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おまじないの力でひみつのお仕事☆『星にねがいを!』ためし読み連載 第4回

角川つばさ文庫の伝説級☆人気シリーズ『いみちぇん!』作者、あさばみゆきさんが書いてるシリーズ! 幼なじみの真ちゃんにコクハクしてフラれたわたし、日向ヒヨ。そんなとき、願いをかなえる魔法のノートが落ちてきた!? 使い魔のビヨスケと契約したはずなのに、わたしが使い魔になっちゃった! 困っていたら、真ちゃんが助けてくれて――? おまじないの力を借りて、ひみつのお仕事はじめます!(公開期限:2026年1月12日(月・祝)23:59まで)
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※これまでのお話はコチラから

 5 幸せ配達人に、なります!!


「ただいまぁ~!」

「おかえりぃぃ……。ヒヨォ、テーブルにおやつあるからねぇぇ……」

 仕事部屋から、ゾンビみたいなお父さんとお母さんの声が返ってきた。

 お、おお、今日もまだ、新作づくりは難航中なのかぁ……。

 マンガの原作担当のお母さんも、絵を描くお父さんも、二人そろってスランプ中みたい。

 わたしは、ろうかの『幸せ配達人☆ヨツバちゃん』のポスター前をとおりすぎ、リビングでおやつのお皿をゲット!

 そのまま階段をバタバタのぼって、自分の部屋に直行だ!

 後ろ手にドアを閉めたとたん。

 わたしはおやつをテーブルに置き、頭の上のビヨスケをわしっとつかんだ。

「ビヨスケッ、はやくフォーチュン・ノートのこと教えて!」

 目を輝かせるわたしの手から、ヒヨコ使い魔はするりと脱出。

 のしっとテーブルに乗りあげた。

「その前にいっぷく、おやつの時間だビヨ! 今日のおやつはな~にかな~ビヨ~♪」

「しょうがないなー、はい、半分コ」

 ラップをはずしたお皿から、今日のおやつを半分に割って、ビヨスケにわたしてあげた。

「ビヨッ!? こ、こりゃあなんだビヨ……!?」

「おむすびだよ。具はないけど、おいしいお米だよ。千葉のおじいちゃんが送ってくれたの」

 手のひらサイズのまんまるおむすび。

 さっそくもぐもぐ食べてるわたしに、ビヨスケはなぜだか半ベソかいてにらみつけてくる。

「オ、オレさまっ、長き眠りから覚めたあと、ずっと現代をリサーチしてまわってたビヨッ。窓のむこうの人間たち、おやつはケーキとかクッキーとか、きらきらしたもの食ってたビヨッ!」

「ビヨスケったらぜいたくだなぁ~。ほら見て! 今日はタクアン一きれついてるじゃん! 超ぜーたく! ウチはお父さんたちの新連載が始まるまで、朝も夜もおやつも、みーんな白米オンリーなのっ」

 がああんっ、とショーゲキを受ける使い魔。

 でもウチ、今ほんとにスーパー大ビンボーなんだよね。

 この新築ぴっかぴかの二階建ては、事務所&自宅として、『ヨツバちゃん』の連載でかせいだお金をぜ~んぶつぎこんで、ついでにだいぶ借金もして建てたもの!

 や~~、でもまさか、この夢の一軒家が、わたしが私立の小学校をやめて、区立に転校するきっかけになるとは思ってなかったよね。

 このあいだ、マンガを描いてた出版社がツブれて、同時に『ヨツバちゃん』も強制終了!

 借金を返せなくなった日向家は、急転直下のド・ビンボー!

 でもわたし、小さいころからずっと『ヨツバちゃん』を読んで育って、いまだに主人公のヨツバちゃんがあこがれの人だし、わたしこそが二人の作品の一番のファンだから。

 二人は今も新しいお話を作ってくれてるところだし、ビンボーぐらしもなんのそのだよ!

「それよかビヨスケ、早くフォーチュン・ノートのこと教えてってば」

「こんなおやつじゃ、やる気が出ないビヨォ……」

 モンク言いながらも、ビヨスケはもしゃもしゃおむすびを食べはじめる。

 息をつき、わたしもまた一口、はむっとほおばった。

「……おまえ、なにしてるビヨ?」

 ビヨスケがけげんに、わたしの手もとをのぞきこんできた。

 右におむすび、左には──お気にいりの、中華料理屋さんの出前チラシ。

「これ? 妄想おかずだよ」

「ビ、ビヨ……? 妄想おかず?」

「うん! 出前のチラシを凝視しながら食べるの。そしたらあらフシギ! ただの白いごはんが、中華のフルコースに早がわり!」

 わたしはまぶたを閉じてチャーシューの味を口の中に呼びおこす。

 ああっ、舌の上でほろほろ溶ける、一晩煮こんだジューシーなお肉さま……!

 うっとりエア・チャーシューを味わうわたしに、ビヨスケが哀しいイキモノを見る目になる。

「……ま、まぁ、オレさま優しいから、今日のおやつはこれでカンベンしてやるビヨ。それで、ノートの使い方を説明してほしいビヨね?」

「うんっ!」

 身を乗りだすわたしに、ビヨスケは羽の下からフォーチュン・ノートを取りだした。

 表紙に書かれた、「日向ヒヨ」と「ビヨスケ」の文字。

 わたしたちのケーヤクの証拠だ。またもや心拍数があがってきちゃったよ!

