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ものがたり

【先行連載】海斗くんと、この家で。 第7回


「1%」「スキ・キライ相関図」で大人気! 
このはなさくらさんの新シリーズ『海斗くんと、この家で。』を一足早く公開中!
『海斗くんと、この家で。 ①初恋はひとつ屋根の下』は、2022年2月9日発売予定です!

      7 明日からは

 

 

 家族全員そろっての昼食は、わたしの大好きな、お母さんお手製(てせい)のミートボール・スパゲティだった。

 ケンさんも歩夢(あゆむ)くんもおいしそうに食べている。海斗(かいと)くんもおなかがすいているらしく、どんどん口に運んでいる。なのに、わたしはなかなかのどを通らない。

 もそもそ食べていると、

「二人とも学校どうだった?」

 と、お母さんに質問された。

「始業式がおもしろかったです。こんなにたくさん人がいるんだなってビックリしました」

 海斗くんは軽く笑った。

「おもしろかったならよかったわ」

 お母さんも満足げにうなずいた。

「詩衣(しい)は?」

「どうって、いつもといっしょだよ。あ、そうだ。海斗くん、これ……」

 わたしはフォークを置いて、ポケットに忍(しの)ばせておいたメモを彼の前にだした。

「うわさの転校生にさっそく取材の申し込みがきたよ。放送クラブと新聞クラブの六年生、クラスと名前を書いといたから。あとね、となりのクラスの水野(みずの)くんが水泳クラブなんだけど、入部を考えてくれないかって」

「取材……?」

 海斗くんは不思議そうに首をかしげた。

 あまりピンときてないみたい。

「たぶん、インタビューされるんだと思うよ」

 カンタンに言い直したら。

 メモを受けとり、しげしげとながめていた海斗くんは、顔をあげた。

「インタビューはともかく、水泳クラブは……サーフィンの時間が減るのはちょっとな」

 あまり気が乗らないようすだった。

 興味がなさそうに、ポイッとテーブルの上にメモを放る。

「詩衣、ことわってくれないか? おれは顔を知らないから」

「えっ」

 言葉につまった。

 どうして、わたしが?

 無造作(むぞうさ)に置かれたメモを見つめているうちに、ヘンな気分になった。

「わたし、海斗くんの連絡係じゃないよ」

「そんなこと思ってない。詩衣はおれの妹だろ?」

 あっ、わたし……!

 今イヤな言い方しちゃった!

 カメがキュッと甲羅(こうら)のなかに頭を引っこめるように、顔をかくしたくなった。

「ごっ、ごめんなさい!」

 すばやく席を立ち、ダダッと階段を駆(か)けあがる。

 そのままのいきおいでベッドにダイブ。スプリングがギシッときしんだ。

「詩衣!」

 一階から、海斗くんがよんでいる。

 ちゃんと聞こえているのに、返事ができなかった。

 わたし、なんてイヤな子だろう。

 ささいなことで、あんなイヤミを言うなんて……!

『にてないね』

 という言葉が頭のなかで響(ひび)く。

 なかよく、したいのに……。

 まくらにギュッと顔を押し当てて、泣きたくなるキモチをこらえた。

 わたしって、いつもそうだ。

 あとになってから、「あのとき、あー言えばよかった」って、クヨクヨしちゃうんだ。

 だから毎日、反省ばかり――。

 

      *

 

 どのくらいたったんだろう。いつのまにか眠っていた。

 しばらくボーッとしていると、ドアがノックされる。

「詩衣ちゃん、ちょっといいかな? 僕に顔を見せてくれるかい?」

 ドアの向こうから、えんりょがちな声が聞こえてきた。

 ケンさんだ。きっと心配して、ようすを見にきたんだ。

 行かなきゃ……。

 起きあがって、ドアをそっとあける。

 見あげると、ケンさんはニッコリ笑っていた。

「しーちゃん、ゴハンだよ!」

 服のそでをツンツン引っぱられた。

「歩夢くん!」

 歩夢くんまで来てくれたんだ。

 せめて、歩夢くんの前では元気でいなくちゃ。わたしは、にいっと口角をあげた。

「うん!」

 三人で階段をおりていく。

 リビングルームに行ったら、ソファへと視線が吸いよせられた。

 海斗くんが寝ている。

 窓際では、レースのカーテンがゆれていた。

 海斗くんもお昼寝してたんだね。

 キモチよさそうに寝てるなあ。

 最初はそんなふうにしか思わなかったのだけど、寝顔を見ているうちに、ドキドキしてきちゃった。

 前髪がみだれて、なめらかな額(ひたい)がでている。

 スースー寝息もたてていた。

 こんな無防備(むぼうび)なところ、はじめて見た。まるで赤ちゃんみたい。

 学校のみんなは知らない、わたしだけが知っている海斗くんだ……。

 海斗くんのヒミツをのぞいてしまったような。

 ど、どうしよう。見ちゃっていいのかな?

 いいんだよね?

 だって、わたし、妹なんだもん……。

「めずらしいな、海斗が昼寝なんて。よっぽどつかれたんだろう」

「このまま寝かせてあげましょう」

 ケンさんとお母さんも、海斗くんの寝顔をのぞきこんでほほ笑んだ。

 そっか、つかれてるんだ。少し緊張はしていたようだったけど、クラスの子たちと話していたときは、そんなふうには見えなかったのにな。

 学校での彼のようすを思い浮かべていると、

「詩衣ちゃんも大変だったろう。今日はありがとう、助かったよ」

 ケンさんにお礼を言われた。

 重かった心がほんの少し楽になったような気がした。

 わたし、頼りにされているんだ。役に立ったんだよね……?

 ハッと胸がつかれた。

「ことわってくれないか?」と言われたときも、海斗くんに頼りにされただけなのかもしれない。

 なのに、わたしったら、あんなこと言ったりして……。

『わたし、海斗くんの連絡係じゃないよ』

 後悔と恥ずかしさでいっぱいになった。

 海斗くん、ゴメン。心のなかでそっとあやまる。

「だいじょうぶです。ぜんぜん大変じゃなかったので!」

 思いっきり笑みを浮かべた。

 こんなキモチ封印(ふういん)してしまおう。

 ケセラセラ、ケセラセラ、きっとだいじょうぶ。
 ようし、明日からはがんばるんだ。

 

 んー、海斗くんのために、わたしができることってなんだろう?

 そんなことを考えているうちに一日が終わっちゃった。

 パジャマに着替え、歯磨(みが)きをし、みんなに「おやすみなさい」を言ってベッドへ。

 静かな夜だった。おだやかな波の音が聞こえる。

 そのとき、「あっ」とひらめいた。

 うん、決めた! こうしよう!

※実際の書籍と内容が一部変更になることがあります。



作:このはな さくら 絵:壱 コトコ

定価
748円(本体680円+税)
発売日
ISBN
9784046321367

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