角川つばさ文庫の伝説級☆人気シリーズ『いみちぇん!』作者、あさばみゆきさんが書いてるシリーズ! 幼なじみの真ちゃんにコクハクしてフラれたわたし、日向ヒヨ。そんなとき、願いをかなえる魔法のノートが落ちてきた!? 使い魔のビヨスケと契約したはずなのに、わたしが使い魔になっちゃった! 困っていたら、真ちゃんが助けてくれて――? おまじないの力を借りて、ひみつのお仕事はじめます!(公開期限:2026年1月12日(月・祝)23:59まで)
今ならスペシャルなSSが読めちゃう『絶対夢中☆あさばみゆきフェア』も開催中!
くわしくはコチラ!⇒https://yomeruba.com/campaign/present/entry-105013.html
※これまでのお話はコチラから
3 ブサイクひよこ、現る
週明け、しきりなおしの月曜日!
「ふだんどおりふだんどおりふだんどおり……」
ぶつぶつ唱えながら、ろうかを歩く。
フラれたばっかなのにとなりの席って、想像するだけでしんどい。
でも、フツーに「友だち」しなきゃ、真ちゃんをこまらせちゃうよね。
わたし、考えてることが全部顔に出ちゃうみたいだから、大丈夫かなぁ。
「本日一日、落ちついて行動できるおまじない」は、右足から教室に入るんだ。
よしっ、今日も一日がんばろうっ!
じゃーんっ! と右足で敷居を越えたところでポーズをとってると、
「……日向さん、またヘンなことやってる」
ぼそっと女子の声が聞こえた。
気づいたら、教だんの前に集まってる女子が、みんなコッチを見てる。
クラスの「お姫さま」宝生ありあちゃんと、球技クラブのエース、山本さんを中心にした、四人グループだ。
ありあちゃんは先祖にフランス人がいるそうで、亜麻色の髪の、まさにフランス人形みたいな女の子なんだ。
「おはよっ、みんな!」
シュビッと手をあげてあいさつすると、ありあちゃんは、咲きみだれるバラのまぼろしが見えるような、愛らしいほほえみを浮かべてくれた。
「おはよう、日向サン」
彼女に続いて、まわりの女子たちもパラパラとあいさつを返してくれる。
でもわたしが返事をするまえに、
「あ、ねぇねぇ。昨日のミュージック・ヘブン見た?」
ありあちゃんの話題に、みんなは彼女のほうへ顔をむけちゃう。
「TKG、すっごいカッコよかったよね~っ!」
「ハルルン、あんなセンパイのいる事務所に入ってるんだね~。ハルルンも、いつかあんなふうにテレビに出るようになっちゃうのかなー」
「うれしいけどさびしー! ハルルンにはあたしたちだけの王子さまでいてほしいのに~」
わたしも仲間に入りたくて、ひょこっと輪の外がわに顔を出す。
ハルルンって、同じクラスの「大河ハルキ」くんのことで、いつも真ちゃんと一緒にいる仲よしなんだ。
元気いっぱいのアイドル系男子で、通称「きらきら王子」。
実際、すでに芸能事務所に入ってるって聞いてる。
「ね、TKGってどんな人たちなのっ?」
会話のとぎれ目をねらい、すかさず話しかけてみたけど。
「あっ、そうだ! ハルルン、今度の合同ドッジ大会、選抜チーム入ってるもんねっ。きっとカッコイイとこ見られるよ~♡」
「ねー! ゼッタイ、他の学校のコたちにうらやましがられちゃうよー! どうしよっ」
みんなキャアッと盛りあがって、とうとう輪からハジき飛ばされちゃった。
合同ドッジ大会って、アレか。
冬休みまえに、近所の小学校を招待して、お楽しみ会をやるんだって。
今年の五年生はドッジボール大会で、ハルルンと冴ちゃんも選手になったって聞いてる。
わたしはフツーに応援要員だから、ありあちゃんたちに楽しい話題をふれるわけでもなし……。
話にまざるのをあきらめ、しょんぼり自分の席へ行って、しょんぼりイスに座った。
ほかの女子もそれぞれグループができちゃってて、わたしに背を向けてる。
ぽつ─んと、吹雪にとりのこされた子熊みたいな気持ちになっちゃった。
実はわたし、まだこの学校に、冴ちゃん以外の女子友だちがいないんだよぉぉっ!
