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中学生5人のさわやかで甘ずっぱい青春を描く、『ソノリティ はじまりのうた』大ボリューム先行れんさいがスタート!
音楽や部活の物語、恋の物語が好きな人はチェックしてね♪
#16 あ・り・が・と
早紀の指揮棒はティンカーベルの魔法の杖みたいだ。そこから放たれる不思議な力で、三十数人のハーモニーを誘導する。
音楽を聴くのは楽しいが、自分たちがつくる音楽、みんなで合わせて歌う音楽も楽しいことを発見した。とても新鮮な感覚だった。
指揮者の早紀と互いに引き合うように歌い続けた。涼万(りょうま)は早紀とずっと目が合っているような感覚になった。でも、そんなわけはない。早紀は全体を見ているはずだ。
ラストの繰り返しのフレーズに入った。
──新しい本当のわたし
未来へと歌は響きわたる
曲の始めに出てきたときと同じフレーズとは思えないくらい、音量も伸びもある。早紀が曲を締めるために両腕を掲げてぴたっと止めた。
曲が終わったとたん、満足のため息のような声がもれた。
「今のすっごく良かったよね。いいじゃん、うちらのクラス」
頬を紅潮させた晴美が興奮してまくしたてている。クラス中が弾んだ空気に包まれた。涼万は両手を組んで伸びをしたが、まだやっぱり早紀と目が合っているような錯覚が続いていた。
んなわけないし。
目をそらそうとした瞬間、早紀の口もとが動いた。
(あ・り・が・と)
胸がトンと飛び跳ねた。
えっ、俺に言ってる!?
人差し指を自分の鼻先に向けたと同時に、急にむせた。むせた咳は咳を呼んで、また咳が止まらなくなった。片手で口もとを押さえ、咳を必死で鎮めた。
そのとき、がらりと前の扉が開いた。
「あっちー」
手をうちわにして、岳が教室に入ってきた。岳は涼万をちらりと一瞥すると、
「だっせ」
と吐き捨てた。涼万は咳が落ち着くと、ゆっくりと岳に近寄った。
「岳、俺合唱コンまでは、こっちの朝練に出るわ」
ムッとした顔で、岳が何か言い返そうとするのを、
「あ、今朝は連絡しなくてすまん」
と、かぶせた。
喉はひきつれているのに、言いたい言葉はするすると出た。涼万はちょっぴり出た喉もとの出っ張りを、人差し指で軽くさすった。
※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。
#17へつづく(2022年4月14日 7時公開予定)
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