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ものがたり

注目シリーズまるごとイッキ読み!『ふたごチャレンジ!① 「フツウ」なんかブッとばせ!!』第5回 うちらって、わるい子?


あかねとかえでは、見ためがそっくりのふたご。親たちから「ちゃんと女の子らしく、男の子らしくなって」と無理強いされちゃった2人は、ある「チャレンジ」を思いついて……?
読むとスカッとして、心がちょっとラクになる大人気シリーズ①巻を、まるごと無料で連載中!

※これまでのお話はコチラから

 


15 うちらって、わるい子?


 うちらの部屋に着くと、かえでと真正面にむきあって、床にすわる。

 かえでと、ちゃんとむきあって話すのは、ひさしぶりだ。

 ……といっても、3日ぶりくらいだけど。

「あかね。なにがあったの?」

 かえでにきいてもらいたい。1人じゃかかえきれない。

 うちは涙をぬぐって、ゆっくりと話しはじめる。

「かえでとケンカしてから、ちがう学校の子なんだけど、仲よくなった男子がいて。今日で会うのは3回目だったんだけど……」



 うちと太陽は、今日もあの小さなグラウンドで待ちあわせをして、いっしょに遊んだり、趣味の話に花を咲かせたりしていた。

「お、あかねもあのマンガ好きなの?」

「うん、コミックスも全巻そろえた。引っ越ししても持ってきたよ!」

「俺も持ってる! やっぱり俺たち、気が合うね」

 まだ3回しか会っていないのに、もう何年ごしの友だちなんじゃないかって錯覚するくらい、打ちとけていた。だけど、そんなとき──。

「あそこにいるの、あかねじゃね?」

「ホントだ。よっ、あかねー! こんなとこでなにしてんだ?」

 声がして、ふりかえると、そこに同じクラスの男子たちが通りがかっていた。

「あ。──お、おう」

 うちはあわてて、こころもち声を低め、男らしい返事をする。

「となりにいるやつ、見たことない顔だな」

「ああ、別の学校の友だちだから」

「そっか。なあなあ、おまえ、あかねの妹には会ったことある?」

 クラスメイトの1人が話しかけると、太陽はにこやかに答える。

「ううん、ないよ」

 ……なんだか、イヤな予感がする。

 うちの不安をよそに、クラスメイトはかろやかにしゃべりつづける。

「ふたごでさ、あかねにマジでそっくりなんだ」

「でも、めちゃかわいいんだよな。一回見てみろよ、そこの兄貴に紹介してもらってさ」

 そう言って、クラスメイトはうちのほうに視線をやる。

 太陽が、不思議そうにつぶやく。

「兄貴……?」

 ……とうとう、おそれていたことが起こってしまった。

「兄貴って、あかねのこと?」

「え? そりゃそうだけど」と、クラスメイトが答える。

 ヤ、ヤバい、早く会話を終わらせないと。

「ほ、ほら、おまえら、そろそろいけよ。オレたち、2人で話すことがあるんだからさ」

「えー、なんだよ。まあいいけど。じゃあな、あかね」

 どうにか、クラスメイトを立ち去らせることができた。

 完全に姿が見えなくなると、うちはそっと胸をなでおろした。

 クラスメイトに性別を疑われはじめたら、一巻の終わりだから。

 でも、太陽は──。

 うちはおそるおそる、視線を動かす。

 太陽の顔は、これまでの人懐っこい表情から一転して、こわばっていた。

「あかね。兄貴って、どういうこと?」

「え、ええと……それは……」

 なんてごまかせばいい? いや、ごまかせない。

 うちが男子として学校にいってるのは、事実なんだし……。

 うちがためらっていると、太陽はうちの反応をうかがうように、そっとたずねる。

「もしかしてあかねって、本当は……男子だったの?」

「ううん……」

「でも、あかねの友だちはきみのこと、男として扱ってたよね?」

「それは、そうなんだけど……」

 どうしよう、どう説明すればいいんだろう。

 煮えきらないうちの態度に、太陽の顔つきが、けわしくなっていく。

「……わかった。最初から俺のことだまして、からかってたんだ」

 太陽の悲しそうな表情と怒りのこもった声が、うちにつきささる。

「ち、ちがう! ちがうよ!」

