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ものがたり

【第1章ためし読み】廣嶋玲子『おっちょこ魔女先生 魔女修業は危険がいっぱい!』

 その時です。

「なるほど、この二人がそうだったんですね」

 重々しい声がして、一人の女の人が部屋の中に現れました。(おお)(がら)で、ちょっとぷっくりしてて、真っ白な(はく)()がやたら()()っています。

 その人を見たとたん、いさなと()(ぐさ)は目を丸くしました。

「お、(おお)(いわ)先生?」

「え、なんで?」

 (おお)(いわ)先生とは、おっちょこ先生が来る前の、保健室の先生です。おてんばで(なま)(きず)()えないいさなはもちろん、体力がない()(ぐさ)も、この(おお)(いわ)先生にはずいぶんお世話になったものです。(おお)(いわ)先生が(はな)(まる)小学校から去ると聞いた時は、本当に悲しくて、いさななどちょっと()いてしまったほどでした。

 ふつうの時であれば、いさなも()(ぐさ)も、この思いがけない(さい)(かい)(よろこ)んだことでしょう。でも、(おお)(いわ)先生の顔を見たとたん、喜びはしおしおとしぼんでいきました。

 二人が知っている(おお)(いわ)先生は、おおらかな()(がお)を絶やさない、気のいいおばちゃん先生です。でも、今の(おお)(いわ)先生には(やさ)しさや親しみやすさなどはかけらもありませんでした。ただただ(きび)しく、目を(つめ)たく光らせてこちらを見ているのです。

 ここで、いさなは思い出しました。

 そう言えば、前におっちょこ先生が言っていたっけ。(おお)(いわ)先生も魔女で、しかもおっちょこ先生の師匠だって。すごく厳しくて、怖いんだって。

 あの時は「(おお)(いわ)先生が怖いはずないじゃん」と、その言葉を(しん)じられなかったけれど、今なら信じられるなと、いさなは思いました。

 一方、(おお)(いわ)先生はじっくりといさなと()(ぐさ)を見つめ、それからうなずきました。

「なるほどなるほど。学校一のおてんばさんに、学校一の()(のう)()さん。この二人が相手では、まんまと秘密を知られてしまったとしても、まあ、それはしかたないかもしれないですね」

 でも、と、(おお)(いわ)先生はぎろっとおっちょこ先生をにらみつけました。

「知られたなら知られたで、すぐに(ぼう)(きゃく)魔法をかければすんだはず。それをしないで、二人をそのままにしておくなんて。()()()、あなた、どういうつもりだったのです? 昔から問題ばかりのあなただけど、今回ばかりは(ゆる)せませんよ。もう一度、魔女がなんたるかを、一からたたきこまねばならないようですね」

 ごごごごっと、(おお)(いわ)先生の(かげ)が大きくふくれあがっていきます。その(はく)(りょく)、そのおっかなさに、ひえええっと、いさなと()(ぐさ)は小さく(ちぢ)こまってしまいました。

 ですが、なんと、おっちょこ先生は(ちが)いました。()(さお)な顔をしながら、必死で声をあげたのです。

「ち、違います! ()(おく)を消さなかったのは、わ、わざとなんです!」

「なんですって!」

「こ、この二人はたしかに人間です。()()はかけらもありません。で、でも、魔女になる()(しつ)があると、わたしは感じました。だ、だから、()()にすることにしたんです!」

 何を言うんだと、いさなと()(ぐさ)は目をぱちくりさせました。(おお)(いわ)先生もあきれた顔をしました。

「また、そういう口からでまかせを言う」

「で、でまかせじゃありません! こ、この二人はもう(なん)(びき)も魔物を(つか)まえています。今だって、()(しょう)が放った五月蠅(うるさい)退(たい)()しました。師匠だって見たでしょう? 素質があるんです! わたしの弟子なんです! 弟子に()(ほう)を教えるのは、ま、魔女としてあたりまえのことです。それを(ばっ)せられるなんて、ひどいと思います」

 まくしたてるおっちょこ先生を、(おお)(いわ)先生はじっと見ていました。と、いきなりにっこり(わら)ったのです。それは、ライオンがお肉を前にした時のような笑顔でした。

「わかりました。そういうことであれば、この二人に魔女()(けん)を受けてもらいましょう。試験を()()(ごう)(かく)できたら、人間とは言え、素質は十分。魔女として(みと)めます」

「も、もし合格できなかったら?」

「その時は、この二人から魔女の記憶は全て消します。そして、()()()、あなたは一ヶ月、ぞうきんの(けい)です」

「げえっ!」



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