
プププランドに、テレビ・プロデューサーのキザリオがやってきた!撮影するのは、カービィやワドルディ、おなじみプププランドの住民たちに、メタナイトまでまきこんだ、レース番組。優勝して、豪華(ごうか)賞品を手にするのは、いったいだれだ!?
◆第3回
優勝すれば、豪華(ごうか)賞品がもらえるというテレビ番組の大レース。
でも、そのウラには、テレビ・プロデューサーのキザリオのたくらみがあるみたい……?
プププランドの住民と、メタナイトたちもまきこんで、いよいよレースが始まります!
☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・
レース、スタート!!
☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・
数日後の朝、テレビ・スタッフと撮影機材をのせた宇宙船がプププランドに到着した。
カービィやワドルディら、プププランドの住民たちは、宇宙船を遠巻きにして見守っていた。
バーニンレオが、興奮(こうふん)してさけんだ。
「うぉー、ワクワクしてきた! オレ、ぜったい優勝してやるからな!」
それをきっかけに、住民たちがさわぎ出した。
「ぼく、負けないよー!」
「オイラ、テレビに映るなんて初めてだ。緊張(きんちょう)しちゃう!」
「レースの前に、理髪店(りはつてん)に行こうっと!」
宇宙船からぞろぞろと降りてきたスタッフは、全員、「コメットテレビ」という文字の入ったおそろいのシャツを着ている。
キザリオが、両手を広げて彼らに駆けよった。
「やあ、よく来てくれたね、優秀なスタッフ諸君!」
「キザリオぼっちゃまぁ……」
スタッフの一人が、うんざり顔で文句を言った。
「いったい、どういうことなんです? いきなりオレたちを呼びつけるなんて……」
「だまれ!」
キザリオはあわてて止め、小声でしかりつけた。
「ここでは、ぼっちゃまなんて言うな! キザPと呼べ!」
「きざぴー? なんすか、そりゃ」
「キザリオ・プロデューサーの略だ。いいな、よけいなことは言わずに、ボクの言うことを聞くんだぞ」
「はいはい。しかし、いいんですか? 勝手にこんなテレビ番組を企画したりして、社長に知れたら……」
「うるさい! いいんだ、ボクの言うとおりにしろ!」
キザリオは、スタッフたちからはなれて、プププランドの住民たちの前に進み出た。
「これから、スタッフたちがレースコースの設営(せつえい)を行う。スタートは明日の朝だ。集合場所は、デデデ山のふもとの広場。レース出場者は、おくれないように集合すること!」
これを聞いて、プププランドの住民たちは目をまるくした。
「明日? ずいぶん急だなあ」
「ぼく、まだトレーニングが終わってないのに……」
「テレビ番組って、もっと時間をかけて準備するものじゃないの?」
「うるさい。これがボクのやり方なんだ。テレビは、スピードが命だからな!」
キザリオは、住民たちをにらみつけた。
「くわしいルールは、明日、発表する。優勝者には、豪華(ごうか)な賞品が出るぞ。諸君(しょくん)、がんばってくれたまえ!」
キザリオの強引な態度(たいど)にカチンときていた住民たちだが、豪華(ごうか)賞品と聞けば、じっとしてはいられない。
たちまち、みんな歓声(かんせい)を上げた。
「よぉし、がんばるぞ!」
「賞品はもらったー!」
「参加賞もあるといいなあ……」
キザリオは、大さわぎの住民たちに背を向け、ふたたびスタッフたちの元に駆けもどった。
スタッフたちは、カメラやマイクなどの機材を運び出している。彼らに向けて、キザリオは小声で命じた。
「コースは、プププランドじゅうを駆けめぐるように設定するんだぞ。すみからすみまで、見落としのないように!」
「ぼっちゃ……じゃなくて、キザP。プププランドって、めちゃくちゃ広いんですよ。ろくに下調べもしないで、レースを開催(かいさい)するなんて、むちゃ……」
「むちゃでもいいんだ! ボクの言うとおりにしろ!」
キザリオは、また、かんしゃくを起こした。
スタッフたちは、キザリオの気まぐれとかんしゃくには、なれている。みんな、ため息をついて、それぞれの持ち場についた。
☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・
翌朝──。
デデデ山のふもとの広場に、プププランドの住民たちが顔をそろえた。
住民たちを取り巻くように、テレビカメラが何台も設置され、スタッフがスタンバイしている。住民たちはみんな、カメラを意識して、大張り切りだった。
バーニンレオは、ポッポッと火の玉をはき出して、準備たいそうをしている。キャピィは、
ぼうしをはずして、ピカピカにみがいている。カプセルJ2は、カメラの前を行ったり来たりして、目立とうとしている。
そこへ、ウォーキーの声がひびきわたった。
「おはようございます! いよいよ、お待ちかねの特別番組『プププランド☆ときめき☆はちゃめちゃ☆大レース』の始まりで〜す! 実況はオレ……じゃなくてワタクシ、ウォーキー! 解説は、全宇宙のあこがれ、ナンバーワンヒーロー、メタナイトさんです!」
「……よろしく」
メタナイトは、不服(ふふく)そうな声で答えた。
「メタナイトさん、さっそくですが、本日のレースの見どころを教えてください」
「ふむ……私にはよくわからない。みんな、がんばってほしい」
「優勝の候補は、ずばり、だれだと思いますか!?」
「さあな。だれでもいい」
「なるほど、ためになる解説でした! ありがとうございました! それでは、レース参加者にインタビューをしてみましょう。まずは……あ、あそこで準備たいそうをしているカービィ選手に話を聞いてみたいと思います!」
ウォーキーは、カービィに近づいていった。
「カービィ選手、調子はどうですか? きのうはよく眠れましたか?」
「ううん、ぜんぜん! 興奮(こうふん)しちゃって、一秒も眠れなかったんだ」
カービィは、元気よく答えた。ウォーキーは「おお……」と、深刻そうな声を出した。
「さすがのカービィ選手も、レースのプレッシャーに耐えられなかったのですね。体調が心配です」
「だいじょーぶ! ぐっすり眠ったみたいに、元気だよ!」
「一睡(いっすい)もできなかったのに?」
「うん。気がついたら、いつもみたいに布団をけとばしてるし、まくらも投げ飛ばしてるし、目覚まし時計もこわれてた。ふしぎだね。そんなことをした覚え、ぜんぜんないのに!」
「なんと、ふしぎですね。どういうことでしょう、解説のメタナイトさん?」
「……それはたぶん、ぜんぜん眠れないという夢を見ていただけだろう」
「なるほど! メタナイトさんのするどい分析でした。さて、次はだれに話を……」
ウォーキーがきょろきょろと見回しているところへ、近づいてきた影がある。
デデデ大王だった。愛用のハンマーを片手に、堂々としている。いつもより肌がピカピカしているのは、おそらく、昨日たっぷりおふろでみがいたのだろう。
「何をしてる、ウォーキー。オレ様に話を聞かなきゃ始まらんだろう」
「あ……えっと……そうですね。デデデ大王選手、調子はいかがですか?」
「いいに決まっとる! オレ様の辞書に、絶好調以外の言葉はないわい!」
「それは……不良品の辞書なのでは……いえ、なんでもありません。デデデ大王選手、今日のレースのいちばんの強敵は、ずばり、だれですか?」
「フン。オレ様に、敵などおらん。みんな、ザコばかりでつまらんわい」
「すごい自信ですね。さすがはデデデ大王選手……」
「待て。デデデ大王の好きにはさせん!」
とつぜん、不敵(ふてき)な声がひびきわたった。
ウォーキーはサッと振り返って、「おお!」と声を上げた。
「これは、おどろきました! メタナイツのみなさんです!」
あらわれたのは、アックスナイト、トライデントナイト、ジャベリンナイト、メイスナイト。
さすがは、メタナイトの部下たち。のんきなプププランドの住民たちに比べると、圧倒的(あっとうてき)に強そうで、迫力(はくりょく)がある。
デデデ大王が言った。
「おまえたちもレースに出るのか? さては、テレビに映りたいんだな?」
「はっ! オレたちは、ほこり高きメタナイツ。おまえといっしょにするな」
アックスナイトが、オノをかまえて答えた。
「テレビに映りたいなんて、これっぽっちも思ってないさ! しかし、これもメタナイツとしての大事な務めなんだ」
「おまえのようなヤツが、ズルをするかもしれないからな。オレたちは、不正をゆるさない。レースが公正にとり行われるよう、しっかり見張りに来てやったんだ」
