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ものがたり

注目シリーズまるごとイッキ読み!『ふたごチャレンジ!① 「フツウ」なんかブッとばせ!!』第4回 やりたいこと、本当にできてる?


あかねとかえでは、見ためがそっくりのふたご。親たちから「ちゃんと女の子らしく、男の子らしくなって」と無理強いされちゃった2人は、ある「チャレンジ」を思いついて……?
読むとスカッとして、心がちょっとラクになる大人気シリーズ①巻を、まるごと無料で連載中!

※これまでのお話はコチラから

 


12 やりたいこと、本当にできてる?


「ええっ、柴沢くんが、ぼくのことを好きだって!?」

「そう、今日教えてもらったの。絶対かえでにふりむいてもらえる男になる! ってめちゃ燃えてたよ」

「ええええ~~~~」

 陽がようやく落ちてきた、夏の夕飯前の時間。

 うちが思いだしてその話をすると、かえではぎょっとしたように顔を青ざめさせた。

「どうするの、それ。ぼくが本当は男の子だって知ったら、柴沢くん、どんな気持ちになるか……」

「だからさ、藤司に告白するようにすすめるから、早めにフっておこうよ」

「フっておくって……。それで解決するような問題なのかな?」

「え? 恋なんて、フられたら、それでおしまいでしょ?」

 うちが、きょとんとしてそう答えると、かえでは深く息をはいた。

「……とりあえずあかねは、これ以上なにもしないで」

 かえでの顔色は、くもったまま。

 どうしちゃったんだろ?

「あーちゃーん、かえちゃーん、晩ごはんできたわよー!」

 うちが不思議に思っていると、おばあちゃんの声がとんできた。

「はーい、今いく!」

 2人でリビングに入ると、ジューシーなお肉のにおいが、ふわりとただよっていた。

 わーっ、ハンバーグだ! うち、大好物なの──。

 そう思ったままにしゃべりそうになって、うちはあわてて口をふさぐ。

 おばあちゃんの前では、かえでのフリをしないといけないから。

「わーっ、ハンバーグだ。うれしいな!」

 一方かえでは、うちのフリをしているから、大げさにハンバーグに反応する。

「あーちゃん、いつもおいしそうにハンバーグを食べてくれたのを、ふと思いだしてねぇ。あーちゃんのほうは大きめに作っておいたから、たんとお食べ」

「ありがとう、おばあちゃん」

 かえでは、ニコリと笑みをうかべてみせた。

 いただきますと手を合わせると、うちはさっそくハンバーグに手をつける。

 粗めのひき肉を使ってあるから、お母さんが作るのより肉々しくて、食べごたえがある。

 上にかかっている特製デミグラスソースも、ケチャップとはちがって、味に深みがある。

 うわあ、おばあちゃんのハンバーグも、すっごくおいしいなあ!

