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◆第2回
ごちそうがいっぱいの、パフェスキー夫人のおたんじょうびパーティに行くために、『お屋敷(やしき)のシェフの募集(ぼしゅう)に応募(おうぼ)することにした、カービィとワドルディ。
いったい、どんなレシピで応募(おうぼ)しようというのでしょうか……?
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パーティのために
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次の日の朝。
ワドルディは、胸をはずませて部屋を出た。
昨日の夜、パフェスキー夫人のおかかえシェフに応募(おうぼ)するためのレシピを、たくさん考えてみた。あまくとろけるカスタードプリンとか、しっとりなめらかなチョコ風味カステラとか……。
(想像(そうぞう)しただけで、うっとりしちゃうよ! カービィと相談(そうだん)して、どんなレシピにするか決めるんだ!)
けれど、その前に。まずは、大王のごきげんをうかがっておかねばならない。
「おはようございます、大王様。けさは何か、ご用はありますか?」
朝のあいさつにうかがってみると、大王はワドルディに背を向けて、窓(まど)に向かっていた。
「大王……様……?」
「うむむ……カービィのやつ、また何かたくらんでるぞ」
大王は大きな双眼鏡(そうがんきょう)をかまえて、窓(まど)の外をながめている。
ワドルディは、不吉(ふきつ)な予感を覚えながらたずねた。
「どうしたんですか?」
「見ろ。あいつめ、また何かおかしなことを始めたぞ」
大王はいまいましげに言って、ワドルディに双眼鏡(そうがんきょう)をわたした。
目に当てて、窓の外をながめてみると。
野原の真ん中で、カービィが元気よくはね回っていた。
その前にすえられているのは、銀色に光る巨大(きょだい~なボウルだった。カービィは特大のあわだて器にしがみつき、ボウルの中身をかき回しているようだ。
……あのボウルの中身は、どう見ても、おかしの材料。カービィはさっそく、応募(おうぼ)用のオリジナル料理作りに取りかかっているらしい。
「あいつめ。何かとんでもない悪事(あくじ)をたくらんでいるにちがいない!」
「え……そんな……まさか」
「ワドルディ、カービィめが何をしているのか、さぐってこい!」
「……は……」
「やつは、ぜったい、オレ様にたてつく気だ。あのボウルの中身は、この城を爆破(ばくは)するための爆薬(ばくやく)だろう!」
「え、そんな……ちがうんじゃないかなあ……」
「行け、ワドルディ! カービィのたくらみをあばき、デデデ城の平和を守るのだー!」
デデデ大王にけっとばされて、ワドルディは城外に追い出された。
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「……というわけなんだ。デデデ大王様は、カービィのことをすごく警戒(けいかい)してるんだ」
ワドルディはカービィにささやいた。
今、この瞬間(しゅんかん)も、デデデ大王は双眼鏡(そうがんきょう)でこのようすを見張っているにちがいない。だから、あまり親(した)しげにふるまうことはできない。
ワドルディは、カービィをこづき回すふりをしながら、そっと続けた。
「大王様は、何かにつけてカービィを目のかたきにしてるんだよ。ぼくがカービィと仲良くしてることがバレたら、大変なことになっちゃうよ」
「そうだねー」
「だから、ごめんね、カービィ。ぼく、カービィのお料理に協力(きょうりょく)できなくなっちゃったんだ」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ! ぼく、一人で作れるから!」
カービィは、ワドルディの心配なんてまったく気にしていない。巨大(きょだい)泡立て器にしがみついて、ボウルの中身をぐるぐるかき回している。
ワドルディは、ボウルをのぞきこんで、とてつもなく不安になった。
「……何を作ってるの?」
「超豪華(ちょうごうか)☆スイートスペシャルてんこもりカービィケーキだよー!」
「ケーキ……? これが……?」
ケーキといったら、ふつうは小麦粉やバターでできていて、ふんわりとあまいかおりがただよっているはず。
