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ものがたり

注目シリーズまるごとイッキ読み!『四つ子ぐらし④ 再会の遊園地』第17回 最後にひとつ


お休みの日に、みんなで楽しく遊園地へ! 苦手だけど、がんばってジェットコースターに乗っていた三風は乗り物酔いでヘロヘロに……。休憩している三風へ「にとちゃん!」話しかけてきた、小さな男の子。この子、もしかして、二鳥ちゃんの弟!? とんでもない事態のいっぽうで、別行動していた一花チームは……?
つばさ文庫の大人気シリーズ第4巻が、期間限定でまるごと読めちゃうよ!

※これまでのお話(4巻)はコチラから
 1巻はコチラから
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 3巻はコチラから


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17 最後にひとつ

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 お手洗いで、泣き顔を洗ったあと。

 私たちは、休憩(きゅうけい)スペースのベンチに座り、ぬらしたハンカチで目元を冷やしていた。

 どれくらい、時間がたったのだろう。

 くもっていた空は、だんだんと晴れていって。

 少しななめになった日の光が、私たちをおだやかにあたためはじめた。

 そんなとき。

 ――ピロン

《そろそろ合流しない? 中央広場で待ってるよ》

 湊くんから、スマホのメッセージがとどいた。

「目ぇ、もうはれてへんやろか」

 二鳥ちゃんは、カバンからコンパクトミラーを出し、自分の顔をチェックしてる。

 私も、二鳥ちゃんの顔や、一花ちゃん、四月ちゃんの顔を見てみた。

「うん、大丈夫みたい。二鳥ちゃんもみんなも、はれてないよ」

「ああよかった」

 ニコッと笑う二鳥ちゃんは、いつもとすっかり同じに見える。

 さっき、養父母さんとの辛い別れがあったなんて思えないな……。

 二鳥ちゃんの笑顔を見ていたら、胸がキュッと痛くなっちゃうよ。

「行きましょうか」

 気分を変えるように、大きめの声で一花ちゃんが姉妹によびかける。

「せやな」

「うん」

「はい」

 私たちは返事をして、立ちあがった。

 いろんなことがあるけれど、この先も人生は続いていくんだな。

 そんな、悲しいような、気合いを入れるような、ふしぎな気分。

 私はぐっと顔を上げて、前を見た。


「三風ちゃんたち、こっちだよー!」

「二鳥ちゃーん!」

 中央広場に近づくと、手をふっている湊くんと杏ちゃんが小さく見えてきた。

 二人の近くには、直幸くんもいるみたい。

 私たち、アクティブチームとのんびりチームに分かれたけれど、結局まざっちゃったんだね。

 ……ん?

 アクティブチーム……?

(ああっ!)

 私、気づいちゃった……。

 アクティブチームから、私がぬけて、次に二鳥ちゃんがぬけた。

 ってことは、今まで、湊くんと杏ちゃん、二人っきりだったんだ!

 ――「二人きりやったら、デートになってしまうやんか!」

 二鳥ちゃんの言葉が、いまさらのように思いだされた。

 しかたがないことだけど……。

 …………はぁあ~…………。

 湊くんと杏ちゃん、二人っきりで、どんなふうにすごしてたんだろう。

 楽しかったのかな? 楽しかったんだろうなぁ……。

 内心しょぼんとしながら、湊くんたちのいるところまで、姉妹といっしょに歩いていくと……。

 ……ん?

 んんん?

 湊くん、杏ちゃん、直幸くん。

 三人とも、なんか、ちょっと……。

「その……えっと……」

 私が言いにくそうにしていたら、二鳥ちゃんがズバッと言った。

「えーっ、三人とも髪の毛爆発してるやん! どないしたん?」

 そう。

 湊くんも、杏ちゃんも、直幸くんも。

 髪の毛が、めちゃくちゃハネてる。

 な、何があったの?

