
プロダンスチーム「KADOKAWA DREAMS」も推薦(すいせん)!
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元気がもらえるダンス小説、ぜひたのしんでね!
★ストーリー★
わたし、鈴木ヤコ。小学6年生。みんなには内緒(ないしょ)だけどダンスが好きで、顔をかくしてダンス動画をインターネットに公開しているの。ある日、夜の公園でダンス動画の撮影(さつえい)をしていたら年上男子から声をかけられて!?

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第4話 ダンスチーム結成(けっせい)!
ヒオを誘(さそ)って、せっかくダンスチームを組んだのに。あれから、学校でわたしは、一度もヒオに話しかけられないでいた。
だってヒオって、きれいで目立つしクールでちょっと怖いし、他のクラスメイトがみんな仲良くなりたがってるし……。
わたしは、一緒にダンスバトルして少しは仲良くなれたと思うけど……多分まだ、友達にはなれていない気がして。
けど。がんばって声をかけなきゃ。今日は学校が終わったら、みんなで一緒にダンスの練習しようって約束してるから。
下校時間になったとたん、わたしは勢いよく立ち上がる。だけどその時には、クラスメイトの女子たちがヒオに声をかけていた。
……先を越された!?
「ね、渡辺さん。放課後空いてる? 今日こそ、私たちと一緒に遊びに行こうよ」
「むり。今日はヤコと約束があるから」
クラスメイトのお誘いを、さらりと断るヒオ。女子たちが、一斉にわたしの方を振り向いた。えっ、え。なんでみんなこっち見るの……。
ヒオはランドセルを背負って、早足でわたしの方に来る。
「そういうわけだから。また今度誘って」
前よりも冷たくない言い方で、クラスメイトたちにそう言って。
「行きましょう、ヤコ」
ヒオは堂々とわたしの手を引っ張って、教室を出ようとする。
後ろから、みんなのざわざわとした声が聞こえた。
「え、鈴木さんって……渡辺さんと友達だったの!?」
「なんでっ? どういうつながり!?」
ひえ……なんか、わたしまで目立っちゃってる……。
リヒトとの待ち合わせはいつもの広場。広場に向かう道を、わたしはヒオの後ろで、縮こまりながら歩く。
急に、ヒオは振り返った。わたしはぴたっと立ち止まる。
「ねえヤコ」
「は、はいっ」
「さっきから、ずっとあたしの後ろ歩いてるけど。なに遠慮(えんりょ)してるの?」
むっ、と腕(うで)を組んで、ヒオは聞く。わたしは指をもじもじといじる。
「その……わたし、ヒオのこと強引に誘っちゃったかもって思ってて」
……実は、ヒオに引け目を感じてたんだ。ダンスチームに入ってくれたのは、うれしいけど。冷静になったら、これでよかったのかな? って。
「ヒオ、本当にバレエやめてよかったのかな……って」
だって、思い返してみても、ヒオのバレエはとってもきれいだったから。
「なんだ、そんなこと。気にすることじゃないのに」
「でも、好きだったんでしょ……?」
ヒオは、少し考え込む。
「ん〜、そうね。バレエのことは、今でも好きよ。けど、やめるって決めて、距離を置いてみて…… 気づいたの。あたし、バレエを踊るよりも、バレエの舞台を観る方が好きだったのかも、って」
「観る方?」
「うん。知ってる演目でも、こんな振り付けでやるんだ、こんな衣装で出るんだ、こんな演出するんだって、見るのがたのしいの。踊るよりもわくわくする」
わたしが、ダンス動画を見るのが好きっていうのと同じかな、と思った。わたしも、自分で踊る前は見るのが一番好きだったから。
「だから気にしなくていいの。あたし、やめてもバレエを好きなままだから」
そっか。なら、よかった。
「それに。コンテンポラリーのレッスンはまだ続けてるし。完全にやめたわけじゃないしね」と、ヒオは付け足す。
「今は、一緒にダンスチームをやることで、あたしの『好き』を新しく見つけられるかもしれないのが、たのしみなの」
ヒオが、うれしそうに言ってくれたから。わたしは少し安心する。そっか、誘ったのが迷惑(めいわく)じゃなかったならよかった。
「ね、ヒオ。わたしにバレエのこと教えてよ。わたしもヒオの好きなもののこと、知りたいな」
そう言うと、ヒオは目を輝かせた。
「なら、うちにDVDがたくさんあるわ! 見に来てよ。同じバレエでもフランスのオペラ座とかイギリスのロイヤルバレエ団とかイタリアのスカラ座とか、それぞれ違って全部ステキなの!」
わ、わ、なんだかバレエ団の名前がたくさん! ヒオ……本当にバレエ観るの、好きなんだ。というか。
「家…… 行っていいの?」
「なに言ってるの」
ヒオは呆(あき)れたように言った。
「あたしたち、友達でしょ? これから一緒に踊るチームメイトなんだから」
「……!」
そう、そうだよね。一緒に踊ったら、もう友達だよね……!