「故郷(こきょう)のかあさんに見てほしいなんて、これっぽっちも思ってないダス。ただ、メタナイツとしての使命を果たしにきたダス!」
「見ててください、メタナイト様! オレたち、がんばりますよ!」
メタナイツたちは、テレビカメラを意識して、ガッツポーズを作った。
「……うむ。まあ、せいいっぱいやれ」
メタナイトはしぶしぶ、部下たちを激励(げきれい)した。
ウォーキーは、興奮(こうふん)のあまり、声をふるわせて言った。
「さすがは、メタナイトさんの部下ですね! たのもしい限りです! さて、スタートの時間が近づいてきました。ここで、プロデューサーのキザリオさんから、開会のあいさつをしてもらいましょう!」
住民たちがワッと声を上げて手をたたく中、キザリオが進み出た。彼もやはり、いつもよりももっとキラキラで、ゴテゴテした服に身をつつんでいた。
キザリオは歓声(かんせい)を受けて片手を上げると、気取った声で言った。
「レディース・アンド・ジェントルメン! お待たせしたね。いよいよ、プププランド……えー……なんだっけ……しっちゃかめっちゃか大レースの始まりだ!」
「『プププランド☆ときめき☆はちゃめちゃ☆大レース』です」
ウォーキーがあわてて訂正した。キザリオは平然として、うなずいた。
「そうだっけ。ま、名前なんて、どうでもいいのさ。だいじなのは、レースの中身だ。これから、レースのルールを説明する」
レースの参加者たちは、シーンとなってキザリオの言葉に耳をかたむけた。
「選手諸君は、まず、スタッフが用意した迷路をとおり抜けて、第一チェックポイントに向かってくれ。チェックポイントには、さまざまな乗り物が用意してある」
「乗り物? どういう乗り物ですか?」
ウォーキーがたずねると、キザリオはもったいぶって答えた。
「わが優秀なスタッフが準備した、高性能なマシンばかりさ。期待していてくれ。チェックポイントに到着した者から、早い者順で好きなマシンを選ぶことができる。マシンの選択はだいじだから、みんな、がんばってくれ」
参加者たちは、顔を見合わせて、ざわめいた。
「乗り物なんて、オレ、操縦(そうじゅう)したことないぞ」
「オレもだ。だいじょうぶかな?」
キザリオは、声を張り上げて、続けた。
「マシンの操縦(そうじゅう)は、コツさえつかめば、初心者でも問題ない。安心してくれ。選手諸君はマシンに乗って、いよいよ本格的なレースに挑むんだ。スタッフの指示にしたがって、コースを進んでくれ。とちゅうには、『恐怖の激辛グルメ・チャレンジ』『いやしのミュージック・チャレンジ』『みわくのスイーツ・チャレンジ』……など、さまざまな関門が用意されている。すべてのチャレンジをクリアしないと、優勝できないぞ」
参加者たちは、また、ザワザワ。
「むずかしそうだな」
「ただ走ればいいんじゃないのか」
「なんだか、めんどくさいなー」
「静かに! すべてのチャレンジをクリアした勇者には、最後の難関が待ち受けている。これが、いちばん重要だ」
「最後の難関って、何ですか?」
「それは、後のお楽しみに取っておこう。キミたちが最終ポイントにたどりついたとき、教えてあげるよ」
「えー? もったいぶらないで、教えてよ!」
カービィがせがんだが、キザリオは含み笑いをして、首を振った。
「クライマックスは、最後まで取っておくものさ。レースが盛り上がることまちがいなしのしかけだから、楽しみにしていてくれ」
「……ふーん?」
「そうそう、それと、もう一つ、だいじなことがある」
キザリオは、参加者たちの顔を見回した。
「諸君(しょくん)、レースのとちゅうで、何かおかしなことに気がついたら、すぐに近くのスタッフに知らせてくれ」
「おかしなことって?」
「それは、まあ、いろいろ……大きな物音が聞こえたとか、地響きを感じたとか……なんでもいいから、何かあったらスタッフに知らせること。レースを無事に進めるための注意だ」
キザリオは、それ以上いろいろ聞かれるのをさけるように、声を大きくした。
「では、いよいよ始めるぞ。健闘(けんとう)を祈る。選手諸君(しょくん)、位置について!」
みんな、あたふたとスタートラインに立った。
