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【先行ためし読み!】『ふたごチャレンジ!』12巻 第2回 将来は、考えられない?


挑戦したいんだ。自分の好きなことを「好き」って言うために。言いつづけるために。
いつもチャレンジしつづけるふたごのあかねとかえで。今回は、めっちゃ楽しい林間学校編!
なんたって、緑田小のみんな――鈴華ちゃんや凜ちゃんやさわや莉々乃ちゃん、藤司や吉良くんや真壁のほかに
あざみ小の子たち――そう、太陽もいっしょに行くんだから‼
いつもとはちがう経験がいっぱい、いつもなら見られない表情もいっぱい‼ トキメキもい――――っぱい‼‼なスペシャルな1冊。
先取りでためし読み、どうぞ‼ 読むときっと元気になっちゃうよ。(公開期限:2026年11月30日(月)23:59まで)





 

2 将来は、考えられない?

「急げ急げ――――――っ」

「待って、あかねちゃん!」

 走って体験場所へむかう、あかねと鈴華ちゃんを、ぼく――双葉かえでと凜ちゃんは、思わずほほえみながら見送った。


「ふふっ、2人とも、全力ダッシュだ」

「まだまだ元気なんだね、さすがだなあ」

「この間の運動会の準備、すっごく大変そうだったし。もっと体力がついたのかもねっ」

「たしかに。でもぼくも、少し休憩したら、またなにか体験にいきたいなっ」

 ぼくがそう言うと、凜ちゃんがニコッと笑って、

「わたしもっ。次は、なにがいいかなあ?」

「よしっ、ベンチで休憩しながら、次にやりたい職業をさがそうっ」

 ぼくらは、ベンチにとなりあってすわって、パンフレットを開いた。


「かえでちゃんは、次はどんなお仕事を体験したいの?」

「せっかくだから、幅広く体験したいな。まだやってない――たとえば、この、『デザイナー』とか、『パン屋さん』とか……あと、このへんのお仕事も、まだどれも体験してないから気になるなあ」

 ぼくの指が、医療系のお仕事のあたりをさしたとき。


「…………あのね、かえでちゃん」

「ん?」

 急にあらたまった声に、ぼくが、パンフから目を離して、凜ちゃんのほうを見ると。

 ばちっという音が鳴りそうなくらい、凜ちゃんと、しっかり目が合った。


「わたし……かえでちゃんにきいてほしいことがあって。みんなにも話すつもりだけど、一番に、かえでちゃんに話したかったの」

 じっとぼくの目を見たまま、なんだか緊張したような面持ちで話す凜ちゃん。


 えっ、えっ、なんの話っ?

 ぼくも、つられてドキドキしながら、凜ちゃんの言葉を待つ。


「さっき、みんなで『将来の夢』について話してたじゃない? わたしね、もうあるんだ、夢」

 あっ、そうだった。

「わたし……『獣医さん』になりたいの」

 と、真剣な顔で言う、凜ちゃん。


 うん、そういえばサイクリング中に雨やどりをさせてもらったとき、店主さんたちにそう言ってたよね。

 ぼくは、覚えてるっていうように深くうなずいた。

「凜ちゃん、ロコちゃんのこと大事にお世話してるもんね。獣医さんになってるところ、想像できるよ」

 凜ちゃん家は、うさぎのロコちゃんを飼っている。

 おうちにおじゃましたときに見せてもらったけど、すっごく凜ちゃんになついてたんだ。

 ぼくの言葉をきいた凜ちゃんは、ニッコリ笑った。

「ありがとう、うれしいな」


 将来……かあ。

「凜ちゃんは、いつ獣医さんになりたいって思ったの?」

 ぼくがそうたずねると、凜ちゃんはすっと口を開く。


「えっとね。かえでちゃんが転校してくる前に、ロコちゃん、動けないくらい具合がわるくなったことがあったの」

「えっ、そうだったんだ。ぼくがロコちゃんに会ったときは、元気いっぱいだったけど」

「そう、そのとき、いそいで獣医さんに診てもらったら、すぐに原因がわかって。治療のおかげで、よくなったんだ。またお部屋を駆けまわれるようになったロコちゃんを見て、わたしもペット――いろんな人の大切な家族を助けることができたらな、って」

 そう、ちょっとはずかしそうに話してくれた凜ちゃん。

「そっか。うんっ、凜ちゃんなら、きっとステキな獣医さんになれるよっ」

「うんっ、なれるようにがんばるっ」

 ぐっとこぶしをにぎってみせる凜ちゃん。


 でも、さっき言ってた「ぼくに一番に話したいこと」っていうのは……?