「お土産(みやげ)にシュークリーム、持っていく、ね」
「ほんとっ。たのしみ!」
* * *
「コンテストで踊るダンスは、ヒップホップでいこうと思うんだ」
いつもの広場でダンスの練習が終わった後。リヒトはわたしたちにそう言った。
「ヒップホップ……?」
名前は聞いたことあるけど、どんなダンスだろう。
「ヒップホップはリズム以外、決まった型がなくて自由に踊りやすい。それぞれ違うダンスをやってきたおれたちが、初めてチームで踊るにはちょうどいいと思って」
「自由に踊れるなら……それがいいかも」
「あたしも。バレエ以外は初心者だし、先輩のアドバイスは聞くわ」
「ありがとう。でも、踊る曲はみんなで選ぼう」
というわけで。
「今度の練習の時、二人にも、ヒップホップの曲を好きに持ってきてほしいんだ」
リヒトから宿題をもらって、家に帰った後。
わたしはパソコンの前で、うんうん唸(うな)っていた。
(そもそも。ヒップホップって、なに……?)
ネットで調べたら、『ヒップホップとは、単に音楽のことだけでなく、ダンスやファッションも含めた文化のことで――』とか、難しいことが書かれていて……。文字を読んでると、ぷしゅ〜、と頭から湯気が出そうになった。
(ぜんぜん、わからないよ〜!)
いちおう、リズムやラップが特徴的って言われてて、ヒップホップっぽい音楽がどういうのかはなんとなーくわかったけど……どの曲を持っていけばいいんだろう?
そして、なんとなく不安なまま、曲を持っていく日がやってきたんだ。
* * *
その日 、リヒトがわたしたちを案内してくれたのは、ビルの地下にあるダンススタジオだった。
「父さんがここでダンス教室やってるんだ。今日は教室が休みだから使っていいって」
「へえ。リヒトのパパって、ダンサーなんだ。リヒトもこのダンス教室に通ってるの?」
ヒオの質問に、リヒトは答える。
「昔はね。……今は通ってないよ」
わたしは、一面鏡張りのスタジオを見て、テンションが上がった。
「わああ……! すごい、ここで練習していいの!?
全身映ってる……! 録画して確認しなくても、動き全部見えちゃう! ここで練習するの、絶対たのしいよ」
踊る前から、わくわくが止まらない!
リヒトとヒオは、わたしの反応に目を丸くしていた。
「あはは。たしかにスタジオってすごいよな。おれにとっては当たり前だったから、ヤコの反応、新鮮でいいや」
「練習がたのしいなんて、ほんっと、ヤコって変わってるわ」
まずは準備運動やアイソレーション、リズム取りとかの基礎練をみんなでする。その後、練習用の曲を踊ったりして……体があったまったところで、リヒトは話を切り出した。
「コンテストで踊る曲を、決めようか。どんな曲を持ってきた?」
う……。話し合いで自分の意見を言うのって、緊張(きんちょう)する。
うまく話す自信ないし、ちゃんと聞いてもらえるか、わからないから。わたしは、教室でも全然手をあげられないタイプ……。
「じゃああたしから」
ヒオは真っ先に手をあげて、鞄(かばん)からタブレットを取り出した。
そのまま、動画で再生したのは、日本語のラップで始まるポップな雰囲気(ふんいき)の曲……。
「あっ、これ、聞き覚えある。アニメの曲……?」
「そう。あたし、ヒップホップって聞いたことないかも、って思ってたんだけど。そういえば、見てたアニメの主題歌の歌詞が、ラップだったな〜って思い出して」
「ヒオもアニメとか見るんだ……!」
「フツーに見るわよ。移動中とか、ヒマだし」
うれしい……! 好きなアニメの話、できるかな。