キザリオは大きなクラッカーを取り出すと、はなばなしく宣言した。
「それでは、用意……スタート!」
キザリオがクラッカーを鳴らすと同時に、参加者たちはいっせいにスタートを切った。
「うぉぉぉー!」
「どけどけー! オレ様が一位だわい!」
「負けないぞー!」
みんな、張り切って大声を上げている。
ウォーキーが、実況用の小型飛行マシンに飛び乗り、選手たちを追いかけた。メタナイトも、ウォーキーのとなりに軽やかに乗りこんだ。
「さあ、いよいよ始まりました、『プププランド☆ときめき☆はちゃめちゃ☆大レース』! 実況はウォーキー、解説はメタナイトさんでお送りします!」
「……うむ」
「さっそく、最初の関門、巨大迷路が見えてきました! 選手たちが次々に迷路に突入していきます! おっと、ここで先頭に立ったのはカービィ選手! さすがのスピードで、迷路にいちばん乗りです!」
「ぼくの勝ちだよ〜!」
勢いこんで迷路に駆けこんだカービィだが、すぐに、足が止まってしまった。
スピードとパワーはだれにも負けないけれど、ふくざつな迷路となると、話がちがう。
なにしろ、迷路は白いカベや鏡やガラスのカベで作られていて、目印になるものがまったくないのだ。カービィは、たちまち迷子になってしまった。
進んでも、進んでも、出口が見えない。それどころか、自分がどちらに向かって進んでいるのかもわからなくなってきた。
「あれー? ここ、さっきもとおったっけ……?」
きょろきょろとあたりを見回しているうちに、次々に選手たちが飛びこんでくる。けれど、みんな鏡やガラスの迷路にまどわされ、右往左往(うおうさおう)した。
どこからか、ワドルディのさけび声が聞こえてきた。
「カービィ! どこー?」
「あ、ワドルディ! ぼく、ここだよー!」
カベをつたいながら、声のするほうへ進んでみると、遠くにワドルディの姿が見えた。
「いたいた、ワドルディ〜!」
「カービィ!」
二人は両手を広げ、歓声(かんせい)を上げて駆けよろうとしたが──。
間をへだてているガラスのカベに気がつかなかった。
二人そろって、全速力でガラスのカベに激突。同時にひっくり返り、目を回してしまった。
ガラスのカベに悪戦苦闘(あくせんくとう)しているのは、カービィとワドルディだけではない。あっちでもこっちでも、カベや鏡にぶつかってひっくり返る者が続出している。
「痛ーい!」
「こんなところに透明(とうめい)なカベが……! くそー!」
迷路は、悲鳴のうず。
まっさきにかんしゃくを起こしたのは、もちろん、デデデ大王だった。
「ええい、うっとうしい! オレ様の行く手をふさぐとは、なまいきなカベだわい!」
デデデ大王はハンマーを振り上げると、目の前に立ちふさがっているガラスの壁を一撃で破壊した。
「ハハハ! これで、ゴールまで一直線だわい!」
デデデ大王はノシノシと歩いていき、行く手をふさぐカベや鏡をかたっぱしから打ちこわしていった。
大よろこびしたのは、選手たち。
「おお! さすがデデデ大王様!」
「これで、迷路も怖くないぞ!」
実況(じっきょう)用マシンに乗りこんで、迷路を見下ろしていたウォーキーが、うめき声をもらした。
「なんということでしょう! これでは、迷路の意味がありません。デデデ大王選手は、反則で失格ではないでしょうか、解説のメタナイトさん?」
「いや、迷路を破壊してはいけないというルールはない。どんな手段を使っても、ゴールにたどりつけば良いのだ」
「そうでしょうか……あの、先ほど、メタナイツのみなさんが、不正をゆるさないとか言っていましたが……」
ウォーキーは、じとっとした目でメタナイツたちを見た。
メタナイツたちは、デデデ大王を取りかこんで、大はしゃぎしている。
「いいぞ、デデデ大王! こっちのカベもこわせ!」
「そのハンマー、たまには役に立つダス〜!」
「手伝うぞ! オレのオノを受けてみろ!」
それぞれ、武器をかまえ、手当たりしだいにカベを破壊する始末。
メタナイトが言った。
「くり返して言うが、迷路を破壊してはいけないというルールはない。よって、私の部下たちはまちがっていないのだ」
「なるほど……それなら問題ありません。さあ、迷路の終点が見えてきました!」
こわされつくしたカベの向こうに、明るい光がさしている。
