9 燃えあがるのは……?
片づけを終えるころには、外はすっかり暗くなっていた。
なんだかんだと手伝ってくれていた水夏たちにも、先に帰ってもらった。
いまの季節は、暗くなるのも早いからね。
「アスカたちも、そろそろ帰っていいよ。戸じまりは、ぼくたちでしておくから」
理央先輩に言われて、体育館を見まわすと、残っているのは怪盗部の3人と、わたしとケイだけだった。
「えっ、でも……」
「アスカ。いこう」
迷っているわたしに、ケイが視線でうながしてくる。
理央先輩たちの様子を見て、わたしはやっと気づく。
そっか。
怪盗部の3人で残って、話したいことがあるのかも。
「じゃあ、お言葉にあまえて。お先に失礼します!」
「失礼します」
わたしたちはバッグを持ちあげると、体育館を出る。
いつも人の声のあふれている学園の校舎も、この時間はしずまりかえっている。
でも、さびしさはなかった。
クリスマス会の楽しさの余韻が、心にまだ残っているからかも。
昇降口でくつにはき替えて、ケイとならんで校舎を出た。そのとたん、
「わっ、さむっ!」
頬を刺すような冷たい空気に、おもわず身をちぢこまらせる。
マフラーをしっかり巻きなおして、よし、少しでも体が温まるように、ランニングのペースで家をめざそうよ――って言おうと、ケイにむかってふりむいた、そのとき。
「……?」
ケイは、片手に持ったスマホの画面を見つめながら、けわしい顔で立ちすくんでいた。
そのようすに、わたしの警戒モードが、瞬時にスイッチオン!
「なにがあったの?」
わたしは、少し声をひそめて、たずねる。
まわりに人かげは見えないけど、念のためだ。
「――いま、ラドロから送られてきた。つい数分前の画像だ」
ケイはそう言って、スマホの画面をこちらにむけてくる。
「――――!」
そこに映しだされているのは、動画だった。
炎に吞まれて燃えあがる、洋館風のお屋敷。
窓から赤い炎が噴きだし、夜空をまがまがしい色に照らしている。
黒煙が広がって――屋敷全体が崩れ落ちていくように見えた。
「花里家が管理する、屋敷だそうだ」
「えっ!?」
これが、花里家のお屋敷!?
「琴音さんはっ!? だいじょうぶなの!?」
おもわず声が大きくなる。
でも、かまっていられない。
「この屋敷にいま、花里家の人間はいなかったそうだ。使用人や管理人は、炎上がひどくなる前に脱出して、軽傷ですんだらしい」
その言葉に、ほっと息をつく。
そっか、花里家くらいなら「お屋敷」といっても、たくさん持っていそうだもんね。
「でも、なんで花里家のお屋敷が……?」
火の不始末?
それにしては、燃え方が大きすぎる。
なにか、すごく可燃性の高いものに引火したとか。
複数の場所から、同時に燃えたとか。
そんなことでもないと、こんなに大きなお屋敷全体が炎に包まれるほどになるとは、思えない。
「屋敷が炎上する前に、爆発があったそうだ。それも複数回」
「爆発って……まさか!」
わたしの頭の中で、やっとつながった。
ラドロのビルと同じように、爆弾がしかけられた?
だとしたら、これは……っ!
「――ああ。日本国内で、タキオンと敵対している最大の勢力は、ラドロ、そして花里家だ」
ケイの言葉が、わたしが思いうかんだことを読みとったように、教えてくれる。
「じゃあ――! またブラック・タキオンのしわざってこと!?」
「この場で断定はできない。帰ったらすぐ情報収集をはじめる」
ケイははっきりとは言わなかった。
けど、ほぼ確信しているみたいだった。
そうだよね、こんなことがつづいて、偶然のわけがない!
家に帰ると、ケイは、わたしたち共有の部屋に飛びこんでいった。
猛スピードで、パソコンを動かしてる。
わたしはケイの邪魔をしないように、リビングで、うずくまる。
落ちつかない気持ちをそらそうと、テレビをつけると、夕方のニュース番組が流れた。
『ただいま入ったニュースです。花里グループで有名な花里家が所有する屋敷が、炎上中とのことです。動画を入手しましたので、ご覧ください』
男性キャスターが読みあげると、画面が切り替わる。
さっき見た洋館だ。
スマホで撮ったのか、縦長の画面で画質は荒い。
それでも、火の勢いはさらにはげしく、燃え盛っている様子がしっかり伝わる。
『ケガ人などの情報はまだ入っていません。花里家当主の花里源一郎氏、孫の琴音氏の安全は確認できているとのことです。なお、火災の原因については警察と消防が調査中です』
画面がスタジオに切り替わった。
ラドロは、屋敷の管理者が軽傷を負ったという情報までつかんでいた。
マスコミより、くわしい情報を手に入れるルートがあるんだね。
わたしは、スマホを手にとる。
ニュース番組で報道されてた。
ってことは、わたしが花里家のお屋敷の炎上を知ってても、もうおかしくない。
トークアプリを開いて、七音と琴音さんにメッセージを送る。
七音は、琴音さんと知り合いらしいし、探偵だ。
なにか知っているかも。
琴音さんは……いまは、私のメールどころじゃないとは思うけど、送らずにはいられなかった。
ピコン
十分ぐらいして、スマホの通知がくる。
七音からだ。
『花里家の屋敷の火事については、まだわからない。調べているところ。でも琴音さんは無事』
簡潔なメッセージだし、それ以上の情報はなかった。
それでも、七音からも琴音さんの無事を知らせてもらえて、ほっとする。
なんでブラック・タキオンは――ニックは、花里家の屋敷を炎上させたんだろう?
ラドロの次は、花里家。
ケイも言っていたけど、たしかにタキオンに敵対する2つの勢力ではある。
ただ、この爆発や炎上の規模だと、ラドロも花里家も、すごい被害ってほどではない。
ラドロは、ケイにいち早く連絡できたていどには、活動できてる。
花里家だって、たくさんある屋敷の1つが炎上したからって、タキオンとの敵対をやめるなんて思えない。
当主であり、琴音さんの祖父の花里源一郎さんは、ずっとタキオンと敵対してきた。
いろんな事件に巻きこまれることもあったけど、それでも折れたりしなかった。
きっと、今回だって、方針を変えるとは思えないよ。
ということは……?
ケイが言うとおり、「べつの目的がある」のだとして。
それって、なんなんだろう。
ニックは、なにを考えてるの?
わたしは、次のニュースに切りかわった番組をききながしながら、言い知れぬ不安に自分の腕をギュッとつかんだ。
このつづきは2/11(水)発売の『怪盗レッド29 怪盗と探偵と泥棒の合同作戦⁉の巻』で読んでね。
いよいよ盛りあがるのは、このあと! 響も、ファンタジスタもさらに活躍するから、ぜひお楽しみに!
書誌情報
- 【定価】
- 858円(本体780円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046323903
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