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ものがたり

【第1章ためし読み】廣嶋玲子『おっちょこ魔女先生 保健室は魔法がいっぱい!』

(ねこ)(じた)ですね。ごくごくポピュラーな()(もの)ですよ」

「ひえ……」

こんなのがポピュラーだなんて、(じょう)(だん)じゃない。

いさなの気持ちも知らないで、おっちょこ先生はぺらぺらとしゃべりつづけました。

「この魔物に取り憑かれると、(あつ)いものを食べるのが苦手になり、よく口の中や舌を火傷するようになるんです。松谷さん、熱い食べ物が苦手になっていませんか? さっきも舌を火傷(やけど)したって言ってましたよね?」

「そ、そういえば、(さい)(きん)、急に……ぜ、ぜんぶ、この(ねこ)(じた)のしわざだったってこと?」

「そういうことですね。さて、それではさっさと捕まえてしまいましょう。ほら、手でつかんで。そして、『(ねこ)(じた)、見つけた!』と、声に出して言うんです」

「……かみつかれないかな?」

(だい)(じょう)()ですよ。魔物は、人間の体を(ちょく)(せつ)(こう)(げき)することはできないんです。だから、安心して、手でつかんでください。ほらほら、早く」

「……うそだったら、先生をぞうきんみたいにしぼるからね」

ちょっと()きそうになりながらも、いさなは(おそ)る恐る(ねこ)(じた)に手をのばしました。(ねこ)(じた)()げることもせず、おとなしくいさなの手の中におさまりました。まるでゼリーみたいな、ぐにぐにとした(かん)(しょく)です。

「ひええ、なんか気持ちわる~!」

「ほら、早く言って。さっき()(ほう)(じゅ)(もん)を教えたでしょう?」

「ね、(ねこ)(じた)、見つけた、が魔法の呪文だって言うの?」

いさなが言ったとたん、ぱちんと、音を立てて、(ねこ)(じた)が消えました。そして、いさなの手には、小さなビー玉のようなものが(あらわ)れました。赤と黒の(しま)()(よう)の玉です。

よくできましたと、おっちょこ先生が言いました。

「名前を言い当てることは、正体を(あば)くことです。そして、正体を暴かれた魔物は、姿(すがた)(たも)っていられません。こうして、()()(かたまり)になってしまうというわけです」

「こ、これが魔気なの?」

「はい。猫舌の()()です。あのティーポットに入れてください」

「……う、うん」

いさなは、魔気の塊をティーポットの中に落としました。こんと、小さな音がしました。

すると、真っ黒だったティーポットに、うっすらと銀色の文字が()かびあがったではありませんか。

「うわ、なにこれ!」

「魔気が少したまったということです。魔気がたまればたまるほど、()(ほう)(じん)と呪文が浮かび上がるのです」

「へえ」

「でも、これではまだまだ足りませんね。あと二(ひき)分くらいは必要かしら」

「……その二匹も、あたしに(つか)まえろって言うんでしょ?」

「もちろんですよ」

 当たり前のことを言わないでくださいと、おっちょこ先生はいさなを軽く(にら)みました。

「こんな調子で、どんどん魔物を捕まえて、魔気を集めていきましょう。世の中には色々な魔物がいますからね。すぐに集まると思います。そうだ。そこの魔物()(てん)(とく)(べつ)()してあげます。あとで読んで、色々と勉強しておいてください。あ、そうそう。そこのひきだしを開けて、人形を出してください」

「人形?」

 ひきだしを開けてみたところ、中には(たし)かに人形が入っていました。といっても、わらでできたわら人形です。げっと、いさなは顔をしかめました。

「わら人形って、誰かを呪うためのものなんでしょ? こんなの持ってるなんて、先生、最低」

(しつ)(れい)な! 勘違(かんちが)いもはなはだしいですよ、(まつ)(たに)さん。これは呪い用じゃありません。魔女七つ道具の一つ、身代わりわら人形です。魔女って、急な魔女会があったりして、けっこう(いそが)しいんです。そういう時でも、身代わりを(のこ)していけば、まわりの人に(あや)しまれずにすみますからね」

「このわら人形が、先生の身代わりになるの?」

「ええ。(せい)(のう)抜群(ばつぐん)です。なにしろ、ブランド品ですからね。ほんと、高かったんですよ! それに、これは魔法というより、からくり道具ですからね。魔法が使えない状態でも、問題なく機能してくれます。さ、それを床に投げてください」

いさなはわら人形を床に投げました。

とたん、わら人形はぼんと(けむり)(つつ)まれ、次の(しゅん)(かん)(はく)()姿のおっちょこ先生が現れました。どこから見ても、本物そっくりです。

「うわ、すご!」

「ふふ。これを()(けん)(しつ)に残していけば、怪我人や病人の手当てもちゃんとやってくれますからね。わたしがいなくなったこともばれずにすむから、一石二鳥です」

「いいなあ。テストの時にほしいなあ」

そんなことをぼやきながら、いさなはおっちょこ先生と魔法のメガネと魔物辞典をかかえ、身代わりのおっちょこ先生と一緒に、魔女の部屋を出ました。ばしんと、ロッカーのドアを()めれば、そこはもう元の保健室です。

身代わりのおっちょこ先生は、さっそく(つくえ)の前の椅子(いす)(すわ)(しょう)(どく)(よう)(だっ)()綿(めん)を作り出しました。それを見て、「本物よりも(ゆう)(しゅう)かも」と、いさなは思いました。

「で、先生はどうするの?」

「とりあえず、保健室に(かく)れて、のんびりしています。また、明日(あした)、ここに来てください。一緒に魔物(さが)しをしましょう。そうだ。できるだけ大きなポケットがついた服を着てきてほしいですね」

「……ポケットに入って、一緒に行動するってことね?」

「そういうこと。それから、明日までに魔物辞典をよく読んでおいてください。魔物の正体がわからなくては、見えても(つか)まえても、どうにもなりませんから」

「うへ、宿題かぁ」

首をすくめながらも、いさなはうなずきました。

 

その夜、いさなはぺらぺらと魔物辞典のページをめくりました。どのページにも、魔物の絵と名前と、どんな力を持っているのかが書いてありました。

なかなかおもしろそうでしたが、とにかく(りょう)がすごいので、勉強(ぎら)いないさなはすぐに音をあげてしまいました。

「もういいや。明日、先生と一緒に探せばいいんだものね。先生なら、すぐに魔物の正体がわかるだろうし。……まったく。おっちょこ先生ったら、ほんと、ろくなことしないんだから」

でも、本当のことを言うと、いさなは少しだけ(かん)(しゃ)していました。

おっちょこ先生のおかげで、自分に()いていた(ねこ)(じた)を追い(はら)えたのです。おかげで、今日の(ばん)(はん)熱々(あつあつ)シチューを、おいしくいただくことができました。

(おん)(がえ)ししなくちゃね」

明日中に、十分な魔物を捕まえられればいいなと思いながら、いさなはふとんに入ったのでした



魔物探しをはじめることになった、いさなの運命は……?
おっちょこ魔女先生 保健室は魔法がいっぱい!』は3月13日発売予定です!
楽しみに待っていてくださいね☆


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