角川つばさ文庫の伝説級☆人気シリーズ『いみちぇん!』作者、あさばみゆきさんが書いてるシリーズ! 幼なじみの真ちゃんにコクハクしてフラれたわたし、日向ヒヨ。そんなとき、願いをかなえる魔法のノートが落ちてきた!? 使い魔のビヨスケと契約したはずなのに、わたしが使い魔になっちゃった! 困っていたら、真ちゃんが助けてくれて――? おまじないの力を借りて、ひみつのお仕事はじめます!(公開期限:2026年1月12日(月・祝)23:59まで)
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4 北校舎のヒミツ基地
パソコンをカタカタ、携帯ゲームのアプリを作る真ちゃん。
剣道の竹刀がわりに、そうじのほうきで素ぶりする冴ちゃん。
ハルルンはかろやかに、ダンスの自主練中だ。
そしてわたしは、真ちゃんがキーボードを打つ横顔を見つめながら、ウキウキ☆妄想タイム!
四人バラバラに自分の時間を楽しんでるココは、ほかにダレもいない、北校舎の屋上。
もともと男子二人のヒミツ基地だったんだけど、「おいでよ」って、わたしたちもこっそり誘ってもらったんだ。
以来、昼やすみは毎日この四人ですごしてる。
教室以外でこの男子超人気コンビと仲良くしてたら、「命がいくつあっても足りない(冴ちゃん談)」らしいから、チョー重大機密事項なんだけど。
でもさすがに、フラれたばっかで入れてもらうのは図々しいよね……って、今日はとびらの前でウロウロしてたんだ。
真ちゃんにまで「空気読めよ」って思われちゃうのは、さすがに悲しいもん。
だけど、あとからやって来た真ちゃんが、「早く入れば」って言ってくれて。
彼のふだんと変わらないようすに、すっごくホッとした。
それで、ちょうど伝えたいこともあったし、いそいそおジャマすることにしたんだ。
──というわけで。
「見てこれ! すっごいんだよ! マボロシでも、妄想でもなかったの!!」
鼻息あらくツメよるわたしに、三人は目をぱちくり。
パソコンとほうきとイヤホンを離し、なんだなんだと集まってきてくれた。
わたしがジャ~~ンッとかかげたのは、あの赤い表紙の「フォーチュン・ノート」!
「これ、本物の魔法のノートだよっ」
「「「……魔法の、ノート?」」」
「ホントだよっ。ホントに本物の使い魔が、このノートくれたんだよっ! すごいよね!」
みんなは顔を見合わせた。
「ツカイマ──ってなによ」
「ヒヨ子……、ワルいやつにだまされたりしてない? そのノート、無料でもらったわけ?」
「ヒヨの家の資料部屋から持ってきた本じゃないの?」
三人そろって、みごとなまでのウサンくさげな目。
わたしは、ンフフッとふくみ笑いする。
「だまされてないってば。使い魔っていうのは、魔法使いの手下の妖精みたいなヤツだよ。わたしがろうかで会ったのは、おっさんみたいなヒヨコ! それが、このノートをくれたの!」
三人はぽかん……として、仲良くおんなじ動きで、わたしがさしだしたノートに目を落とす。
いかにも魔法の本って雰囲気たっぷりの、それ。
「見たことない文字だ」
真ちゃんが急に目を輝かせ、ズイッと頭を近づけてきた。
「え? でもこれ、日本語……」
「日本語? とてもそうは見えないけど。どこらへんの言語体系だろう。興味深いな」
まさかこのウサンくさいぐらい分かりやすいノートの解説文、わたしにしか見えてない?
真ちゃんたちの目には、ぜんぶあのカクカク複雑な魔法の文字に見えてるんだろうか。
「中、見ていい?」
わたしは首をタテにふりながら、言われたとおり表紙をめくる。
でも中身は、ただのプロフ帳なんだよなぁ。
そしたらやっぱり、冴ちゃんが「なんだ」って笑った。
「魔法の本みたいなプロフ帳? またヒヨらしいのを選んできたわね」
あきれたように言う冴ちゃんに、ハルルンも笑う。
「わかった! ヒヨ子、これで友だち作るつもりだ! 女子、こういうの好きだもんねー」
「えっ、や、そういうワケじゃなくてねっ。このノートを使って、」
「ヒヨ! それ以上口にするなビヨ!」
重低音のカワイくない声が、頭上にひびいた。
同時に、ぼよんっと水風船がのっかったようなカンショク。
「出たっ、ビヨスケ!」
わたしは両手でわしっとビヨスケのおなかをつかまえる!
「なっ、なにするビヨッ! はなせビヨ!」
「ほら、これ! みんなっ、これがビヨスケだよ! ヒヨコの使い魔さんっ」
きらきら目を輝かせるわたしに、三人はいっせいに眉をひそめた。
そしてわたしの頭上と顔を、何度も交互に見くらべる。
「なんもないよ? ヒヨ子」
ハルルンがわたしの頭上に手をかざす。
その手がすかっと、ビヨスケがいるはずの場所を空ぶりした。
「──え?」
今、ハルルンの手、すりぬけた?
