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大人気の恋愛&部活ストーリー『君のとなりで。』シリーズ、ついに完結!10月13日発売の最終巻『君のとなりで。(9)この道を、ずっといっしょに』を、いちはやくスペシャルれんさいでお届けします。
※このお話は、『君のとなりで。(8) ふたつのさよなら、ひとつの始まり』を読んでから読み進めてね!
まだ『君のとなりで。』を読んでない方は1巻から3巻まで読める『君のとなりで。』スペシャルれんさい!が期間限定で復活中なので読んでくださいね。
きょうは、伊吹先輩の卒業式の日。これでもうお別れ…?と思っていたけれど、そうじゃなかった。卒業式のあと、駅までの道を、先輩のとなりを歩くさくらに、先輩が話したことって、いったい…?
*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*
さよならとともにはじまった、
ふたりの恋。
がむしゃらに追いかけて、
たどり着いたのは、
ずっと夢見てた、あなたの「となり」。
ここから見る景色は、
すべてがキラキラ輝いているんだ。
あなたがくれた、
たくさんの言葉と思い出を胸に、
どんな壁だって乗り越えていこう。
この先もずっと、
あなたのとなりにいたいから。
*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*
♪序奏
*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*
卒業式の帰り道。
あたたかな春の日差しをあびながら、私は伊吹先輩といっしょに歩いていた。
先輩と帰るのは、何度目だろう。
先輩が私を待っていてくれたことや、雪の降る中、カサに入れてもらったこともあったっけ。
いっしょに帰るときは、いつも先輩の背中を追いかけてた。
でも、今日は、今までとは違う。
先輩とカレカノになってから、初めて、先輩のとなりを歩いてるんだ。
すぐそばから私を見下ろして、先輩が優しい声で言う。
「卒業式の入退場の演奏、よかった」
「ありがとうございます! 先輩にそう言っていただけてうれしいです」
私は、先輩を見上げて、笑顔でこたえた。
卒業式の演奏には、3年生の先輩たちがいない。
初めて1、2年生だけで演奏したんだ。
心細かったけど、先輩たちにほこってもらえるような演奏をしたくて、練習をがんばった。
それに、伊吹先輩に届くよう、心をこめて吹いたから、『よかった』って言ってもらえて、とってもうれしい。
私の言葉にほほえんでこたえてくれた先輩は、つないだ手を、きゅっと軽くにぎった。
先輩がつないでくれている手は、大きくて、頼もしくて、あたたかい。
だけど、駅はもう目の前。
この手を、もうすぐはなさなくてはいけない。
先輩といっしょの時間は、いつもあっという間で、なごりおしいよ。
駅の少し前で、先輩が足を止めた。
「卒業式の帰りは、さすがに人が多いな」
「そうですね」
先輩が言ったとおり、改札の前には卒業生がたくさんいる。
それだけじゃない。
私服姿の女子たちも、駅の前で誰かを待っているみたいに、きょろきょろしてる。
「もしかして……」
あの人たち、伊吹先輩のファンかも!
卒業式に出席できる在校生は、入退場の曲を演奏する吹奏楽部員だけ。
だから、卒業式に出られなかったファンの人たちが、伊吹先輩をひとめ見たくて待ってるのかな。
「まぁ……そうだろうな」
伊吹先輩も私と同じことを考えているみたい。
私の心の中は、『どうしよう!』って大あわて。
だって、伊吹先輩と手をつないで歩いてるところを見られたら、間違いなく大さわぎになって、先輩に迷惑をかけてしまう。
「時間差で帰りましょう。私、しばらく時間をつぶしてから駅に行きますから、先輩は先に……。いえ、私が先に帰って、先輩はみなさんがいなくなってから帰るほうが安全でしょうか」
どちらにしても……私はここで先輩とお別れだ。
はなそうとした手を、先輩がぎゅっとにぎってひきとめた。
「えっ、……先輩?」
おどろいて先輩を見上げると、先輩は少し困ったような顔をして聞いてきた。
「もうちょっと歩くけど、次の駅までつきあってくれる?」
「……っ!」
私といっしょに、このまま、次の駅まで歩いていこう……ってこと?
先輩も、まだ私といっしょにいたいって、思ってくれているのかな。
「はい! もちろんです」
先輩の気持ちがうれしくて、とびきりの笑顔を向けると、先輩はふっと笑ってくれた。
次の駅に向かって、私たちは、ふたりでならんで歩き出した。
初めて歩く道も、先輩といっしょだと、景色がぜんぶキラキラして見える。
「明日、どっか行きたいところある?」
とつぜん、先輩が口にしたその話題に、ドキッとしちゃった。
明日は、私の誕生日。
伊吹先輩はさっき、デートにさそってくれたんだ。
先輩が私の誕生日を覚えてくれていただけでうれしいのに。
誕生日に、伊吹先輩と初めてのデートができるなんて……!
それだけで、最高の誕生日プレゼントをもらった気分だよ。
「お前の誕生日だから。行きたいとこあるなら教えて」
「ありがとうございます……!」
先輩といっしょなら、どこでも楽しいにきまってるから、逆に、どこへ行こうか迷ってしまう。
うーん。どうしよう。あっ! そうだ!
前に、さっこや加代ちゃんといっしょに、『理想のデート』で盛り上がったとき、私は、
『遊園地に行ったり、買い物したりかな』
って、言ったんだった。
「私、先輩と買い物デート……したいです」
はずかしくて、だんだん声が小さくなっちゃったけど、先輩にはちゃんと届いたみたい。
先輩はくいっと口のはしをあげた。
「りょーかい」
その声とほほえみに、キュンって胸がふるえた。
ああ、もう。かっこよすぎて心臓がもたないよ。
「明日、楽しみにしてます」
「ああ」
先輩は少し目を細めながら、
「俺も」
そう言って優しく笑ってくれた。
先輩も、明日のデートを楽しみにしてくれているんだ。
そう思ったら、トキメキがとまらない。
いつまでも、こうして話していたかったけれど……。
あっという間に、次の駅についてしまった。
改札の前で立ち止まって、手をはなす。
「じゃあ、また明日。気をつけて帰れよ」
「はい!」
――また明日。
その言葉がうれしくて、一瞬でさみしさが吹き飛んだ。
明日も、先輩と会える。
先輩が、私の『理想のデート』をかなえてくれる。
会える約束があるって、こんなにうれしくて幸せなんだね。
いつも切なくなる『さよなら』の瞬間を、心からの笑顔ですごすことができるんだって、私は初めて知ったんだ。
明日は、さくらの13歳の誕生日で、さくらの『彼氏』になった、伊吹先輩との初デート!
ドキドキの次回を、おたのしみに!(9月28日公開予定)
最新刊『君のとなりで。(9)』10月13日発売!
「一生、となりにいてください」――さくらと伊吹先輩の物語、完結編!
吉川さくら、12歳。ずっと想い続けてきた伊吹先輩が、吹奏楽部を引退。
そして、ついに中学校を卒業する日がやってきた。
これでお別れ…じゃ、ない!? 卒業式の次の日・さくらのお誕生日に、先輩とデートすることに。
でも、伊吹先輩ファンクラブのメンバーに見つかってしまって、大ピンチ!
ふたりの関係は、どうなっちゃうの…!?
さくらと伊吹先輩、いっしょにすごした時間と絆、そして想いがいっぱいの、シリーズ最終巻です!