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おまじないの力でひみつのお仕事☆『星にねがいを!』ためし読み連載 第2回

角川つばさ文庫の伝説級☆人気シリーズ『いみちぇん!』作者、あさばみゆきさんが書いてるシリーズ! 幼なじみの真ちゃんにコクハクしてフラれたわたし、日向ヒヨ。そんなとき、願いをかなえる魔法のノートが落ちてきた!? 使い魔のビヨスケと契約したはずなのに、わたしが使い魔になっちゃった! 困っていたら、真ちゃんが助けてくれて――? おまじないの力を借りて、ひみつのお仕事はじめます!(公開期限:2026年1月12日(月・祝)23:59まで)
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※これまでのお話はコチラから

 3 ブサイクひよこ、現る


 週明け、しきりなおしの月曜日!

「ふだんどおりふだんどおりふだんどおり……」

 ぶつぶつ唱えながら、ろうかを歩く。

 フラれたばっかなのにとなりの席って、想像するだけでしんどい。

 でも、フツーに「友だち」しなきゃ、真ちゃんをこまらせちゃうよね。

 わたし、考えてることが全部顔に出ちゃうみたいだから、大丈夫かなぁ。

「本日一日、落ちついて行動できるおまじない」は、右足から教室に入るんだ。

 よしっ、今日も一日がんばろうっ!

 じゃーんっ! と右足で敷居を越えたところでポーズをとってると、

「……日向さん、またヘンなことやってる」

 ぼそっと女子の声が聞こえた。

 気づいたら、教だんの前に集まってる女子が、みんなコッチを見てる。

 クラスの「お姫さま」宝生ありあちゃんと、球技クラブのエース、山本さんを中心にした、四人グループだ。

 ありあちゃんは先祖にフランス人がいるそうで、亜麻色の髪の、まさにフランス人形みたいな女の子なんだ。

「おはよっ、みんな!」

 シュビッと手をあげてあいさつすると、ありあちゃんは、咲きみだれるバラのまぼろしが見えるような、愛らしいほほえみを浮かべてくれた。

「おはよう、日向サン」

 彼女に続いて、まわりの女子たちもパラパラとあいさつを返してくれる。

 でもわたしが返事をするまえに、

「あ、ねぇねぇ。昨日のミュージック・ヘブン見た?」

 ありあちゃんの話題に、みんなは彼女のほうへ顔をむけちゃう。

「TKG、すっごいカッコよかったよね~っ!」

「ハルルン、あんなセンパイのいる事務所に入ってるんだね~。ハルルンも、いつかあんなふうにテレビに出るようになっちゃうのかなー」

「うれしいけどさびしー! ハルルンにはあたしたちだけの王子さまでいてほしいのに~」

 わたしも仲間に入りたくて、ひょこっと輪の外がわに顔を出す。

 ハルルンって、同じクラスの「大河ハルキ」くんのことで、いつも真ちゃんと一緒にいる仲よしなんだ。

 元気いっぱいのアイドル系男子で、通称「きらきら王子」。

 実際、すでに芸能事務所に入ってるって聞いてる。

「ね、TKGってどんな人たちなのっ?」

 会話のとぎれ目をねらい、すかさず話しかけてみたけど。

「あっ、そうだ! ハルルン、今度の合同ドッジ大会、選抜チーム入ってるもんねっ。きっとカッコイイとこ見られるよ~♡」

「ねー! ゼッタイ、他の学校のコたちにうらやましがられちゃうよー! どうしよっ」

 みんなキャアッと盛りあがって、とうとう輪からハジき飛ばされちゃった。

 合同ドッジ大会って、アレか。

 冬休みまえに、近所の小学校を招待して、お楽しみ会をやるんだって。

 今年の五年生はドッジボール大会で、ハルルンと冴ちゃんも選手になったって聞いてる。

 わたしはフツーに応援要員だから、ありあちゃんたちに楽しい話題をふれるわけでもなし……。

 話にまざるのをあきらめ、しょんぼり自分の席へ行って、しょんぼりイスに座った。

 ほかの女子もそれぞれグループができちゃってて、わたしに背を向けてる。

 ぽつ─んと、吹雪にとりのこされた子熊みたいな気持ちになっちゃった。


 実はわたし、まだこの学校に、冴ちゃん以外の女子友だちがいないんだよぉぉっ!


