その時です。
「なるほど、この二人がそうだったんですね」
重々しい声がして、一人の女の人が部屋の中に現れました。大柄で、ちょっとぷっくりしてて、真っ白な白衣がやたら似合っています。
その人を見たとたん、いさなと千種は目を丸くしました。
「お、大岩先生?」
「え、なんで?」
大岩先生とは、おっちょこ先生が来る前の、保健室の先生です。おてんばで生傷が絶えないいさなはもちろん、体力がない千種も、この大岩先生にはずいぶんお世話になったものです。大岩先生が花丸小学校から去ると聞いた時は、本当に悲しくて、いさななどちょっと泣いてしまったほどでした。
ふつうの時であれば、いさなも千種も、この思いがけない再会を喜んだことでしょう。でも、大岩先生の顔を見たとたん、喜びはしおしおとしぼんでいきました。
二人が知っている大岩先生は、おおらかな笑顔を絶やさない、気のいいおばちゃん先生です。でも、今の大岩先生には優しさや親しみやすさなどはかけらもありませんでした。ただただ厳しく、目を冷たく光らせてこちらを見ているのです。
ここで、いさなは思い出しました。
そう言えば、前におっちょこ先生が言っていたっけ。大岩先生も魔女で、しかもおっちょこ先生の師匠だって。すごく厳しくて、怖いんだって。
あの時は「大岩先生が怖いはずないじゃん」と、その言葉を信じられなかったけれど、今なら信じられるなと、いさなは思いました。
一方、大岩先生はじっくりといさなと千種を見つめ、それからうなずきました。
「なるほどなるほど。学校一のおてんばさんに、学校一の頭脳派さん。この二人が相手では、まんまと秘密を知られてしまったとしても、まあ、それはしかたないかもしれないですね」
でも、と、大岩先生はぎろっとおっちょこ先生をにらみつけました。
「知られたなら知られたで、すぐに忘却魔法をかければすんだはず。それをしないで、二人をそのままにしておくなんて。千代子、あなた、どういうつもりだったのです? 昔から問題ばかりのあなただけど、今回ばかりは許せませんよ。もう一度、魔女がなんたるかを、一からたたきこまねばならないようですね」
ごごごごっと、大岩先生の影が大きくふくれあがっていきます。その迫力、そのおっかなさに、ひえええっと、いさなと千種は小さく縮こまってしまいました。
ですが、なんと、おっちょこ先生は違いました。真っ青な顔をしながら、必死で声をあげたのです。
「ち、違います! 記憶を消さなかったのは、わ、わざとなんです!」
「なんですって!」
「こ、この二人はたしかに人間です。魔気はかけらもありません。で、でも、魔女になる素質があると、わたしは感じました。だ、だから、弟子にすることにしたんです!」
何を言うんだと、いさなと千種は目をぱちくりさせました。大岩先生もあきれた顔をしました。
「また、そういう口からでまかせを言う」
「で、でまかせじゃありません! こ、この二人はもう何匹も魔物を捕まえています。今だって、師匠が放った五月蠅を退治しました。師匠だって見たでしょう? 素質があるんです! わたしの弟子なんです! 弟子に魔法を教えるのは、ま、魔女としてあたりまえのことです。それを罰せられるなんて、ひどいと思います」
まくしたてるおっちょこ先生を、大岩先生はじっと見ていました。と、いきなりにっこり笑ったのです。それは、ライオンがお肉を前にした時のような笑顔でした。
「わかりました。そういうことであれば、この二人に魔女試験を受けてもらいましょう。試験を無事に合格できたら、人間とは言え、素質は十分。魔女として認めます」
「も、もし合格できなかったら?」
「その時は、この二人から魔女の記憶は全て消します。そして、千代子、あなたは一ヶ月、ぞうきんの刑です」
「げえっ!」