「とにかく。アニメの主題歌なら、元になったストーリーがあるでしょう? バレエの曲も、物語につけられるものだったから。今まで踊ってきたのと違うジャンルの曲でも、同じように物語があれば入り込みやすいと思ったの」
ヒオ、しっかり考えて持ってきたんだ……。
「なるほど。とっつきやすくていいかもしれない。おれもこの曲、好きだし」
「リヒトはどんな曲、持ってきたの?」
ヒオが聞くと、リヒトはとてもいい笑顔で、答えた。
「やっぱり、最初は『これぞヒップホップ』って感じの曲がいいかと思って! おれらが生まれる前の曲なんだけど、今聞いてもカッコいいんだ……!」
リヒトはスタジオの大きなスピーカーを使って、曲を流す。
始めの演奏の後、ずん、と重たい音が鳴って、早口のラップが聞こえた。
「わ、外国語?」
「英語ね。習ってるけどさすがに聞き取れないわ……」
ヒオはタブレットを触る。
「ヒオ?」
「歌詞を検索(けんさく)してるの」
タブレットの画面に、ばっと英語の歌詞が表示される。
「うっ……わたし、勉強、苦手……」
「まったく。リヒトを見習いなさいよ」
「あはは。おれも勉強、苦手だったよ?」
「えっ」
わたしもヒオも驚いた。リヒトってひまな時はよく本読んでるし、なんでも知ってるって感じなのに……。
「おれ、昔は感覚派で、うまく自分の考えとか、人に説明できなくてさ。それが嫌で、本を読んだり勉強したりするようになったんだ。ダンスのことも、もっとよく理解したかったし、英語の歌詞もわかるようになりたかったしね。ま、勉強しすぎで目が悪くなっちゃったんだけど」
リヒトは、今は練習中だから、眼鏡じゃなくてコンタクトだ。
わたしは、リヒトの選んだ音楽を聞きながら、思う。この曲、歌詞がわからなくてもかっこいいな〜。
隣(となり)でタブレットを見ていたヒオが、引きつった顔で固まった。
「どうしたの?」
「ええと、和訳の歌詞を見つけたんだけど。歌詞がその……」
画面をのぞき込む。歌詞には荒い言葉が多くて、ちょっとびっくりした。
リヒトは、いたずらがバレたみたいに、やんちゃっぽく肩をすくめた。
「洋楽のいいところは、ちょっと過激な曲を聞いてても、人にバレないとこかもね」
リヒトって、なんだかいろんな顔があるよね。真面目だったり、やんちゃだったり……不思議だ。
「ヤコの持ってきた曲も聞かせてほしいな」
「え、えっとね」
どきどきしながら、二人にスマホを見せる。本当にこれで、いいのかな。
でも、わたしはこの曲がいいと思ったんだ。
「わたしが持ってきたのは……アイドルの曲なんだ」
えい、と動画を流す。
「わ。顔かっこいい」
「へえ、アイドル曲なのにラップなんだ」
わたしは、アイドルが好きだから。好きなものなら踊りやすいかなって思ったんだ。
といっても、持ってきたのは推(お)しの曲じゃなくて、今回初めて知った、男の子のアイドルグループの曲だ。
「調べたら、ヒップホップをやってるアイドルがいるって知って」
それで。
「……怖いな、って思ったの」
「どういうこと?」
ヒオは不思議そうな顔をした。リヒトは、真顔だった。
えっと、長くなるけど、うまく説明できるかな。
「わたし、ティックトッカーじゃん? わたしの今までのダンスって、人気の曲で、流行(はや)りのダンスを踊って、みんなに楽しんでもらうためのものだったんだ」
わたしは喋(しゃべ)るのが苦手で友達が少ないけど、ダンスを通じてなら、みんなと同じことして遊べるって感じがして、好きだった。
「でも……リヒトに誘われて、ストリートダンスも楽しいなって思って。わたしの上げる動画 、最近、変わってきたんだ。もちろん、流行りのダンスも好きだけど。ストリートダンスっぽい動画も、上げるようになったの。そしたら……」