冴ちゃんが言うには、転校初日の自己紹介から失敗しちゃってたんだそうだ。
「わたしは、冴ちゃんと真ちゃんのおさななじみですっ!」
って、地元の仲間感をアピールしたつもりだったんだけど。
それが真ちゃんファンの女子から「ハァ?」って大反感!
この学校では「天才少年・相馬真」を下の名前で呼んでる女子なんていなかったんだ。
後で気づいたけど、冴ちゃんですら、今は「相馬」呼びだった。
ホントわたし、空気読むのヘタだなぁ……。
そんなわけで、みんなあいさつくらいは返してくれるけど、ビミョーに遠巻き。
うわぁん、冴ちゃん、早く来てぇ~っ! さびしいよぉー!
嘆きながらランドセルを開けたところで、ギクッと固まった。
ランドセルの中に、ぴかーんと光る、ふたつの目が……ある?
「おまえ、オレさまが見えるビヨね……」
ズルッ、ズルッとはいずりでてくるのは、両手より大きい、水色の毛玉!?
バムッ!
音をたて、ランドセルのふたをしめた。
──なななななに今の!? 幻覚!? 幻聴!?
「おはよ、ヒヨ」
大パニックのわたしの上に、ゆったりテンポの静かな声がふってきた。
顔を上げると、そこにわたしの王子さま、真ちゃんが立ってる。
彼はいつもどおり、二重のまぶたを眠たげに細めて、あんまり表情のないクールな顔。
でも、わたしのまっさおな表情におどろいたのか、眉をクッと上げた。
「なにかあったの」
はげしく首をぶるるっと横回転させるわたし。
彼は教室の前のほう、こっちの様子をうかがってるありあちゃんたちに目を走らせた。
彼女たちは真ちゃんと視線がぶつかって、はずかしそうにササッと目をそらす。
「……なんにもないならイイけど」
真ちゃんはわたしのとなりの席に腰をおろし、授業のしたくをはじめた。
わたしももう一度、こわごわランドセルのふたを開けてみる。
あの水色の生き物は……いない!
シパパパッとまばたきをくりかえした。
「ヒヨ?」
「あ、あのね。さっきランドセルに、なんかヘンなのが……」
「ヘンなの?」
真ちゃんはいぶかしげに首をかしげ、ランドセルに顔を近づけてくる。
「ふつうに、教科書とか入ってるだけだけど」
「だよねぇ」
わたし、とうとう妄想と現実の区別がつかなくなっちゃった?
けげんそうな真ちゃんと、正面から視線がぶつかった。
おでこのぶつかりそうなキョリにある、夜明けの空みたいな、紺色の瞳。
とたん──、フシギ生物のせいでふっ飛んでた「昼やすみの大失恋劇」が、頭にフラッシュバックしてきた!!
「ひょえっ」
激しくうしろに下がったとたん、イスがぐらぁっと揺れて──っ。
これ、後ろにバッターンッて倒れるヤツだ!?
「わっ、ヒヨ!」
真ちゃんの手が、ガシッとわたしの腕をつかんでくれた。
でもイキオイは止まらず、視界がそのまま傾いていく!
真ちゃんを巻きこんでヒックリ返るなんて、絶対いやだ!!
「ふんぬぅっ!」
火事場のバカ力、わたしはブリッジで着地すべく両腕をふりあげる!
「バカッ、手首を骨折……!」
いっしょに倒れこみながら真ちゃんが青くなった瞬間、
「おはよー」
明るくさわやかな声が、後ろにひびいた。
同時に、ブリッジ間近の頭をガシッとつかみ止められる!
