【試し読み初掲載】いちばんはじめに読むのはキミだ！『ジュニア空想科学読本27』スペシャル試し読み！

全国のジュニ空ファンの皆さま！　大変お待たせしました。マンガやアニメを科学的に検証する爆笑シリーズ最新刊『ジュニア空想科学読本27』がついに発売!!　誰よりも早く読みたいキミに、とっておきの疑問をスペシャル公開です！

『SPY×FAMILY』のヨルさんは、５階から落ちてきた植木鉢を蹴り戻しました。
そんなコトが可能!?

『ジュニ空㉕』で、ヨルさんの「テニスボールばらばら事件」を検証したとき、出版社の知人が「ヨルさんもいいけど、『SPY×FAMILY』を考察するなら、やっぱりアーニャだと思いますよー」と言ってきた。素直な筆者は「そうかそうか、アーニャは大人気だもんなー」と思い、続く第26巻ではアーニャの超能力について、アレコレと考えたのだった。
　ところがですね！　その後に読者から届いた質問は、「バレーボールを宇宙まで飛ばしたヨルさんの腕力を検証してください」とか「カボチャを手刀で叩き割ったヨルさんの力を教えてください」とか「フランキーが10年かけて作った超人外骨格をブン投げて壊したときのヨルさんの投擲力を計算してください」など、ヨルさん関係ばっかり！　わーっ、なんでー!?　筆者に期待されているのは、人間離れしたヨルさんの行為の分析なのでしょうかー!?
　などと思っていたところへ、表題の質問である。なんですと!?　５階から落ちてきた植木鉢を蹴り戻す!?　もうこの17文字だけでトンデモナイ行為であることがビンビンに伝わってくる！
　よし。筆者はもう、ヨルさんのスポークスパーソン（代弁者）になると勝手に決めた！　彼女のすごさを伝えていくことにする！　そこで早速、植木鉢蹴り戻し事件を考えてみよう！

◆落とした人も気づかない！

　事件が起こったのは、アニメの第19話。これは、原作マンガにはない、アニメオリジナルのエピソードである。
　ヨルさんは、アーニャが体操着を忘れていったことに気づき、急いで学校に持っていこうとしていた。通りへ出て「バスと電車、どっちが早いんでしょ〜!?」とオロオロしているとき、ヨルさんの視界の端に、植木鉢が落下してくるのが見える。ビルの５階の住人がベランダに置いたものが、風に煽られて落ちてしまったのだ。ヨルさんはとっさに移動し、右足で植木鉢を受け止めると、そのまま逆立ちの体勢になって、植木鉢を蹴り上げる！　植木鉢はヒューッと上昇して、５階のベランダの、元あった場所に静かに着地。住人は植木鉢が落ちたことにも、戻ってきたことにも気づかなかった。
　オドロキの行為をやってのけたヨルさんだが、彼女にとって目下の関心事はアーニャの忘れ物を届けることであり、結局バスにも電車にも乗らず、建物を駆け上がり、電線をつたって別のビルに移動し、屋根の上を走って……などなど、驚異的なパルクール（道路や公園の障害物などを利用して素速く移動するスポーツ）で学校へ急ぐのだった。
　いろいろビックリだが、まず驚くのは、植木鉢が道路に激突する前に、落下点に入れたことだろう。建物１階分の高さを３ｍ、窓辺の高さを１ｍとすれば、落下した高度は地上３ｍ×４＋１ｍ＝13ｍ。地球上では、この高度から落下した物体は1.628秒で地面に激突する。そして、ヨルさんが植木鉢の落下に気づいたのは、地面まで２ｍほどの高度まで落ちたとき。つまり植木鉢はすでに11ｍを落下しており、落下開始から1.498秒が経過していることになる。そこから道路に落ちるまで0.130秒しかない！
　しかもヨルさんは、右足を上げて道路よりはるかに高い位置でキャッチしている。ヨルさんの身長を165㎝と仮定してアニメの画面で測定すると、キャッチした高さは地上１ｍ34㎝。すると、落下高度は11ｍ66㎝で、落下から1.542秒に受け止めたことになる。落下に気づいてからキャッチまで、たったの0.044秒！
　植木鉢の落下点は、ヨルさんが立っていた場所から10ｍほど離れていた。この距離を0.044秒で移動する速度とは、10ｍ÷0.044秒＝秒速227ｍ＝時速818㎞だ。これは平均速度で、ヨルさんのような「停止→走る→停止」という運動では最大速度はその２倍になるから、すなわち時速1636㎞＝マッハ1.3！　東海道新幹線（時速285㎞）の5.7倍！

