1 変化の予感と、わるい予感?
「うぅ……けっこう寒くなってきたなぁ」
わたしは冷たい風に身をすくめてコートのえりを寄せながら、校門をくぐった。
吐く息が白いし、足音は、校門の石畳に乾いた音を立ててる。
12月に入ってから、春が丘学園も、いつもよりざわつきが大きくなった気がするなあ。
この時期の学校って、いろいろなことが入れ替わるよね。
まず3年生は、進路のことがあるし。
受験をするなら、勉強だってある。
夏休みの終わりに部長が代わらなかった部活は、このタイミングで交代するし。
生徒会長選も秋にあったし。
学校の中の環境が、どんどん入れ替わっていく予感が、ひしひしと感じられちゃう時期なんだ。
それに、なんたって、高等部の3年生の先輩たちが!
全員が、この春が丘学園からいなくなっちゃうんだよ!!
その中には、あの、理央先輩や、怪盗部の先輩たちもいる。
……怪盗部、どうなるのかな?
はじめて知ったときはドキドキしたけど。
部がなくなっちゃうっていうのは、ちょっと……。
けど、理央先輩のあとを継げるような子なんて、そうそういなそうだもんね。
しょうがないのかなあ……。
そんなことを考えながら、とぼとぼと校舎のろう下を歩いていると、目の前のほうから、実咲と詩織先輩がならんで歩いてくるのが見えた。
2人は、なにか真剣に話しこんでるみたいで、わたしには気づいてない。
「おはようございますっ!」
わたしは、詩織先輩にむかって、笑顔で声をあげる。
つづけて「おはよ、実咲」と、実咲にもあいさつする。
「おはよう、アスカ。いま登校?」
「そうだよ。2人とも早いんだね。生徒会の仕事?」
「そう。また、いそがしくなりそうよ」
詩織先輩はそう言いながらも、どこかうれしそうだ。
いそがしいくらいが、好きなのかも。
「そういえば、また『詩織会長』、ですね、おめでとうございます!」
そうなんだ。
秋の生徒会長選で、詩織先輩は、高等部の生徒会長に選ばれていた。
ほかの立候補者を、圧倒するほどの得票数だったんだって!
さすが中等部で「アイスクイーン」なんて呼ばれてた、詩織会長だよね。
「ありがとう。……でも、あなたにその名を呼ばれると、中等部時代を思いだして、不吉な気分になるわね」
と、詩織会長。
「えええっ、なんでですか!」
わたしには、すご――――く、いい思い出だよ!?
そ、そりゃ、顔をあわせるたびに、詩織会長から、なにか注意されていたような気が……しなくもないけど……さ。
「ふふっ、冗談よ、アスカ。これからもよろしくね」
詩織会長は、クールに言う。
「もうっ」
わたしは、ほおをふくらませて見せたあと、詩織会長と目を合わせて笑いあう。
冷静沈着でまじめな「アイスクイーン」だって思ってる人も多いけど。
本当は、けっこうお茶目なところもあるのが、詩織会長のすてきなところなんだよね!
「あの、ところで2人は、なにを話してたんですか?」
この2人の組み合わせは、ちょっとめずらしいよね。
学年がちがうし、実咲は中等部で、先輩は高等部だし。
「いま、『先輩』からアドバイスを受けていたのよ」
詩織会長が、そう言いながら、実咲に目をやる。
んんっ?
詩織会長が、実咲のことを「先輩」と呼ぶって……???
「ちょ! 先輩だなんて、冗談はやめてくださいっ!」
実咲があわてたように、両手をふっている。
わたしが、首をひねっていると、詩織会長がおもしろそうに説明してくれる。
「ほら、氷室さんは、1年生のうちから生徒会長になったでしょう。でも、私は中等部では、2年生からだったから」
「なるほどー?」
それで「先輩」か。
たしかにそうとも言えるけど、もちろん冗談だよね?
……でも、まじめな詩織会長だから、そうとも言い切れないのがこわい。
「ちょっと、『なるほどー?』じゃないから、アスカ! ……いまはおたがいに、中等部と高等部の生徒会にいるでしょ。だから改めて、連携できることはしていきましょうって、話をさせてもらってたの!」
そうそう。
実咲も、秋の選挙戦でしっかり選ばれて、生徒会長の2期目に突入している。
この2人が、それぞれ「生徒会長」として、こうしてならんでいる。
たのもしいなあ。
だって、だれよりも学校のことを考えてる人たちだって、わたしは知ってるから。
「どうしたの、アスカ。ニヤニヤして」
「わたしのよく知ってる2人が、生徒会長としてならんでるのが、うれしいなーって」
わたしが答えると、実咲と詩織会長が、あきれたような顔を見あわせてる。
あれ? わたし、なんか変なこと言った?
「わたしと詩織先輩をつないでくれたのは、アスカでしょ。そうじゃなければ、生徒会長っていう立場同士でしか、知り合えてなかったよ」
実咲が、あきれたという顔をしている。
「そうね。プライベートで話すようになったのは、紅月さんがきっかけよ。あなたって、よく人と人を出会わせるから」
詩織会長は、わたしに目をやって、ほほ笑む。
「ええっ? そうだっけ?」
記憶は、おぼろげにあるけどさ。
自分がきっかけだったのかは、ぜんぜん覚えてない。
この2人を引きあわせようっ! なんて、思ったことはないはずだ。
「アスカらしいなあ」
「そうね。紅月さんは、変わらないわね」
2人から、同時に納得されてしまう。
む? ほめられてるん……だよね?
ちょっと釈然としない気もするけど、そう思っておこう。