
銃を持った脱獄犯が、先生を人質に学校に立てこもってしまった! 事件を解決するために集まったのは、<世界一の特技>を持った小学生5人組⁉ 力を合わせて、凶悪犯をやっつけろ!
角川つばさ文庫の大人気シリーズ第1巻が、期間限定で1冊まるごと読めちゃうよ!
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1 最強の目覚まし時計
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遠くから、ウーウーと大きな音が頭の中に響いた。
……これ、何の音だっけ。
規則的にくりかえす、心がざわっとするサイレン。
救急車じゃなくて、消防車じゃなくて……。
パトカーだ。
徳川光一(とくがわ こういち)は、布団の上で、ぱっと目を開けた。
その時だった。
ドンドンドン!
部屋の外から、階段を駆けあがるけたたましい音が鳴りひびく。
光一が驚いて飛びおきた次の瞬間、弾けとびそうなほど勢いよく、バーンとドアが開いた。
「おはよう! 光一」
小柄な、すらりとしたシルエット。
部屋の入り口で、ショートカットの少女が勇ましい仁王立ちを決めていた。
「なんだ、起きてるじゃん。早く学校行こうよ。もう七時だよ?」
「はあ!? ま・だ・朝の七時だ! っていうか、すみれ。勝手に人の部屋に入るなよ」
もう小六だぞ?
こういう、デリカシーがないところはどうにかしてほしい。
けれど、言っても効果はないんだ。これが。
「別にいいじゃん。幼なじみなんだし」
光一の苦情にも、すみれは涼しい顔だ。トレードマークのショートパンツ姿で、廊下から光一の部屋にずかずかと足を踏みいれる。あちこちに積みあがった本を、勝手にぺらぺらとめくった。
光一は、はーっとため息をつく。
五井(ごい)すみれは家が隣同士、幼稚園に入る前からの古い幼なじみだ。
読書が好きな光一とは正反対で、グラウンドをいつも元気に走りまわっているタイプ。とにかく運動神経がバツグンで、いろんなクラブから引っぱりだこだ。
サッカー、野球、バスケなんかのチームでやる競技はもちろん、陸上や水泳みたいな個人競技でも、めちゃくちゃ強い。
しかも、けた外れに。
体育では一人勝ちしてしまうので、先生がいつもチーム分けに頭を悩ませている……なんてレベルじゃない。
すみれの家のリビングには、地区、東京都、全国、果ては世界大会でもらったトロフィーやら賞状やらが所せましと並んで、今にもはみだしそうになっている。
名実ともに、世界レベルの運動神経を誇るスポーツ少女というわけだ。
でも、一番得意なのは……。
「光一、そろそろ下りていらっしゃい」
一階から、光一の母、久美(くみ)の声が聞こえてくる。
「すみれちゃんも、もしよかったら、朝ごはんを食べていく? 光一の分と一緒に準備するわよ」
「わーい、ありがとうございます!」
すみれは歓声を上げて飛びあがると、光一を置いて再びドアまで舞いもどった。
ここに座りこんでいてもしょうがない。光一もパジャマ姿のまま、しぶしぶ布団からはいだす。
「朝ごはん、家で食べてきたんじゃないのか?」
「そりゃあ食べたけど、早朝からランニングして練習メニューをこなしたら、すっかりお腹減っちゃった」
「……それって食べす」
ぎ。
と言おうとした光一は、瞬時に走りこんできたすみれににらまれて、ぐっと言葉を飲みこんだ。
いつの間にか、しっかりとパジャマのえり元をつかまれている。
ヤバい。
「光一~!!」
すみれの目にもとまらぬ動きに合わせて、視界がぐんと回転し、体が宙に浮いた。
「必殺、一本背負い!」
「だから、〈世界一の柔道少女〉がぽんぽん投げ技なんか使うなって!」
毎日毎日、投げとばされる方の身にもなれ!
光一の体が、どしーんと布団に叩きつけられる。
すみれの元気いっぱいな声が、徳川家に響いた。
「一本!」