ある日、結乃(ゆの)が出会ったのは、鏡でも見ているぐらいにそっくりな顔した女の子・芽衣(めい)。もしかして、生き別れのふたご!?と思ったけれど、学年が違うからふたごじゃないし、姉妹でもない。…わたしたち、いったい何者!?
超気になるこのお話は、2025年12月10日発売の『ふたりはニコイチ そっくりさんはヒミツの親友』(夜野せせり・作 駒形・絵)! 性格はぜんぜん違うけど、ヒミツの親友になったふたりの、超ドキドキでワクワクな毎日を、先行ためし読みで楽しんじゃおう!
中学1年生の青井結乃(あおい ゆの)は、お洋服のコーデやデザインを考えるのが大好きな女の子! でも、自分は地味め女子って思ってしまっているからか、なかなか好きなことの話はしにくくて……。そんな結乃がある日出会ったのは、自分のそっくりで、でも、自分とは全然ちがう女の子!? キラキラでドキドキの出会いから、新しい毎日が始まります!
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「ドッペルゲンガー」って、知ってる?
この世には、自分とまったく同じ顔、同じ見た目の人間がいるんだって。
ふたごじゃない。なのに、うりふたつ。
それが、ドッペルゲンガー。
ただの都市伝説だって思ってた。
なのに。なのに……!!
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★1★ 生き別れのふたご……じゃない!?
「わあっ……。このワンピース、かわいい……」
ショーウインドウにかざられたワンピースに、目をうばわれる。
オトナっぽい赤色のワンピ。合わせているカーディガンも、小さなリボンがたくさんぬいつけられていて、すてき。
わたし、青井結乃は、お洋服が大好きな中学1年生。
自他ともに(?)認める、地味女子。
かわいい服は好きだけど、似合わないし、おこづかいも少なくて買えないから、自分では着ないんだ。
でも、コーデやデザインを考えるのは大好き。
今日は、9月なかばの3連休、さいごの日。
わたしは、若葉市に、ひとりで遊びにきた。
若葉市は、わたしの住む晴海市のとなりにある、大きな街。
今いるのは、駅近くの商店街、通称「すずらん通り」。おしゃれなショップや古着屋さんがあるんだ。
うっとりと、ショーウインドウをながめていた、その時。
どんっ!
しょうげきとともに、目の前に星が散る。
なにかが、わたしにぶつかったんだ!
「あいたたた……」
わたしってば、転んじゃったよ……。めちゃくちゃはずかしい。
「ご、ごめんなさいっ! あたし、あわててて……」
女の子の声が降ってくる。
「いえ、わたしも、前を見てなかったから……」
こたえながら、ゆっくりと立ち上がる。
わたしとぶつかった女の子と、ぱちっと、目が合った。
その瞬間。
「…………!!」
息をのんだ。
時が止まった。
だって。だって。
この子、わたしと同じ顔してるんだもん……!!
目の前に鏡がある? そんなわけない!
わたし、無意識に、「分身の術」を使っちゃった? いやいや、もっとありえない!
女の子も、わたしを見て、目をまるくしている。
たまご形のりんかくに、なだらかなアーチをえがく、まゆ。
少しだけ目じりが下がった、小さめの目。
低い鼻も、うすいくちびるも、あごのかたちも、わたしと同じ!
似ている、ってレベルじゃない。まったく「同じ」なの。
ちがうのは、髪型ぐらい。わたしは肩まである髪をおろしているけど、目の前にいるこの子は、ポニーテールにしている。
知らなかった。わたしって、ポニーテール、けっこう似合うんだ……。
……じゃなくって!!
「あ、あ、あの。あなた、いったい」
あわあわと、声にならない声が出る。
「あなたこそ、いったい」
女の子も、目を見開いて、つぶやいた。
声まで、わたしの声に似てる……。
見た目も声も、そっくり。はじめて出会った、他人なのに。
これって……。ひょっとして、ド、ドッペルゲンガー!?
ただの都市伝説だって思ってたのに。
どうしよう! わたし、ドッペルゲンガーに出会っちゃった!