ビヨスケはわたしの手から脱出し、真ちゃんのヒザの前までゴロゴロ転がっていく。
「あっ、逃げちゃったっ。ほら、ここ!」
指さすわたしに、真ちゃんはゆっくりまばたき。
わたしの必死の表情を確認してから、ぱたん、とフォーチュン・ノートの表紙を閉じ──。
次の瞬間、ぶあついそのノートを、ビヨスケに向かって一気にふりおろす!
「ひえっ!?」
思わず悲鳴をあげるわたし。
バムッ!!
────あわれ、使い魔ビヨスケ。圧死にてご臨終……。
かと思いきや。
ビヨスケは、真ちゃんがたたきつけたノートの上にひょいっと乗りあげ、ムショーに腹立たしい動きのダンスをクネクネおどりはじめる。
「あれ? ──手ごたえがなかったな。どういうことだろう」
あごに手をあてて考えこむ真ちゃんをバカにするように、ビヨスケはおしりフリフリ。
「どーもこーもないビヨ~。人間ふぜいが、オレさまに攻撃なんてできるハズないビヨ~♪」
「も、もしかして、ビヨスケって、わたし以外、見えなくて、さわれないの!?」
「そうだビヨ。オレさま、魔法の才能がある人間以外には認識されないビヨよ~」
ぎょふふと重低音の笑い声。
……じゃあ。わたしはさっきから、なんにもない場所をつかまえようとしたり、一人でしゃべったり、相当ヘンなことしてるように見えてる……?
冴ちゃんなんて青くなって、わたしの正気を確かめようとひらひら目の前で手をふってる。
「だ、大丈夫なの? ヒヨ」
「あっ、あのねっ、見えないけど、ここに使い魔がいてっ。そんで、わたしとケイヤ──、」
「やめろビヨ」
ビヨスケが急におどりをやめて、わたしをにらんだ。
そのハクリョクに、わたしは言葉をつまらせる。
「日向ヒヨ。オレさまと結んだ契約内容を他人に話せば、そこで契約は終わり。オレさまはおまえの前から消えなきゃいけなくなるビヨ。ヒヨの願いごとも、二度とかなわないビヨよ」
えええ……っ、そうなの!? ってさけびをのみこんだ、その時だ。
頭上に、お昼やすみ終了のチャイムが鳴りひびいた。
みんなスピーカーを見上げる。
この北校舎からクラスのある南校舎までは、対角線の位置。走っていかなきゃ間に合わない。
「ヒヨ、保健室に行かなくて大丈夫? わたしつきそうわよ?」
立ち上がりながらも、冴ちゃんはまだ心配そう。
「やっ、大丈夫だよ。わたし、ええっと……、妄想がはかどりすぎちゃって、アッチの世界に行きかけてたみたいっ? で、でもっ、もう戻ってきた! 大丈夫! オール・オッケー!」
せいいっぱいのイイワケに、三人は顔を見合わせ、とにもかくにも階段を駆けおりる。
わたしの正気に安心したのか、階段をぐるぐる下りながら、冴ちゃんが息をついた。
「ヒヨって、おまじないとか魔法とかそういうの、ず~~っと好きよね」
「うんっ、だってわたし、『幸せ配達人☆ヨツバちゃん』になりたかったんだもん」
中庭まで駆けだして校舎の時計を見たら、あと一分で授業開始!
と、走りながらとなりに並んだ真ちゃんが、なつかしそうに言う。
「おまじないと言えばさ。ヒヨ、覚えてるかな。幼稚園の遠足でハイキングしたとき、すごく重たいリュックしょってきて、とちゅうから登れなくなったの」
あ、それ、ちょうどついさっき、朝の会のときに引っかかってた思い出だっ。
「そっか、あれ、お腹すいてたからじゃなくて、荷物が重かったからだったんだ!」
重たいリュック──って考えて、キオクがよみがえった。
「思い出した! リュックの中身は、」
「「「おまじないの、巨大おむすび!」」」
おさななじみ三人の声が、みごとに重なった。
「なにそれ?」
頭に「?」マークを飛ばすハルルンに、わたしは笑った。
「その日、占いでラッキーアイテムが『おむすび』だったんだ。で、お父さんたちに『すっっっっごいおっきいの作って!』ってお願いしたの! 特大のラッキーが来るかなって思って」
「そうしたら、リュックめいっぱいのサイズになったのよね」
冴ちゃんの補足に、うんうん、と首をタテにふる。
ごはん二回もたいて、お父さんとお母さん二人がかりでぎゅっぎゅっとにぎってくれて。
リュックいっぱいのおむすびに、超ワクワクしたなぁ。
真ちゃんと冴ちゃんにお世話になったけど、無事に山頂までたどりついて、クラス全員でわけあって食べた、おむすびのサイコーな味。思い出しちゃったよ。
ヨダレをじゅるるっとたらしそうになって、わたしは危うく口をぬぐう。
「リュックサイズのおむすびって、ヒヨ子も、ヒヨ子の親もスゴすぎんね」
ゲタ箱を駆けぬけながら、ハルルンは大笑い。
──冴ちゃんに真ちゃんにハルルン。
フォーチュン・ノートのことは説明できなくなっちゃったけど。
わたしがもしも「ヨツバちゃん」だったら、ぜったいに幸せを配達してあげたいなって思う、優しい、大好きな、大事な友だちなんだ!
第4回へつづく(12月18日公開予定)
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書籍情報
- 【定価】
- 814円(本体740円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046319128