
もうすぐ、夏休み! ある夜、姉妹で話をしていたら、二鳥の初恋の人で、アイドルの『椿吉トウキくん』との運命の出会いの話になって……? ふたりの間に、いったい何があったの!? 角川つばさ文庫の大人気シリーズ第5巻上が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
キャラクター紹介
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1 今夜はパジャマパーティー
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よいしょ……よいしょ……ふぅっ…………。
私・宮美三風は、家の二階から一階へ、自分のしき布団を運んでいた。
しき布団は重いし、持つと足元が見えにくくなるから、階段では十分気をつけなくっちゃ。
「はぁ……」
七月になったばかりなのに、すっかり真夏って感じだなぁ。
もう夜の九時すぎだっていうのに、むし暑くって、汗がにじんでくるよ。
半そでに、ハーフパンツのパジャマを着てるけど、それさえ全部ぬぎたくなっちゃう。
ふうふう言いながら……よしっ、やっと一階についた。
「よい、しょっ」
私は、一階の和室の居間に、しき布団をドサッと置いた。
そこには、すでにもう一枚、しき布団がしかれている。
「三風! 一人で運んだの? 大丈夫だった?」
すぐに、お姉ちゃんの宮美一花ちゃんが気づいて、声をかけてくれた。
「全然平気だよっ」
と、笑顔で私。
これから始まることが楽しみで、自然と声が弾んじゃう。
「まくらとか、持ってきました〜」
続いて部屋に入って来たのは、妹の宮美四月ちゃん。
自分のまくらと、タオルケットと、ネコのぬいぐるみをかかえてる。
「よーし、みんなそろった!」
姉妹を見回して、お姉ちゃんの宮美二鳥ちゃんが、元気よく言った。
「パジャマパーティー、始まり始まりや!」
そう。
私たち、今夜は、居間に布団を二組しいて、パジャマパーティーするんだ!
ふだんはみんなそれぞれ、自分の部屋でねてるの。
けど、いっしょの部屋でねるのも、なんだか修学旅行みたいで楽しいよね。
今日は特別な夜だよ。
一花ちゃん、二鳥ちゃん、私・三風、四月ちゃん。
みんなパジャマすがたで、みんな髪を下ろしてて、みんな同じ顔。
今の私たちは、本当にそっくりで、四つ子らしさ、たっぷりだ。
「パジャマパーティーねぇ……まあ、ものは言いようかしら」
一花ちゃんがぼやきながら、リモコンで、ピッ、とエアコンのスイッチを入れる。
すぐに、ゴォー……、と、冷たい風がはきだされてきた。
「はー幸せ〜〜〜……」
二鳥ちゃんが、布団のど真ん中に、ゴロンと横になる。
「もっと端に行ってちょうだい。二人分の布団に、四人でねるんだから」
「は〜〜い」
と、二鳥ちゃんは、ゴロゴロ転がって移動。
一花ちゃん、四月ちゃん、私も、次々に布団に横になった。
「「「「ふぅ…………」」」」
みんな無言で、エアコンのすずしい風を味わう。
しばらくたって……。
四月ちゃんが、ポツンと言った。
「パジャマパーティーというか……単なる雑魚寝ですね、これは」
「「うっ」」
二鳥ちゃんと私はギクリ。
一花ちゃんは、
「そうよね」
と、ねたままうなずく。
冷たい風が、ゴー……、と私たちの体をなでていった。
雑魚寝……まあ、そうかも、というか、そうです……。
そもそも、どうして私たちが、同じ部屋でいっしょにねることになったかというと。
今日の夜、夕ごはんを食べていたとき、
『今夜は、とくにむし暑くなります』
『エアコンを使用するなどして、熱中症に注意してください』
って、テレビの天気予報で言ってたことが始まりだったんだ。
熱中症になったら大変だから、ぜひとも、冷房のきいた部屋でねたいところだけど……。
私たちの家は、この和室の居間にしか、エアコンがついていなかった、というわけ。
私たち四つ子の四姉妹は、中学生自立練習計画の参加者。
自立の練習のため、国からお金をもらって、子どもたちだけで生活してるの。
だけど、国が用意してくれた一軒家は、ちょっぴり古くて、設備もいまひとつなんだよね。
あはは……。
「……ま、雑魚寝かもしれへんけど、そう言いなや。ものは言いようやって。四人でゴロゴロすんの、楽しいやん」
私の左どなりで、二鳥ちゃんは、くるんとねがえりを打ち、うつぶせになった。
弾みで、二鳥ちゃんのうでが、私のうでに軽くふれる。
それがやわらかくて、あったかくって、ちょっとうれしくなっちゃった。
そうだね。
わびしい気もするけど、姉妹いっしょにねるのは楽しい。
家族がすぐ近くにいるだけで、心がほっと安らぐんだもん。
「三風姉さん、本読みます?」
気持ちを切りかえるように、右どなりの四月ちゃんが言った。
「え、なんの本?」
「昨日、図書室でかりたんです。『本当の自分がわかる心理テスト』」
「おもしろそう! 読む読むっ」
私と四月ちゃんも、くるん、くるん、とうつぶせになる。
「私、念のため、冷房の電気代を調べておくわ……国の人、余分にお金をくれるといいんだけど……」
一花ちゃんも、くるんとうつぶせになり、スマートフォンをいじりだした。
ねむるのには、まだちょっと早いもんね。
パジャマパーティー、始まり始まりだ。
と、言いたいところだけど……。
一花ちゃんは電気代を調べているし、二鳥ちゃんも、何やら熱心にスマホをいじってる。
やっぱり、パーティーって感じは、しないかな?