 ハンバーグをほおばる、手と口が止まらない。

 ……だけど、それを素直に言うわけにはいかなくて。

「ぼく、おばあちゃんの作ってくれたハンバーグ、好きだな」

 うちが、かえでとして気持ちを伝えるには、これくらいがせいいっぱいだった。

「あら、うれしいわ。あーちゃんは、どう?」

 おばあちゃんから見た『あかね(実際はかえで)』の皿を見ると、まだ2口ていどしか減ってなかった。

「……うん、すごくおいしい。もったいないから、少しずつ食べるね」

「ふふ、冷めないうちに食べてあげてね」

 おばあちゃんに見まもられながら、ちまちまと食べるかえで。

 かえでは食が細いし、お肉もあんまり好きじゃないからな……。

 うちは、おばあちゃんの目がかえでのハンバーグにむかないように、話をふる。

「ねえ、おばあちゃん。今日あかねが、体育の授業のサッカーで、5点も入れたんだよ」

 うちは自分のことを、ひとごとのように話す。

 おばあちゃんと話をするときは、いつもそうしないといけない。

「ええっ、すごいじゃない! あーちゃんは、運動が得意だものねえ」

 おばあちゃんのこの言葉がむけられるのは、当然、うちのフリをしているかえでだ。

 かえでは、ぎこちなくほほえむ。

「う、うん。かえでも、おえかきしてると、よくクラスメイトにほめてもらえるんだよ」

「そう。かえちゃんもすごいわね。将来は、画家さんかしら?」

「そ、そうかも? あはは……」

 そして今度は、うちがかえでとしてほめられる。

 なかなかややこしいし、なんだかもどかしい。

 ……ちゃんとうちの目を見て、うちのしたことを、ほめてほしいな。

 うちらのなんとも言えない反応に、おばあちゃんは少しさびしそうにまゆを下げる。

「なんだかあたし、2人のこと、子ども扱いしすぎているのかしらねぇ。いやな思いをさせていたら、ごめんね」

「そんなことないよ! う……ぼく、おばあちゃんのこと、大好きだもん!」

「ぼ……うちも!」

 2人であわててフォローすると、おばあちゃんはほっとしたように息をはいた。

「おばあちゃんも、あーちゃんとかえちゃんが、大好きよ」


 ──それから、うちは『かえで』として、おばあちゃんにいろいろな話をした。

 だけどかえでは、あいづちを打つくらいで、ほとんどだんまりだった。

 おばあちゃんがうちのために作ってくれた、特大ハンバーグを、どうにか食べ終えるまで。



 ごちそうさまをしてから、自分たちの部屋にもどると、ふぅとため息が出る。

 かえではなぜか、部屋のすみで体操ずわりで、ぼんやりしている。

 ムリやりハンバーグを完食したせいかな……。

「かえで、大丈夫? ハンバーグ、うちがこっそりもらえばよかったかな」

「……こっそりって、どうやって?」

「えーと、おばあちゃんになにかとりにいってもらって、そのスキにうちが食べるとか!」

「……」

 返事がない。そうとう気分が悪いのかも。

「ごめんねかえで、これからはそうするね」

「これから……。これからもずっと、おばあちゃんをだますの?」

「えっ……?」

 かえでは両手でひざを寄せ、体をさらにちぢめる。

「かえでったら、どうしたの? 夕食前も、なんか様子がおかしかったし」

「……」

「いくらふたごでも、だまってちゃわからないこともあるよ。ほら、言ってみなって」

 うちは、かえでによりそって、やさしく肩をたたく。

 すると、かえではポツリと、だけど重々しくつぶやいた。

「あかねとぼくの、今の生活……なにかがちがうと思わない?」

 なにかがちがうって……どういうこと?

 うちは首をかしげる。

「うちはべつに、思わないけど。だれにも文句を言われずに、やりたいことをやれるって、最高じゃん」

「ぼくも、最初はそう思っていたけど……本当に、やりたいことが自由にできてるのかな?」

「えっ……。できてるよ、そりゃあ」

 男子っぽい、ラフな黒パーカに半ズボン。

 思いっきりプレイできるようになったサッカー。

 男子にはたよりにされ、女子にはカッコいいといち目おかれる。

 男の子として学校生活を送りはじめてから、どれもがうまくいっているのだ。

 だけどなぜか、かえでにたずねられたとき、うちはドキッとした。

 うちが動揺したのを、かえでは見のがさなかった。

「……あかねだって、気づいてるんでしょ」

 かえでは立ちあがって、まっすぐうちを見つめる。

「ぼくたちは毎日、いろんな人にウソをついてすごしてる。そのおかげで、たしかにいろいろ気楽にできるようになったけど、そのぶん、できなくなったことだってある」

「な、なによ、できなくなったことって」

「ついさっきだって、あったじゃない」

「だから、口に出してもらわなきゃ、わかんないんですけど!」

 ハッキリと言わないかえでに、うちは口調を強める。

 かえではビクッとひるんだけど、すぐにもちなおして、よくとおる声を出した。

「おばあちゃんに、本当の気持ちを伝えられなくなったこと。自分の好きな食べもの、ひとつでさえね。ぼくは、それがすごくつらかった」

「そ、それは……」

 声が、ふるえる。

 ……うちだって、本当はもっと、ハンバーグのおいしさを、おばあちゃんに伝えたかった。

 体育の授業での活躍も、もっとほめてもらいたかった。

 うちが答えられないでいると、かえでは言葉をつづける。

「学校でだってそう。ヒミツがバレるのがこわくて、いつもまわりの子の言うことやすることに、びくびくしてるんだ……。それって、やりたいことができているの? 自分らしくいられているの?」

 かえでは、ほとんど、泣きそうだった。

「かっ、かえでが気にしすぎなだけよ。なにごとも、少しは上手くいかないところがあるに決まってるし、うちは今の生活に満足してる。かえでだって、そうでしょっ?」

「でも、『チャレンジ』をすることで、辻堂先生に左野先生、クラスメイト──特に柴沢くんには、すごく悪いことをしてる。おばあちゃんだってさっき、悲しませちゃったし……」

 かえでは目をふせ、まるで自分を責めるような表情をうかべている。

「かえではやさしすぎるんだって。他人のことより、自分のことを優先して考えなよ。ほら、今の生活なら、かわいい服を着て、うさぎのキーホルダーをつけて、おえかきやクラブも──」

 うちの話をさえぎるように、かえでは頭を左右にふり、両手でおおう。

「ぼくはこれ以上、自分のことだけ考えられない。好きなことがやれても苦しいんだ……っ!」

 そううったえるかえでは、誕生日会のときよりも、ひどい顔をしている。

 かえでの、こういう他人想いで、やさしいところは長所だって、うちはずっと思ってきた。

 でも、今は──……無性に、腹がたつ。

「……へえ、そう」

 自分でもビックリするくらい、冷たい声が出た。

 顔をあげたかえでは、まばたきをわすれて、うちを見つめている。

「つまりかえでは、『チャレンジ』をしてる、うちらのほうが悪いって言いたいんだよね?」

「……まあ……」

「じゃあさ、うちらがこんなことをしてるのは、どうして? ──お母さんとお父さんが、前の学校のクラスメイトが──みんなが、本当のうちらを認めてくれないからでしょっ!?」

 顔が、体が、心が、熱い。

 言葉にしていく中で、どんどん気持ちが高ぶっていく。

 ──うちは、自分たちのしていることがまちがってるなんて、思わない。

 うちらがまちがっているなんて、バカげてる。

 うちらはみんなの期待どおりに、元気な男の子とかわいい女の子になってあげてるんだもの!

「そ、それは……そうだけど……」

 さっきとは反対に、今度はかえでが口をつぐむ。

 反論できないみたいだ。

 うちは、皮肉をこめた笑みをうかべる。

「かえでは『イイ子』ね。お父さんもお母さんも、みんなよろこぶよ?」

 かえでは10歳になる前から、ずっとずっと、傷つけられてきたはずなのにね。

「あかね……」

「でもうちは、絶対、この生活を手ばなさない。もし、かえでがヒミツをバラしたりしたら、絶交だから

 うちはキッパリと言いはなつと、絶句するかえでに背をむけて、部屋から立ち去った。


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