挑戦したいんだ。自分の好きなことを「好き」って言うために。言いつづけるために。
いつもチャレンジしつづけるふたごのあかねとかえで。今回は、めっちゃ楽しい林間学校編!
なんたって、緑田小のみんな――鈴華ちゃんや凜ちゃんやさわや莉々乃ちゃん、藤司や吉良くんや真壁のほかに
あざみ小の子たち――そう、太陽もいっしょに行くんだから‼
いつもとはちがう経験がいっぱい、いつもなら見られない表情もいっぱい‼ トキメキもい――――っぱい‼‼なスペシャルな1冊。
先取りでためし読み、どうぞ‼ 読むときっと元気になっちゃうよ。(公開期限:2026年11月30日(月)23:59まで)
2 将来は、考えられない?
「急げ急げ――――――っ」
「待って、あかねちゃん!」
走って体験場所へむかう、あかねと鈴華ちゃんを、ぼく――双葉かえでと凜ちゃんは、思わずほほえみながら見送った。
「ふふっ、2人とも、全力ダッシュだ」
「まだまだ元気なんだね、さすがだなあ」
「この間の運動会の準備、すっごく大変そうだったし。もっと体力がついたのかもねっ」
「たしかに。でもぼくも、少し休憩したら、またなにか体験にいきたいなっ」
ぼくがそう言うと、凜ちゃんがニコッと笑って、
「わたしもっ。次は、なにがいいかなあ?」
「よしっ、ベンチで休憩しながら、次にやりたい職業をさがそうっ」
ぼくらは、ベンチにとなりあってすわって、パンフレットを開いた。
「かえでちゃんは、次はどんなお仕事を体験したいの?」
「せっかくだから、幅広く体験したいな。まだやってない――たとえば、この、『デザイナー』とか、『パン屋さん』とか……あと、このへんのお仕事も、まだどれも体験してないから気になるなあ」
ぼくの指が、医療系のお仕事のあたりをさしたとき。
「…………あのね、かえでちゃん」
「ん?」
急にあらたまった声に、ぼくが、パンフから目を離して、凜ちゃんのほうを見ると。
ばちっという音が鳴りそうなくらい、凜ちゃんと、しっかり目が合った。
「わたし……かえでちゃんにきいてほしいことがあって。みんなにも話すつもりだけど、一番に、かえでちゃんに話したかったの」
じっとぼくの目を見たまま、なんだか緊張したような面持ちで話す凜ちゃん。
えっ、えっ、なんの話っ?
ぼくも、つられてドキドキしながら、凜ちゃんの言葉を待つ。
「さっき、みんなで『将来の夢』について話してたじゃない? わたしね、もうあるんだ、夢」
あっ、そうだった。
「わたし……『獣医さん』になりたいの」
と、真剣な顔で言う、凜ちゃん。
うん、そういえばサイクリング中に雨やどりをさせてもらったとき、店主さんたちにそう言ってたよね。
ぼくは、覚えてるっていうように深くうなずいた。
「凜ちゃん、ロコちゃんのこと大事にお世話してるもんね。獣医さんになってるところ、想像できるよ」
凜ちゃん家は、うさぎのロコちゃんを飼っている。
おうちにおじゃましたときに見せてもらったけど、すっごく凜ちゃんになついてたんだ。
ぼくの言葉をきいた凜ちゃんは、ニッコリ笑った。
「ありがとう、うれしいな」
将来……かあ。
「凜ちゃんは、いつ獣医さんになりたいって思ったの?」
ぼくがそうたずねると、凜ちゃんはすっと口を開く。
「えっとね。かえでちゃんが転校してくる前に、ロコちゃん、動けないくらい具合がわるくなったことがあったの」
「えっ、そうだったんだ。ぼくがロコちゃんに会ったときは、元気いっぱいだったけど」
「そう、そのとき、いそいで獣医さんに診てもらったら、すぐに原因がわかって。治療のおかげで、よくなったんだ。またお部屋を駆けまわれるようになったロコちゃんを見て、わたしもペット――いろんな人の大切な家族を助けることができたらな、って」
そう、ちょっとはずかしそうに話してくれた凜ちゃん。
「そっか。うんっ、凜ちゃんなら、きっとステキな獣医さんになれるよっ」
「うんっ、なれるようにがんばるっ」
ぐっとこぶしをにぎってみせる凜ちゃん。
でも、さっき言ってた「ぼくに一番に話したいこと」っていうのは……?
