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絶体絶命ゲーム A-Side 後編


絶体絶命ゲーム中学生大会の西東京代表として、姿をあらわした亜久斗。
それまで、だれのことも信用しなかった亜久斗に、いったいどんな変化があったのか?
亜久斗のパートナー・大輔との裏話を描いたサイドストーリーを2021年11月15日まで限定公開!
(この小説は『絶体絶命ゲーム10 人形館の呪いを解け!?』に収録されています)

 

前編はコチラから

 

◆3 1人対2人の戦い

 

 9日後――

 6月27日、『絶体絶命ゲーム』西東京大会。

 午前7時55分。

 天気は、晴天。

 スタート地点になる荒川河川敷の江北橋に、桐星中学の一生と昴がきていた。

 境中学は、だれもきていない。

 立会人のタツも、イライラしていた。

「あの2人は、こないんじゃないかな」

 一生が言うと、昴は大きくあくびをする。

「今になって、負けるのがこわくなったんじゃないか」

 タツは、ちらりと時計を見た。

 午前7時58分。

 そのとき、こちらに走ってくるものがいる。

「やっぱり、走らないとダメなようだぞ」

 一生が言うと、昴がストレッチをはじめる。

「しょうがない。こうなったら、自己記録を作ってやるか」

「……スタート時間には、間に合ったようだな」

 亜久斗がやってくる。

「おやおや、どうしたんでェ? 1人じゃァねェか?」

 タツに聞かれて、亜久斗はしぶい顔をする。

「大輔もいっしょにきたんだけど、途中で腹が痛いと言いだしたんだ」

 一生と昴が、あきれる。

「そりゃぁ、しょうがないねェ。まずは、これをつけてくれるかェ」

 タツは、亜久斗たちに、体調チェック用のランニングウォッチをわたす。

「体調が危険な状態のときは、ディスプレイが赤くなるからねェェ」

「赤くなったら、失格になるのか?」

 亜久斗が聞いた。

「いや、そういうわけじゃねェよォ。ただ、赤くなったあと、ディスプレイが点滅したら、それは限界を意味するから、こっちでドクターストップをかけることもあるよォ」

 ランニングウォッチは、心拍数、走った距離、タイム、現在の時刻などが表示される。

 3人は、ランニングウォッチを腕につける。

「大輔がこなくても、スタート時間は変更できねぇよォ」

 タツが、時計を見ながら言った。

「もちろん、それでいい」と亜久斗。

「それじゃァ予定どおりにはじめるよォ。『絶体絶命ゲーム』の運営委員会で、マラソンコースは立ち入り禁止にして、10キロごとに給水所も作ってあるから心配しねぇでェ走っとくれェ」

 亜久斗、一生、昴がスタートラインにならぶ。

 タツは、時計を見る。

「『絶体絶命ゲーム』西東京大会、スタートでェェェェェェ!」

   ドーン!

 花火が上がった。

 昴が、スタートダッシュで飛びだす。

 次に亜久斗、一生の順番で走る。

 どこからともなくドローンが飛んできて、3人を追っていく。

『絶体絶命ゲーム』の運営委員会が、不正がないように監視で飛ばしているのだろう。

 亜久斗たちは、河川敷のコースを、下流にむかって走る。

 トップが昴、2番が亜久斗、3番が一生という順番だ。

 昴がペースをあげて走るが、亜久斗もついていく。

 3人は、速いペースで走っていく。

 6・2キロに折り返し地点がある。

 亜久斗が走っていくと、Uターンしてきた昴と目があった。

「スローペースだな」

 すれ違いざま、亜久斗が昴に言った。

「なんだって!」

 昴が言うが、亜久斗は無視して走っていく。

 亜久斗も、6・2キロでUターンして、川上にむかう。

 トップの昴と亜久斗の差は、10メートルほどある。

 亜久斗のすぐうしろを、一生が走っている。

 一生は、あることを考えていた。

 ――頭脳戦でもスポーツでも、境中学に負けることはありえない。

 だからといって、一生と昴も万能ではない。

 たとえば、eスポーツ、早食い、大食い、釣り、ギャンブル、あるいは考えたこともない奇抜なゲーム、やったことのないスポーツだったら、亜久斗や大輔に負けたかもしれない。

