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【第1章ためし読み】廣嶋玲子『おっちょこ魔女先生 魔女修業は危険がいっぱい!』

「で、本物のおっちょこ先生は?」

「ロッカーの中です」

「入ってもいい?」

「どうぞ」

 そこで、いさな達はロッカーの前に立ちました。ふだんは、バケツやほうきなどのそうじ道具が入っているふつうのロッカーなのですが……。パスワードを唱(とな)えて開ければ、たちまちおっちょこ先生の魔女の部屋へと通じるようになっているのです。

「虹(にじ)色(いろ)コウモリと闇(やみ)色(いろ)ライオン、足してわったら、星の猫(ねこ)」

 千(ち)種(ぐさ)がパスワードを唱え、いさながぱっとロッカーのドアを開けました。

 いつもなら、ロッカーの中には、不(ふ)思(し)議(ぎ)な道具や薬草がどっさりある部屋が広がっているはずなのですが。

 今日は違いました。

「えっ?」

「ど、どうしたんだろう、これは?」

 二人がおどろくのも無(む)理(り)はありません。

 そこには、がらんとした石(いし)造(づく)りの大きな部屋があったのです。

 恐(おそ)る恐る中に入ってみましたが、あれだけたくさんあった道具も、本も、天(てん)井(じょう)からぶらさがっていた薬草の束(たば)も、見当たりません。棚(たな)や机(つくえ)、薬を作るための大(おお)鍋(なべ)も暖(だん)炉(ろ)もなくなっています。

「……ねえ、千(ち)種(ぐさ)。おっちょこ先生、引っ越(こ)しでもしたのかな?」

「いや、それならあちこちにゴミやかけらが残(のこ)っているはずだよ。あのおっちょこ先生が、こんなにきれいさっぱり部屋をかたづけられるはずない」

「それもそうだよね」

 二人がひそひそとささやきあった時です。

「ちょっと、二人とも。ひどいこと言いますね」

 聞きなれた声がしました。

 はっと顔をあげれば、部屋のずっと奥(おく)のほうに、おっちょこ先生がいました。椅(い)子(す)にこしかけ、ぶっちょうづらをして二人をにらんでいます。

「おっちょこ先生! いたの!」

「どうなっているんですか、これは?」

 あわてて駆(か)けよる二人に、おっちょこ先生は深いため息をつきました。

「来てしまいましたか、二人とも」

「どうしたの、おっちょこ先生?」

「いつもの魔(ま)女(じょ)の部屋は、どうしちゃったんですか?」

「……師(し)匠(しょう)が魔(ま)法(ほう)を組み替(か)えて、別(べつ)のところに通じるようにしちゃったんですよ。……ここはお説(せっ)教(きょう)部屋です」

「お説教部屋?」

 なんだかぎくりとした二人の前で、おっちょこ先生の様子が急に変(か)わりました。目をぎゅっとつぶり、苦しそうに何度も首をふりだしたのです。

「おっちょこ先生? ど、どうしたの?」

「う、うるさい! うるさいです! ああ、もう! やめて、うるさい!」

「う、うるさいって……ちょっとひどくない?」

「違(ちが)います! うるさいですってば! ああ、たまらない! な、なんとかしてください!」

 苦しそうなおっちょこ先生に、いさなと千(ち)種(ぐさ)は青くなりました。ですが、千(ち)種(ぐさ)はさすがでした。すぐに、はっとした顔になったのです。

「もしかして……この部屋に魔物がいるのかも」

「え、ほんと?」

「ああ。魔女のおっちょこ先生にはそれが見えているんじゃないかな」

 そこで、いさなはポケットに入れていた魔法のメガネをとりだしました。おっちょこ先生に返そうと思っていましたが、それは後回しです。

 メガネをかけたとたん、それまで見えなかったものが見え、聞こえなかったものが聞こえだしました。

 ジャンジャカ、パンパーン!

 すさまじい騒(そう)音(おん)に、いさなはよろめいてしまいました。

 見れば、おっちょこ先生のまわりを、一匹(ぴき)の魔物が飛(と)びまわっていました。大きさはバスケットボールほど。緑と青の蠅(はえ)のような見た目ですが、手にはシンバルや太(たい)鼓(こ)、それにラッパを持っていて、それをぜんぶ使って、大(たい)変(へん)な騒音を立てています。

 なるほど、これではおっちょこ先生が「うるさい!」と言うのも無理はありません。

「いた! 千(ち)種(ぐさ)、魔物がいた!」

 いさなはメガネを千(ち)種(ぐさ)に渡(わた)しました。今度は千(ち)種(ぐさ)がメガネをかけました。

「うっ! うるさい!」

「だよね。すごくうるさいやつだよね」

「違うよ。こいつの正体だ。五月蠅(うるさい)。憑(つ)いた人間を神(しん)経(けい)質(しつ)にさせて、あらゆる音に敏(びん)感(かん)にさせる魔物だ」

「うわあ、やなやつ。……まあ、このままじゃおっちょこ先生が気の毒(どく)だし、捕(つか)まえたほうがいいよね」

「ああ。いさな、頼(たの)む」

 もう一度、いさながメガネをかけました。五月蠅(うるさい)の音にひるみながらも、すぐに飛びついて、「五月蠅(うるさい)、見つけた!」と、叫(さけ)びました。



 とたん、五月蠅(うるさい)は小さな緑色の玉となってしまいました。

 相手の正体を見(み)極(きわ)め、その名前を声に出して言う。これが魔物の退(たい)治(じ)方法なのです。

 五月蠅(うるさい)が消えて、おっちょこ先生がほっとしたように顔をあげました。

「た、助かりましたぁ。ああ、うるさかった」

「もう。そんなにつらかったんなら、自分で退治すればよかったのに」

「そうですよ、おっちょこ先生。どうして自分で退治しなかったんです?」

「できるものなら、とっくにやってますよ。でも、わたし、この椅子から立つことができないんです。接(せっ)着(ちゃく)魔(ま)法(ほう)でくっつけられちゃっているんです」

「接着魔法? だ、だれがそんなことを?」

「私の師(し)匠(しょう)ですよ。いまの五月蠅(うるさい)も、師匠が放ったんでしょうね」

「……それは、なんのためにですか?」

「それはもちろん、わたしの秘(ひ)密(みつ)を知った子どもを見つけるため……いけない! ふ、二人とも、は、早く保(ほ)健(けん)室(しつ)に戻(もど)って! 急いで!」

 おっちょこ先生が顔色を変(か)えて叫んだ、まさにその時です。いさな達(たち)の後ろに、ふいに二脚(きゃく)の椅(い)子(す)が現(あらわ)れました。椅子は音もなく駆(か)けよってくると、いさなと千(ち)種(ぐさ)をすくいあげるようにして、座(すわ)らせたのです。

「うわっ!」

「な、なにこれ!」

 あわてて逃(に)げようとしましたが、どういうわけか、椅子から立ちあがることができません。二人は怖(こわ)くなり、ますます必(ひっ)死(し)でもがきました。


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