら話してもだいじょうぶな気がした。

「前の学校で、芽々(めめ)が……わたしの親友でゆいいつの友達が、あることを疑われてクラスのみんなから責められたんだ。ちょうど今のさくらみたいに」

 岸本静流の真剣な目にうながされ、わたしの口は自然に言葉をつむぐ。

「そのあとイジメっぽい雰囲気になって……芽々は、学校に来られなくなった。わたし、芽々のぜんぶをあきらめたようなまなざしが忘れられない。……ずっと後悔してる」

 だまって聞いていた岸本静流が、口をひらいた。

「でもそれ、六法さんは悪くないじゃん」

「ううん。わたし、芽々がされたことも、どんな気持ちでガマンしていたかも知ってたのに声をだせなかった。わたしはちっぽけで弱虫だったんだ。─でも、今ならわかる。みんなに笑われても、ばかにされても、声をあげるべきだった。芽々のとなりに立って戦うべきだった。勇気をださなきゃいけなかったんだよ!」

 だから……。

「わたしは、もう、だまらないんだ」

 気づいたら、岸本静流にむかってそう宣言していた。

「え?」

「さくらにその気がなくても、わたしは戦う。さくらが冤罪(えんざい)を受けいれたら、きっともっと孤立して、もっと苦しくなる。学校に来られなくなるかもしれない。そんなの、絶対にまちがってる。わたしは、さくらを守る。無実を証明する。友達として! 弁護士として!」

『ミニ六法』を手にそう言い切ったら、ちょっとすっきりした。

「友達で、弁護士か。六法さんらしいな」

 岸本静流がニヤッと笑う。

「ま、おれもできることはするからなにかあれば言って……ってそろそろ行かないとヤバいな」

 キーンコーンカーンコーン……。

 岸本静流が立ちあがったとたん、鐘が鳴りはじめた。

「行こう! 小走りな」

 大きな背中を追いかけていく。

 少なくともわたしには、心強い味方が一人いる。

 ママ、これでまちがってないよね? 

 冤罪(えんざい)を見て見ぬふりなんてしない。絶対に、さくらを守るよ!


****

友達を守るために走りだした、リッカと岸本静流!
いったいつづきはどうなるの?
学校で「裁判」なんて……できるのかな?
はたしてリッカは、さくらの無実をはらせるの――!?
(ドキドキ!)

つづきはぜひ、
4月8日(水)発売予定の
『ともだち弁護士リッカ 転校生は正義のミカタ!?』をチェックしてね!


書籍情報


作: 夢乃 ひいろ 絵: 霧海 ななせ

定価
858円(本体780円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046323897

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