「それで、ね、かえでちゃん……」
凜ちゃんは、しばらく言いよどんだあと、パッと口を開いた。
「獣医さんになる夢をかなえるために、ね。わたし、中学受験するって決めたんだ」
「わっ、受験!? えっと、試験を受けて、合格した中学校に進むってことだよね。すごい……!」
ぼくは、中学受験なんて考えたこともなかったから、すぐにイメージできなかった。
でも、そういえば。
転校前にいた学校の子は、「上のきょうだいが今年中受なんだ」なんて話していたような。
「じつはね、去年から、塾に通って中受にむけて勉強してるの」
「わあぁ、そっかあ。凜ちゃん、夢にむかって、ずっとがんばってたんだね……!」
ただただ、感心するぼく。
対して凜ちゃんは、笑みをうかべながらも、ちょっとさみしそうな顔をしてる……?
「でも、緑田小は、中受する子が少ないでしょ。なんとなく、塾の子たちとは、ふんいきがちがうの。だから、なかなか言い出せなくって……」
「あ、そうだよね。ほとんどの子は近くの中学に進学するから、きっと、のんびりしてるよね」
そんな中で、凜ちゃんはひとり、勉強に打ちこんでいたんだ。
今日は、凜ちゃんに対して、すごいって気持ちしかわかないよ。
でも…………ん? あれ?
凜ちゃんが、中学受験するってことは……?
そのとき、とつぜんぼくは、凜ちゃんの言いたかった意味に、気づいちゃったんだ。
「じゃあもし、志望校に受かったら………緑田小のみんなとは、おわかれってこと?」
「…………っ」
あっ……ぼく、動揺のあまり「おわかれ」なんて、強い言葉を使っちゃった……。
でも、言いなおすこともできず、心の中であわてるぼく。
凜ちゃんは、少しの沈黙のあと、
「――うん。わたしは、みんなとはちがう場所で、がんばることになるんだ」
ハッキリとそう言いきったんだ。
「おわかれなんかじゃないよ」って、にごさなかったところに、凜ちゃんのなみなみならぬ覚悟を、ぼくは感じとった。
きっとこのことは、ずっと考えてたにちがいない。
……っていうことは。
緑田小を卒業した、その先。凜ちゃんが、ぼくのとなりにいない――?
想像しただけで、胸がきゅーっと痛む。
もちろん、二度と会えないってわけじゃないけど。
それでも、こうして毎日のように顔を合わせるのと、ときどき待ちあわせするのじゃ、ぜんぜんちがう。
それに凜ちゃんは、中学に入ってからも、夢をかなえるための勉強で忙しいだろうし。
……そういうことか。
凜ちゃんが、将来の夢や受験のことを、ずっと言えなかった理由が、やっとわかった。
「そっか…………」
ぼく……凜ちゃんに、さみしいよって……本当は、この先もずっと、いっしょに学校に通いたかったよって……口にしていいのかな?
でもそれは、夢にむかってがんばる凜ちゃんを、引きとめるみたいになるよね。
一番さみしいのは、ずっといっしょにいたみんなと、ひとりで離れる凜ちゃんなのに。
でも、ぼくが言わなかったら、それはそれで「かえでちゃんは、さみしくないのかな」って思わせちゃうかな……?
だまって、親友の背中をおすのがいいのか。
すなおな気持ちを、伝えるのがいいのか。……わからない。
わからないけど……凜ちゃんが、ぼくにとって、どんな存在なのかは、はっきりしてるんだ。
凜ちゃんは、ぼくらが『とりかえ』をしてたころから、やさしくよりそってくれた。
だから、ぼくもっ……!
「……ご、合格したら、みんなでお祝い会しようね。凜ちゃんなら、絶対大丈夫。ぼくにできることがあれば、なんでも言ってよねっ」
……あっ。最後のほう、ちょっと声が震えちゃった。
なんか、やせガマンしてるみたいになっちゃったな……って、してるんだけど。
凜ちゃんからどんな反応がかえってくるか、不安に思っていると。
凜ちゃんがおもむろに、自分のカバンのチャックを開けて、ごそごそとなにかを取りだした。
「あのね、かえでちゃん……これっ」
手わたされたのは……表紙に【天弓中学校】と大きく書かれた冊子。
学校説明用のパンフってやつかな?
「ここがね、わたしの第一志望の私立中学校なの」
「へえ……! 校舎が大きくて、キレイなところだね」
パンフをめくって、ながめていく。
すると……あれっ?
