
あかねとかえでは、見ためがそっくりのふたご。親たちから「ちゃんと女の子らしく、男の子らしくなって」と無理強いされちゃった2人は、ある「チャレンジ」を思いついて……?
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※これまでのお話はコチラから
15 うちらって、わるい子?
★
うちらの部屋に着くと、かえでと真正面にむきあって、床にすわる。
かえでと、ちゃんとむきあって話すのは、ひさしぶりだ。
……といっても、3日ぶりくらいだけど。
「あかね。なにがあったの?」
かえでにきいてもらいたい。1人じゃかかえきれない。
うちは涙をぬぐって、ゆっくりと話しはじめる。
「かえでとケンカしてから、ちがう学校の子なんだけど、仲よくなった男子がいて。今日で会うのは3回目だったんだけど……」
◆
うちと太陽は、今日もあの小さなグラウンドで待ちあわせをして、いっしょに遊んだり、趣味の話に花を咲かせたりしていた。
「お、あかねもあのマンガ好きなの?」
「うん、コミックスも全巻そろえた。引っ越ししても持ってきたよ!」
「俺も持ってる! やっぱり俺たち、気が合うね」
まだ3回しか会っていないのに、もう何年ごしの友だちなんじゃないかって錯覚するくらい、打ちとけていた。だけど、そんなとき──。
「あそこにいるの、あかねじゃね?」
「ホントだ。よっ、あかねー! こんなとこでなにしてんだ?」
声がして、ふりかえると、そこに同じクラスの男子たちが通りがかっていた。
「あ。──お、おう」
うちはあわてて、こころもち声を低め、男らしい返事をする。
「となりにいるやつ、見たことない顔だな」
「ああ、別の学校の友だちだから」
「そっか。なあなあ、おまえ、あかねの妹には会ったことある?」
クラスメイトの1人が話しかけると、太陽はにこやかに答える。
「ううん、ないよ」
……なんだか、イヤな予感がする。
うちの不安をよそに、クラスメイトはかろやかにしゃべりつづける。
「ふたごでさ、あかねにマジでそっくりなんだ」
「でも、めちゃかわいいんだよな。一回見てみろよ、そこの兄貴に紹介してもらってさ」
そう言って、クラスメイトはうちのほうに視線をやる。
太陽が、不思議そうにつぶやく。
「兄貴……?」
……とうとう、おそれていたことが起こってしまった。
「兄貴って、あかねのこと?」
「え? そりゃそうだけど」と、クラスメイトが答える。
ヤ、ヤバい、早く会話を終わらせないと。
「ほ、ほら、おまえら、そろそろいけよ。オレたち、2人で話すことがあるんだからさ」
「えー、なんだよ。まあいいけど。じゃあな、あかね」
どうにか、クラスメイトを立ち去らせることができた。
完全に姿が見えなくなると、うちはそっと胸をなでおろした。
クラスメイトに性別を疑われはじめたら、一巻の終わりだから。
でも、太陽は──。
うちはおそるおそる、視線を動かす。
太陽の顔は、これまでの人懐っこい表情から一転して、こわばっていた。
「あかね。兄貴って、どういうこと?」
「え、ええと……それは……」
なんてごまかせばいい? いや、ごまかせない。
うちが男子として学校にいってるのは、事実なんだし……。
うちがためらっていると、太陽はうちの反応をうかがうように、そっとたずねる。
「もしかしてあかねって、本当は……男子だったの?」
「ううん……」
「でも、あかねの友だちはきみのこと、男として扱ってたよね?」
「それは、そうなんだけど……」
どうしよう、どう説明すればいいんだろう。
煮えきらないうちの態度に、太陽の顔つきが、けわしくなっていく。
「……わかった。最初から俺のことだまして、からかってたんだ」
太陽の悲しそうな表情と怒りのこもった声が、うちにつきささる。
「ち、ちがう! ちがうよ!」
あわててうちが首を振っても、太陽の心にはひびかなかった。