◆許される誤差は0.22％

　そのうえヨルさんは、逆立ちの体勢で植木鉢を蹴り上げた。植木鉢が足を離れた高度は、地上１ｍ90㎝とみられる。５階の窓の高さは13ｍだから、植木鉢は11.1ｍ上昇させる必要がある。これに必要な速度は「時速53.12㎞」で、スピードが遅くても、速すぎてもＮＧだ。
　劇中の描写を見ると、植木鉢はまったく音を立てずに５階ベランダに着地している。ヨルさんはピッタリ11.1ｍ上昇させたわけだ！　ここではやや甘く考えて、許される落差が10㎝だと仮定しよう。すると、11.2ｍより高く上昇させてはならず、その場合、最大の速度は時速53.36㎞。もちろん、時速53.12㎞より遅ければ、植木鉢は窓辺に届かず、落下することになる。つまり、ヨルさんは、時速53.12㎞以上、時速53.36㎞以下で蹴り上げた！　中間の時速53.24㎞を狙って蹴り上げたとすれば、許される誤差は0.22％だ。
　野球に例えればこれは、時速165㎞のストレートを投げる投手が、球速を時速164.63㎞以上165.37㎞以下にコントロールできるようなもの。そんなコト、可能なのか!?
　そもそもヨルさんは、なぜ５階の窓辺から落ちてきたのがわかったのだろう？
　ヨルさんが植木鉢に関して得られたのは、落下中を目撃した視覚情報と、足で受け止めた体感情報である。いくらヨルさんでも、視覚情報からは「植木鉢が落ちてきた。危ない！」くらいしかわからないだろう。すると、頼りは体感情報ということになる。
　植木鉢を足で受け止めたとき、ヨルさんにわかったのは、「①受け止めるのにどんな力が必要だったか」と「②足をどのくらい動かして受け止めたか」であろう。確かに、この２つが把握できれば「エネルギー＝力×距離」の関係から「③植木鉢の運動エネルギー」がわかる。静止させて支えれば「④植木鉢の重さ」もわかる。さらに「エネルギー＝１／２×重さ×速度×速度」から、「⑤受け止めた地上１ｍ34㎝での速度」がわかる。ここから「⑥落下高度」が計算できて、「⑦地上１ｍ90㎝からどんな速度で蹴り上げればいいか」が算出できる。
　とはいえ、それを計算する時間は、アニメを見る限り３秒しかなかった！　この短時間で、７段階もの測定＆計算をして、誤差0.22％以内で蹴り戻した！　ヨルさん、すごすぎる！

◆毒への耐性がモーレツにすごい！

　ヨルさんスポークスパーソンとして、筋力以外の強さが炸裂したシーンについても紹介させていただきたい。それはコミックス第３巻の「EXTRA MISSION：２」に描かれたエピソード。
　このときヨルさんは仕事でお尻を撃たれ、密かにその痛みに耐えていた。それを「ヨルさんが不機嫌になっている」と勘違いした黄昏は彼女をデートに誘うが、お尻の痛いヨルさんは映画館でもボートでも立ったまま（迷惑＆キケンなのでマネしないように）。そして、ディナーでレストランに入り、ヨルさんは椅子に座ったフリをして腰を浮かせて座っていた。とってもツラそうだった。
　そのとき、厨房に潜入していた敵が、ヨルさんのカクテルにフグの毒をしこたま入れる。そんなモノを飲んだら大変……と思いきや、一気に飲み干したヨルさんは「あれ…？」「何だかお尻の痛みが引いて楽になった気がします……」。ここでナレーション「殺し屋は毒に対する耐性を持っていた」。ええっ、いくら耐性があっても、フグの毒が鎮痛剤になるの!?
　フグの毒のなかで、もっとも強いテトロドトキシンは、人間の致死量が１〜２㎎。その作用は、皮膚や筋肉にある末梢神経を麻痺させること。このため意識はハッキリしているのに、体がしびれて動かず、感覚もなく、呼吸ができないというオソロシイ事態に至ることがある。鎮痛剤にも末梢神経の働きを抑えるものがあるから、なるほど毒耐性が驚異的に強い人には、テトロドトキシンも、鎮痛剤になるかもしれない。とはいえ、いったいどれだけ毒に強いのか!?
　鎮痛剤にも致死量があり、たとえばアセトアミノフェンの致死量は15ｇ＝１万５千㎎。ヨルさんのカクテルにどの程度のテトロドトキシンが入っていたかにもよるけど、同量のアセトアミノフェンを飲んだときと同じぐらいの作用だったとすれば、毒への耐性は、常人の１万倍ほどか!?
　いやもう、本当にすごいヨルさんである。筆者はこれからもスポークスパーソンを続けます。
 

『ジュニア空想科学読本27』11月8日発売予定！

26巻も好評発売中！

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