 冴ちゃんが言うには、転校初日の自己紹介から失敗しちゃってたんだそうだ。

「わたしは、冴ちゃんと真ちゃんのおさななじみですっ!」

 って、地元の仲間感をアピールしたつもりだったんだけど。

 それが真ちゃんファンの女子から「ハァ?」って大反感!

 この学校では「天才少年・相馬真」を下の名前で呼んでる女子なんていなかったんだ。

 後で気づいたけど、冴ちゃんですら、今は「相馬」呼びだった。

 ホントわたし、空気読むのヘタだなぁ……。

 そんなわけで、みんなあいさつくらいは返してくれるけど、ビミョーに遠巻き。

 うわぁん、冴ちゃん、早く来てぇ~っ! さびしいよぉー!

 嘆きながらランドセルを開けたところで、ギクッと固まった。

 ランドセルの中に、ぴかーんと光る、ふたつの目が……ある?

「おまえ、オレさまが見えるビヨね……」

 ズルッ、ズルッとはいずりでてくるのは、両手より大きい、水色の毛玉!?

バムッ!

 音をたて、ランドセルのふたをしめた。

 ──なななななに今の!? 幻覚!? 幻聴!?

「おはよ、ヒヨ」

 大パニックのわたしの上に、ゆったりテンポの静かな声がふってきた。

 顔を上げると、そこにわたしの王子さま、真ちゃんが立ってる。

 彼はいつもどおり、二重のまぶたを眠たげに細めて、あんまり表情のないクールな顔。

 でも、わたしのまっさおな表情におどろいたのか、眉をクッと上げた。

「なにかあったの」

 はげしく首をぶるるっと横回転させるわたし。

 彼は教室の前のほう、こっちの様子をうかがってるありあちゃんたちに目を走らせた。

 彼女たちは真ちゃんと視線がぶつかって、はずかしそうにササッと目をそらす。

「……なんにもないならイイけど」

 真ちゃんはわたしのとなりの席に腰をおろし、授業のしたくをはじめた。

 わたしももう一度、こわごわランドセルのふたを開けてみる。

 あの水色の生き物は……いない!

 シパパパッとまばたきをくりかえした。

「ヒヨ?」

「あ、あのね。さっきランドセルに、なんかヘンなのが……」

「ヘンなの?」

 真ちゃんはいぶかしげに首をかしげ、ランドセルに顔を近づけてくる。

「ふつうに、教科書とか入ってるだけだけど」

「だよねぇ」

 わたし、とうとう妄想と現実の区別がつかなくなっちゃった?

 けげんそうな真ちゃんと、正面から視線がぶつかった。

 おでこのぶつかりそうなキョリにある、夜明けの空みたいな、紺色の瞳。

 とたん──、フシギ生物のせいでふっ飛んでた「昼やすみの大失恋劇」が、頭にフラッシュバックしてきた!!

「ひょえっ」

 激しくうしろに下がったとたん、イスがぐらぁっと揺れて──っ。

 これ、後ろにバッターンッて倒れるヤツだ!?

「わっ、ヒヨ!」

 真ちゃんの手が、ガシッとわたしの腕をつかんでくれた。

 でもイキオイは止まらず、視界がそのまま傾いていく!

 真ちゃんを巻きこんでヒックリ返るなんて、絶対いやだ!!

「ふんぬぅっ!」

 火事場のバカ力、わたしはブリッジで着地すべく両腕をふりあげる!

「バカッ、手首を骨折……!」

 いっしょに倒れこみながら真ちゃんが青くなった瞬間、

「おはよー」

 明るくさわやかな声が、後ろにひびいた。

 同時に、ブリッジ間近の頭をガシッとつかみ止められる!