「なーにやってんの、ヒヨ子。今日も朝からゲンキだなぁ」
「ほえっ」
わたしの後ろ頭と真ちゃんの肩を、力強くつかむ腕。
それをたどっていくと──、後光がまぶしい美少女──じゃなかった、美少年がほほえんでる。
品のいい子ネコみたいな、ツヤツヤの髪。
大きなくりっとした瞳は、ばっさばさのまつげで飾られてる。
ウワサの「きらきら王子」こと、ハルルンだ。
「おはよ、真」
ばちーん☆と、星が飛びだしてきそうな、アイドル・ウィンク。
「はよ、ハルキ」
二人はあいさつを交わしながら、イスをわたしごと元にもどしてくれる。
どっどっどっと鼓動が鳴りやまないのは、転びかけたからってより、真ちゃんのドアップが、フラれたての心臓によろしくなかったからだ。
あああありがとうとしどろもどろのお礼をして、わたしはイスの上でちっちゃくなる。
わたしたち三人、横ならびのとなり席なんだ。
ハルルンが来てくれて助かったよ。
さすがにわたし、まだ真ちゃんの前でふだんどおりは難しいみたい。
真ちゃんと目が合って、思わずサッと下を向いちゃった。
「なに、ヒヨ子、朝ごはん、くさったモノでも食べちゃった? おとなしくない?」
反対がわのとなりから、ハルルンが首をかしげてわたしをのぞきこんでくる。
「ううんっ、ゲンキだよ! ふだんどーり、超ゲンキ!」
「そ? あれ、冴はまだなんだね」
「冴ちゃんは今日、剣道の道場寄るから、先に行っててって」
「あ、だからドッジの朝練いなかったのか。じゃあヒヨ子、さびしーね。ヒヨ子も剣道始めたら?」
「や~、わたし、体力はあるけど、運動シンケーつながってないんだよねぇ」
ハルルンとワキアイアイしてると、急に真ちゃんがガタッと席から立ち上がった。
「どしたの、真。もうすぐ先生来るよ」
「うん。でもオレはジャマだろうから」
ろうかに出て行ってしまう真ちゃんに、ハルルンとわたしはきょとんと顔を見合わせる。
でも、スグに思いあたって、血の気がつま先まで急降下!
真ちゃんに、迷惑ガラレテイル……!!
先週フラれたばっかりなのに、ふだんどおりでいようなんて、図々しかったんだ!
ショックのあまり、脳内にゴーン、ゴーン、ゴーン、とお寺の鐘の音がひびいた。
そうだよ。血液型占いによると、AB型男子は細やかな心の持ち主。
ベタベタした人間関係はニガテだって。
わたし今まで、AB型の真ちゃんがイヤなことをやりまくってたかもしれない……!
彼がいつも静かに話を聞いてくれるからって、おまじないのことをペラペラしゃべったり。
転校してくるなり、真ちゃん真ちゃんって、昔とかわらない調子で声かけたり。
だいたい幼稚園のときだって、いっつも真ちゃんに迷惑かけてたよね。
ふいに頭に浮かんできた景色は、山の斜面をひいひい登りながら、なぜか真ちゃんと冴ちゃんが、背中を一生懸命押してくれてるシーン。
あの時も、カラダの弱い真ちゃんにアウトなことしちゃったよ……。
でも、あれ? なんであんなコトになったんだっけ?
万年健康皆勤賞のわたしが真ちゃんを押すならともかく、逆ってなんで?
う~ん、思い出せない……。おなかがすいて、エネルギーぎれだったとか?
「……さん。ひーなーたーさんっ!」
「ほへっ」
つくえからパッと顔を上げたら、目の前に先生のにっこり笑顔。
「日向さん。起きてますか?」
まわりを見まわしたら、山本さんが前に出て、黒板に「地域合同ドッジボール大会について」って書いてるところ。
いつの間にか、真ちゃんもとなりの席にもどってきてて、あーあって顔だ。
「おっ、およ!? もう朝の会!? わたし、時間ワープしちゃいました!?」
びっくり仰天、目を見開くわたしに、先生の笑顔にミシミシとヒビが入っていったのでした。
***
日向ヒヨ、転校三ヶ月目にして、初・ろうかに立たされ体験をしております。
教室から聞こえてくる自分ぬきの授業の声が、とってもせつない。
「今朝のニュースの占い、おひつじ座が最下位だったもんな……」
ぼそっとつぶやいた、その時だ。
ビヨッビヨッビヨ……。
この声……! さっきランドセルの中から聞こえてきたのと同じ!?
地響きみたいな笑い声の出どころをさがして、すばやく周りに視線をめぐらせる。
すると、
ぼにゅっ!
