KADOKAWA Group
ものがたり

『5分で読書 全力の「好き」をキミにあげる』【特別ためし読み連載】第1回 伊吹くんに、毎朝一番におはようって言える人になりたいです。①


朝読にもおすすめの短編小説を集めた『5分で読書』シリーズから、みんながあこがる学生ラブをつめこんだ『全力の「好き」をキミにあげる』の特別ためし読みを公開!(全4回)
毎週木曜日更新予定♪

第1回 伊吹くんに、毎朝一番におはようって言える人になりたいです。①

クラスメイトの伊吹(いぶき)くんに一目惚れしてからというもの、あまりのかっこよさについつい毎日告白してしまう私。 伊吹くんはそんな私のことをふしぎに思っているようで……。

 

昔から、やろうと決めたらすぐに行動に移す質(たち)だった。

 ……だけどまさか自分が、一目惚れをしたその衝動(しょうどう)のままに告白してしまうような人間だなんて思わなかった。

「好きです、結婚してください!」

「……誰お前」

 それが、私と伊吹くんとの出会いである。

 

 

  * * *

 

 そもそもが、一目惚れなんて信じていなかったのだ。人を好きになるには時間が必要で、相手の好きなところ、そして嫌いなところを知るうちに惹(ひ)かれていくのだと思っていた。

 ……っていうかこれが初恋なんだよねぇ。だからなおさらびっくりだった。

「伊吹くん、今日もかっこいいね!」

 今日も、登校して一番に目に入るのは彼だった。あいさつ代わりににへらっと笑いかける。

 伊吹光(ひかる)くん――私の初恋の人。光のようにまぶしい彼に、まさにぴったりな名前だと思う。

「……おはよ」

 うっとうしそうな顔をしながらも、伊吹くんはあいさつを返してくれる。

「おはよう! もう、伊吹くんは優しいなぁ。好き」

「あーはいはい」

「だから結婚しよう?」

「寺崎のこと恋愛対象に入れてないから」

「えっ、ひどい」

 でもまあ実は、好きって伝えるだけで十分満足しているのだ。両想いになんかなったら私は爆発しそう。幸せすぎて。

 にこにこしながらようやく他のクラスメイトにもあいさつして、伊吹くんの左どなりの席に座る。

 そう! なんとなんと、私は今、伊吹くんのとなりの席なのです!

 へっへへへ、くじ運はいいんだよね、私。となりの席を引いたときは超ハイテンションで伊吹くんに報告してしまったけど、あきれつつも嫌そうな顔はしなかったから、やっぱり伊吹くんは優しい。

 私が伊吹くんを好きになってから、早三か月。初めて会った日――高校の入学式の日に一目惚れをして、それから毎日、私は伊吹くんに告白している。

 私が一目惚れするだけあって、伊吹くんはとてもおモテになる。告白されるのなんて慣れっこだったらしく、最初こそとまどっていたが、今ではすっかり適当に流される日々だ。それでもやめろと言わない伊吹くんが好き。

「うーん……伊吹くん、質問していい?」

「めんどくさいのじゃなければ」

「えー、じゃあだめだなぁ」

 どうしてそんなにかっこいいんですか、って訊きたかったんだけど。

 ……あれ? 伊吹くんの顔を見つめながら、なんかこの質問前にしたような気がするぞ、と首をかしげる。うーん、でも伊吹くんはかっこいいからしかたないよねぇ。

 勝手に一人で納得していると、めずらしく伊吹くんから話しかけてくれた。

「俺のほうこそ気になってたことあるんだけど、訊いていい?」

「うわわわ、なんでも訊いて!」

 基本的に私がずっとしゃべっているから、伊吹くんから話題を切り出すことはめったにない。申し訳ないとは思っているけど、伊吹くんを目の前にするとどうにも口が止まってくれないのだ。

 だから意気揚々(いきようよう)とうなずいて――けれど続いた質問に、私はかちんと固まってしまった。

「寺崎って俺のどこが好きなの?」

「……魂レベルで惹かれちゃったっていうか。えーっと、細かい理由なんてどうでもよくないですか!」

 そう主張するも、「どうでもよくない」ときっぱり返される。

「やっぱり顔だけ?」

「やっぱりって何!? 顔だけで好きになるわけないじゃん!」

「初対面で告白してきた奴がよく言うよ」

「うっ……そ、そうですけど! そりゃあもちろん顔も大好きだけど!」

 どうしようどうしよう、誤解(ごかい)されてる。顔が好きなだけで毎日告白するわけないのに! うううう、かっこいいとか好きとかしか言ってなかったから? だって他にどう言えばいいの!