「さて、ヒヨはこれからノートを使って、人間の願いをかなえまくるビヨ。願いがかなった瞬間の、人間の『やったー!』っていう心のエネルギーが、このノートを通じてオレさまに魔力として送られ、どんどんオレさまを成長させていくわけだビヨ」

「なるほど……っ! つまり、心のエネルギーがビヨスケの栄養なんだね。……って、あれっ? なのにビヨスケ、なんでおむすびも食べてるの?」

「人間の食べ物食うのは、オレさまのシュミだビヨ。おいしいもの食うと幸せビヨね」

 ヘーゼンと言ってのけるビヨスケに、わたしはガクッとずっこけた。

 わたしの貴重なおやつ、分けてあげたのにっ!

「ともかく、ヒヨが人間の願いをたくさんかなえて、オレさまがいよいよ一人前になったら、それでノートの完成! ほうびにヒヨの願いをかなえてやれるビヨ」

「わかった。でもさ、ノートを使ってみんなの願いをかなえるって、どうやるの? これ、中身はぜんぶプロフ帳だけど……」

 わたしはおむすびをいったんお皿にもどし、フォーチュン・ノートを開いてみる。

 それはどう見てもやっぱり、ただのプロフ帳。

 魔法の呪文のひとつも書いてない。最後まで全部おんなじだ。

「そのプロフ帳を使うんだビヨ。それ、一ページごとに自由に切りはなしてもどせるようになってるビヨよ。願いのある人間にプロフ帳を書かせたら、『願いごと欄』に注目ビヨ!」

「ハイッ!」

 すかさずプロフ帳の下半分、ファンシーな字で題された「願いごと欄」に目をやる。

「ここに書かれた願いを、ヒヨがおまじないで、かなえてやるんだビヨ」

「ほうほう、なるほど~」

 コクコクうなずきながら聞いてて、わたしは「えっ」とカタまった。

「ま、待って! ノートが魔法でどうにかしてくれるんじゃなくて、わたしがかなえるの!?」

 と、ビヨスケはボリボリおなかをカキながら、へっ、とあきれた息をはく。

「あったりまえビヨ。これはそもそも、魔法使いの弟子が、魔法の『正しい組みたて方』を勉強しながら、自分の使い魔を育てるために使う『修行用』のノートなんだビヨ」

「で、でもわたし、魔法なんて使えないよ……?」

「だからヒヨは、おまじないで願いをかなえるんだビヨ。おまえトクイらしいビヨ?」

 ──おまじないで、願いをかなえる。

 そのフレーズを聞いたとたん、シナシナしてた心に、むくりと何かが起き上がった。

「おまじないってのは、魔法を一般人にも使いやすくしたもんだから、問題ないビヨ。ヒヨの考えたおまじないが『魔法的に正しい』ものだったら、フォーチュン・ノートから願いをかなえる力を引きだせるはずビヨよ。おまえアホそうだから、くわしいやり方は、実践しながら説明してやるビヨ。まずはターゲットを見つけて、プロフ帳を書かせるビヨよ」

「う、うん……」

 どきどきしながら、一応うなずく。

 と、ビヨスケはふわ~~あとマヌケなあくびをして、ごろんと寝ころがった。

「ほーんと、寝ぼうしたら、魔法がほろびた世の中になってるなんて、オレさまビックリだビヨ」

 そんなビヨスケを横目に、わたしは自分の手を開いて、まじまじと見つめた。

 ──おまじないでみんなの願いをかなえるなんて、わたしにできるかな。

 この前のコクハクは失敗しちゃったし、効いたんだか効いてないんだかビミョーな時もあるし。

 ……でも、おまじないをしなかったら、とてもコクハクする勇気なんて出せなかったと思う。

 そんなふうに、ちょっぴりだけど、あと一押しの勇気を分けてくれるおまじないが、わたし、とっても大好きで──。

「しかし、ヒヨ。最後の願いは、ほんとに『相馬真とのラブラブ生活♡』でいいビヨか?」

 ビヨスケのインパクト強すぎる言葉に、わたしはヒエッと悲鳴をあげる。

「ラ、ラブラブなんてそんな、はずかしいけどっ、だ、だけど、もしできたらそんな方向性で……っ」

 声をちっちゃくしつつも、うなずくわたし。

 するとビヨスケは、この世で一番あきれたヤツを見たって顔で、肩をすくめた。

「このノート、もっとすんごいのをかなえられるビヨ? 他のやつらに書かせるプロフ帳の願いごとだって、うまく相手をそそのかせば、おまえの思うがままに──、」

 わたしはビヨスケが言いたいことを察して、大きくうなずく。

「たしかに! ビヨスケの言うとおり、こんな無敵のノート、ちゃんと使い方を考えなきゃもったいないよね」

 ビヨスケが、ほう、と低い声をだして、ためすようにわたしを見た。

「ヒヨはこのノート、どう使うビヨ?」

 わたしはノートを両手に、ツバをのみこんだ。

 もちろん、自分も最後の願いをかなえてもらいたいって気持ちはある。

 だけど今はそれ以上に──、


「このノートで、わたし、みんなに笑顔と幸せを届ける、『幸せ配達人』になる!!」


 ノートを天井にかかげ、大声で口にする。

 そうだっ。そういうことだよね!

