「最初の試験は、飛行試験です。四日後にやりますから、それまでにその二人にほうきを作らせ、訓練をつませなさい。千代子、わかっていますね? 師匠としてのアドバイスは許されますが、手を貸すことはいっさいだめですよ。わたしの見張りネズミが全てを見ていることを忘れないことです」
不気味に言いのこし、大岩先生はさっと姿を消したのでした。
大岩先生が消えたとたん、いさなと千種、それにおっちょこ先生は椅子から立ちあがることができました。
いさな達は体が自由になったことにまずほっとし、それからおっちょこ先生につめよりました。
「ちょっと、おっちょこ先生! どういうことなの、これ!」
「わたし達が先生の弟子? よくもあんなこと言ってくれましたね!」
「し、しかたないじゃないですか!」
おっちょこ先生は言いかえしてきました。
「あの時はああ言わないと、師匠が納得してくれないと思ったんです。それに……二人を弟子と言ったのは、半分本当です」
「え?」
「だって、二人ともなかなかのものですよ。魔気はからきしないくせに、魔物をちゃんと捕まえたり、二人だけで変身魔法の解除薬を作ったり。だから、ずっと弟子にしたいなって思っていたんです」
「そんな勝手に決めつけないでよ。あたし、別に魔女になりたいわけじゃないもん」
「わたしも、魔法には興味がありますが、魔女になりたいってほどではないです」
いさなと千種の言葉に、おっちょこ先生はため息をつきました。
「うわあ、今時の子はつまらないですねぇ。わたしが子どものころは、魔女になりたいって願う夢のある子がたくさんいたっていうのに。ああ、なげかわしい」
むかっとしながらも、いさなは言葉をつづけました。
「それに、魔女試験ってテストのことでしょ? あたし達、明日から夏休みなんだよ? 夏休み中に勉強して、テストを受けるなんて、まっぴら!」
「そんなぎゃんぎゃんわめかないでくださいよ、松谷さん。魔女試験に合格すれば、一人前の魔女として認められるんですよ? 色々と不思議で楽しいことができますよ? そうなったらいいって、思わないんですか?」
そそのかすようなささやきに、いさなは思わずだまりこみました。
色々と不思議で楽しいこと? 例えば、大好物のスイカやメロンを車くらいのサイズにして、好きなだけ食べられるようになるとか? 学校の勉強ができるように、自分に魔法をかけるとか? ああ、そうなったら、たしかにすてきかも。
考えこむいさなから目をそらし、おっちょこ先生は今度は千種のほうを向きました。
「雪村さん。魔女になれば、もっともっと色々な本を読めますよ。そこらの書店には絶対に売っていない、この世に一冊しかないような貴重な書物を読むことができるようになるんです。興味ないですか?」
「……興味はありますね」
「でしょう? なら、魔女試験受けるでしょう? ね? お願い。受けるって言ってくださいよぉ。このままじゃ、わたし、問答無用でぞうきんの刑にされちゃいますよぉ」
「結局はそれが一番いやってことですね?」
「なんとでも思ってください。ねね、それより、うんと言ってくださいよぉ」
おがんでくるおっちょこ先生に、千種は小さくため息をついて、いさなの肩をつつきました。
「しかたないようだね、いさな。ここはおっちょこ先生のためにも、魔女試験に挑戦してみようよ」
「う、うん。ま、そうだね。魔法が使えるようになるのも、悪くないと思うし」
ぱっと、おっちょこ先生は目を輝かせました。
「よかった! それじゃやる気になってくれたんですね! すばらしい! あ、もう取り消しはききませんからね。いやだと言いだしても、もうだめですからね」
「そんなこと言わないよ。おっちょこ先生じゃないんだから」
いさなはべっと舌を出しました。
こうして、いさなと千種は、魔女試験に挑戦することになったのです。
ためし読みはここまで。いかがでしたか?
『おっちょこ魔女先生 魔女修業は危険がいっぱい!』は11月26日発売予定! ぜひ手に取ってみてくださいね☆