 だから亜久斗が、『マラソン』と言ったとき、心の中でガッツポーズをした。

 マラソンなら、負けない。

 一生と昴は、全国の中学生のトップ5にはいるランナーだ。

 それでも、亜久斗はあなどれない。

 彼は、ただものじゃない。

 ぼくたちのことを調べていても、おかしくない。

 ぼくたちの実力を知っていて、あえてマラソンで勝負しようとしていたら……。

 罠なのか?

 一生は、亜久斗の走るフォームを観察する。

 体が左右にぶれない美しいフォームで走っている。

 もしかして、こいつはマラソンの経験者なのか?

 まさか、ぼくたちよりも速いのか?

 10キロ、15キロ地点をすぎても、3人のペースはかわらない。

 トップの昴と亜久斗の差は、10メートルほど。

 20キロの給水地点で、昴、亜久斗、一生がペットボトルの水をとる。

 亜久斗のひたいから、汗が流れ落ちる。

 汗だくの姿を隠すため、亜久斗はペットボトルの水を頭からかけた。

 一生は、ごくごくと水を飲む。

 気温はどんどん上がっている。

 午前中なのに30度ちかいだろう。

「――やっぱり、『絶体絶命ゲーム』はおもしろいな!」

 亜久斗の声がひびいた。

「えっ?」

 おどろく一生の前で、とつぜん亜久斗が体を反転させる。

「なに!」

 亜久斗が一生の顔を見ながら、うしろむきに走る。

「……な、なにをしているんだ?」

「おれは、うしろむきに走るのが得意なんだよ」

 亜久斗が笑う。

「前を見て走らないと、あぶないぞ」

「前は、一生が見ていてくれ」

「ど、どうして……、ぼくがそんなことを……」

 一生は走りながら話すと、息がつづかない。

「昴は、スピードが落ちてきている。そう思わないか?」

 亜久斗は、平然と話しかける。

「あぶ……あぶないから……前を見ろ!」

 一生はあらい息で、大声を出した。

「ペースが速かったのかな? 昴は、ばててきたようだな」

「あ……あ……当たり前……だろう。……こんな……ハイペース……」

「それなら、抜くか」

 そう言うと、亜久斗はふたたび前に向きなおる。

「……昴を抜くだって…………本気か?」

 首をかしげる一生の前で、亜久斗は走るスピードをあげた。

 昴と亜久斗の差が、どんどんちぢまる。

 一生もはなされないように、力をふりしぼって追いかける。

 亜久斗は、先頭を走る昴の横にならぶ。

「ペースが落ちたけど、どこか悪いのか?」

「……う……うるさい!」

 昴はペースをあげるが、亜久斗は余裕の顔でついていく。

「そうそう、そのペースだ。中学生の記録を作ろうぜ!」

 亜久斗に言われて、昴は必死でスピードをあげる。

 しかし、亜久斗がぴったりついてくる。

「いいぞ、スピードがあがった。楽しいなぁ!」

 亜久斗が挑発する。

「……お前……どういうつもりだ?」

 昴の息が、あがってくる。

「おいおい、また遅くなったぞ」

 亜久斗は、昴の少し前に出て、ちらりとふりむく。

「どうした? 抜きかえせよ」

「く……くそっ!」

 昴は歯を食いしばって、亜久斗を抜きかえす。

「いいぞ。……でも、やっぱりペースが落ちてるぞ」

 亜久斗が、余裕の顔で昴を抜きかえした。

「……お、お、お、お前……」

 昴は、体をふらつかせながら走っている。

「おい、大丈夫か?」

 うしろから追いついてきた一生が、昴に声をかけた。

「……あいつ……、どうなって……いるんだ?」

 そう言うと、昴が倒れた。

 一生が、かけよる。

「……も、もう……走れない……」

 意識がもうろうとしている昴が言った。

「……昴は……、棄権だ!」

 一生が、上空を飛んでいるドローンにむかって言った。

 すぐに、数人の救急救命士がやってくる。

 昴は担架で運ばれていく。

 視線を感じて、一生がコースの先を見た。

 亜久斗が立ちどまって、一生を見ている。

「どういう……つもりだ?」

