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ものがたり

心がザワザワする、こわさと面白さ!【どこよりも早く読めちゃう!】『呪ワレタ少年』先行ためし読み連載 第1回


つばさ文庫の大人気シリーズ「恐怖コレクター」の作者による、こわくて面白い新作「呪ワレタ少年」を、どこよりも早くためし読みできちゃうよ!
心の準備ができたら、スクロールしてね!


ケース1 廃病院の足音

 ある晴れた日。
 とある町の道路に、ひとりの少年が立っていた。
 少年は、耳にイヤホンをしている。
 彼の前には横断歩道があり、そばには一組の親子が信号が変わるのを待っていた。
 少年は、そんな彼らの姿をなぜかじっと見ていた。
 そのとき、少年が持っていた銀色のペンが、わずかに
震えた。
 途端に険しい表情になると、少年はペンを手の平に置
く。
 すると、ペンがわずかに宙に浮いた。 
 ペンはまるで意思を持っているかのように、ゆっくりと回転する。
 やがて、その動きが止まった。

 ペン先が、ある方向を差し示す。

 少年は、その方向を見つめると小さく息を吐き、耳からイヤホンを外した。
 信号が、青に変わる。
 そばにいた家族の声が聞こえてくる。
「お家に帰ってケーキを食べましょうね、健太(けんた)」
「うん。ママ! 大好き~!」
 母親と男の子が、笑顔で歩いて行く。
 少年は、彼らの後ろ姿を見つめる。
 その顔は、どこか寂しそうだ。
 やがて、少年は彼らから目を反らすように動かすと、誰に言うでもなく呟いた。
「……行くしかないんだ」
 少年は、ゆっくりと道路を歩き始めた。

「へえ、そんな噂はじめて聞いたよ~」
 ある日の放課後。
 中学1年生の田村由紀奈(たむらゆきな)が帰り支度をしていると、クラスメイトで親友の木村千夏(きむらちなつ)の声が聞こえてきた。
 見ると、千夏はクラスメイトの原京子(はらきょうこ)と喋っているようだ。
「ねえねえ、何の話をしてるの?」
 由紀奈は、噂と聞いて興味を持ち、二人のもとへ行った。
 すると、千夏が答えた。

『呪われた少年』の話だよ」

「呪われた少年?」
 そんな噂、聞いたことがない。
 由紀奈がそう思っていると、千夏のとなりにいた京子が喋った。
「高校生のお姉ちゃんから聞いたんだけど、
その少年は白い服を着てて、左目だけが赤色なんだって
「目の色が違うって、オッドアイってこと? なんか素敵だね。だけど、その子のどこか呪われた少年なの?」
 由紀奈の言葉に、京子は急に険しい表情になった。

「その少年の名前を言うと、呪われちゃうらしいの」

「えっ」
 それを聞き、由紀奈は思わずゾッとする。
 そんな由紀奈に、千夏がふと、紙きれを見せた。
 紙切れには、名前が書かれている。
 由紀奈は、何気なくその名前を呟いた。

「■■■■■」

「ひっ」
 瞬間、京子が声をあげた。
「由紀奈ちゃん、言っちゃだめだよ!」
 千夏があわてて注意する。
「え? あっ!」
 由紀奈は、千夏に言われ、紙切れに書かれていたのが『呪われた少年』の名前だと気づいた。
「まさか名前を言っちゃうなんて」
 京子は恐怖で震えている。
「京子ちゃん……」
 由紀奈も恐ろしくなる。
「だ、だけど、どうして名前を書いた紙なんか?」
口に出して言わなかったら大丈夫らしくて、それで京子ちゃんに書いてもらったの」
「だったら先に教えてよ!」
「言おうと思ったんだけど、由紀奈ちゃんが先に口に出して言っちゃうから」
「それは……」
 悪いのは、由紀奈だ。
 由紀奈は不安になってしまう。
 だが、千夏がニッコリと笑った。
「大丈夫だよ。こんなのただの噂だから」
 千夏は、怖い話が大好きだったが、現実に呪われた少年がいるとも、怪物がいるとも思っていなかった。
「だけど」
「も~、由紀奈ちゃんはほんと怖がりだよねえ。京子ちゃんもそんなに心配しないで」
「わ、分かってるけど……」
「怪物なんていないって。もしいるなら、私も見てみたいよ」
 千夏は由紀奈を見ながら楽しげに笑う。
 
 そのとき、教室のドアが突然開いた。

「きゃああ!」
 いちばん大きな声をあげたのは、京子だ。
 由紀奈と千夏も顔を強張らせる。

「あなたたち、早く帰りなさい」

「えっ?」
 ドアの前に立っていたのは、担任の坂口先生だ。
「ええっと……」
 どうやら、由紀奈たちが教室に残っていることに気づき、注意をしに来たようだ。
「なんだ、先生かぁ」
 由紀奈がホッとしていると、京子が自分の通学バッグを手に取った。
「私、帰る。怖い思いするの嫌だもん!」
「あ、京子ちゃん!」
 京子は、逃げるように足早に教室を出て行ってしまった。