すこしだるそうに、ゆっくりとベンチから腰をあげる。
「どうかな。……やっぱり、俺なんかに、本当の友だちなんて、できっこなかったんだ。じゃあね、あかね。今まで楽しかったよ」
少しだけほほえんで、それっきりこちらを見ないまま、太陽はグラウンドのすみにおいてあった車いすに、腰をおろす。
ゆっくりと遠ざかっていくその背中を、うちはただ、見送ることしかできなかった。
ことのあらましを話し終えると、うちはうつむいたままつぶやく。
「うち、本当は太陽を呼び止めたかったの。でも、できなかった」
「どうして?」
「なんて言えばいいのかわからなかったし、そんな権利はないと思ったから。だって、うちがクラスメイトにウソをついていなければ、太陽を──大事な友だちを傷つけることはなかったんだもん。こういうのを、『ジゴウジトク』って言うんでしょ?」
「いや……そんなことは……」
かえでは、次の言葉をさがしたまま、だまる。
「やっぱり、自分たちのためにみんなをだましてるうちらって……悪い子だよね。信じてくれてた友だちの気持ちを傷つけて……」
「……わからない……」
「こんなことになるなら、チャレンジなんかしなければ──男の子のフリなんて、しなければよかった。ガマンして、女の子らしくしてたほうがマシだった……っ」
震える声といっしょに、胸のうちから後悔があふれでる。
今まで、だれもうちのヒミツに気づかないことを、痛快だとさえ思って……気楽に男子生活をエンジョイしていたぶん、よけいにみじめだ。
かえでは、ずっとこんな気持ちだったのかな。
そういえば、『とりかえ』を始めてから、かえでの『とびきりの笑顔』が見られたのって……。
思いかえしてみると、初めてスカートをはいた日。あれが最初で──最後だった。
うちだけが、かえでの気持ちに見むきもせず、むじゃきに楽しんでたんだ。
「……あかね。まずはその子に、正直に事情を話そう」
「えっ、でも……!」
「それ以外、その子の誤解を解く方法はないでしょ。あかねはその子をからかおうとしたんじゃない。それだけでも伝えなきゃ。必要なら、ぼくも協力するから。連絡先は交換してるの?」
「連絡先はわかるけど……でも、もううちの話なんか、きいてくれないんじゃ……」
「やるだけやってみようよ」
かえでの言葉にはげまされて、うちはそっとスマホをとりだす。
アプリを開いて、太陽のアカウントにメッセージを送る。
でも、30分待っても、既読さえつかない。
思い切って電話をかけてみても、つながらなかった。
「やっぱり、出てくれないや……」
「そっか」
……やっぱり、太陽はもう、うちのことなんて、考えたくもないよね。
胸はズキズキするけど、これ以上泣きつづけても、しかたない。
──かえでのためにも。
うちはスマホから目をはなすと、涙をぬぐって、顔をあげた。
「かえで、ありがとね」
「ううん。なんの役にもたてなかったし」
「そんなことない。かえでがいてくれるだけで、すごく安心した」
……今なら、これまでのこと、ちゃんと謝れる。
「かえで、この前は、ひどいこと言ってごめん。うち、自分のやってることがまちがいだなんて、思いたくなくて……」
「ぼくのほうこそ、ごめん。あかねの言うことだって、まちがってないよ」
そっくりの顔をそろえて、同時に思いっきり頭を下げて。
もう一度顔を見あわせると、なんだかおかしくなってきた。
「ふふ、なんか変な感じ。かえでとケンカするなんて、初めてだもん」
「だね。良い経験になったんじゃない?」
「うちら、今まで仲がよすぎたんだよ!」
ひとしきり笑ったあと、うちらは、どちらからともなく、ぎゅっとだきしめあった。
やっぱり、かえでがいてくれると、すっごく、心強いなあ。
「ねえ……あかねはそれでも、今のままがいいんだよね?」
「そう思ってたんだけど……なんか、よくわからなくなっちゃった」
「ぼくも……。ぼくたち、どうすればいいんだろう?」