 目を丸くする私たちに、湊くんと杏ちゃんは、クスクス笑いながら教えてくれた。

「ナオと、とちゅうで合流して、それから、スプラッシュコースターに乗ったんだ。水しぶきが、バシャーッ! ってかかるやつ」

「それで、髪の毛をかわかすために、スカイホワイトドラゴンに乗ったのよ。一回じゃ、完全にかわかなかったから、三回も!」

「ええぇ~……!?」

 なんというか、豪快……。

 引きぎみに感心する私の横で、二鳥ちゃんは大笑いしてる。

「ジェットコースターは人間乾燥機とちゃうで! 髪の毛爆発するわけや! あっはははっ」

 な、なんか……。

 湊くんと杏ちゃん、すっごく楽しかったのは楽しかったみたいだけど……。

 でも、デート、って雰囲気ではなかったみたい。

 とちゅうから、直幸くんも二人に合流したみたいだしね。

 ほっ、と私は息をついた。

「あの……」

「ハイッ」

 おっ、四月ちゃんが直幸くんに話しかけてる。

「直幸くんも……乗ったんですか? スカイホワイトドラゴン」

「あ……はい。でも一回乗って死ぬかと思ったので……あとはベンチで待ってました。僕は、ほぼ自然乾燥です」

 直幸くんがそんなふうに答えると、四月ちゃんがほんのちょびっと、フフッと笑った。

「さて、もう五時すぎね。このあとどうする? もう帰る?」

 腕時計を見ながら、一花ちゃんが言った。

「そうだな……最後に何か、ひとつ乗らない? みんなが乗れる乗り物に」

 湊くんが提案すると、杏ちゃんがあたりを軽く見回す。

「あれとか、どうかしら?」

 杏ちゃんが指さしたのは、ミニモノレール。

 四人乗りくらいの小さい車両に乗って、園内を一周する乗り物だ。

「賛成!」

 みんながうなずいて、私たちは、乗り場へと向かった。


 前を行くモノレールには、湊くんと杏ちゃんと直幸くんが。

 その、ひとつうしろを行くモノレールには、私たち四つ子の四姉妹が乗っている。

「おーい」

「おーい」

 二つのモノレールの距離は、二十メートルくらい。

 二鳥ちゃんと杏ちゃんは、手をふりあったりして遊んでいたけど、じきにあきちゃったみたい。

 私たち姉妹を乗せたモノレールは、歩くのと同じくらいの速度で、街灯くらいの高さのところを、ゆっくりと進んでいく。

 私のとなりには一花ちゃん。正面には二鳥ちゃん。ななめ前には四月ちゃん。

 向かいあわせの席だ。

「あっ」

 地上を見ていた二鳥ちゃんが、ふいに声をあげた。

 視線を追って、私もハッとした。

 あそこを歩いている人。

 あの背中、佐歩子さんと武司さんだ。

 あゆむくんは、佐歩子さんにだきかかえられ、うとうとしてる。

 と思ったら、あゆむくん、ぱっちり目を覚まして、二鳥ちゃんのほうを見た!

「あゆむ、バイバイ」

 二鳥ちゃんが小さく手をふると、あゆむくんも、ねぼけまなこで一度だけ手をふって……。

 また、うとうと、ねむっちゃったみたい。

「今日のこと、あゆむ、大きなっても覚えてるかな?」

 二鳥ちゃんは楽しげに言ったけれど、心の中の様子まではわからない。

 私と一花ちゃんは、だまっちゃった。

 すると、四月ちゃんがポツリと言った。

「養父母さんをゆるせた二鳥姉さんは、本当に強い人だ」

「え?」

「だって……僕は、僕をいじめていた人たちのことをゆるそうなんて気持ちには、なれそうもないもの」

 二鳥ちゃんは、四月ちゃんの手を優しくにぎる。

「ゆるすのがいいことで、ゆるさないのが悪いことやなんて、うちは思わへん。うちがお母ちゃんとお父ちゃんをゆるせたのは、たまたまそういう気分になっただけ」

 それから、二鳥ちゃんは私たちのほうを向いて、少しはずかしそうに笑った。

「それにな、うちは一人やと全然強くない。ああしてふっきれることができたんは、みんながいてくれたおかげや。みんなといっしょにおったら強くなれた! ありがとうっ」

 それを聞いて、一花ちゃんも、私も、四月ちゃんも、みんなにっこりほほえんだ。

 そうだね。

 家族がいっしょなら、強くなれる。

 家族のためなら、勇気がわいてくる。

 私もそうだったよ。

 一花ちゃんも、四月ちゃんも、そうだったのかもしれない。

 私は姉妹に、笑いかけた。

「これからも、ずっとずーっと、家族でいようね」

「「「もちろん」」」

 私たちをつつむ、初夏の夕方の光は、まぶしいくらいキラキラしてる。

 みんないっしょに強くなろう。

 ずっとずっと家族でいよう。

 胸の中に、あたたかい決意が広がった。


気になる次巻・5巻上は、5月19日(月)にアップ予定! おたのしみに☆

書籍版や電子書籍版では、佐倉おりこさんのステキなさし絵が見られるよ。ぜひ書店さんや電子書籍ストアでチェックしてね!


書籍情報


作: ひの ひまり 絵: 佐倉 おりこ

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046319067

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