 一生が近づいていく。

「昴を……追いこんで……ペースをくずさせただろう」

 そう言う一生も、息があがっている。

 亜久斗は、一生を手招きする。

「なに!」

 一生が近づいていくと、亜久斗は走りだす。

「……まだ、やるつもりか。……亜久斗だって……疲れているだろう」

 一生は、しかたなくかけだす。

 夏の太陽が、走っている亜久斗と一生に照りつける。

 30キロ地点、亜久斗も一生もふらふらになっている。

   バシャ!

 亜久斗が、給水所のペットボトルをとりそこねて、地面に落とした。

 一生も、ペットボトルをつかめない。

 2人とも、体力の限界をこえていた。

 亜久斗が、ランニングウォッチに目をやる。

 ディスプレイが赤くなり、『危険』と表示されている。

 亜久斗は、横を走る一生のランニングウォッチにも目をやる。

 しかし、視界がかすんでよく見えない。

 亜久斗の視線に気づいた一生は、腕をあげて赤くなったランニングウォッチを見せる。

 亜久斗も、一生にランニングウォッチをむけた。

「……まだ……つづける……のか?」

 一生が聞くと、亜久斗が聞きかえす。

「……あと……12キロ……お前、走れるか?」

「……ぼ、ぼくは……む……む、無理だ」

 一生のランニングウォッチのディスプレイは、赤くなり点滅している。

「……そ、それなら……先にいくぞ」

 亜久斗は強がりを言って、ふらふらと走っていく。

「うそを……つくな……」

 一生は、前をいく亜久斗をじっと見る。

   バタッ!

 亜久斗が倒れた。

 一生が、苦しそうに息をしながらやってくる。

 一生は、亜久斗の横に倒れる。

 2人の上に、ドローンが飛んでいる。

 すぐに、タツと救急救命士がやってくる。

「三国亜久斗と相馬一生、棄権でいいかえェェ?」

 タツが聞くと、亜久斗と一生はうなずいた。

「棄権……します!」と一生。

「おれも、棄権だ」と亜久斗。

 2人は、マラソンコースに大の字になる。

「……どうする? もうひと勝負……なにか考えるか?」

 一生が荒い息で聞いた。

「……お前……なにを言っているんだ?」

「『絶体絶命ゲーム』の関東大会だよ。……西東京は代表なし、というわけにはいかないだろう」

 呼吸をととのえながら言った一生を、なぜか亜久斗は鼻で笑う。

「……それは、この勝負が終わったあとの話だろう」

 亜久斗が言うと、一生がけげんな顔をする。

「この勝負は、もう終わりだろう?」

「冗談はやめてくれ。……もう1人、ランナーが残っている」

「?…………まさか、大輔か!?」

 一生がおどろく。

「あいつが、まだ残っている」

「でも、彼はコースアウトしたから失格だろう」

「いいや、失格じゃない。ルールでは『スタートラインをこえたあと、コースアウトは失格。』だ。大輔は、スタートラインをこえていない」

「そんなこと……」

 一生は、タツに確認させる。

 運営委員会が、大輔にゲームをやる資格があるか調べる。

 数分後、タツに連絡が入る。

「亜久斗の言うとおりだねぇ。大輔は、まだスタートラインをこえていない」

「あいつにゲームをやる資格はあるのか?」

 一生の質問に、タツはたっぷり時間をかけて答える。

「まぁまぁ……そういうことにィィィィィなるねェェェェェ」

「そんな、バカな……。もしかして?」

 一生は、亜久斗に視線をむけた。

「これは、罠だったのか……? 自分がおとりになり、ぼくと昴を棄権させる。そして、大輔をゴールさせる。そういう作戦だったのか?」

「……さぁ、どうかな」

 亜久斗は、とぼける。

「そ、そ、そんな。……もしかして、ゲームをマラソンに決めたのも、そのためなのか? 最初から、この作戦を考えていたのか?」

 一生の問いに、亜久斗は聞こえないふりをする。

「大輔は歩いてゴールしても、境中学の勝利になる……」

 亜久斗は、にやりと笑った。

 