「なーにやってんの、ヒヨ子。今日も朝からゲンキだなぁ」

「ほえっ」

 わたしの後ろ頭と真ちゃんの肩を、力強くつかむ腕。

 それをたどっていくと──、後光がまぶしい美少女──じゃなかった、美少年がほほえんでる。

 品のいい子ネコみたいな、ツヤツヤの髪。

 大きなくりっとした瞳は、ばっさばさのまつげで飾られてる。

 ウワサの「きらきら王子」こと、ハルルンだ。

「おはよ、真」

 ばちーん☆と、星が飛びだしてきそうな、アイドル・ウィンク。

「はよ、ハルキ」

 二人はあいさつを交わしながら、イスをわたしごと元にもどしてくれる。

 どっどっどっと鼓動が鳴りやまないのは、転びかけたからってより、真ちゃんのドアップが、フラれたての心臓によろしくなかったからだ。

 あああありがとうとしどろもどろのお礼をして、わたしはイスの上でちっちゃくなる。

 わたしたち三人、横ならびのとなり席なんだ。

 ハルルンが来てくれて助かったよ。

 さすがにわたし、まだ真ちゃんの前でふだんどおりは難しいみたい。

 真ちゃんと目が合って、思わずサッと下を向いちゃった。

「なに、ヒヨ子、朝ごはん、くさったモノでも食べちゃった? おとなしくない?」

 反対がわのとなりから、ハルルンが首をかしげてわたしをのぞきこんでくる。

「ううんっ、ゲンキだよ! ふだんどーり、超ゲンキ!」

「そ? あれ、冴はまだなんだね」

「冴ちゃんは今日、剣道の道場寄るから、先に行っててって」

「あ、だからドッジの朝練いなかったのか。じゃあヒヨ子、さびしーね。ヒヨ子も剣道始めたら?」

「や~、わたし、体力はあるけど、運動シンケーつながってないんだよねぇ」

 ハルルンとワキアイアイしてると、急に真ちゃんがガタッと席から立ち上がった。

「どしたの、真。もうすぐ先生来るよ」

「うん。でもオレはジャマだろうから」

 ろうかに出て行ってしまう真ちゃんに、ハルルンとわたしはきょとんと顔を見合わせる。

 でも、スグに思いあたって、血の気がつま先まで急降下!


 真ちゃんに、迷惑ガラレテイル……!!


 先週フラれたばっかりなのに、ふだんどおりでいようなんて、図々しかったんだ!

 ショックのあまり、脳内にゴーン、ゴーン、ゴーン、とお寺の鐘の音がひびいた。

 そうだよ。血液型占いによると、AB型男子は細やかな心の持ち主。

 ベタベタした人間関係はニガテだって。

 わたし今まで、AB型の真ちゃんがイヤなことをやりまくってたかもしれない……!

 彼がいつも静かに話を聞いてくれるからって、おまじないのことをペラペラしゃべったり。

 転校してくるなり、真ちゃん真ちゃんって、昔とかわらない調子で声かけたり。

 だいたい幼稚園のときだって、いっつも真ちゃんに迷惑かけてたよね。

 ふいに頭に浮かんできた景色は、山の斜面をひいひい登りながら、なぜか真ちゃんと冴ちゃんが、背中を一生懸命押してくれてるシーン。

 あの時も、カラダの弱い真ちゃんにアウトなことしちゃったよ……。

 でも、あれ? なんであんなコトになったんだっけ?

 万年健康皆勤賞のわたしが真ちゃんを押すならともかく、逆ってなんで?

 う~ん、思い出せない……。おなかがすいて、エネルギーぎれだったとか?

「……さん。ひーなーたーさんっ!」

「ほへっ」

 つくえからパッと顔を上げたら、目の前に先生のにっこり笑顔。

「日向さん。起きてますか?」

 まわりを見まわしたら、山本さんが前に出て、黒板に「地域合同ドッジボール大会について」って書いてるところ。

 いつの間にか、真ちゃんもとなりの席にもどってきてて、あーあって顔だ。

「おっ、およ!? もう朝の会!? わたし、時間ワープしちゃいました!?」

 びっくり仰天、目を見開くわたしに、先生の笑顔にミシミシとヒビが入っていったのでした。


***


 日向ヒヨ、転校三ヶ月目にして、初・ろうかに立たされ体験をしております。

 教室から聞こえてくる自分ぬきの授業の声が、とってもせつない。

「今朝のニュースの占い、おひつじ座が最下位だったもんな……」

 ぼそっとつぶやいた、その時だ。

ビヨッビヨッビヨ……。

 この声……! さっきランドセルの中から聞こえてきたのと同じ!?