(なんでケーキの材料(ざいりょう)が、こんなにどす黒くて、ぶつぶつ泡立ってるんだろう……)
ワドルディは、おそるおそるたずねた。
「……材料(ざいりょう)は?」
「まずは小麦粉でしょ、それからバター」
「……うん」
「あと、たまごと、牛乳と、おさとう」
「それだけじゃないでしょ? 他に、何を入れたの?」
「んーと、オレンジジュースとアップルジュースとメープルシロップとねー」
「う、うん。それから?」
「あと、おみそと、おしょうゆ」
「え!?」
「あとねー、コーラとトウガラシとウーロン茶とごま油とおろしにんにく!」
「け、ケーキの中に……!?」
「うん! あと、納豆とマヨネーズとポン酢とラー油と……」
「も、もういいよ……」
ようするに、思いついたものをかたっぱしから入れてしまったらしい。
ワドルディは、泣きたくなってきた。
「どうして、メープルシロップぐらいで止めておかなかったんだよー……なんで、ラー油とか、にんにくとか、納豆なんて……」
「え? ワドルディはラー油きらい!? ギョウザにラー油つけないの!?」
「ギョウザにつけるのは、おいしいけど……これ、ギョウザじゃなくてケーキ……」
「にんにくもきらい!? 納豆も!? 信じられない!」
「きらいじゃ……ないけど……」
「わあ、良かったー! ワドルディもぼくと同じで、好ききらいがないんだね!」
「……うん。でも、これ……」
「できたら食べさせてあげるね、ワドルディ! 楽しみにしてて!」
カービィは、自信まんまん。
ワドルディはヨロヨロしながら、その場をはなれた。
カービィは、デデデ大王をも上回る食いしんぼう。おいしいものが大好きで、特にパフェとかケーキとかおだんごとか、あまいものには目がない。これまでに、ありとあらゆるおいしいデザートをあじわってきたはずなのに……。
(なんで、ケーキに納豆とかにんにくを入れるのはおかしいって、気がつかないんだろう? 食べるのと、自分で作るのは別なんだなあ……)
あの味とこの味を組み合わせたらどうなるか、そういう計算が、カービィにはまったくできないらしい。とにかく、なんでもかんでも、自分が好きな材料をまぜればおいしくなると信じている。
(これじゃ、ぜったいにムリだ。パフェスキー夫人のシェフに選ばれることなんて、ありっこないよ……!)
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とぼとぼとデデデ城にもどったワドルディを待っていたのは、昨日よりもはげしいデデデ大王のどなり声だった。
「おそいー! おそすぎる! 何をしているのだ、パフェスキーのやつめー!」
デデデ大王が飛び上がって地団駄(じだんだ)をふむと、デデデ城がゆっさゆっさとゆれた。
「あ……まだ届かないんですね、招待状(しょうちじょう)」
ぜったいに届くはずがないと思いながらも、ワドルディはデデデ大王の手前、心配そうに言った。
「おかしいですね、大王様」
「まったくだ! 美容院もエステサロンも予約したっていうのに! くそっ、これはきっと郵便屋(ゆうびんや)の陰謀(いんぼう)だな。郵便屋(ゆうびんや)め、カービィと組んで、オレ様をおとしいれる気にちがいない! くそー、ゆるさーん!」
怒りのあまり、被害妄想(ひがいもうそう)にとりつかれているデデデ大王であった。
「ワドルディ、郵便屋(ゆうびんや)をひっとらえてこい! オレ様あての招待状(しょうたいじょう)をどこにかくしたか、白状(はくじょう)させるのだ!」
「え、えーと……」
ワドルディはこまりはててしまった。罪もない郵便屋(ゆうびんや)さんを、とらえるわけにはいかない。
ワドルディは、とっさに思いついたことを口にした。
「あ、あの、大王様。ひとつ、いい考えがあるんですけど」
「なんだ? 言ってみろ」
「パフェスキー夫人のシェフになってみたらどうでしょう?」
「なに?」
「えーと……実は、カービィをこらしめて、白状(はくじょう)させたんですが……」
ワドルディは、心の中で(カービィ、ごめんね……)とあやまりながら、ちょこっとウソをまじえて説明した。
「カービィのやつめ、パフェスキー夫人のパーティにもぐりこむために、おかかえのシェフになろうとたくらんでるようです。そうすれば、パーティの料理を味見しほうだいですからね」
「味見……しほうだい……?」
