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ものがたり

注目シリーズまるごとイッキ読み!『ふたごチャレンジ!① 「フツウ」なんかブッとばせ!!』第7回 「チームふたご」のチャレンジ


あかねとかえでは、見ためがそっくりのふたご。親たちから「ちゃんと女の子らしく、男の子らしくなって」と無理強いされちゃった2人は、ある「チャレンジ」を思いついて……?
読むとスカッとして、心がちょっとラクになる大人気シリーズ①巻を、まるごと無料で連載中!

※これまでのお話はコチラから

 


20 「チームふたご」のチャレンジ


「えー、今日の学活の時間は、お知らせしていたように、レクリエーションです!」

 お昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ると、左野先生が開口一番にそう言った。

 ざわめきたつクラスメイトの表情は、明るい。

 授業を受けずにすむってだけで、ラッキーだもんね。

「それで、レクの内容なんだけど、あかねくんとかえでさんがアイデアを出してくれてね」

 みんなの興味しんしんの視線が、左野先生から、うちとかえでへとうつった。

「じゃあ2人から、どんなレクをやりたいのか、みんなに説明してくれるかな?」

 うちは先陣を切るように、ガタンとイスを引いて、立ちあがった。

「はいっ! ええと、ひとことで言うと、みんな、オレらと勝負しませんか?

 うちが言うと、みんなが一気にざわざわしはじめる。

「勝負? あかねとかえでちゃんと?」「ええっ、なになに?」

 うん、反応は上々だ。

 うちは少しほっとしてから、トンと手のひらで自分の胸をたたく。

「まず前半は、オレと校庭で、PK勝負! オレがゴールキーパーをやるから、クラスのだれか1人でも点を入れられたら、みんなの勝ち!」

 かえでに視線を送ると、そっと立ちあがった。

「えっと、後半は、わたしと教室で、おえかき勝負です。先生に出してもらったお題にそって、みんなで絵を描きます。そのあと、だれの絵かわからないように黒板にはって、一番うまく描けた絵をみんなで決めるの」

「で、かえでちゃんの絵が選ばれたら、『チームふたご』の勝ちってことか」

「あかねくん、PKで1点でも入れられたら負けって、ヤバくない?」

「でも、あかねくんめちゃくちゃサッカーうまいし、ありえるかもよ!」

「かえでちゃんも、すっごくおえかき上手だしね!」

 ざわつく中、左野先生がみんなによびかけた。

「もう転校してきてだいぶたつけど、2人の歓迎会がわりに、みんなどうかな?」

「いいと思いまーす!」「やろうやろう!」

 その言葉があと押しとなって、クラスメイトはみんな賛成してくれた。

「それじゃあ、みんな、校庭へ出ようか」

 クラスメイトはぞろぞろと席をたって、教室をあとにする。

 うちは、かえでの横にならんで、廊下を歩く。

「とりあえず、第1段階はクリアだねっ」

「うん、作戦どおり。まだまだ、ここからだけど」

「あの人に認めてもらうための、準備だもんね。──じゃあかえで、たのんだよ」

「うん、まかせて」

 かえでは、こくりとうなずくと、1人で、下駄箱とは反対の方向へ歩いていった。



 校庭に出ると、左野先生が、サッカーボールの入ったカゴとグローブを運んできてくれていた。

「先生、ありがとうございます!」

「いえいえ。いやあ、あかねくんもかえでさんも、すっかりクラスになじんで、よかったよ」

 左野先生はそう言って、おだやかにほほえむ。

 転校生であるうちらのことを、ずっと気にしてくれていたんだろうな。

 そんなことを考えながら、左野先生から受けとったグローブを手にはめる。

「あかね、もう始めていいのか?」

「いや、もう少しだけ待ってくれ」

 そろそろ、かえでがあの人をつれてきてくれるはずだから──。

 ちらりと校舎のほうを見ると、小柄で白髪まじりの男の人が、こちらへむかってきていた。

 左野先生はその人に気づくと、まぶしい日差しの中で、目を見ひらく。

「えっ、校長先生!? ど、どうされたんですか?」

「あかねくんとかえでさんに、申し出をうけていたんです。──『転校生だからって、どこでも好きなクラブに入れるというのは、みんなに対してフェアじゃない。だから、校長先生に、わたしたちの入部テストをしてほしい』と」

「そ、そうだったのですね。2人の希望は、あかねくんがサッカークラブで、かえでさんがおえかきクラブでしたね」

「ええ。あかねくんもかえでさんも、誠実で、すばらしい生徒ですよ。感心しました」

 校長先生は、きげんよく答えた。

「校長先生、さっそく始めても、いいですか?」

「ええ、どうぞ。しっかり見とどけますから。左野先生、実況でも入れてあげたらどうです?」

「いいですね。────さあ、いよいよ、チームふたごVS4年1組の歓迎試合がはじまります!前半戦はあかねくんとのPK勝負……いざ、試合スタートです!!」

 左野先生の実況が、ムードを盛りあげてくれる。いいぞっ!

