KADOKAWA Group
ものがたり

【先行連載】『君のとなりで。』最終9巻 ためし読みれんさい! 第3回 宝物を、もうひとつ


大人気の恋愛&部活ストーリー『君のとなりで。』シリーズ、ついに完結!10月13日発売の最終巻『君のとなりで。(9)この道を、ずっといっしょに』を、いちはやくスペシャルれんさいでお届けします。
※このお話は、『君のとなりで。(8) ふたつのさよなら、ひとつの始まり』を読んでから読み進めてね!

まだ『君のとなりで。』を読んでない方は1巻から3巻まで読める『君のとなりで。』スペシャルれんさい!が期間限定で復活中なので読んでくださいね。

伊吹先輩との初デートは、待ちあわせをするだけで、もう、ドキドキいっぱい!
でも、ここからいよいよ『デート』の始まりです。
先輩は、さくらをどこに連れていってくれて、何を話してくれるの?

第9巻先行れんさいを読みなおす(もくじへ)

****************

 

宝物を、もうひとつ

 

****************

 

 それから、私たちはウインドウショッピングを楽しんだ。

 

 洋服屋さん、雑貨屋さん、本屋さん。

 

 お店に入るたびに、先輩の『好き』なものを知ることができたし、私の『好き』なことも知ってもらえた。

 

 そんな中、先輩が足を止めたのは、メガネ屋さん。

 

「ちょっと見ていっていいか?」

 

「はい、もちろんです。……でも、先輩ってメガネかけてませんよね?」

 

 部活で合奏をしているときも、勉強を教えてもらったときも、これまで、メガネをかけた先輩って見たことがない。

 

「かけ始めたのはここ最近。授業中だけだしな」

 

「えっ!」

 

 私は、思わず声を上げてしまった。

 

「……メガネ姿を見られるなんて、先輩と同じクラスだった人がうらやましいです」

 

「そんな特別なものじゃないだろ」

 

「私にとっては特別ですよ。できるだけ、いろんな伊吹先輩を見たいというか……」

 

「へぇ」

 

 くいっと口のはしを上げた先輩を見て、ハッとした。

 

 私、また、心の声が出ちゃった気がする!

 

 真っ赤になってしまいそうな顔をごまかすように、あわててとりつくろう。

 

「が、楽譜は見えるんですか?」

 

「楽譜は問題ない。黒板が見えにくいだけだから。もうすぐコンタクトにするつもり」

 

「そうなんですか……」

 

「あからさまにがっかりするなよ」

 

「だって……」

 

 しょんぼり顔で先輩と目を合わせて、思わず、ぷっと吹き出しちゃった。

 

 なんだかふしぎ。

 

 朝はガチガチに緊張していたのに、今は自然にお話ができてる。

 

 先輩が、さりげなく、『カレカノ』として、楽しくおしゃべりできる雰囲気(ふんいき)を作ってくれてるおかげだ。

 

 先輩のこと、知れば知るほど、もっと好きになるよ。

 

 幸せをかみしめていたら、肩をトントンってされた。

 

 振り向くと……。

 

「ほら」

 

 あきれ顔の先輩が、メガネをかけていたんだ!

 

「……!」

 

 かかか、かっこいい!

 

 言葉にならない悲鳴を上げてしまう。

 

「はい、おしまい」

 

 伊吹先輩は、サッとメガネを取って、売り場に戻してしまった。

 

 かっこいい余韻(よいん)で、ぽーっとしてしまった私に、先輩は笑いながら、向かいのお店を指さした。

 

「そこの楽器屋、よく行くんだ。見に行こう」

 

「はい!」

 

 先輩がよく行く楽器屋さんを知ることができて、うれしいな。

 

 心をはずませながら、いっしょに楽器屋さんに入る。

 

 広い店内には、楽譜がぎっしりつまった棚(たな)がいくつもならんでいた。

 

「すごい……!」

 

「ここなら、探してる楽譜はだいたい見つかるんだ」

 

 そう言って、先輩は楽譜棚(がくふだな)の間を歩き出す。

 

 そういえば、学校以外の場所で、初めて伊吹先輩を見たのは楽器屋さんだった。

 

 あのとき、先輩は椿先輩といっしょにいて。

 

 椿先輩のこと、てっきり伊吹先輩の彼女だと思って、落ちこんだんだよね。

 

 あのころから伊吹先輩のことが好きだったってことは、まだ秘密にしておこう。

 

「お前さ、本当はトランペットが吹きたかったの?」

 

「え?」

 

 突然の先輩の言葉に、目をぱちくりした。

 

「どうしてですか?」

 

「お前が入部してすぐのころ、別の楽器屋でぐうぜん会っただろ。そのとき、トランペットの楽譜を見てなかったか?」

 

「ぐっ」

 

 思わず変な声がもれてしまった。

 

 たしかに……見てた。

 

 伊吹先輩に吹いてもらえたらな~って、トランペットの楽譜を見てたんだ。

 

 伊吹先輩たちの姿に気づいて、あわてて楽譜を棚(たな)にもどしたんだけど……。

 

 何の楽譜を見てたのかまで、バレてたなんて!