「次の心理テストです。……『あなたは深い森の中で、一軒の小さな小屋を見つけました。小屋の中にいたのは、だれでしょう?』……」
四月ちゃんが問題を読んでくれて、私は、「うーん……」と考える。
心理テストって、おもしろいよね。
『家の窓から、流れ星が見えました。いくつ見えたでしょう?』
とか、
『通学路で、ひとつの箱を拾いました。中には何が入っていたでしょう?』
とか。
そんな質問に答えると、自分でも気づかないくらい、心の奥のほうで考えていることが、わかっちゃうかもしれないんだって。
森の中にある小さな小屋の中にいたのは…………湊くん、かな?
なんとなくだけど、同じクラスの、野町湊くんの顔がうかんだよ。
「楽しそうね」
スマホを見るのをやめた一花ちゃんが、四月ちゃんのかたに、トスン、とあごをのせる。
四月ちゃんは、くすぐったそうに、ふふふっ、と笑った。
私は、何げなく心理テストの本に目を落として……ギクリ!
さっきの心理テストの答え。
『森の中にある小屋の中にいたのは、あなたが今まさに、恋をしている人です』
って書いてあったんだもん!
――ペラッ!
私は思わず、心理テストの本のページを、勝手にめくっちゃった。
湊くんは、中学に入学して一番に友達になってくれた、優しくて笑顔がステキな男の子。
私、湊くんのこと、『とってもいい子だな』『親友みたいだな』とは思ってるけど……。
まさか、『恋をしている』なんて。
しかもそれが、『自分でも気づかないくらい、心の奥のほうで考えていること』だなんて、はずかしすぎるよ!
「三風姉さん……? どうかしたんですか?」
「ななななんでもないのっ。あっそうだ一花ちゃんも心理テストいっしょにやろうよ! ほらっ見て、『イメージカラー診断』だって!」
必死に早口でごまかすと、
「へぇ。おもしろそうじゃない」
幸いにも、一花ちゃんは興味をしめしてくれた。
私は、ふぅ……、と、心の中でため息をつく。
冷静に考えたら、心の中なんて、見えちゃうはずないのに……私、あわてすぎかも。
「二鳥もやってみない? 『イメージカラー診断』ですって」
一花ちゃんが、本に目をやりながら声をかけた。
だけど、二鳥ちゃんからの返事はない。
二鳥ちゃん……さっきから、ずっとスマホに夢中だ。
何を見てるんだろう?
話しかけないほうがいいかなぁ。
そう思った瞬間、
「あっ!!」
突然、二鳥ちゃんは、スマホを見たまま大声をあげた。
「うわ、ちょっ、ほんまに、わ、やっ……やったー!!」
――ゴロゴロゴロゴロッ
「ぐえ」
「うえっ」
うれしくてたまらない! というように、二鳥ちゃんは、私と四月ちゃんの上を転がって、
「きゃあぁ!?」
――ドッスーン!
一花ちゃんに、つっこんじゃった!
「もうっ、二鳥! 一体なんなのよ!」
おこった一花ちゃんに、
「これっ!」
二鳥ちゃんは、満面の笑みで、スマホの画面を見せる。
「ええっ、何? ……アイドル……? それがどうしたの?」
首をかしげる一花ちゃん。
私も、二鳥ちゃんのスマホに目を向けてみた。
そこに表示されていたのは……。
《新アイドルグループ、結成決定!》
《メンバーはGOODBOYS研究生・椿吉トウキら五名》
「椿吉、トウキ……? ……あっ!」
名前を口にして、私はハッと気づいた。
「この、椿吉トウキくんって、たしか、二鳥ちゃんの――」
「そう! 初恋の人っ!」
二鳥ちゃんは、そうさけんで、ほおを赤くした。
「いやーすごいな〜トウキくん。ついにデビューか〜! やった〜! あ〜うれしい! 最高っ」
「ちょっと、二鳥姉さん落ちついて……」
「んふふ、ムリ〜! あ〜〜〜ふふっ」
二鳥ちゃんは、四月ちゃんと一花ちゃんの間に体をねじこんで、右に左に身をゆらす。
「二鳥はスワロウテイルのファンじゃなかったの……?」
「スワロウテイルはスワロウテイルっ。トウキくんはトウキくん〜♪」
鼻歌まで歌いだしちゃった。
よ、よっぽどうれしいんだなぁ。
「椿吉トウキくんのこと、そんなに好きなの?」
気になって、私はたずねてみた。
もし、二鳥ちゃんが、さっきの心理テストをしていたら、
『森の中にある小屋の中にいたのは、トウキくん!』
って、迷うことなく答えたのかな?
なーんて思ったんだ。
すると、二鳥ちゃんは、目をキラーン! と光らせ、ずずずずいっ、と、はいよってきた。
(四月ちゃんは、「ぐぇ……」と、私と二鳥ちゃんにはさまれた)
「もっちろん! うち、トウキくんのこと大好き! だってうちの恩人なんやもん」
「なんなのよ……恩人って。その人、アイドルなんでしょ?」
一花ちゃんはあきれ顔。
だけど、二鳥ちゃんは、
「ほんまやもん」
と、得意げに笑った。
「聞きたい? 教えたろか? うちとトウキくんの……運命の出会い!」
恩人?
運命?
一体、どういうことなんだろう?
私は、二鳥ちゃんの話に耳をかたむけた。
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