テストの点数=寿命!? 勉強しないと殺人犯!?
科目男子とのトキメキ(!?) おべんきょ生活、スタート!
(全5回・毎週月・金曜更新予定)(公開期限:2026年1月12日(月)23:59まで)
※これまでのお話はこちらから
目次
人物紹介
わたし、花丸円(はなまる・まどか)。
模擬テストをきっかけにケイとけんかしてしまったんだけど……
お互いに本音を伝えあって無事仲直り。
科目男子たちの寿命をかけた
運命の実力テストがいよいよスタート!
14 てづくりプリンの味
家に帰ったわたしたちは、さっそく、プリンづくりをはじめた。
ケイ以外の男子たちもママのプリンの話を聞いてたみたいで、みんな口をそろえて「やってみよう」って言ってくれたんだ。
とりあえず、インターネットでレシピを確認。
材料は、卵にお砂糖、牛乳。
へぇ、これだけでいいんだ!
材料と道具を準備するわたしの横で、男子たちがワイワイと話しはじめる。
「カンちゃんはあらいもの係ね」
「えっ、なぜです? 俺だって調理くらいできますよ」
「ダメダメ。カンジは、超絶味オンチだからな~」
「揣摩臆測(しまおくそく)はやめてください。なにを根拠に……ちょっと、はなしてくださいよ」
笑顔のカンジくんを、ヒカルくんとレキくんが作業台からひきはなす。
え~、意外。やさしくて完ぺきなカンジくんに、そんな弱点があるなんて!
「ケイくんは材料をはかる係で、レッキーは味の調整係。調理担当は僕とまるまるね」
てきぱきと指示を出すヒカルくん。
さすが。料理は理科の実験とおなじって言ってたもんね。
ヒカルくんのおかげで、プリンづくりはスムーズにすすんだ。
材料をまぜおえて、カップにいれる。
五人とおばあちゃんのぶんで、六等分。
あとはこれを蒸して、冷蔵庫で冷やすんだって。
「あ……そういえば、大きいプリンを六等分する方法って、わかる?」
ふと、思い出した。
前に妄想でプリンを食べそこねたときに出された問題、ずっと胸に引っかかってたんだ。
「森の動物たちと、おっきなバケツプリンをきっちり六等分することになったの。でも、やり方がサッパリわからなくて、プリンを食べそこねちゃってさ」
「プリン? 動物? なんだそれ」
「小さいころから仲良くしてる、わたしの妄想友だち。ネコとウサギと、リスとキツネとネズミ」
わけがわからないと言いたげな顔のまま、かたまってるケイ。
わたしはかまわず話をつづける。
「包丁もはかりもないんだけど……算数の知識で、なんとかならないかな?」
みんなの顔を見まわすと。
ふいに、ケイが、ふっと笑った。
むかっ
「『そんな簡単なこともわからないのか』って? どうせ、わたしはペケですよーだ。ケイはいいよね、算数だったらなんでもわかるんだから。公式に当てはめて計算すれば、すぐだもんね」
「……いや、ちがう。そうじゃない」
ケイは首を横にふる。
そして、また、フフッと笑みをうかべた。
「まどかがそんなふうに自分から『算数』に興味をしめしたのは、はじめてだ」
うれしそうに目を細めるケイ。
どきんっ、と心臓がふくらむ。
(な、なんだろ、この気持ち……?)
ケイって、こんな顔もするんだ……。
プリンを冷やしているあいだ、みんなで居間にあつまって、プリンの六等分について話し合う。
まず、ケイがノートに数式を書きならべた。
「プリンは『円すい台』とよばれる立体だ。正確に計算するとすれば、体積を求める公式は『π÷3×(r₁×r₁+×r₁+r₂×r₂×高さ』。これを6で割ればいい」
ぱい、わる、さん……?