デデデ大王を先頭に、選手たちはそちらに向かって突進した。
「キャホホー! オレ様が優勝だわい!」
「いや、ここはまだ第一チェックポイントにすぎないぞ」
「本当の戦いは、これからだ〜!」
☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・
さて、そのころ、ごくごく平凡(へいぼん)なとある惑星の、ごくごく平凡なとある家庭では──。
「パパー。おもしろそうなテレビ番組やってるよ」
小さな男の子が、父親に話しかけていた。
ゴルフのクラブをみがいていた父親は、興味(きょうみ)なさそうに言った。
「テレビなんて見てないで、宿題をしなさい」
「宿題は、後でやるよ。それより、この番組、おもしろそうなんだ。プププランドで、レースをするんだって」
「テレビなんかより、宿題を……」
「プププランドの住民が勢ぞろい! 解説はあのメタナイト様! だって!」
「……なんだって? メタナイト?」
父親は、ゴルフクラブを置いて、顔を上げた。
「めずらしいなあ。メタナイトは全宇宙に知れ渡った剣士だが、目立つことがきらいで、あまり人前に出たがらないと聞いたんだが。まさか、テレビ出演なんて」
父親は新聞をガサゴソと開いて、首をひねった。
「あれ……? そんな番組、のってないなあ。特別りんじ番組なのかな?」
「もう放送が始まってるよ。おもしろいよ。いっしょに見ようよ!」
「うん。あのメタナイトが出るなら、見る価値がありそうだな」
父親と息子は、ならんでテレビの前に座った。
この家庭だけではない。
全宇宙の家で似たような会話がかわされ、コメットテレビの特別番組に注目が集まっていた。
☆゜・。。・゜゜・。。・゜☆゜・。。・゜゜・。。・
迷路を抜けた選手たちは、小高い丘の上にやってきた。
ここに、最新型のマシンが何台も並べられている。テレビ・スタッフが説明した。
「これらは、エアライドマシンと呼ばれる、レース用の超高性能マシンです。選手のみなさんは、一台ずつ、好きなマシンを選んでください」
どのエアライドマシンも手入れが行きとどき、まばゆいばかりに輝いていた。
バーニンレオやキャピィ、ミスター・フロスティにカプセルJ2ら、選手たちの目もかがやいた。
「うわあっ、みんなかっこいいなあ。迷っちゃうぜ!」
「どれにしようかなあ……」
迷う選手たちをどなりつけたのは、デデデ大王だった。
「待て待て、おまえら! 迷路をいちばんに抜けたのは、このオレ様だ。オレ様がいちばんに選ぶ権利がある!」
デデデ大王はハンマーを振り回して他の選手たちをしりぞけ、マシンをながめながら、ゆうゆうと歩き回った。
「フン……まあまあだな。オレ様にふさわしいエアライドマシンは、なかなかないわい……」
大王は、一台のマシンの前で足を止めた。
他のマシンにくらべて、ひときわ大きく、堂々としている。レックスウィリーという、バイク型のマシンだった。
大王は、ひと目で心をうばわれたらしい。しかし、みえっぱりなのですなおな感想を口にせず、もったいをつけた。
「フム……これがいいかな。オレ様にふさわしいとは言えないが、他のにくらべたら、マシだわい!」
大王がバイクにまたがったとたんに、バイクは勝手に走り出した。
「わ、わ、わ!? まだ、オレ様、何もしてないぞ〜!」
デデデ大王は悲鳴を上げたが、バイクは止まらない。
猛スピードで、丘を駆け下りていってしまった。
テレビのスタッフが説明した。
「初心者でも乗れるように、ここにあるエアライドマシンは全部、またがっただけで走り出す仕組みになってます。みなさんは、ハンドル操作(そうさ)に集中できます」
「だ、だいじょうぶかな……?」
選手たちは、みんな、おっかなびっくり。
でも、ここで、ためらってはいられない。それぞれ、お気に入りのマシンを選び出した。
「オレ、これにするぜ! 速そうで、かっこいいからな!」
バーニンレオが選んだマシンを見て、ウォーキーが言った。
「手元の資料によりますと、バーニンレオ選手が選んだのは……えーと……フォーミュラスター! スピードはトップクラス、超高性能なマシンです!」
「ははは! やっぱりな! オレ様にふさわしいぜ〜!」
バーニンレオがまたがると同時に、フォーミュラスターはうなりを上げて丘を駆け下りていった。