 

◆4 走れ、大輔

 

 午後6時。

 一生、立会人のタツ、午前中に救急救命士に運ばれた昴の3人は、マラソンのスタート地点になる荒川河川敷の江北橋にいた。

 そこに亜久斗が、大輔を連れてあらわれた。

「ようやく、きたねェェェ」

 タツは不機嫌そうに言って、大輔にランニングウォッチをわたした。

「むし暑かったから、熱中症にならないように、この時間から走らせることにしたんだ」

 亜久斗の言葉に、なぜか一生と昴はほほえみながら、目を見あわせている。

 大輔はランニングウォッチをつけて、スタートラインの前にいく。

「スタートラインをこえたあと、コースアウトしたら失格だからねぇ」

 タツが忠告すると、大輔がうなずく。

「なにがあってもコースアウトするな」

 亜久斗に言われて、大輔は「はい」と返事をする。

「――――1つ、確認したいことがあります」

 大輔が走りだそうとしたとき、一生が言った。

「なんでぇい?」

 タツが聞く。

「今回の『絶体絶命ゲーム』西東京大会の開催日は、『6月27日』となっていましたよね」

「そうだよ。それがどうかしたかェ?」

「つまり、このゲームが有効とされるのは、6月27日中。……残り5時間55分ですよね」

 一生が、スマホの時間を見ながら言った。

 亜久斗も、すぐに時間を確認する。

 午後6時5分。

「つまり――大輔が27日中にゴールできなかったら、このゲームは無効になるんじゃないですか?」

 一生の問いを聞いて、亜久斗が表情をかえる。

「ゴールの制限時間は決めていなかった。たとえ、28日になっても……」

「いや、一生の言うとおりだよォ」

 タツが、亜久斗をさえぎって言った。

「今日中にゴールしないと、無効だというのか?」

 亜久斗が聞きかえした。

「『絶体絶命ゲーム』西東京大会は、6月27日。大輔が今日中にゴールできなかったら、ゲームは無効。再ゲームだねェ」

「おい大輔、今の聞いたな」

 亜久斗が言うと、大輔がうなずく。

「スタートだ!」

 亜久斗に言われて、大輔はあわてて走りだす。

「このことは、想定外だったようだな」

 一生は、満足そうに言った。

「初心者がフルマラソンで目標にするタイムは、5時間。制限時間まで、5時間50分以上ある」

 亜久斗が言うと、昴が笑顔で答える。

「それは、大人の初心者のタイムだ。中学生に、フルマラソンの完走はむずかしい。しかも、大輔は運動ができるタイプじゃないだろう?」

「……あいつは、まじめだ」

 昴に聞かれて、亜久斗は答えになってない答えを言った。

 

 大輔は、黙々と走っていた。

 もうすぐ日没なのに、むし暑い。

 三国くんは、最初からぼくを走らせるつもりだったんだ。

 それで、マラソンのトレーニングをするように言ったんだ。

 でも、時間制限までは想定してなかったのかもしれない。

 5時間50分以内にゴールしないと、三国くんの計画は水の泡だ。

「これって、責任重大だ」

 大輔は、走りながらつぶやいた。

 頭の上を、ドローンが飛んでいる。

 コースアウトしないか、監視しているようだ。

 今日中にゴールできるだろうか?