 あわててうちが首を振っても、太陽の心にはひびかなかった。

 すこしだるそうに、ゆっくりとベンチから腰をあげる。

「どうかな。……やっぱり、俺なんかに、本当の友だちなんて、できっこなかったんだ。じゃあね、あかね。今まで楽しかったよ」

 少しだけほほえんで、それっきりこちらを見ないまま、太陽はグラウンドのすみにおいてあった車いすに、腰をおろす。

 ゆっくりと遠ざかっていくその背中を、うちはただ、見送ることしかできなかった。


 ことのあらましを話し終えると、うちはうつむいたままつぶやく。

「うち、本当は太陽を呼び止めたかったの。でも、できなかった」

「どうして?」

「なんて言えばいいのかわからなかったし、そんな権利はないと思ったから。だって、うちがクラスメイトにウソをついていなければ、太陽を──大事な友だちを傷つけることはなかったんだもん。こういうのを、『ジゴウジトク』って言うんでしょ?」

「いや……そんなことは……」

 かえでは、次の言葉をさがしたまま、だまる。

「やっぱり、自分たちのためにみんなをだましてるうちらって……悪い子だよね。信じてくれてた友だちの気持ちを傷つけて……」

「……わからない……」

こんなことになるなら、チャレンジなんかしなければ──男の子のフリなんて、しなければよかった。ガマンして、女の子らしくしてたほうがマシだった……っ

 震える声といっしょに、胸のうちから後悔があふれでる。

 今まで、だれもうちのヒミツに気づかないことを、痛快だとさえ思って……気楽に男子生活をエンジョイしていたぶん、よけいにみじめだ。

 かえでは、ずっとこんな気持ちだったのかな。

 そういえば、『とりかえ』を始めてから、かえでの『とびきりの笑顔』が見られたのって……。

 思いかえしてみると、初めてスカートをはいた日。あれが最初で──最後だった。

 うちだけが、かえでの気持ちに見むきもせず、むじゃきに楽しんでたんだ。

「……あかね。まずはその子に、正直に事情を話そう」

「えっ、でも……!」

「それ以外、その子の誤解を解く方法はないでしょ。あかねはその子をからかおうとしたんじゃない。それだけでも伝えなきゃ。必要なら、ぼくも協力するから。連絡先は交換してるの?」

「連絡先はわかるけど……でも、もううちの話なんか、きいてくれないんじゃ……」

「やるだけやってみようよ」

 かえでの言葉にはげまされて、うちはそっとスマホをとりだす。

 アプリを開いて、太陽のアカウントにメッセージを送る。

 でも、30分待っても、既読さえつかない。

 思い切って電話をかけてみても、つながらなかった。

「やっぱり、出てくれないや……」

「そっか」

 ……やっぱり、太陽はもう、うちのことなんて、考えたくもないよね。

 胸はズキズキするけど、これ以上泣きつづけても、しかたない。

 ──かえでのためにも。

 うちはスマホから目をはなすと、涙をぬぐって、顔をあげた。

「かえで、ありがとね」

「ううん。なんの役にもたてなかったし」

「そんなことない。かえでがいてくれるだけで、すごく安心した」

 ……今なら、これまでのこと、ちゃんと謝れる。

「かえで、この前は、ひどいこと言ってごめん。うち、自分のやってることがまちがいだなんて、思いたくなくて……」

「ぼくのほうこそ、ごめん。あかねの言うことだって、まちがってないよ」

 そっくりの顔をそろえて、同時に思いっきり頭を下げて。

 もう一度顔を見あわせると、なんだかおかしくなってきた。

「ふふ、なんか変な感じ。かえでとケンカするなんて、初めてだもん」

「だね。良い経験になったんじゃない?」

「うちら、今まで仲がよすぎたんだよ!」

 ひとしきり笑ったあと、うちらは、どちらからともなく、ぎゅっとだきしめあった。

 やっぱり、かえでがいてくれると、すっごく、心強いなあ。

「ねえ……あかねはそれでも、今のままがいいんだよね?」

「そう思ってたんだけど……なんか、よくわからなくなっちゃった」

「ぼくも……。ぼくたち、どうすればいいんだろう?」


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