 

「そ、そういうわけじゃないんですけど……」

 

「ふーん」

 

 どうやら伊吹先輩は、私の真意に気づいてないみたい。

 

 よかった……と、ひとりでほっとしていたら。

 

「あ、これ」

 

 先輩が見ていたのは、楽器をふくクロス。

 

「俺の誕生日に、お前がプレゼントしてくれたやつじゃない?」

 

「そうです!」

 

 先輩の誕生日、何を贈ろうかすごく迷って、楽器用のクロスに伊吹先輩の銀色のトランペットを刺繍(ししゅう)して渡したんだ。

 

「今も大事に使ってる」

 

「うれしいです」

 

 もう、三ヶ月以上も前のことなんだ。

 

 ドキドキしながら先輩の家に行った、去年の11月23日。

 

 あのころは、先輩とカレカノになれるなんて、思ってもみなかったな。

 

「ピンクもあるんだな」

 

「本当ですね。このあわいピンク、かわいいです」

 

 実は、先輩にクロスをプレゼントしたあと、自分用にも買っておけばよかったって、ちょっと後悔したんだ。

 

 先輩と色違いのおそろいクロス、持ってるだけで元気が出そうだから。

 

 そんなことを思っていたら、先輩がひょいとクロスを手に取った。

 

「これ、俺にプレゼントさせて」

 

「えっ。でも……」

 

「誕生日プレゼントってことで。いい?」

 

 それって、おそろいのクロスを、私にも持っててほしいって、先輩が思ってくれた……

ってことかな?

 

 先輩の気持ちがうれしくて、胸がいっぱいになる。

 

「はい! ありがとうございます!」

 

「よかった。じゃ、ちょっとここでまってて」

 

 レジに向かった先輩は、お会計を終えてすぐにもどってきた。

 

「誕生日、おめでとう」

 

「……ありがとうございます!」

 

 先輩から、かわいくラッピングされた袋(ふくろ)を受け取る。

 

「おそろいのクロス、すごくうれしいです。私、きっと新学期からも部活がんばれます!」

 

「ああ、そうだな」

 

 先輩は、優しいまなざしでほほえんでくれた。

 

 新学期になったら、部活に行っても、そこに先輩はいない。

 

 でも、先輩とおそろいのクロスがあれば、はなれていても、がんばれるって思うんだ。

 

 お祭りに行った日に、先輩からもらったピンクのこけしキーホルダー。

 

 全国大会で、伊吹先輩と崎山くんと、柴田さんと私でとった写真。

 

 バレンタインにもらった、桜のネックレス。

 

 そして、先輩と色違いのクロス。

 

 私の大切な宝物が、またひとつふえたんだ。

 

 

 

吹奏楽部に入りたてのころの、楽器屋さんでの先輩とのニアミス。
先輩に、ばっちり何の楽譜を見ていたかまで知られていたなんて!
伊吹先輩と椿先輩、そしてさくらの『あのシーン』、ぜひ1巻(もくじへ)でもう一回たしかめてみてね♪
次回、第4回は10月12日公開予定!


最新刊『君のとなりで。(9)』10月13日発売!



「一生、となりにいてください」――さくらと伊吹先輩の物語、完結編!
吉川さくら、12歳。ずっと想い続けてきた伊吹先輩が、吹奏楽部を引退。
そして、ついに中学校を卒業する日がやってきた。
これでお別れ…じゃ、ない!? 卒業式の次の日・さくらのお誕生日に、先輩とデートすることに。
でも、伊吹先輩ファンクラブのメンバーに見つかってしまって、大ピンチ!
ふたりの関係は、どうなっちゃうの…!?
さくらと伊吹先輩、いっしょにすごした時間と絆、そして想いがいっぱいの、シリーズ最終巻です!


作:高杉 六花 絵:穂坂きなみ

定価
748円(本体680円+税)
発売日
サイズ
新書判
ISBN
9784046321657

紙の本を買う


『君のとなりで。(1)~(8)』も好評発売中!


書籍リスト

ヨメルバで読めるつばさ文庫の連載が一目でわかる!



この記事をシェアする

ページトップへ戻る