 トレーニングはまじめにやってきたけど、ぼくは本番に弱いんだよな……。

 日が沈んで、あたりが暗くなる。

 10キロの給水地点で、ペットボトルの水を手にとる。

 大輔は、体調チェック用につけられたランニングウォッチを見た。

 午後7時30分。

 残り4時間30分で、32キロ。

 1時間で8キロ走れば、4時間で32キロになる。

 順調にいけば、今日中になんとかゴールできるけど……。

   ぽつりぽつり……

 雨が降ってきた。

「これくらいなら、大丈夫だ」

 大輔は、自分に言い聞かせて走る。

   ざあざあ……

 雨はすぐに激しくなった。

 まだ、30キロ以上もあるのに……。

 このまま、ずっと雨だったら、どうしよう?

「……どうしてなんだ? どうしていつも、ぼくはこんなに運が悪いんだ」

 大輔は、夜空を見上げる。

 雲はかかっているが、うっすら満月が見える。

 この雨は、おそらく、多分、きっと、絶対にすぐやむ。

「……三国くん、ぼく、負けないよ」

 大輔は、雨の中を走る。

 

 そのころ、一生と昴は、河川ぞいにある喫茶店にいた。

 ここで『絶体絶命ゲーム』西東京大会の祝勝会をやる予定で、数日前に予約していた。

 しかし、店には一生と昴しかいない。

「雨は、あがったぞ」

 窓の外を見ていた昴が、ぼそりと言った。

   ブルブルブル……

 スマホにメールが届いた。

 一生が、ディスプレイに目をやる。

   犬塚大輔、25キロ地点を通過。

「運営委員会が、途中経過を知らせてきた。25キロ地点を通過したそうだ」

 一生が言うと、昴が時間を確認する。

「今、10時だ。残り2時間で、17キロ。大輔は、間に合わないだろう」

 昴が言うと、一生は暗い顔をする。

「いいや、無理なタイムじゃない」

「でも、そうしたら、ぼくたちは負けるんだぞ」

「……ぼくたちは、学校の名に泥をぬることになる」

 一生はそう言って、唇をかんだ。

「こうなったら奥の手を使おう」

 昴が、切羽詰まった声で言った。

「奥の手だって? どうするつもりだ?」

「おさななじみに、ちょっと悪いやつがいるんだ。ぼくがたのんだら、平気で汚いことをやってくれる」

「……でも、それは……」

「このままだと、ぼくたちはもう、学校にいけないぞ!?」

「わかっているけど……」

「いや、いい。一生は返事をするな。全部、ぼくが勝手にやったことだ」

 昴は、スマホをとると電話をかける。

 

 午後11時。

 大輔は35キロ地点にきていた。

 足が、鉛のように重たい。

 視界もぼやけている。

 体が、ふらふらする。

 気力だけで、前に進んでいる。

「……まだだ。まだ、いける……。あと1時間……ぼくは……走れる」

 大輔は、うわごとのように言う。

 どんなことがあっても、走り切るんだ。

 ぼくがゴールしたら、三国くんは、どういう顔をするかな?

「……あれ……だれかな?」

 前を見ると、コースの先に数人の男がいる。

 それに、大輔の走るコース横の暗がりにも、だれかがいる。

 そのとき、暗がりにいた男が、大輔の頭上にむかってなにかを投げた。

   ドン!

 投げられたなにかが当たった音がして、飛んでいたドローンが落ちてきた。

「うわぁ!」

 危うくドローンに、ぶつかるところだった。

 コース横にいた男が、ボールを投げて、ドローンを墜落させたのだ。

 なんだろう?

 それに、コースにいる男たちはだれだろう?

「お前が、犬塚大輔か!」

 コース上に立っている男が、声をかけてきた。

 体が大きくて、するどい目をしている。

 そのうしろにも数人の男がいる。

 彼らは、絶対にあぶないやつらだ。

 大輔は知らないふりをして走るが、男たちはついてくる。

「お前にうらみはないけど、たのまれたんでな」

 体の大きな男が言うと、ほかの男たちが大輔をかこむ。

「……とおしてください」

 立ちどまった大輔は、蚊の鳴くような声で言った。

「なんだって、聞こえねぇなぁ!」

 体の大きな男はそう言って、大声で笑う。

 こんなの卑怯だ。

 どうしてなんだ?