水の入ったボールみたいなものが、頭の上に降ってきた!
じっとりナマあったかい……、重たいカンショク。
「ぎょえっ!? ななななに!?」
悲鳴をあげて「それ」をワシづかみ、思いっきりぶん投げる!
べしょっと窓ガラスにぶつかり、ゆかに落っこちたのは……、
やっぱり直径二十センチくらいの、水色の毛玉だ。
なんだ、あれ? つかめたってコトは、妄想の産物とかマボロシじゃ……な、ない?
「日向さん! 静かに!!」
「ひゃい!」
カベのむこうから飛んできた先生の声に、わたしは肩をハネあげる。
でもでもでもっ、今、異世界の生物とソーグー中でして……っ!
水色の毛玉はゆかに落ちたまま、ぴくりともしない。
わたしはクローバーのヘアゴムをにぎりしめ、おそるおそる毛玉に一歩二歩、近づいてみる。
「もしも~し。あのぉ、生きてますかぁ……」
その「水色」は、あちこちもつれた毛玉でグシャグシャ。なんだかバッチイ。
野生のナニカ? いきなり噛みついてきたりしない?
そ~~っと足を伸ばし、エイヤッとウラと表を引っくり返してみた。
すると現れたのは、毛玉のなか、ゆかにツブれたほっぺたの間に、黄色いクチバシ。
それに、両がわに羽らしきカタマリ。
「ヒ、ヒヨコ……? ものすごい巨大だけど」
のぞきこもうと顔を近づけたとたん、
「おおっと、うっかり寝ちまったビヨ!」
毛玉のなかで、クワッと白目が開いた!
「ぎゃっ!」
ビックリして尻もちついちゃった。
毛玉は、細いハリガネみたいな足でのっそり立ち上がる。
力強く広げた両羽は、短くて丸い。
(たぶん)ヒヨコだ!
「おまえ……、やっぱりオレさまが見えるビヨね」
いや、ヒヨコじゃない! ヒヨコは日本語しゃべらないっ。
ゆらりゆらりと近づいてくる、おっさん声のフシギ生物。
「ああああの、わたしに何のご用でしょうかっ」
「日向ヒヨ。オレさまと契約しろビヨ」
「ケ、ケーヤク?」
「オレさまが見えるということは、おまえには才能があるビヨ」
そう言いながら、フシギ生物は羽の下からズルッ……と何かを取りだした。
出てきたのは、赤い表紙の──フォーチュン・ノート!
「ええっ!? わたし、それ、ランドセルに入れてたはずなのに!」
「ふんっ。このノートはオレさまのものだビヨ。そしてオレさまは、偉大なる大魔法使いが生みだした、尊くもかしこき、使い魔さまビヨ! このくらいワケないビヨ!」
「ま、魔法使い? 使い魔っ?」
使い魔って、魔法使いのお手伝いをする、マスコットみたいな動物とか精霊のことだよね。
わたし、おまじない大好きッコとしては、そのヘンくわしいよっ!