デデデ大王は、うっとりしてヨダレをたらしそうになったが、ハッとして口元をぬぐった。
「カービィが野原で作ってるのは、オリジナルレシピのケーキなんです。パフェスキー夫人に気に入られて、シェフになろうって計画を立ててるんです」
「そして、味見しほうだいというわけか……くっ、悪知恵(わるぢえ)のはたらくやつだ! うらやましい……いや、こざかしい計画を立ておって!」
「大王様も、オリジナル料理を考えて、パフェスキー夫人に売りこんでみたらどうでしょう? そうすれば、招待状(しょうたいじょう)なんかなくたって、お屋敷(やしき)のキッチンにどうどうと入れます。味見だって、しほうだいです!」
「ば……ばかもーんっ!」
デデデ大王は真っ赤になって、こぶしを振り上げた。ワドルディはあわててカベぎわに避難(ひなん)した。
「オレ様はプププランドの偉大(いだい)なる支配者・デデデ大王様だぞ! 他人のために料理なんか作るわけないだろう!」
「は、はい! ごめんなさい!」
「ワドルディ、おまえが料理を作れ」
「え?」
「おまえがパフェスキー夫人のシェフになるんだ。そしてオレ様をお屋敷(やしき)のキッチンに招(まね)け。山ほどの料理を、オレ様が味見してやる! おお、カンペキだ! なんという天才的な思いつき!」
……ようするに、裏口(うらぐち)からこっそり入りこんで、料理をただ食いしようというつもりらしい。偉大(いだい)なる支配者にしては、考えることがあまりにもセコい。
ワドルディは困ってしまった。カービィといっしょなら、料理を考えるのも楽しいけれど、デデデ大王の命令となると話が別。シェフに選ばれなかったら、デデデ大王は怒(いか)りをワドルディにぶつけるに決まっている。
「ぼくは、料理なんてできません……こういうことは、やっぱりプロに頼むほうがいいんじゃないでしょうか?」
「プロ?」
「料理のプロです。たとえば、コックカワサキとか……」
コックカワサキは、プププランドでいちばんの腕(うで)をほこる料理人。
どんな食材でもおいしい料理に仕立ててしまう、まさにプロ中のプロ!
デデデ大王は、「……なるほどな」とうなずき、手をポンとたたいた。
「さえてるぞ、ワドルディ。よーし、コックカワサキを呼んでこい!」
「はーい!」
ワドルディはホッとして城を飛び出した。
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めざすはコックカワサキのレストラン。
しかし、店の扉(とびら)は閉ざされていた。ドアに「しばらくお休みします」というはり紙がしてある。
「あれ……? どうしたんだろう。コックカワサキ、病気かなあ?」
ワドルディが店の前で首をかしげているところへ、パタパタと羽音が聞こえてきた。
まるいからだに、ミツバチのようなすきとおった羽。プププランドの住民のひとり、ブロントバートだった。
ブロントバートは、ワドルディの頭の上をパタパタ飛び回りながら、声をかけてきた。
「よう、ワドルディ。食事に来たのかい? あいにくだな、コックカワサキはいないぜ」
「どうしたの? 病気?」
「いや、そうじゃない。西のはずれに、パフェスキー夫人ってやつがひっこしてきたの、知ってるか?」
「うん、もちろん」
「コックカワサキは、そいつにまねかれて出かけていったんだ。お屋敷(やしき)の専属(せんぞく)シェフになるんだってさ」
なんと、ひとあしおそかった。
考えてみたら、コックカワサキはプププランドでいちばんの料理人なのだから、グルメなパフェスキー夫人が真っ先に目をつけるのは当然のこと。
「もう何日も前から、レストランは閉めっぱなしなんだ」
「そうだったんだ……」
「よほど、パフェスキーってやつに気に入られてるんだろうな。ひょっとしたら、このまま店をやめちまうつもりかもな」
「それは残念だね」
「まったくだ。オレもコックカワサキの料理のファンだったから、悲しいぜ」
ブロントバートはパタパタ羽音を立てて、飛び去っていった。
カービィのレシピは、なんだか大変なことになりそうな予感……。
コックカワサキもたよれないとなると、次の作戦を考えなければ!
『星のカービィ あぶないグルメ屋敷!?の巻』れんさい第3回(5月27日更新予定)に続く
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