アカウントは、いとこのユカ姉が管理してるから、詳しくは見てないけど。
「ファンから、今までの『YAKO』っぽくないって、言われて……思ったんだ。みんなが期待してることと、違うことをするのは、怖いなって……」
もちろん、褒(ほ)めてくれるファンもいるけどね。
「それでさ。アイドルがヒップホップやるのも、『っぽくない』じゃん? いろいろヤなことも、言われたんじゃないかって。……それって、怖い。
でも、好きだからやるって決めたのかなって、思ったら、曲に勇気がもらえる気がしたんだ。わたしも、誰かに『っぽくない』って言われても、わたしの好きなダンスをしよう。って」
それが、ヒップホップアイドルの曲を持ってきた理由。
「あー。あたしも、ヤコと似たようなこと言われたわ」
体育座りをして頬杖(ほおづえ)をついていたヒオが、ため息をついた。
「ストリートダンスやるって、周りに言ったら『どうして? バレエの方がいいのに』って」
リヒトは聞きながら、少し悲しそうな顔をした。
「でもね、そう言ってる子たちも悪気はないのよ。ただ、自分の好きなものが『一番いい』と信じてるから、好き勝手言ってくるだけ」
ヒオは立ち上がって、胸を張る。
「だからあたしたちも、自分のやりたいことが『一番いい』んだって、好き勝手に信じちゃえばいいのよ」
「ヒオ……」
ヒオはいつも通り強気で、言葉もツンと尖(とが)っていたけど。伝わる気持ちは優しかった。
「ありがとう、励(はげ)ましてくれて」
「どーいたしまして」
曲を止めて、リヒトに聞いてみる。
「リヒトは、どうかな? わたし、結局ヒップホップがなんなのかはわからなかったから、自信ないんだけど……」
アイドルの曲だから、だめだったり、するのかな。
リヒトは、ちょっと考えてから言った。
「おれも、ヒップホップが何かはひと言で説明できないや。音楽もダンスも、今はいろんなジャンルが混ざってるからさ。そうだな……これまでのヒップホップへの、愛と敬意(リスペクト)があれば、それはヒップホップなんじゃないかな」
リヒトは、自分の胸をトンッと叩(たた)いた。
「あとは、心(マインド)かな。反骨精神……『負けるもんか』って気持ちが、ヒップホップらしいと、おれは思う。だからこの曲を選んだ、ヤコの気持ちがいいと思った」
「あ、ありがとう……?」
褒められて、ちょっと照れくさい。けど。
(正直、勝ち負けとかあまり、考えたことなかった……そうなのかな?)
リヒトの言う通り、わたしに『負けるもんか』って強い気持ちが、あったのかな?
……ちょっと、違う気がするけど、まあいいや。
曲をもう一度再生する。
「ねえ、歌詞の『高く飛べ』ってところ。ここで本当に高く跳んだら素敵じゃない?」
ヒオが言い出して、リヒトは。
「こんな感じ?」
その場で、勢いよく後ろに跳び上がり、空中で回転して、地面に着地する。
「すごい! バク宙だ! もう一回見せて!」
「今のってアクロバット? もっと高さがあったら、見栄え完璧だわ!」
わたしはヒオとはしゃぐ。けど、着地したリヒトは、青い顔をしていた。
……あれ?
「ごめん。おれ、高所恐怖症だから……高く跳ぶのは、一回が限界……」
そ、そうなの!?
ヒオと顔を見合わせる。
「リヒトって……勉強できるしダンスできるし、完璧だと思ってたけど」
「意外とそうでもないのね」
「あ〜〜、なんか恥ずかしい!」
* * *
結局、「コンテスト本番でどの曲にするかは、練習しながら決めよう」ということになった。どの曲もいい感じだったから、たのしみ……!