魔法使いって、おまじないのプロみたいなモノだもん。
「じゃあ、そのノート、本物なの!? ただのプロフ帳じゃなくて!?」
「ただのプロフ帳とは失礼ビヨね。オレさまが現代人でも使いやすいように、魔法書をファンシィ~♡に改良してやったんだビヨよ。現代ではこういうのがハヤッてるビヨ?」
さすがのわたしも、目が点だ。
プロフ帳みたいな「魔法のノート」をかかえた、ブキミなヒヨコ。
それが、わたしを見上げてニヤニヤしてる。
「ってことは、キミも本物の使い魔さんなの……? ホントの魔法使いが創りだした……?」
「そうだビヨ。畏れあがめたてまつれビヨ」
「──うん!!」
わたしはイキオイよく両ヒザをゆかにつき、ぐわしっとヒヨコの体をつかんだ。
そして拝むように天にかかげる。
「すごい! 使い魔さんに会えたの、生まれて初めてだよ! 信じ続けてよかったぁっ!!」
きらきらどころかぎらぎら瞳を輝かせるわたしに、ヒヨコはひくっとクチバシをゆがめる。
「おおお……、おまえ、怖がるかと思いきや、なんか考えてたのとちがうビヨね……。まぁいいビヨ。とにかくおまえと契約してやるビヨ。裏表紙の、オレさまプロデュースの親切な解説文は読んだビヨね? この魔法のノートはまだ未完成ビヨ。もしもおまえが、たくさんの人間の願いをかなえることで、ノートを完成させられたら。──ほうびに、オレさまが一つだけ、なんでもおまえの願いをかなえてやるビヨ!」
「ホントに!?」
「ホントだビヨ。その表紙の下のあいてる欄、そう、そこだビヨ。まちがえるなビヨ? そこにおまえの名前をサインし、使い魔のオレさまに名を与えれば、オレさまたちの契約は完成し──、」
「えーと、じゃあ、使い魔さんの名前は『ビヨスケ』で!」
とっさに考えたにしては、うん、ビヨスケってぴったりな気がするよっ。
このヒヨコの、ビミョーにかわいくない感じが出てる。
もう表紙に「日向ヒ」までペンを走らせてるわたしに、ヒヨコ使い魔──あらため、ビヨスケは凍りつく。
「おまえっ、大事な話ビヨ! 迷うとか驚くとか、正しいリアクションがあるはずビヨ!?」
「だって、願いをかなえてくれるんでしょ? それに魔法使いになれるなんて、迷う必要ないもん。やぁ、まさかわたしに魔法使いの才能があるなんてなぁ~」
てれてれ頭をかくわたしを、ビヨスケはヘッとあざ笑った。
「調子にのるなビヨ。おまえが偉大な魔法使いなんてなれるわけないビヨ。おまえにあるのは、『使い魔の使い魔』になれる才能ていどビヨ」
わたしはビヨスケの話を右から左に聞きながしながら、ワクワク、いつもより三倍キレイな字で、「日向ヒヨ」の「ヨ」の最後の一画を書きおえる。
その時、視界のハシで、ビヨスケがにんまり笑った気がした。
どうしたの? って聞こうとしたとたん。
「うひゃああっ!?」
魔法のノートから、まっしろの光があふれだす!
「日向さんっ!!」
激怒の先生の声とともに、ガラッと教室の戸が開いた。
腕で顔をおおってしゃがみこんだわたしは、ぱちぱち目をまたたく。
──あれ。光が消えてる。
「なにやってるの、日向さん」
「あっ、そのっ。先生、今、ヒヨコの使い魔とケーヤクを……」
「はぁ?」
先生はメガネのふちを持ち上げて、ろうかを見まわす。
わたしもすぐそこのビヨスケに目をもどし──、
「あれっ? いない!」
たしかにさっきまで、あのおっさんヒヨコがいたはずなのに!
「なに言ってるのかわからないけど……。もういいわ、教室にもどって」
戸口でため息をつく先生のうしろから、女子のくすくす笑う声が聞こえてくる。
およよ? 昼間から、夢見てた……のかな?
立ちあがろうとして、足もとに落ちてる赤い表紙の本に動きを止めた。
やっぱ……夢じゃない!
わたしはフォーチュン・ノートを隠すように抱きこみ、あわてて教室の戸をくぐる。
「はーい、みんなザワザワしない。授業再開しますよ」
先生は手をたたき、さっそく黒板に向かう。
算数の教科書を読んでるフリをしながら、胸がスキップしてる。
ひざの上のノートには、さっきわたしが書いた「日向ヒヨ」の名前。
その下──、いつのまにか「ビヨスケ」って文字が浮かびあがってる!
契約、ほんとに成立したんだ……!
ノートを完成させられたら、わたしの願い、かなえてもらえる。
ノドまでこみあげてくるドキドキに、わたしはぶるるっと体を震わせた。
わたし、まだ真ちゃんのことあきらめなくてもいいのかもしれないよ!
第3回へつづく(12月16日公開予定)
書店で買ってレシートをKADOKAWAアプリで読み込むとスペシャルなSSが読めちゃうフェアも開催中だよ♪
(レシート対象期間:2025年11月10日(月)~2026年1月31日(土))
くわしくはコチラ!⇒https://yomeruba.com/campaign/present/entry-105013.html
書籍情報
- 【定価】
- 814円(本体740円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046319128