ウォーキーがどなった。
「でも、あつかいがむずかしいらしいです。カーブは苦手なので、曲がるときは十分、気をつけてー!」
「の、の、乗る前に言ってくれー!」
バーニンレオの悲鳴が小さく聞こえた。
フォーミュラスターは曲がり切れず、大木にぶつかってひっくり返った。
見守っていた選手たちは、すっかりおじけづいてしまった。
「オ、オレ、もっと操縦(そうじゅう)しやすいマシンがいいな……」
「オレは、これにしよっと!」
キャピィが飛び乗ったのは、銀色にかがやく美しいマシン。
ウォーキーが説明した。
「キャピィ選手が選んだのはジェットスター。地上ではあまり速くありませんが、空中での加速がすばらしいマシンです!」
その言葉どおり、キャピィを乗せたジェットスターは、たちまち空高く舞い上がっていった。
「いいなぁ……キャピィのやつ、いいマシンを選んだな!」
選手たちは、みんな、うらやましそうに空を見上げた。
しかし、空から降ってきたのは、なさけない悲鳴だった。
「や、やめてー! 助けてー! オ、オレ、高所恐怖症(きょうふしょう)なんだよー!」
みるみるうちに、ジェットスターは小さくなり、雲のかなたへ消えていった。
ウォーキーは実況を続けた。
「キャピィ選手、マシン選びに重大なミスがあったようです。健闘(けんとう)をいのりましょう。選手のみなさん、マシン選びは慎重(しんちょう)に!」
「オレは、これにする!」
一台のマシンに飛びついたのは、アックスナイト。
ウォーキーは、いそがしく資料をめくった。
「アックスナイト選手が選んだのは、デビルスター! 攻撃力が高く、他のマシンを破壊するのが得意ワザという、おそろしいマシンです。さすがはアックスナイト選手、攻撃的な戦法です!」
アックスナイトは、ニコニコしながらデビルスターに乗りこんだ。
「このマシン、形がメタナイト様のマントにちょっと似てて、かっこいいもんな〜」
「あ、待つダス、アックスナイト! ぬけがけは、ゆるさないダス!」
「オレも、そのマシンがいい!」
「オレも乗せろ〜!」
メイスナイト、ジャベリンナイト、それにトライデントナイトが同時に飛び乗った。
デビルスターは、ゆっくり動き出した。
アックスナイトは、文句を言った。
「おまえら、降りろ。これは、一人乗りだ」
「オレもこれがいいんだ。おまえが降りろ!」
「なんだと! 早い者勝ちだ!」
争うメタナイツたちを乗せて、デビルスターは丘を下りていく。爽快(そうかい)な走りとはほど遠く、プスプスとあやしげな音を立てながら。
ウォーキーが言った。
「どうやら重量オーバーのようです。メタナイツのみなさんは、はたして無事にゴールにたどりつけるのでしょうか?」
それから、選手たちは次々にマシンを選んで乗りこみ、丘を下っていった。
マシンはいずれも高性能だが、くせのあるものばかり。あちこちから、選手たちの悲鳴が聞こえてくる。
「さあ、盛り上がってまいりました。栄冠(えいかん)は、だれの手に?……おや、おくれてきた選手がいます。あれは……なんと、カービィ選手! 優勝候補の一人だったカービィ選手、まさかの出おくれです!」
カービィは、よろよろしながらチェックポイントにたどりついた。背中に、ワドルディをおんぶしている。
二人は、迷路のガラスのカベに激突して、しばらく目を回していた。カービィはなんとか正気に返ったが、ワドルディはまだバテバテ。しかたなく、カービィがせおってきたというわけだった。
「残っているマシンは二台です。カービィ選手、どちらを選ぶでしょうか?」
「うーん……」
カービィはワドルディを地面に下ろして、ならんでいるマシンを見比べた。
一つは、星のかたちをした、かわいらしいマシン。もう一つは、小型のスクーター型マシンだった。
「ぼく、こっちにする」
カービィが選んだのは、星のかたちのほう。
ウォーキーが言った。
「カービィ選手が選んだのは、エアライドマシンのワープスター。うーん……これといって特徴のない、ふつうのマシンです。見かけがあまり速そうじゃないので、だれも選ばなかったんですね」
カービィは、ワープスターに乗りこむ前に、ワドルディに声をかけた。
「ワドルディ……ねえ、だいじょうぶ?」
ワドルディは、ぐったりと目を閉じたまま、答えた。
