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ものがたり

【スペシャル試し読み】あのマンガのあの場面!シリーズ最新刊『ジュニア空想科学読本28』を読んで、気になる話題に一番乗り!


全国のジュニ空ファンの皆さま! 大変お待たせしました。マンガやアニメを科学的に検証する爆笑シリーズ最新刊『ジュニア空想科学読本28』がついに発売!! 試し読みでは、いま話題のあのマンガのあの場面を検証するよ。


著者: 柳田 理科雄 絵: きっか

定価
858円(本体780円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046322869

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『幼稚園WARS』のリタは、スコップでライフルの弾丸を止めたけど、そんなコト可能?


『ジュニア空想科学読本』でどんな題材を取り上げるかは、だいたい空想科学研究所の所長が決めるんだけど、いつもは「面白くて科学的に気になる作品なら、何でもアリだー!」と言っている所長が、このたびの『幼稚園WARS』には難色を示した。「幼稚園の楽しい話かと思ってマンガを読んだら、めっちゃ人が死ぬ……」と暗い目になっている。

 あ。いや、所長。お気持ちはわからんでもないが、タイトルは『幼稚園WARS』だし、コミックスの表紙の絵は、主人公のリタがピストルを構えている姿だし、そのうえ薬莢が何発も舞っていて、拳銃ごっこじゃないことも一目瞭然。それで「幼稚園の楽しい話」と思いますか!?

 そもそもこの作品は「落差の大きさ」が魅力なのだ。舞台の幼稚園は、政治家や世界企業の社長や石油王など、狙われやすい大物たちの子どもが通う「ブラック幼稚園」。殺し屋たちが、子どもの命を狙って毎日のように襲ってくる!

 リタはその幼稚園の「たんぽぽ組」の先生だが、その正体は、かつて「魔女」と呼ばれた伝説の殺し屋=囚人番号999! この幼稚園の先生たちは、全員がリタのような「腕の立つ犯罪者」であり、政府と「子どもたちを1年間守り抜けば、自由の身になれる」という極秘の契約を交わして働いているのだ。結果的に、ここは「世界一安全な幼稚園」になっている。イメージと実態の差が大きくて、実にオモシロイではないですか。

 そしてもう一つ、筆者がヒジョ〜に興味を惹かれるのは、リタのズバ抜けた戦闘能力だ。殺し屋が襲撃してきても「お遊戯の時間です」と涼しい顔で返り討ちにするため、園児たちは襲われたことにすら気づかない。しかも、応戦に用いるのが、スコップやハサミや三輪車など、幼稚園の備品だったりする。どんな技術と体力なのか、もう気になって仕方ありません!

 というわけで、これはまさに「面白くて科学的に気になる作品」なので、ぜひとも本書で取り上げさせていただきたい。所長が言うように、確かに作中では人がどんどんどんどん死ぬんだけど、だからといって『幼稚園WARS』は決して粗雑なマンガではありませんぞ。




◆殺し屋にはイケメンが多い

 襲ってくる殺し屋との攻防が多く、作中には殺伐としたシーンも出てくるが、この作品にはそれを上回る魅力がいっぱいある。たとえば、主人公・リタの天然キャラっぷりだ。
 彼女は凄腕の殺し屋だが、同時にモーレツな「イケメン好き」である。1年間の任務を終えて自由になったら、イケメンと交際するのを夢見ている。そのためのチャンスは常に窺っていて、殺し屋がやってきたら、何はさておきイケメンかどうかを確認する。
 そして、殺し屋がイケメンだったら、捕まえて尋問するときも、もじもじしながら「彼女、いますか?」と聞いてしまう。このときの答えが「いる」だったら、迷わず殺すが、「いない」というウレシイ返事だったら、歓喜にむせびつつ、ただちに自分との相性を確かめる質問に移る。「たまご焼きは何派?(調味料が砂糖か、出汁か、醬油か?)」「タイ焼きは?(粒餡か、こし餡か?)」「映画のエンドロールは?(最後まで見るか、見ないで帰るか?)」など、とっても細かい質問を繰り出し、自分が許容できない返事だったら、ただちに拳銃で「どーん!」と近距離射撃! わはははは!
 現実的に、殺し屋がイケメンである割合がどれほどか、ネットで検索しても出てこないが(まあ当然か)、リタが理想の相手に巡り会える可能性はどれほどだろうか? 仮に殺し屋のイケメン率が50%で、質問一つに対して相性が合う確率も50%、出題が5問だったとしたら、すべてをクリアできる確率は、2×2×2×2×2×2=64分の1、わずか1.5625%だ。
 実際、マンガのなかでも、殺し屋が11人で襲ってきて、その全員がリタ好みのイケメンだったにもかかわらず、リタは戦いながら次々に質問を投げかけ、「好きな動物は!?」「ミミズ!!」⇒射殺、「好きなスポーツは!?」「ひざの屈伸!!」⇒射殺、「好きな寿司は!?」「シャリ!!」⇒射殺、「好きな飲み物は!?」「雨水!!!」⇒射殺……を繰り返して、あっという間にイケメン殺し屋11人を全滅させていた。
 う〜ん、こうやって紹介すると、所長が心配するとおり、いっぱい人が死にますなあ。でも、それよりも「こんなコトやってたら、リタが幸せをつかむ日は遠いだろうに!」という笑える印象のほうが強くて、それがとっても楽しいんだけど。



◆スコップで弾丸を防げるか?