「よーし、1人ずつ、どんどんけってくれ!」

 うちはサッカーゴールの前に立ってさけぶ。

「じゃあ、おれからいくな!」

 まず、名乗りをあげたのは、藤司だった。

 カゴからサッカーボールを取りだすと、うちとむかいあう。

「なああかね、結局、サッカークラブにするのか?」

 藤司はまわりにはきこえないよう、小声でうちに言った。

 そっか、藤司にはこの前、クラブのことで相談したもんね。

「ああ。オレ──あかねは、サッカークラブがいいんだ」

「そっか、わかった。──手かげんはしないからな!」

「あたりまえだ、こいっ!」

 うちがニッと笑うと、藤司はボールから数歩距離をとる。

 右か、左か……さあ、藤司はどっちでくる!?

 かるくステップを踏みながら、タイミングをとった藤司が蹴ったのは──。

 正面……いやっ、真上! しかも、ゴールポストぎりぎり!?

「ぅりゃっ!」

 うちはとびあがりながら、頭上にとんできたボールへと両手をのばす。

 手のひらに当たったけれど、いきおいをころしきれず、ボールが手からはなれる。

 軌道がそれたボールは、音をたてて、サッカーゴールのポストにぶつかり、外にはずれた。

 うわわっ、ギリギリ!