「それで、ね、かえでちゃん……」

 凜ちゃんは、しばらく言いよどんだあと、パッと口を開いた。


「獣医さんになる夢をかなえるために、ね。わたし、中学受験するって決めたんだ」


「わっ、受験!? えっと、試験を受けて、合格した中学校に進むってことだよね。すごい……!」

 ぼくは、中学受験なんて考えたこともなかったから、すぐにイメージできなかった。

 でも、そういえば。

 転校前にいた学校の子は、「上のきょうだいが今年中受なんだ」なんて話していたような。

「じつはね、去年から、塾に通って中受にむけて勉強してるの」

「わあぁ、そっかあ。凜ちゃん、夢にむかって、ずっとがんばってたんだね……!」

 ただただ、感心するぼく。


 対して凜ちゃんは、笑みをうかべながらも、ちょっとさみしそうな顔をしてる……?

「でも、緑田小は、中受する子が少ないでしょ。なんとなく、塾の子たちとは、ふんいきがちがうの。だから、なかなか言い出せなくって……」

「あ、そうだよね。ほとんどの子は近くの中学に進学するから、きっと、のんびりしてるよね」

 そんな中で、凜ちゃんはひとり、勉強に打ちこんでいたんだ。

 今日は、凜ちゃんに対して、すごいって気持ちしかわかないよ。


 でも…………ん? あれ?

 凜ちゃんが、中学受験するってことは……?

 そのとき、とつぜんぼくは、凜ちゃんの言いたかった意味に、気づいちゃったんだ。


「じゃあもし、志望校に受かったら………緑田小のみんなとは、おわかれってこと?」

「…………っ」


 あっ……ぼく、動揺のあまり「おわかれ」なんて、強い言葉を使っちゃった……。

 でも、言いなおすこともできず、心の中であわてるぼく。


 凜ちゃんは、少しの沈黙のあと、

「――うん。わたしは、みんなとはちがう場所で、がんばることになるんだ」

 ハッキリとそう言いきったんだ。

「おわかれなんかじゃないよ」って、にごさなかったところに、凜ちゃんのなみなみならぬ覚悟を、ぼくは感じとった。


 きっとこのことは、ずっと考えてたにちがいない。

 ……っていうことは。

 緑田小を卒業した、その先。凜ちゃんが、ぼくのとなりにいない――?


 想像しただけで、胸がきゅーっと痛む。

 もちろん、二度と会えないってわけじゃないけど。

 それでも、こうして毎日のように顔を合わせるのと、ときどき待ちあわせするのじゃ、ぜんぜんちがう。

 それに凜ちゃんは、中学に入ってからも、夢をかなえるための勉強で忙しいだろうし。

 ……そういうことか。

 凜ちゃんが、将来の夢や受験のことを、ずっと言えなかった理由が、やっとわかった。


「そっか…………」

 ぼく……凜ちゃんに、さみしいよって……本当は、この先もずっと、いっしょに学校に通いたかったよって……口にしていいのかな?

 でもそれは、夢にむかってがんばる凜ちゃんを、引きとめるみたいになるよね。

 一番さみしいのは、ずっといっしょにいたみんなと、ひとりで離れる凜ちゃんなのに。

 でも、ぼくが言わなかったら、それはそれで「かえでちゃんは、さみしくないのかな」って思わせちゃうかな……?


 だまって、親友の背中をおすのがいいのか。

 すなおな気持ちを、伝えるのがいいのか。……わからない。

 わからないけど……凜ちゃんが、ぼくにとって、どんな存在なのかは、はっきりしてるんだ。

 凜ちゃんは、ぼくらが『とりかえ』をしてたころから、やさしくよりそってくれた。

 だから、ぼくもっ……!


「……ご、合格したら、みんなでお祝い会しようね。凜ちゃんなら、絶対大丈夫。ぼくにできることがあれば、なんでも言ってよねっ」

 ……あっ。最後のほう、ちょっと声が震えちゃった。

 なんか、やせガマンしてるみたいになっちゃったな……って、してるんだけど。

 凜ちゃんからどんな反応がかえってくるか、不安に思っていると。

 凜ちゃんがおもむろに、自分のカバンのチャックを開けて、ごそごそとなにかを取りだした。


「あのね、かえでちゃん……これっ」

 手わたされたのは……表紙に【天弓中学校】と大きく書かれた冊子。

 学校説明用のパンフってやつかな?

「ここがね、わたしの第一志望の私立中学校なの」

「へえ……! 校舎が大きくて、キレイなところだね」

 パンフをめくって、ながめていく。

 すると……あれっ?