「京子ちゃん、ちょっと怖がりすぎだよね」
 帰り道。
 由紀奈は千夏と一緒に道路を歩いていた。
 千夏は、先ほどの出来事を話していた。
「まあ、先生がタイミングよすぎたから、私もびっくりしたけど」
 千夏は笑うが、由紀奈は笑えなかった。
(ほんとに呪われたらどうしよう)
 千夏は単なる噂だと言ったが、怖い話が苦手な由紀奈にはそう思えなかった。
(どうして名前を言っちゃったんだろう……)
 言わなければ、こんな不安な気持ちにならずにすんだはずだ。
(早くお家に帰りたいよ)
 由紀奈は怯えながら、何気なく前方を見た。
 前方から、白い服を着た少年が歩いて来る。
 少年は、由紀奈の横を通り過ぎて行った。
「えっ」
 由紀奈は彼の顔を見て、なぜかその場に立ち止まった。
「どうしたの、由紀奈ちゃん?」

「今の子……、左目が赤色だった」

「まさか、呪われた少年?」
 千夏はあわてて後ろを見るが、少年はすでに角を曲がった後だった。
「ああん、も~」
 千夏は、角のほうへと走る。
 由紀奈もついて行く。
 しかし、道路を曲がった先を見ても、少年の姿はなかった。
 由紀奈は恐怖を感じる。
「もしかして、私が名前を言ったから、現れたのかも」
 少年が現れたということは、呪われてしまったということかもしれない。
「どうしよう」
「だから、ただの噂だってば~」
 怯える由紀奈に、千夏は呆れ顔になった。

「おお、二人ともどうしたんだ?」

 ふと、反対の曲がり角から、クラスメイトの里山洋介(さとやまようすけ)がやって来た。
「あれ? どうしてここにいるの?」
 千夏は不思議そうに洋介を見る。
 洋介は、駅の向こうにある住宅地に住んでいて、この辺りの道路は通らないはずなのだ。
「誰かの家に遊びに行くの?」
「遊びというか確認かな」
「確認?」
 千夏の言葉に、洋介はにやりと笑った。

「これから、廃病院に肝試しに行こうと思ってるんだ」

「ええ?」
 それを聞き、由紀奈は戸惑う。
 由紀奈たちが住んでいる住宅地の外れに、10年以上前に潰れた病院がある。
 そこには、幽霊が出るという噂があった。
「肝試しって」
 由紀奈はたじろぐ。
 廃病院の周りは木々が生い茂り、人通りも少ない。
 今まで近づいたことさえなかった。
「ほらっ、俺って幽霊とか大好きだろ。さっき、廃病院に出るらしいって聞いたんだ。それで確かめてみたいって思って」
 クラスの男の子たちを誘ったが、みな、怖がって来てくれなかったのだという。
「僕もちょっと怖いけど、本当に見れたら自慢できるよね」
「自慢って、そんなの」
 由紀奈は「行かないほうがいい」と言おうとしたが、それよりも早く、千夏が手を挙げた。

「私たちも行ってみたいかも!」

「おお、いいね!」
「ちょっと、千夏ちゃん。てか、私たちって、私は行きたくないよ」
 由紀奈は、呪われた少年の名前を言ってしまった。
 そのせいで、呪われてしまったかもしれないのだ。
「ねえ、帰ろう
 由紀奈は一刻も早く家に帰りたい気持ちになった。
 だが、千夏は首を横に振ると、顔を近づけてきた。
「大丈夫だって。幽霊なんてほんとにいるわけないよ。だけど、肝試しって面白そうでしょ」
 千夏は、廃病院の中を探索することにワクワクしているようだ。
「さっき、呪われた少年を見れなかったから見てみたいの。まあ、呪われた少年に何となく似てるだけの男の子だったと思うけど」
「それは……」
 そう思えなかったが、由紀奈は上手く反論することができない。
 千夏はニコニコしながら、そんな由紀奈の腕をガッチリと掴んだ。
「さ、行きましょ!」
「え、あ、ちょっと」
 由紀奈は手を引っ張られ、半ば強引に廃病院に行くことになってしまった。

          ●

 その頃。
 ひとりの人物が、路地を歩いていた。
 由紀奈たちがすれ違った、あの少年だ。
 少年は耳にイヤホンをしている。
 そのとき、持っていた銀色のペンが震えた。
 立ち止まってペンを手の平に置くと、わずかに宙に浮いた。
 ペンは、まるで意思を持っているかのように、手の上でゆっくりと回転する。
 やがて動きが止まり、ペン先がある方向を差し示した。
「くっ」
 それを見て、少年の表情が曇る。
 しかしすぐに真剣な表情になった。
 少年は、耳からイヤホンを外した。
 そして、ペンが指し示す方向に歩き出した。



第2回へ続く(7月7日公開予定)

【8月5日発売!】大注目のこわくて面白い新シリーズ『呪ワレタ少年』、お楽しみに!


作:佐東 みどり 作:鶴田 法男 絵:なこ

定価
792円(本体720円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322401

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