 クラスメイトからも、おおおおっと歓声があがる。

「あーっ、おしい!」

「あぶないあぶない。さあみんな、どんどんこーい!」

 藤司が率先して始めてくれたおかげで、ほかの子たちも、次々にボールを蹴る。

 ヒヤリとするいいシュートもあれば、大きくはずれるものまで、いろいろだ。

 やっぱり、ボールを蹴りなれているのは男子が多かったけど──。

「いくね、あかねくん!」

「おう!」

 クラスメイトの……沢渡さん、だったかな? 背が低くてきゃしゃな女子から、はなたれた1本。

 ゆったりした助走だと思っていると、とつぜん、リズムが変わって。

 テンポアップしたまま、沢渡さんは迷いなくボールを蹴った。

 ひざ下の低い位置を、サッカーゴールの左はじめがけて、するどくかけぬけていく。

「えっ、うわっ!?」

 ふいをつかれたうちは、とびつくようにして、ボールを全身でかかえこむ。

 砂だらけの地面にたおれこみながら、どうにかキャッチすることができた。

 ギャラリーから、ここ一番の歓声がわきあがる。

「あ、あかねくん、大丈夫っ!?」

 うちはむくりとおきあがると、すぐさま沢渡さんのそばへ走る。

「すごいっ!!」

「えっ?」

「今のシュートだよ! マジで、点入れられたかと思った!」

「ありがとう。じつは、お兄ちゃんといっしょに、サッカーチームに入ってたんだ」

 どうりで! 助走からのフェイントなんて、初心者にはできないもの。

「ボールコントロールもテクニックも、すごかったよ!」

 どうやら、左野先生も他の子も、沢渡さんがサッカー経験者だったことを知らなかったらしい。

「ひさしぶりに本気を出せて、楽しかったかも。点を入れられなかったのはざんねんだけど」

 ぺろっと舌を出した、沢渡さん。

 もしかしたら、サッカーやめたわけじゃないのかな? なんて予感がした。

「よかったら、またオレとサッカーしてよ。沢渡さんとプレイしてみたい!」

「本当? うん、ぜひ」

 うちが言うと、沢渡さんは、目を輝かせて、うなずいた。

 そのあとも、うちはひたすらゴールを守りつづけた。

「PK勝負の結果、あかねくんはみごと無失点! よって、チームふたごの勝利です!!」



「さあチームふたご、前半戦を勝利で折りかえし! 引きつづき後半戦にうつります!」

 左野先生のノリノリの実況に、みんなくすくす笑ってしまう。

 教室にもどったみんなに、かえでが1枚ずつ、白い紙をくばった。

 校長先生も、クラスメイトも、ゆかいそうだ。

「えっと、予告どおり、次はおえかき勝負をします。校長先生、お題を出してくれますか?」

「わかりました。それじゃあ、せっかくですし、お題は『左野先生』にしましょう」

「ええっ」と悲鳴のような声をあげる左野先生に、教壇の上にイスをおいて、すわってもらう。

「制限時間は10分です。よーい、スタート!」

 かえでの号令に合わせて、みんないっせいに、鉛筆をにぎる。

 左野先生をぐるりととりかこんだクラスメイトたちが、じいっと見つめては、手を動かし、また見つめ──と、なかなかおもしろい光景だ。

「はは、みんなに見つめられるのはいつものことだけど……これはなんだか緊張しちゃうなあ」

 左野先生は気はずかしそうに笑いながら、みんなの視線を受けとめている。

 ちらりとかえでの様子をうかがうと、勝負に気おうわけでもなく、楽しそうに描きすすめていた。

 クラスで1番になれるかはわからないけど、いい絵ができあがるのは、まちがいないね。

「それでは、時間終了です。みなさん、紙を裏むきにして、教壇の上にのせてください」

 左野先生が、それをシャッフルしてから、絵の右上に番号を書く。

 そして、黒板一面に、みんなの絵をはりつけていった。

 左野先生のにがお絵が、黒板いっぱいに広がって、にぎやかだ。

 みんな席を立って、わらわらと黒板の前に集まる。

 お題はいっしょなのに、マンガっぽい絵から、現実的なタッチの絵まで、たくさん!

 こうして、ながめているだけでおもしろい。

 クラスメイトも、「すげー」とか、「これだれのだ!?」とか、口々にさわいでる。

 んー、かえでの絵は、多分あれだな。

 かえではふだん、教室では、かわいい動物やキャラクターの絵を描いているから、みんなにはパッと見じゃわからないだろう。

 ひととおり絵を見おえると、うまいのを1つ選ぶとしたらどれか、という話になる。

 そしてだんだんと、この2つのうちのどちらか、という空気になった。

 1つは、やわらかなタッチで、あたたかく左野先生を描いた絵。

 色づかいもせんさいで、とてもこまやかだ。

 もう1つは、鉛筆をななめにしてはしらせた、画家さんのようなハッキリしたタッチの絵。

 色はぬられていないけど、しっかりと左野先生の特徴をとらえている。

「この2つ、めちゃくちゃうまいよな」

「うーん、どっちだろう。迷う……」

 挙手で決めた結果、わずかな差で、8番の絵が選ばれた。

 鉛筆だけで描かれた、ハッキリした絵がらのほうだ。

「どのにがお絵も個性があって、先生はすごくうれしかったよ。でも、これは一応、チームふたごとの勝負っていう話だったもんね。──さあ、はたして、この選ばれた絵は、かえでさんのものなのでしょうかっ!?」

「この絵は──」

 みんなが、かえでの答えを、かたずをのんで待つ。

「──わたしが描いたものです」

 わっ、と教室がわいた。

「ってことは、チームふたご、W勝利じゃん! すごすぎだろ」

「もう1つの絵のほうは、だれが描いたんだろう?」

「えっと、もう1つのほうは、俺だよ」

 クラスがそわそわしはじめた中、男子の1人が手をあげた。

 いつも外遊びをいっしょにしてるメンバーの、真壁だ。

 みんなのおどろいた表情を見て、真壁はふたたび口を開く。

「俺、外で遊ぶのも好きだけど、絵を描くのも好きでさ。学校には持ってきてないけど、今は、水彩色鉛筆で描くのにハマってる。描き心地はふつうの鉛筆だけど、水をたらすと絵の具みたいになって、色が混ざりあうのがおもしろいんだ」

「へー、すごいな! そういや、おまえんち、画用紙とかマンガとか、いっぱいあったな」

「おう、姉ちゃんがマンガ好きで、最近はいっしょに描いたりしてんだ。今度きたとき見せるよ」

 真壁は藤司にむかって、うれしそうにそう告げた。

  パチパチパチ

 手をうつ音の主は、満足そうにほほえむ、校長先生だ。

「あかねくんも、かえでさんも、おみごとでした」

「あ、ありがとうございます」

「校長先生っ、入部テストの結果は?」

「もちろん、文句なしの合格ですよ。ぜひその才能を、サッカークラブとおえかきクラブで発揮してください」

 校長先生はにこやかに、うちらを見くらべて言う。

「わかりました。──校長先生、その言葉、わすれないでくださいね」

「? ええ、男に二言はないですよ」

 うちが念をおすと、校長先生はこまったように笑いながらうなずいた。

 よっし! 第2段階、クリア!!

 かえでと計画したとおり、はっきり言葉にして言ってもらえた!!

 よし、いくぞ。

 うちは、そっとかえでと視線を合わせて、小さくうなずく。

 ここからは、うちらが……みんなが、自分らしくいられるための、第一歩。

 行動をおこしたら、うちらは居場所をなくすのかもしれない。

 それでも、うちらは戦うって、立ちむかうって、決めたんだ。

 きっと……伝わるって。だれかがわかってくれると、信じて!