 科学的に何より気になるのは、殺し屋の襲撃にリタがどう対処するか、だ。普段は園児たちの世話をしているから、強力な武器も持っていないし、防具を身に着けたりもしていない。 当然、幼稚園にあるものを使って対応、反撃することになる。
 その典型的な例が、第1話で使用された「スコップ」だ。幼稚園に近い廃ビルの屋上から、プロの殺し屋・スペードが、狙撃銃で園児を狙う。スコープ越しに、園児と遊んでいるリタの顔も確認したスペードは「……教員も どう見ても普通…」「何が世界一安全だ…」「ったく…」と甘く見て、自信たっぷりに引き金を引く。──が、その銃弾は、リタにスコップで防がれた!
 殺し屋は一瞬「…偶然か?」と思うが、リタがこちらを見ているのに気づいて驚愕。あわてて逃走しようとするが、ビルを出る前にリタにつかまってしまい、前述のような悲惨な尋問に至る。
 それにしても、リタはどうやって、弾丸をスコップで防いだのか? マンガのコマをよく見ると、リタが右手に持ったスコップから、ライフルの銃弾が「ポロ…」と落ちている。弾丸をスコップで弾き飛ばしたのではなく、スコップで受け止めることで、弾丸のスピードを殺してその場に落としたということだ。園内で弾き飛ばしたりすると、子どもたちに当たるかもしれないから、リタはこの方法を選んだのだろう。さすがの判断である。
 とはいえ、そんなことができるのか? リタのスコップに似た園芸用のものを買って、厚さを測ると1.2㎜だった。車のボディに使われる鉄板が厚さ0.6㎜だから、ちょうどその2倍。板状の物体の強度は「厚さ×厚さ」に比例するから、強度は4倍あることになる。
 ところが、ライフル弾の威力はモーレツにすごい。狙撃にも使われる「5.56㎜×45㎜ FMJライフル」の銃弾は、重量4g、初速は秒速960m=マッハ2.8。350m離れた厚さ9.5㎜の鉄板を撃ち抜くという! つまり、普通にスコップで受けたのでは、弾丸はスコップを貫通して、狙いどおり園児に当たってしまうのだ。



◆速度差ゼロの超絶テクニック

 では、リタはどんなテクニックを使って、弾丸を防いだのだろう? ここから先は筆者の推測になるが、たぶんリタは次のように考え、実践したに違いない。

 キャッチボールでうまく球を捕るコツは、グローブを手前に引きながら受けることだ。それによって、グローブとボールの速度差が小さくなり、衝撃も少なくなるからだ。同じようにリタもスコップを引きながら、弾丸を受け止めたと思われる。

 厚さ1.2㎜の鉄板は、銃弾を受けるときのように一点に力がかかったとき、300㎏の衝撃力に耐える。前述のとおり、重量4gのライフル弾は秒速960m=マッハ2.8で飛んでくる。これを受けながら、衝撃力を300㎏以下に抑えるには、スコップを63㎝引けばよい。筆者が自分の体と比較したところ、マンガのような状況下(リタは園児を抱きかかえる体勢でしゃがんでいた)で、身長156㎝のリタがスコップを動かせる距離は73㎝だ。腕を目いっぱい伸ばせば、10㎝の余裕がある。

 このとき注意すべきは、銃弾がスコップに当たった瞬間から、両者の速度差はゼロでなければならないことだ。少しでも速度差があったら、銃弾は弾き飛ばされ、他の園児に当たるかもしれない。リタは銃弾とピッタリ同じ速度でスコップを動かしながらブレーキをかけて、銃弾の速度をマッハ2.8からゼロにしたに違いない。

 これは大変なことである。リタの行為を具体的に記すと、まず腕を73㎝(リタにとっての目いっぱい)伸ばした状態から、スコップを10㎝引くあいだに、スコップのスピードを秒速960mに加速させる。その瞬間に、同じ速度で飛んでくる銃弾を受け、そこからブレーキをかけつつ63㎝引きながら、銃弾とスコップの速度をゼロにする。すると、作中のように弾丸はポロ…と落ちるハズ。だが、銃弾を受けてからポロ…まで、時間は0.0013秒しかない! 信じがたい神ワザだが、さすが一流の殺し屋は、人も殺すが、銃弾の速度も見事に殺すのですなあ!

 そんなダジャレを言いたくなるほど、『幼稚園WARS』のリタの行為はすごい。イケメンに目のない殺し屋が、それをさらりとやってのけるのだ。最初のほうに「この作品は落差の大きさが魅力」と筆者が書いた理由をわかっていただけたと思う。

 そして、リタや仲間たちの行為はこれ以外にも、すごいのが続々出てくる。刀を工作用のハサミで受け止めたり、手榴弾をバットで打ち返してヘリコプターを爆破したり、さらには、金魚すくいの「ポイ」で、ピストルの弾丸を受け止め、撃ち返したり……! 殺し屋たちはどんどん死ぬけど、同時にビックリするような攻防もどんどん行われて、いやもう興味が尽きません。

 イケメン好きのリタの恋の行方も気になるし、筆者は次巻の『ジュニ空』でも、この作品を取り上げたいです。所長、どうかよろしくお願いしますー。


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たとえば、
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『ジュニア空想科学読本28』3月13日発売予定!


著者: 柳田 理科雄 絵: きっか

定価
858円(本体780円+税)
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新書判
ISBN
9784046322869

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27巻も好評発売中!


著者: 柳田 理科雄 絵: きっか

定価
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ISBN
9784046322548

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