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大人気の恋愛&部活ストーリー『君のとなりで。』シリーズ、ついに完結!10月13日発売の最終巻『君のとなりで。(9)この道を、ずっといっしょに』を、いちはやくスペシャルれんさいでお届けします。
※このお話は、『君のとなりで。(8) ふたつのさよなら、ひとつの始まり』を読んでから読み進めてね!
まだ『君のとなりで。』を読んでない方は1巻から3巻まで読める『君のとなりで。』スペシャルれんさい!が期間限定で復活中なので読んでくださいね。
伊吹先輩との初デートは、待ちあわせをするだけで、もう、ドキドキいっぱい!
でも、ここからいよいよ『デート』の始まりです。
先輩は、さくらをどこに連れていってくれて、何を話してくれるの?
第9巻先行れんさいを読みなおす(もくじへ)
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宝物を、もうひとつ
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それから、私たちはウインドウショッピングを楽しんだ。
洋服屋さん、雑貨屋さん、本屋さん。
お店に入るたびに、先輩の『好き』なものを知ることができたし、私の『好き』なことも知ってもらえた。
そんな中、先輩が足を止めたのは、メガネ屋さん。
「ちょっと見ていっていいか?」
「はい、もちろんです。……でも、先輩ってメガネかけてませんよね?」
部活で合奏をしているときも、勉強を教えてもらったときも、これまで、メガネをかけた先輩って見たことがない。
「かけ始めたのはここ最近。授業中だけだしな」
「えっ!」
私は、思わず声を上げてしまった。
「……メガネ姿を見られるなんて、先輩と同じクラスだった人がうらやましいです」
「そんな特別なものじゃないだろ」
「私にとっては特別ですよ。できるだけ、いろんな伊吹先輩を見たいというか……」
「へぇ」
くいっと口のはしを上げた先輩を見て、ハッとした。
私、また、心の声が出ちゃった気がする!
真っ赤になってしまいそうな顔をごまかすように、あわててとりつくろう。
「が、楽譜は見えるんですか?」
「楽譜は問題ない。黒板が見えにくいだけだから。もうすぐコンタクトにするつもり」
「そうなんですか……」
「あからさまにがっかりするなよ」
「だって……」
しょんぼり顔で先輩と目を合わせて、思わず、ぷっと吹き出しちゃった。
なんだかふしぎ。
朝はガチガチに緊張していたのに、今は自然にお話ができてる。
先輩が、さりげなく、『カレカノ』として、楽しくおしゃべりできる雰囲気(ふんいき)を作ってくれてるおかげだ。
先輩のこと、知れば知るほど、もっと好きになるよ。
幸せをかみしめていたら、肩をトントンってされた。
振り向くと……。
「ほら」
あきれ顔の先輩が、メガネをかけていたんだ!
「……!」
かかか、かっこいい!
言葉にならない悲鳴を上げてしまう。
「はい、おしまい」
伊吹先輩は、サッとメガネを取って、売り場に戻してしまった。
かっこいい余韻(よいん)で、ぽーっとしてしまった私に、先輩は笑いながら、向かいのお店を指さした。
「そこの楽器屋、よく行くんだ。見に行こう」
「はい!」
先輩がよく行く楽器屋さんを知ることができて、うれしいな。
心をはずませながら、いっしょに楽器屋さんに入る。
広い店内には、楽譜がぎっしりつまった棚(たな)がいくつもならんでいた。
「すごい……!」
「ここなら、探してる楽譜はだいたい見つかるんだ」
そう言って、先輩は楽譜棚(がくふだな)の間を歩き出す。
そういえば、学校以外の場所で、初めて伊吹先輩を見たのは楽器屋さんだった。
あのとき、先輩は椿先輩といっしょにいて。
椿先輩のこと、てっきり伊吹先輩の彼女だと思って、落ちこんだんだよね。
あのころから伊吹先輩のことが好きだったってことは、まだ秘密にしておこう。
「お前さ、本当はトランペットが吹きたかったの?」
「え?」
突然の先輩の言葉に、目をぱちくりした。
「どうしてですか?」
「お前が入部してすぐのころ、別の楽器屋でぐうぜん会っただろ。そのとき、トランペットの楽譜を見てなかったか?」
「ぐっ」
思わず変な声がもれてしまった。
たしかに……見てた。
伊吹先輩に吹いてもらえたらな~って、トランペットの楽譜を見てたんだ。
伊吹先輩たちの姿に気づいて、あわてて楽譜を棚(たな)にもどしたんだけど……。
何の楽譜を見てたのかまで、バレてたなんて!