 地響きみたいな笑い声の出どころをさがして、すばやく周りに視線をめぐらせる。

 すると、

ぼにゅっ!

 水の入ったボールみたいなものが、頭の上に降ってきた!

 じっとりナマあったかい……、重たいカンショク。

「ぎょえっ!? ななななに!?」

 悲鳴をあげて「それ」をワシづかみ、思いっきりぶん投げる!

 べしょっと窓ガラスにぶつかり、ゆかに落っこちたのは……、

 やっぱり直径二十センチくらいの、水色の毛玉だ。

 なんだ、あれ? つかめたってコトは、妄想の産物とかマボロシじゃ……な、ない?

「日向さん! 静かに!!」

「ひゃい!」

 カベのむこうから飛んできた先生の声に、わたしは肩をハネあげる。

 でもでもでもっ、今、異世界の生物とソーグー中でして……っ!

 水色の毛玉はゆかに落ちたまま、ぴくりともしない。

 わたしはクローバーのヘアゴムをにぎりしめ、おそるおそる毛玉に一歩二歩、近づいてみる。

「もしも~し。あのぉ、生きてますかぁ……」

 その「水色」は、あちこちもつれた毛玉でグシャグシャ。なんだかバッチイ。

 野生のナニカ? いきなり噛みついてきたりしない?

 そ~~っと足を伸ばし、エイヤッとウラと表を引っくり返してみた。

 すると現れたのは、毛玉のなか、ゆかにツブれたほっぺたの間に、黄色いクチバシ。

 それに、両がわに羽らしきカタマリ。

「ヒ、ヒヨコ……? ものすごい巨大だけど」

 のぞきこもうと顔を近づけたとたん、

「おおっと、うっかり寝ちまったビヨ!」

 毛玉のなかで、クワッと白目が開いた!

「ぎゃっ!」

 ビックリして尻もちついちゃった。

 毛玉は、細いハリガネみたいな足でのっそり立ち上がる。

 力強く広げた両羽は、短くて丸い。

(たぶん)ヒヨコだ!

「おまえ……、やっぱりオレさまが見えるビヨね」

 いや、ヒヨコじゃない! ヒヨコは日本語しゃべらないっ。

 ゆらりゆらりと近づいてくる、おっさん声のフシギ生物。

「ああああの、わたしに何のご用でしょうかっ」

「日向ヒヨ。オレさまと契約しろビヨ」

「ケ、ケーヤク?」

「オレさまが見えるということは、おまえには才能があるビヨ」

 そう言いながら、フシギ生物は羽の下からズルッ……と何かを取りだした。

 出てきたのは、赤い表紙の──フォーチュン・ノート!

「ええっ!? わたし、それ、ランドセルに入れてたはずなのに!」

「ふんっ。このノートはオレさまのものだビヨ。そしてオレさまは、偉大なる大魔法使いが生みだした、尊くもかしこき、使い魔さまビヨ! このくらいワケないビヨ!」

「ま、魔法使い? 使い魔っ?」

 使い魔って、魔法使いのお手伝いをする、マスコットみたいな動物とか精霊のことだよね。

 わたし、おまじない大好きッコとしては、そのヘンくわしいよっ!