 どこかがっかりした顔の伊吹くんに、必死で言い訳を考える。でも誤解を解くためにはちゃんと好きなところを言うしかない、よなぁ。なにそれ無理。無理です!

 興味をなくしたように、伊吹くんは机の上にノートと教科書を出してシャーペンを動かし始める。

 ……ここで何も言わなかったら、このまま嫌われる気がする! 言ったところでどうせ嫌われちゃうだろうけど、それならまだ、言って終わったほうがマシだ。顔だけしか見てないとか思われたくないもん。

「い、伊吹くん」

 あ、声裏返っちゃった。ちらりと視線だけで応じる伊吹くんに、ごくっとつばを飲み込む。

「恥ずかしいから、せめて人のいないとこで言わせて……」

 朝とはいえ、あと五分ほどでホームルームが始まるから、教室にはすでにそれなりの人がいる。こんな場所で伊吹くんの好きなところを挙げていくとか、恥ずか死ぬ。本人以外に聞かせられない。できれば本人にも聞かせたくないくらい!

 おそるおそるお願いすれば、伊吹くんはきょとんと首をかしげた。

「……は?」

「あざとかわいい!! 反則!」

 顔を覆(おお)って悶(もだ)える私に、伊吹くんはあきれ声を出す。

「そんなこと大声で言えるのに、羞恥心(しゅうちしん)とかあるのかよ」

「あります! これくらいは全っ然恥ずかしくないけど!」

「好きも結婚しても、普通毎日言うようなことじゃないと思うんだけど」

「……うわああ、伊吹くんの口から好きって! 結婚してって! 結婚してください!」

「あのな、さすがにうっとうしいぞ?」

「ごめんなさい」

 即座に謝れば、ん、と満足げにうなずかれた。

 ほんと伊吹くんって心広いよなぁ。なんで嫌われないんだろう。……はっ、もしやすでに嫌われてるけど、優しいからそれを隠してくれてるの!?

 ま、まあ、それはないか。私のことが嫌いなら、どこが好きなのかとか訊いてこないだろうし。それに、部活のオフが被った日にはたまーに一緒に駅まで帰ってくれるし。……大丈夫だよね、嫌われてないよね?

「寺崎、放課後空いてる?」

 デートのお誘(さそ)いですか!? と口から飛び出しそうになったけど、なんとか我慢(がまん)する。うっとうしがられたら、その日一日にちはダル絡みしないと決めているのだ。

 放課後……そっか、今日は陸上部オフか。しかも私が所属する女バスもオフ。いつもなら嬉々として一緒に帰ろうと誘いにいくところだけど、今日に限ってはなんてタイミングの悪い!

「無理?」

 返事が遅かったせいか、伊吹くんの眉(まゆ)がちょっと下がる。ここで無理と嘘(うそ)をついてもいいけど、伊吹くんに嘘はつきたくない。

「ううん、大丈夫……けど早すぎない? 心の準備ってすごい大切なものだと思うんですけど」

「何言うつもりなんだよ」

 伊吹くんはすでにちょっと引き気味だ。

 いや、うん。そうなるよね。私、告白もプロポーズもどきも平然とできるし。でもそれとこれとは話が別なんですよ!

「こっちはこれから一切口利いてくれなくなるかも、って覚悟をしなきゃいけないんだからね!」

「だから何言うんだよ!?」

 えへ、とごまかしの笑みを浮かべると同時にチャイムが鳴った。おお助かった、とこっそり息を吐く。

 ……ドン引きされるの、確実なんだよなぁ。いくら伊吹くんが優しいからといっても、さすがに気持ち悪いと思われるだろう。

 ばっくれるつもりは全然ないけど、ばっくれたいなぁとちらっと思う。

「放課後な」

「ひっ」

 小声で念を押されてしまった。くっ、ささやくとか卑怯です、色っぽいな! 思わず日本史の教科書で顔の右側をカバーしてから、あ、と気づく。一時間目日本史じゃなくて数学だ。

 

伊吹くんへの「好き」の気持ちをさらけ出すことになった私。
全力の告白とドキドキの結果は……!?(次回は11月17日公開予定です♪)


著者:藤崎 珠里イラスト:花芽宮 るる

定価
1,210円(本体1,100円+税)
発売日
サイズ
B6判
ISBN
9784046818362

紙の本を買う

電子書籍を買う



この記事をシェアする

ページトップへ戻る