「そ、そういうわけじゃないんですけど……」
「ふーん」
どうやら伊吹先輩は、私の真意に気づいてないみたい。
よかった……と、ひとりでほっとしていたら。
「あ、これ」
先輩が見ていたのは、楽器をふくクロス。
「俺の誕生日に、お前がプレゼントしてくれたやつじゃない?」
「そうです!」
先輩の誕生日、何を贈ろうかすごく迷って、楽器用のクロスに伊吹先輩の銀色のトランペットを刺繍(ししゅう)して渡したんだ。
「今も大事に使ってる」
「うれしいです」
もう、三ヶ月以上も前のことなんだ。
ドキドキしながら先輩の家に行った、去年の11月23日。
あのころは、先輩とカレカノになれるなんて、思ってもみなかったな。
「ピンクもあるんだな」
「本当ですね。このあわいピンク、かわいいです」
実は、先輩にクロスをプレゼントしたあと、自分用にも買っておけばよかったって、ちょっと後悔したんだ。
先輩と色違いのおそろいクロス、持ってるだけで元気が出そうだから。
そんなことを思っていたら、先輩がひょいとクロスを手に取った。
「これ、俺にプレゼントさせて」
「えっ。でも……」
「誕生日プレゼントってことで。いい?」
それって、おそろいのクロスを、私にも持っててほしいって、先輩が思ってくれた……
ってことかな?
先輩の気持ちがうれしくて、胸がいっぱいになる。
「はい! ありがとうございます!」
「よかった。じゃ、ちょっとここでまってて」
レジに向かった先輩は、お会計を終えてすぐにもどってきた。
「誕生日、おめでとう」
「……ありがとうございます!」
先輩から、かわいくラッピングされた袋(ふくろ)を受け取る。
「おそろいのクロス、すごくうれしいです。私、きっと新学期からも部活がんばれます!」
「ああ、そうだな」
先輩は、優しいまなざしでほほえんでくれた。
新学期になったら、部活に行っても、そこに先輩はいない。
でも、先輩とおそろいのクロスがあれば、はなれていても、がんばれるって思うんだ。
お祭りに行った日に、先輩からもらったピンクのこけしキーホルダー。
全国大会で、伊吹先輩と崎山くんと、柴田さんと私でとった写真。
バレンタインにもらった、桜のネックレス。
そして、先輩と色違いのクロス。
私の大切な宝物が、またひとつふえたんだ。
吹奏楽部に入りたてのころの、楽器屋さんでの先輩とのニアミス。
先輩に、ばっちり何の楽譜を見ていたかまで知られていたなんて!
伊吹先輩と椿先輩、そしてさくらの『あのシーン』、ぜひ1巻(もくじへ)でもう一回たしかめてみてね♪
次回、第4回は10月12日公開予定!
最新刊『君のとなりで。(9)』10月13日発売!
「一生、となりにいてください」――さくらと伊吹先輩の物語、完結編!
吉川さくら、12歳。ずっと想い続けてきた伊吹先輩が、吹奏楽部を引退。
そして、ついに中学校を卒業する日がやってきた。
これでお別れ…じゃ、ない!? 卒業式の次の日・さくらのお誕生日に、先輩とデートすることに。
でも、伊吹先輩ファンクラブのメンバーに見つかってしまって、大ピンチ!
ふたりの関係は、どうなっちゃうの…!?
さくらと伊吹先輩、いっしょにすごした時間と絆、そして想いがいっぱいの、シリーズ最終巻です!