(話し合い、緊張してたけど、意外と平気だったかも)
残った時間で基礎練をして、スタジオを出る。外はすっかり暗くなっていた。
「はぁ〜、たくさん練習してたのしかったね……!」
「ええ……? あたしは疲れたわ」
「二人とも、駅前まで送るよ」
リヒトはスタジオから出る時には、「踊ると落ちるから」と外していた眼鏡をかけなおしていた。眼鏡姿を見ると、やっぱりリヒトは真面目で頼れるお兄さんって感じがする。
「ねえ、帰りにシュークリーム食べていかない? ふふふ、今日はたくさん動いたし、二つ……いや、三つ食べても痩(や)せるはずよね!」
スタジオの外階段を降りながら、わくわくとヒオが言う。わたしより先にリヒトが答えた。
「ええと。ヒオ、ごめん。実は、言ってなかったことがあるんだ。こっちのダンスに、食事制限とか特にないってのは、本当なんだけど」
リヒトは、なんだか申し訳なさそうに続ける。
「ダンスは、そんなに痩せない……」
「えっ」
「ダンスって、うまくなると無駄な動きをしなくなるからさ。たくさん動いても、カロリーは消費しづらくなるんだよね……」
「そんな……」
ヒオは、絶望って感じの顔になった。
「あ、いや。おれは別に、体型とか気にしなくてもいいと思うよ。どんな体かより、自分の理想のダンスができることが大事なわけだし」
リヒトは慌ててフォローするけど、体重とか、つい気にしちゃう気持ちはわたしもわかる。特にヒオはバレエのためにずっと我慢(がまん)してたから、好きに食べるのはまだ怖いんだと思う。
わたしは、ヒオの手を握(にぎ)る。
「じゃあさ、たくさん食べたいなら、もっと運動すればいいってことだよね」
好きなものを諦(あきら)めるのは、もったいないもん。
「走れ〜〜!」
「わっ、ちょっと! ヤコ、踊った後だからってテンション高いわ!」
「あはは」
夜の街を、三人で駆け出した。練習でくたくたのはずなのに、どこに元気が残ってたのかちょっと不思議だった。
多分、たのしくて、まだ動きたい気持ちになっちゃったんだ。
普段よりも夜遅い時間の街。塾(じゅく)の帰りはまだ夕方の終わりって感じで、空の端っこが白っぽい感じだったのに、今はもう、空が真っ黒だ。
でも、駅前の方はたくさんの街灯が光っていて、星よりもっと眩しかった。
駅前のシュークリーム屋さんで、一人ひとつずつシュークリームを買う。リヒトが「昔の、ダンスの賞金があるから」と奢(おご)ってくれた。
ヒオは、さすがに三つ食べるのは(お腹が痛くなりそうだから)諦めたけど、代わりにチョコレートのトッピングがたくさんのった、大好きな味を選んだ。
シュークリームの箱を抱えて、広場に向かう途中で、ヒオが言った。
「あたし、夜って好き! 風が気持ちいいし、日焼けしないし、星もきれいだもの」
リヒトもうなずく。
「おれも。夜型だからさ、勉強も練習も、夜の方が捗(はかど)る気がするよ」
わたしは、夜の街を見回す。昼間や夕方には見慣れているはずの街が、なんだか特別な景色に見えた。
練習終わりで、テンションが上がってるからかな。ううん、それだけじゃない。
「わたしも、夜が好き。前は、人目を気にしないで踊れるから、だったけど……今は、チームのみんなと練習して、一緒に帰るこの時間が、好きだなって思う」
「ヤコ……」
リヒトは、うれしそうに微笑(ほほえ)んで。はた、と広場の目の前で、急に立ち止まった。
「チームといえば。大変だ、チーム名決めるの忘れてた……。コンテストの申し込みに必要なのに、ごめん!」
「コンテストの申し込み期限までに、早く決めないと、だね」
「じゃあ。今ここで相談して、ちゃちゃっと決めちゃいましょ」
でも、どうやって決めればいいのかな。
「みんなが好きなものを、名前にするとか……?」
「……『シュークリーム』」
ヒオがぼそっと言う。
(それはヒオの好きなものだよね?)
わたしも好きだけど。
リヒトが言う。
「全員、夜が好きって言ったから、夜をモチーフにしたチーム名がいいかもね」
ヒオは空を指差す。
「なら、チーム『一番星』! なんてどう?」
「じゃあおれも。……夜型のスラングで『ナイトオウル』とか?」
わたしは、考える。
「『ヨルマチ』は、どうかな?」
自分の意見を言うのは、緊張するから苦手だったけど。もう平気だった。
二人ならちゃんと聞いてくれるって、わかったから。
ヒオとリヒトは首をかしげる。あ、理由も説明しないとだよね。
「ええと、『夜の街』って意味と、『夜を待つ』って意味で……」
「ダブルミーニング! ひとつの言葉に意味が二つ込められてるなんて、いいじゃん。カッコいい」
「ま、悪くないわ。短くて覚えやすいし」
広場の真ん中。いつものベンチへ向かう。
「じゃあ、あらためて。チーム『YORUMACHI』結成を祝って……」
リヒトの言葉に、全員でひとつずつシュークリームを持って、夜空にかかげた。
「カンパイ!」
ためし読みはここまで。このつづきは単行本で読もう!

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