 魔法使いって、おまじないのプロみたいなモノだもん。

「じゃあ、そのノート、本物なの!? ただのプロフ帳じゃなくて!?」

「ただのプロフ帳とは失礼ビヨね。オレさまが現代人でも使いやすいように、魔法書をファンシィ~♡に改良してやったんだビヨよ。現代ではこういうのがハヤッてるビヨ?」

 さすがのわたしも、目が点だ。

 プロフ帳みたいな「魔法のノート」をかかえた、ブキミなヒヨコ。

 それが、わたしを見上げてニヤニヤしてる。

「ってことは、キミも本物の使い魔さんなの……? ホントの魔法使いが創りだした……?」

「そうだビヨ。畏れあがめたてまつれビヨ」

「──うん!!」

 わたしはイキオイよく両ヒザをゆかにつき、ぐわしっとヒヨコの体をつかんだ。

 そして拝むように天にかかげる。

「すごい! 使い魔さんに会えたの、生まれて初めてだよ! 信じ続けてよかったぁっ!!」

 きらきらどころかぎらぎら瞳を輝かせるわたしに、ヒヨコはひくっとクチバシをゆがめる。

「おおお……、おまえ、怖がるかと思いきや、なんか考えてたのとちがうビヨね……。まぁいいビヨ。とにかくおまえと契約してやるビヨ。裏表紙の、オレさまプロデュースの親切な解説文は読んだビヨね? この魔法のノートはまだ未完成ビヨ。もしもおまえが、たくさんの人間の願いをかなえることで、ノートを完成させられたら。──ほうびに、オレさまが一つだけ、なんでもおまえの願いをかなえてやるビヨ!」

「ホントに!?」

「ホントだビヨ。その表紙の下のあいてる欄、そう、そこだビヨ。まちがえるなビヨ? そこにおまえの名前をサインし、使い魔のオレさまに名を与えれば、オレさまたちの契約は完成し──、」

「えーと、じゃあ、使い魔さんの名前は『ビヨスケ』で!」

 とっさに考えたにしては、うん、ビヨスケってぴったりな気がするよっ。

 このヒヨコの、ビミョーにかわいくない感じが出てる。

 もう表紙に「日向ヒ」までペンを走らせてるわたしに、ヒヨコ使い魔──あらため、ビヨスケは凍りつく。

「おまえっ、大事な話ビヨ! 迷うとか驚くとか、正しいリアクションがあるはずビヨ!?」

「だって、願いをかなえてくれるんでしょ? それに魔法使いになれるなんて、迷う必要ないもん。やぁ、まさかわたしに魔法使いの才能があるなんてなぁ~」

 てれてれ頭をかくわたしを、ビヨスケはヘッとあざ笑った。

「調子にのるなビヨ。おまえが偉大な魔法使いなんてなれるわけないビヨ。おまえにあるのは、『使い魔の使い魔』になれる才能ていどビヨ」

 わたしはビヨスケの話を右から左に聞きながしながら、ワクワク、いつもより三倍キレイな字で、「日向ヒヨ」の「ヨ」の最後の一画を書きおえる。

 その時、視界のハシで、ビヨスケがにんまり笑った気がした。

 どうしたの? って聞こうとしたとたん。

「うひゃああっ!?」

 魔法のノートから、まっしろの光があふれだす!


「日向さんっ!!」

 激怒の先生の声とともに、ガラッと教室の戸が開いた。

 腕で顔をおおってしゃがみこんだわたしは、ぱちぱち目をまたたく。

 ──あれ。光が消えてる。

「なにやってるの、日向さん」

「あっ、そのっ。先生、今、ヒヨコの使い魔とケーヤクを……」

「はぁ?」

 先生はメガネのふちを持ち上げて、ろうかを見まわす。

 わたしもすぐそこのビヨスケに目をもどし──、

「あれっ? いない!」

 たしかにさっきまで、あのおっさんヒヨコがいたはずなのに!

「なに言ってるのかわからないけど……。もういいわ、教室にもどって」

 戸口でため息をつく先生のうしろから、女子のくすくす笑う声が聞こえてくる。

 およよ? 昼間から、夢見てた……のかな?

 立ちあがろうとして、足もとに落ちてる赤い表紙の本に動きを止めた。

 やっぱ……夢じゃない!

 わたしはフォーチュン・ノートを隠すように抱きこみ、あわてて教室の戸をくぐる。

「はーい、みんなザワザワしない。授業再開しますよ」

 先生は手をたたき、さっそく黒板に向かう。

 算数の教科書を読んでるフリをしながら、胸がスキップしてる。

 ひざの上のノートには、さっきわたしが書いた「日向ヒヨ」の名前。

 その下──、いつのまにか「ビヨスケ」って文字が浮かびあがってる!

 契約、ほんとに成立したんだ……!

 ノートを完成させられたら、わたしの願い、かなえてもらえる。

 ノドまでこみあげてくるドキドキに、わたしはぶるるっと体を震わせた。

 わたし、まだ真ちゃんのことあきらめなくてもいいのかもしれないよ!



第3回へつづく(12月16日公開予定)


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書籍情報


作: あさば みゆき 絵: 那流

定価
814円(本体740円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046319128

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