 わたしがおまじないを好きになったのは、「ヨツバちゃん」みたいに、自分がみんなを笑顔にできたらって、あこがれたからだ。

 言葉にしたとたん、できるかな、なんて迷ってた気持ちが、どっかにふっ飛んでいっちゃった。

 みんなの願いをかなえるって、それがおまじないでだって、リアル・ヨツバちゃん、そのものじゃんっ!

ずべっ。

 妙な音がして横を見たら、ビヨスケがおむすびの中に顔をつっこんじゃってる。

 どうしたんだろ、苦しくないのかな?

「な、なんだビヨ、その『幸せ配達人』とやらは……」

「うちの親が描いてたマンガのキャラクターのお仕事だよ! わたし、ずっとあこがれてたの!」

 心に熱くわきあがってくるワクワクする気持ちに、ぶるっと武者震い。

 対してビヨスケは、げっそりした顔で、ごっくんとおむすびを飲みくだす。

「……ソーですかビヨ。もう、それでいいビヨ。オレさまを一人前にさえしてくれりゃ……。それよか、ヒヨ。その皿のタクアン、オレさまによこせビヨ」

「えっ?」

 わたしはテーブルのお皿に、一枚っきりのった、キチョーなタクアンに目をやる。

「やっ、やだよ。これ、一枚しかないもんっ。ビヨスケ、食べなくても平気なんでしょ!?」

 わたしはお皿をビヨスケから遠ざける。

「使い魔のぶんざいでモンク言うなビヨ」

「使い魔……って、ビヨスケが使い魔でしょ。わたしは人間だよ」

 言いかえすと、ビヨスケはふひっと空気がぬけるような笑いをもらした。

「ヒヨ、おまえ契約書の内容を読まずにサインするなんて、人生破滅コースまっしぐらビヨ」

「えっ? それ、どういう意味?」

 あわてて聞いたわたしに、ビヨスケは使い魔──っていうより悪魔のほほえみを浮かべた。

 思わず体をひいたわたしに、ビヨスケは羽でビシッとこっちをさした。

「日向ヒヨ! オレさまにタクアンをよこせビヨ!」

「──!?」

 心の中では全力でイヤがってるのに、わたしの体はあやつり人形みたいに、勝手にビヨスケにお皿を差しだしちゃう!

「おお、サンキューだビヨ~」

 ビヨスケはほくほく顔で、わっ、わたしのっ、わたしの大事なタクアンを食べはじめる!

「ひどいよぉ! デザートにとっておいたのにー!」

 あっ、もう体が自由に動く!

 あわててクチバシからはみだした黄色いタクアンを取りかえそうとすると、

「日向ヒヨ! おまえはソコでおとなしく見てるビヨ」

 ビヨスケに名前を呼ばれたとたん、今にも愛しのタクアンをつかもうとしてた手が、すごいイキオイでビタンッと気をつけの姿勢に!

「こ、これっ、ビヨスケに名前を呼ばれると、体が勝手に言うこときいちゃうんだ!」

 クチバシのまわりに米つぶをつけた憎きビヨスケが、ぎょふふと笑う。

「ヒヨ、ノートの契約文の『主人』と『使い魔』の欄。逆のところに名前を書いたビヨ」

 さらりとスゴい大事なことを言われた気がして、目をしばたたいた。

「はっ!?」

 わたしがビヨスケに言われるままに名前を書いたとこ、「使い魔」の欄だった……? つまり、


 わたしがビヨスケの使い魔になっちゃったの!?


 信じたくないけど、実際、ビヨスケのあやつり人形状態だもんっ。ウソじゃないんだ!

 胃がきゅううっと冷たくなる。

「オレさま、人間の使い魔になるなんてゴメンだビヨォー。まんまとだまされて、笑えるビヨねぇ」

 ビヨスケは一枚きりのタクアンを、ごっくんと飲みこんじゃった!

 こっ、こんな契約、ジョーダンじゃないよ!!

 わたしは魔法のノートに飛びつき、表紙の「日向ヒヨ」の名前を、ゴシゴシゴシッと指でこする。

「フヒェヒェッ。そんなんで消えるわけないビヨよ~」

 あざ笑うビヨスケに、わたしはようやく、のっぴきならない事態になってるのを理解した。

「とり消してよぉっ、ビヨスケェ~!!」

「絶対イヤだビヨー」

 おしりふりふりおどるビヨスケに、わたしは悲鳴をあげ、あげたところでどーにもならなくて。

 ばたんっとテーブルにつっぷした。


****


つづきは
『星にねがいを!(1) ナイショの契約、むすばれちゃった!?』
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書籍情報


作: あさば みゆき 絵: 那流

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046319128

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