「写ってる子たち、みんな制服着てないんだね?」

「そうなの。この学校は、制服がないんだ。みんな、私服で通うの」

「へえ――――っ」

 私服で通える学校なんてあるんだ!

「わたし、オープンキャンパスっていう学校見学にいったんだけどね。ここの先輩たち、みんなステキな顔してたの。自分の目標にむかって全力で。でもちゃんとチームプレイもあって、みんなで協力して一生けん命なの。う~ん、うまく言えないけど……」

「いいね。凜ちゃんが、通いたいなって思える学校だったんだね」

「そうなの! ここでなら、わたし、がんばれるって思ったんだ」

 そう言う凜ちゃんの顔も、すっごく活き活きしてる。


 そっか。凜ちゃんが惹かれた学校。

 制服がないっていうのも、先輩たちのふんいきも、ぼくもきいていて、いいなあって思った。

 ……あれ?

 凜ちゃん、わざわざパンフを持ってきてたり。

 制服がないっていうのを、ちょこっと強調してたりするのって……?

 もしかして――。


「あのねっ……この学校、電車通学なら、おうちから通えるんだ。それで、かえでちゃん。わたし、かえでちゃんと中学でもいっしょに……っ」

 でも、凜ちゃんの言葉は、そこでぴたっと止まった。

 それから、ぐっと飲みこむような間のあと、

「…………こんな学校もあるんだってこと、かえでちゃんに伝えたかったんだ」

 と、言いなおした。



 凜ちゃん……やっぱり「中学もいっしょに通いたい」って気持ちは、ぼくと同じなんだ。

 それがわかっただけでも、すごくうれしいよ――でも。

 公立中学ならともかく、受験となると、ぼくの気持ちだけでなんとかなるものじゃない。

 そもそも、ぼくらふたごは、この先のことはぜんぜんわからないんだ。

 このまま、おばあちゃん家の近くで進学するのか。それとも、もともと住んでたおうちのほうで進学するのか……それに。


「ぼく……未来のこと、ぜんぜん考えられないんだ。そんなぼくが通っていい学校なのかな」

 だってぼくは……将来の「職業」どころか。

 この先、自分がどんな姿でいるのかが……たった1年先ですら、よくわからない。


「今」は、自分にとって心地いい髪形やお洋服でいられるけど。

 いつまでこうしていられるか……いさせてもらえるのかは、わからない。

 これから成長していく中で、心も体も、たくさん、揺れうごく。

 ぼく自身の気持ちが変わることだってあるかもしれない。

 だから、そんな先のこと……将来の職業どころじゃないんだ……。


「うーん…………あのね、かえでちゃん」

 ぼくのつぶやきに、凜ちゃんは、いつもと同じく、まっすぐむきあってくれる。

 上をむいて、しばらく考えていた凜ちゃんの視線が、ぱっとぼくにむいた。


「まだわからないからこそ、ここがピッタリ……だと思うの」

「えっ?」


「うまく説明できないけど……この学校はね、安心して自分とむきあえる場所だって思ったんだ、わたし。それにわたしだって、この先も獣医さんを目指すのか……本当になれるかは、わからないよ。それでも、通っていいんだよ」

「そっか……そうだよね」

 ぼくのこたえに、にこっとうなずく凜ちゃん。

 凜ちゃん、本当に勇気を出して、ぼくに大切な夢の話をしてくれたんだ。

 うれしいな……っ。


 それに、凜ちゃんの話をきいて、ハッとしたよ。

 決められないことは、わるいことじゃないんだって。

 ぼくだって、あかねや鈴華ちゃんみたいに、まだ将来の夢がなくてもいいんだって。

 ぼくも、凜ちゃんに笑いかえしたとき。


「お待たせ――――っ!」

 あかねの元気な声がひびいた。


 あ、消防士の体験が終わってもどってきたみたいだ。

「けっこう待たせちゃったかしら」

「あかね、鈴華ちゃん、おかえりっ。あ、連絡くれてたんだね、気づかなくてごめんね」

「かえでちゃんと話してたから、あっという間だったよっ。ねっ」

「うんっ。……凜ちゃん、さっきのこと、また話せるかな」

 少し声を小さくして言うと。

「もちろんっ」と、凜ちゃんは、大きくうなずいてくれた。

 そしてぼくは、凜ちゃんからもらったパンフを、大事に大事に、カバンの中にしまった。


第3回につづく(8月26日公開予定)




書誌情報


作: 七都 にい 絵: しめ子

定価
880円(本体800円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046324092

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