「……おい、白目をむくな。円すい台の体積の求めかたは五年生では習わない範囲だ。今わからなくてもまったく問題ない」
「そーそー。習ってないことがわからないのは、とうぜんだからな」
レキくんにはげまされて、すこしホッとする。
「ただ、この問題は、計算式をつかわずに解くほうがいい。はかりがないのなら体積を求めてもたしかめようがないからな」
「体積をもとめずに六等分するのであれば、プリンをケーキのように『扇形』に切りわける、という考え方がよさそうですね」
カンジくんは鉛筆を手に、プリンの絵を描いた。
それから、プリンの上の円が扇形にわかれるように線を引く。
「ただ、正確に切りわけるには、この円の中心をピタリと探し当てる必要が……」
「円の中心を見つけるには、同じ長さの平行線を二本引いて、その両端同士をむすぶようにナナメに線を引けばいいんだよ。ナナメの線が交わったところが、円の中心」
ヒカルくんが線を引いてみせてくれる。
すると、本当に円のどまんなかで線が交わった。
「えっ、ほんとだ、すごい!」
「でも、この先はどうすんの? 中心を目印に半分には切れるけど、六等分ってムズくね?」
「まずは扇形の『弧』、つまり丸くなっているところを直線にして考える。つまり、『正六角形』に切りわけることをめざせばいい」
正六角形っていうと……たぶん、角が六つある図形、だよね?
「正六角形はおもしろいんだよ。正三角形が六つあわさってできてるの」
ヒカルくんが細いマッチ棒をとりだして、プリンの絵の上に置いた。
マッチはプリンの半径と、ちょうど同じ長さだ。
「正三角形は三辺の長さがおなじ。ってことは、ここもここも、ここも、ぜーんぶ同じ長さだよ」
正六角形の辺と、円の半径に二本。
三本のマッチがピタリとはまって、きれいな正三角形ができあがる。
「ホントだ! つまり、これを六つつくったら……!」
わたしが声をあげると、ケイはうれしそうにマッチを動かしていく。
「正六角形は六つの辺の長さがすべておなじだ。こうやって、円のフチにマッチをあてて、円とマッチがぶつかる点をマークする。これを、六回くりかえす」
ケイが手をどかした下には、ぴったり均等に六つの点が打たれた円があらわれた。
「あとは、この点から、中心を通って反対側の点とむすぶようにまっすぐ切っていけば……」
「「「おお~!!」」」
カンジくんとレキくんと三人で、おもわず身をのりだす。
すごい! 計算式をつかわずに、本当に、キレイに六等分ができた!
「でもさ~、たしか包丁はないって設定だったよな?」
レキくんが言うと、ケイはふんと鼻をならす。
「知らん。妄想の世界だろ? 自分で用意しろ」
「では、本の紙でスパッといくのはいかがでしょう?」
「戦国武将なら日本刀で一発なんだけどな~」
「もうっ! だから、そういう世界観じゃないの! 動物たちの平和な森なんだってば!」
あ~あ、せっかくゴールが見えそうだったのになぁ。
しゅんと肩を落としていると。
「──それなら、糸をつかうのはどう?」
ヒカルくんが言った。
糸?
よくわからなくて、首をかしげる。
「糸をピンと張ると直線になるから定規のかわりになるし、プリンみたいにやわらかいものなら、押し当てて切断も可能。糸がなければ、つる植物のつるが使えるかも。アサガオとか、キュウリとか」
「「お~~~っ! なるほど!」」
こんどはケイと声がかさなった。
おかしくて、大笑いする。
なんだ。あんなにいばってるケイだって、はじめて知ることや気づくことがあるんだ。
そう思うと、なんでも知ってるすごい存在に思えてた男子たちが、すごく身近に感じられた。
ピピピピピ
タイマーの音が鳴る。
「あっ、プリンできたかな?」
「僕、見てくる」
ヒカルくんがキッチンまで行って、完成したプリンを持ってきてくれた。
ふんわり、甘いかおり。
ひ、ひさしぶりの、プリン……! ごくり。
スプーンを持つ手がふるえちゃう。
「ほんとにいいの? ケイ。テストが終わるまで禁止って言ってたのに」
「まどかといると、ほとんどのことが予定どおりにいかない。この程度の誤差を気にしてたら、体がいくつあっても足りん」
ケイはそっけなく言ってから……フッと、あきれたように、やさしく笑った。
「プリンを食べたら勉強再開だ。いいな?」
「……うん!」
みんなでつくったプリン。
一口食べた瞬間から、涙が止まらなくて。心がぽかぽか、あたたかくなった。
ママのプリンの味とは、ちょっとちがったけど。
おなじくらい、すっごく、おいしかった。