「う……ん……カービィ、先に行って。ぼく、後から追いつくから」
「ほんと……? じゃあ、行くけど……ごめんね、ワドルディ」
「ううん! ここまで、おんぶしてくれて、ありがとう」
カービィは、心配そうにワドルディを振り返りながら、ワープスターに飛び乗った。
黄色い星のかたちをしたワープスターは、ふんわりと浮き上がると、ゆっくり動き出した。
ウォーキーが言った。
「やっぱり、加速性能はあまり良くないようですねえ。カービィ選手、マシン選びで、出おくれてしまいました」
「いや、そうでもないぞ。よく見てみろ」
メタナイトが指摘した。
ワープスターは、カービィを乗せたとたん、神秘的な光を放ち始めた。
「おや? ワープスターが光り出しましたね? これは、どういうことでしょうか、解説のメタナイトさん」
「マシンと乗り手には、相性というものがある。どんなにすぐれたマシンでも、相性の悪い乗り手では、乗りこなせない。ワープスターは、カービィと相性が良いのだろうな」
「なるほど! では、カービィ選手は、自分にぴったりのマシンを引き当てたというわけですね!」
カービィを乗せたワープスターは、丘を下りながら、少しずつ加速していく。
行く手をふさぐ大木も、大岩も、なんのその。カービィは、ワープスターと一体になったかのように、軽々とかわしてスピードを上げていった。
ウォーキーは興奮(こうふん)してさけんだ。
「すばらしい操縦(そうじゅう)テクニック! カービィ選手、スタートの出おくれを一気に取りもどしました! カービィ選手の大逆転に期待が高まります!」
ウォーキーとメタナイトは、小型飛行マシンを再発進させ、カービィの後を追っていった。
静かになった丘の上に、キザリオが姿をあらわした。
彼は双眼鏡(そうがんきょう)を手にして、選手たちの行方を見守ると、小さな声でひとり言を言った。
「ここまでは、成功……と。次は、アレを早く見つけ出して始末しなくちゃ……クーロンより早く……」
「キザリオぼっちゃま」
スタッフの一人が、近づいてきた。
キザリオは振り返り、不きげんそうに言った。
「キザPって呼べって言ってるだろう! ボクはプロデューサーなんだからな!」
「はあ、すみません。今、本部から連絡が入ったんですが」
「なんだ?」
「この番組の視聴率(しちょうりつ)が、急上昇してるそうですよ」
「ほんとうか!?」
キザリオの顔が明るくなった。
「はい。やっぱり、メタナイトさんの出演が話題になってるようで。無理にりんじ番組をねじこんじゃったんで、ヒヤヒヤしましたけど……この調子なら、社長にしかられなくてすみそうですよ」
「しかられるどころか! みんながボクを見直すぞ!」
「これまで、ボロクソに言われっぱなしでしたもんねえ。やっと、ぼっちゃまにも運が向いてきましたね」
「運じゃない。これがボクのほんとうの実力なんだ!」
キザリオは、はればれとした顔で言った。
「よーし、きっと、何もかもうまくいく。みんな、ボクに続けー!」
キザリオはスタッフ用のマシンに飛び乗り、丘をすべり下りて行った。カメラやマイクなど、撮影機材を運ぶマシンが、キザリオの後に続いた。
後に残されたのは……ワドルディ、たった一人。
ワドルディはようやく元気を取り戻し、むっくりと起き上がった。
「あーあ……みんな、行っちゃった……」
ワドルディは心細くなり、一台だけポツンと取り残されているマシンに、とぼとぼと近づいていった。
緑色をした小型のマシン、ウィリースクーターだった。どう見ても遅そうなので、だれからも選ばれなかったマシンだ。
「ぼくには、これがちょうどいいや。あぶなくないように、ゆっくり行こうっと……」
ワドルディがまたがってみると、ウィリースクーターはコトコトと走り出した。
スピードは、ぜんぜん出ない。ワドルディは安心した。
「これなら、怖くない。カービィや大王様には追いつけないけど、しょうがないや」
コトコトコト……と、のどかな音をひびかせながら、ワドルディを乗せたウィリースクーターは丘をゆっくり下っていった。
ついに始まった大レースは、全宇宙で大注目!
カービィは、先頭集団に追いつけるのか!?
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