「写ってる子たち、みんな制服着てないんだね?」
「そうなの。この学校は、制服がないんだ。みんな、私服で通うの」
「へえ――――っ」
私服で通える学校なんてあるんだ!
「わたし、オープンキャンパスっていう学校見学にいったんだけどね。ここの先輩たち、みんなステキな顔してたの。自分の目標にむかって全力で。でもちゃんとチームプレイもあって、みんなで協力して一生けん命なの。う~ん、うまく言えないけど……」
「いいね。凜ちゃんが、通いたいなって思える学校だったんだね」
「そうなの! ここでなら、わたし、がんばれるって思ったんだ」
そう言う凜ちゃんの顔も、すっごく活き活きしてる。
そっか。凜ちゃんが惹かれた学校。
制服がないっていうのも、先輩たちのふんいきも、ぼくもきいていて、いいなあって思った。
……あれ?
凜ちゃん、わざわざパンフを持ってきてたり。
制服がないっていうのを、ちょこっと強調してたりするのって……?
もしかして――。
「あのねっ……この学校、電車通学なら、おうちから通えるんだ。それで、かえでちゃん。わたし、かえでちゃんと中学でもいっしょに……っ」
でも、凜ちゃんの言葉は、そこでぴたっと止まった。
それから、ぐっと飲みこむような間のあと、
「…………こんな学校もあるんだってこと、かえでちゃんに伝えたかったんだ」
と、言いなおした。
凜ちゃん……やっぱり「中学もいっしょに通いたい」って気持ちは、ぼくと同じなんだ。
それがわかっただけでも、すごくうれしいよ――でも。
公立中学ならともかく、受験となると、ぼくの気持ちだけでなんとかなるものじゃない。
そもそも、ぼくらふたごは、この先のことはぜんぜんわからないんだ。
このまま、おばあちゃん家の近くで進学するのか。それとも、もともと住んでたおうちのほうで進学するのか……それに。
「ぼく……未来のこと、ぜんぜん考えられないんだ。そんなぼくが通っていい学校なのかな」
だってぼくは……将来の「職業」どころか。
この先、自分がどんな姿でいるのかが……たった1年先ですら、よくわからない。
「今」は、自分にとって心地いい髪形やお洋服でいられるけど。
いつまでこうしていられるか……いさせてもらえるのかは、わからない。
これから成長していく中で、心も体も、たくさん、揺れうごく。
ぼく自身の気持ちが変わることだってあるかもしれない。
だから、そんな先のこと……将来の職業どころじゃないんだ……。
「うーん…………あのね、かえでちゃん」
ぼくのつぶやきに、凜ちゃんは、いつもと同じく、まっすぐむきあってくれる。
上をむいて、しばらく考えていた凜ちゃんの視線が、ぱっとぼくにむいた。
「まだわからないからこそ、ここがピッタリ……だと思うの」
「えっ?」
「うまく説明できないけど……この学校はね、安心して自分とむきあえる場所だって思ったんだ、わたし。それにわたしだって、この先も獣医さんを目指すのか……本当になれるかは、わからないよ。それでも、通っていいんだよ」
「そっか……そうだよね」
ぼくのこたえに、にこっとうなずく凜ちゃん。
凜ちゃん、本当に勇気を出して、ぼくに大切な夢の話をしてくれたんだ。
うれしいな……っ。
それに、凜ちゃんの話をきいて、ハッとしたよ。
決められないことは、わるいことじゃないんだって。
ぼくだって、あかねや鈴華ちゃんみたいに、まだ将来の夢がなくてもいいんだって。
ぼくも、凜ちゃんに笑いかえしたとき。
「お待たせ――――っ!」
あかねの元気な声がひびいた。
あ、消防士の体験が終わってもどってきたみたいだ。
「けっこう待たせちゃったかしら」
「あかね、鈴華ちゃん、おかえりっ。あ、連絡くれてたんだね、気づかなくてごめんね」
「かえでちゃんと話してたから、あっという間だったよっ。ねっ」
「うんっ。……凜ちゃん、さっきのこと、また話せるかな」
少し声を小さくして言うと。
「もちろんっ」と、凜ちゃんは、大きくうなずいてくれた。
そしてぼくは、凜ちゃんからもらったパンフを、大事に大事に、カバンの中にしまった。
第3回につづく(8月26日公開予定)
書誌情報
- 【定価】
- 880円(本体800円+税)
- 【発売日】
- 【サイズ】
- 新書判
- 【ISBN】
- 9784046324092
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