 うちは、まっすぐに校長先生を見すえる。

「校長先生。今、特別に、クラブの入部の枠を増やしてくれたわけですよね、本当にありがとうございます。……でもそれ、もしもオレ──あかねが女子で、かえでが男子だったとしても、校長先生は、同じ対応をしてくれましたよね?」

「………………えっ?」

 おだやかに堂々としていた校長先生の顔が、ぽかんと丸くなった。

 まるで、化けの皮がはがれたタヌキみたいに。

「だって、オレもかえでも入部テストを合格したわけだから、性別なんて関係ないですよね?」

「や……いやいやあかねくん。きみたちは知らなかったかもしれないが、うちの学校では、サッカークラブは男子が、おえかきクラブは女子が、所属することになっているんですよ……」

「それは、どうしてですか?」

 うちに言葉をさえぎられて、校長先生のタヌキ顔が、ちょっとだけムッとなった。

「それは、サッカークラブを希望するのは男子で、おえかきクラブを希望するのは女子だから。かんたんな話ですよ」

「つまり、サッカーを好きなのは男子で、絵を描くのが好きなのは女子だってことですか?」

「ええ、そのとおり」

 かえでの質問に、校長先生は大きくうなずいた。

 うちが、かわって口を開く。

「でもそれ、オレたちは、ちがうと思います。『そういう子が多い』っていうだけで、みんながみんな、性別で好きなものが変わるわけじゃないですよね?」

「……わかった、わたしの説明のしかたがわかりにくかったようですね。言い方を変えましょう。好きかどうかはともかく、得意なものには、よほど特別な人以外、どうしても性差というものがあるんですよ。ほら、女子は気配りに長けて手先も器用だし、男子は筋力があり、体格にまさる。それに、クラブごとに定員は限られているからね、なるべく、得意なことをやらせて、才能を伸ばしてあげることが、その生徒のためになるというのが、校長であるわたしの考えです。──どうだろう、わかったかな?」

 校長先生は笑みをうかべ、うちらをさとすように、おだやかに告げる。

 ……でも、胸を張って言うその目は、さっきまでとはちがう。

 笑ってなんかいない。

 小柄だとはいえ、うちらよりはるかに高い位置から、じいっと見おろしてくる。

『校長先生(わたし)の言うことに、だまって従いなさい』──そう言わんばかりに。

 うちもかえでも、思わず後ずさりしそうになる。

 だけど……ここでさがっちゃだめだ!

 うちは、そっとこぶしをにぎりしめる。

 ──そもそも、校長先生の主張は、まちがってるよ。

 レクリエーションが、あらためて気づかせてくれたんだ。

「さっきのレク、見てくれていましたよね。オレも正直、手ごたえのある人は、男子が多いと感じたけど……でも、だからって、オレから得点をうばいかけたのは、男子だけじゃなかった!」

「おえかき勝負で、わたしと最後まで競ったのも、女子じゃなかったです。あくまで、このクラスでの結果だけど……でも、得意かどうかは、性別のちがいじゃなくて、その人次第のはずです!」

 食いさがるうちらに対して、校長先生は、わざとらしくため息をついた。

「そりゃあ、あくまで割合的な話ですから。例外を挙げれば、キリがないですよ」

「その『割合』っていうのだって、生まれつきの性別だけがつくるものじゃないと思う……!

 ──男の子だから。女の子だから。男の子らしい。女の子らしいって。なにげなくかけられる言葉が、『呪い』みたいに、子どもの『得意』をうばうことだってあるんだっ……!

 うちは思わず、教室にひびくくらい、さけんでしまった。

 うちはサッカーチームにいられなくなってから、ろくに練習ができなかった。

 体育の授業や、遊びとしてサッカーをしている子になら負けないけど、チームで毎日練習を積んでいるような人には、もう歯がたたないだろう。

 かえでは、絵を描くのが好きだけど、色はぬらない。

 ずっと、ノートのすみやチラシの裏紙に、鉛筆でこっそりと描いては、消しつづけてきたから……。

「どうしたんですか、さっきからきみたちは、むきになって。冷静になって考えてごらん。元気で運動神経バツグンなあかねくんが、サッカークラブに。つつましくて絵の上手なかえでさんが、おえかきクラブに……ほら、どこにも問題はないでしょう?」

 校長先生は、荒ぶった子どもに言いきかせるように、威厳のこもった声を出そうとしてる。

 うちが男子であること、かえでが女子であることを、強調しながら。

「問題なら、あります。わたしたちの存在が、校長先生がまちがっていることの証なんです」

「はあ? 意味がわからんな」

「だって、オレたちは──うちらは、『とりかえ』ているから」

「『とりかえ』……?」

 校長先生が、たどたどしくくり返す。

 いよいよ、『あかねくん』と、おわかれのときがきた。

「かんたんな話よ。うちらは『あかねくん』と『かえでさん』じゃなくて、本当は、『あかねさん』と『かえでくん』なの!」


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