「う、うそでしょ? 鏡? これ。でも、あたしとちがう動きしてるし、髪も服もちがうし……」
女の子(ドッペルさん?)はぶつぶつつぶやいている。
頭がぼーっとする。
自分とうりふたつの子が、動いたりしゃべったりしているのを見てるのって、すごくへんな感じ。現実じゃないみたい。
ひょっとして、これって夢なのかな。
こっそり、自分のほっぺをつねってみる。うん、しっかり痛い。
「ねえ」
ドッペルさんに話しかけられて、はっとわれにかえった。
「なんか、ぜんぜんワケわかんないんだけど、……すごくない?」
「え」
「こんなにそっくりなのって、キセキじゃない? いきなりばったり出会うなんて、運命だって思わない?」
ドッペルさんは、ずいっと、わたしの目の前ににじり寄った。
その瞳は、光を宿したみたいに、きらめいている。
「キセキ……。運命……」
どくんと心臓が大きく鳴った。
「とりあえず、名前、教えて?」
「青井、結乃、です」
口の中がからからにかわいていて、声がかすれちゃった。
「あたしは赤西芽衣。今、……時間、ある?」
「す、少し、なら」
「じゃあ、ちょっと、お話しない?」
ドッペルさ……赤西さんは、わたしの目をじっと見つめた。わたしと同じ目で。
頭がクラクラする!
ゆっくりうなずくと、赤西さんは、
「ついてきて」
と、わたしに手招きした。
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赤西さんは、時計屋さんと洋食屋さんのあいだにある、小さな建物のドアをあけた。
「すずらん図書室」と、ちいさなプレートに書いてある。
「あがって! ここ、だれでも自由に使えるスペースなの」
赤西さんは、入り口でくつをぬいだ。中はたたみの部屋で、壁ぎわにはいくつかの本棚。おもちゃ箱や小さなテーブルもある。
「すずらん通りの人たちが、子どもたちのために作った場所でね。本もおもちゃも街の人が寄付したものなんだ。って、その説明はあとでいいか」
赤西さんはテーブルのそばにあぐらをかいた。
わたしも、テーブルをはさんで向かい合わせに座る。
「とりあえず、自己紹介するね」
と、赤西さん。わたしはうなずいた。
「あたし、赤西芽衣。春蘭学園中等部の、2年生。この、すずらん通りの近くに住んでる」
春蘭学園!? すごい、頭いいんだ。それに、お金持ちなのかな?
春蘭は、私立の進学校。ちょいセレブな家の子が通ってる。
校舎もきれいだし、施設も充実してるし、制服もかわいいし、憧れてる子、たくさんいる。
っていうか、赤西さんって2年生なんだ。てっきり同じ年だと思ってた。
「えっと、わたしは青井結乃。晴海市に住んでる。晴海第三中学校の、一年生」
「一年……?」
赤西さんも、同い年じゃないのが、意外みたい。
「誕生日は?」
聞かれて、わたしは首を横に振った。
「実は、誕生日はよくわからないんだ。生まれ年ははっきりしてるんだけど」
これには、とある『わけ』がある。
誕生日がわからないと困ることも多いから、両親が、『7月28日』ってことにしたみたい。
「あたしも同じ。生まれ年はわかるけど、誕生日は……」
赤西さんは目を伏せた。
赤西さんも、誕生日がわからないの?
なにか、『事情』があるのかな。わたしみたいに……。
「とにかくっ」
赤西さんが顔を上げた。
「どうしてあたしたちがこんなにうりふたつなのか、考えられる理由は、ひとつなんだけど」
赤西さんのほおが、ばら色にそまっている。
瞳は、うるんできらきら光ってる。
もしかして、わたしと同じことを「期待」してる?
わたしも、赤西さんの目を見つめて、小さくうなずいた。
「生き別れの、ふたご」
ふたりの声が、ぴったりそろう。
絶対、ふたごで決まりだよ!
だってこんなにそっくりなんだもん!
「あ、でも」
赤西さんがつぶやいた。
「ふたごだったら、同い年だよね……?」
はっとした。
たしかに、そうだ。ふたごだったら、お母さんのおなかから、ほぼ同時に生まれてるわけだから、当然、同い年。
じゃあ、わたしたちって、なに……?
てっきり、生き別れのふたごだって思ったのに! ふたりはなんで、こんなにそっくりなんだろう? ふたりで考えこむけれど……??
11月19日に公開する先行れんさい第2回「キセキのドッペルゲンガー」をおたのしみに!
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