 どうして、こんなことをするんだ?

 くやしくて、涙があふれてきた。

「お前、泣いているのか?」

 体の大きな男は、そう言って、また笑った。

「そうだ、いいことがある。お前、このコースから外れて家に帰れ」

「えっ!」

「そうすれば、おれたちはなにもしない」

 大輔は、大きな体の男を見た。

「ここから横に歩いていって、家に帰るんだ。それで、終わりだ。簡単だろう」

「……そんなこと」

「それとも、ここでボコボコにされたいか? 痛いぞ。すごく痛いぞ」

「……でも」

「帰れって言ってるんだよ!」

 大きな体の男は、大輔をおどす。

「……ぼくは走るんだ」

「お前、ふざけてるのか!」

「……ゴールしたいんだ」

 大輔が言うと、男たちはあきれる。

「しょうがねぇな、バカだな」

 体の大きな男は、大輔をにらみつける。

「……おねがいです。とおしてください」

 大輔がたのんでも、男たちは笑うだけで、動こうとしない。

「……とおしてくれえ!」

 大輔が叫んだ。

「おもしれぇ。なら、力ずくでとおってみろ!」

 体の大きな男が、大輔をにらみつける。

「そいつをとおしてやれよ」

 どこからか、低くて迫力のある声が聞こえてきた。

「えっ?」

 コースの横から、仁を先頭に境中学の不良たちがやってくる。

「そいつは真剣勝負をしているんだ。じゃまされると困るんだよ」

「なんだって!」

「大輔、ここはおれたちにまかせて、お前はいけ!」

 サダオが言った。

「いかせるか!」

 体の大きな男が言った直後、仁が前に立っていた。

「お前……」

 おどろいた男の表情が、一瞬でこわばった。

   バタン!

 体の大きな男が、地面に倒れた。

「早くいけ! 絶対に時間内に、ゴールするんだぞ!」

 仁が力強く言った。

 大輔はうなずくと、力強く走りだす。

 うしろで怒鳴り合う声が聞こえるが、気にしている余裕などない。

 今、ぼくがやるべきなのは、走ることだけだ。

 

 大輔は、ただひたすら走った。

 ランニングウォッチで、時間を確認する。

 午後11時55分。

 ゴールが見えてきた。

 最後の力をふりしぼって、なんとか走る。

 目の前がかすんでいる。

「……もう……動けない……」

 時間を確認する。

 午後11時56分。

「……あと少しなのに……。ぼくは……ぼくは、かわりたいんだ……」

 自分で進まないと、ダメなんだ。

 ただ、ただ、足を前にだして、進めばいいんだ。

 あぁ、足が重たい。

 足が痛い。

 でも、負けたくない。

 午後11時57分。

 ひたいから流れた汗が、目にはいって痛い。

 前がよく見えないけど、ゴールの先に、だれかがいる。

「……あれは……三国くん……?」

 大輔は、足を引きずりながら走る。

 そして、ゴールラインをこえた。

 ゴールで待っていた亜久斗が、大輔の前にくる。

「ぼく、間に合ったかな?」

「自分で確かめろ」

 亜久斗に言われて、大輔はランニングウォッチに目をやる。

 ――午後11時59分。

「間に合ったんだね?」

「待たせすぎだ」

 亜久斗が怒ったように言うと、大輔は笑った。

「お前には、才能があると言っただろう」

 大輔がうなずく。

「……完走できたなんて、信じられないよ」

「お前、中学に入学してから、ずっとマラソンのトレーニングをしていただろう」

「そんなこと……」

 そこまで言って、大輔ははっと気がつく。

「パシリ?」

「毎日、あれだけ走らされていたら、足腰は強くなる」

「……パシリが役に立つなんて……」

 大輔の疲れは限界をこえて、もう立っていられない。

 倒れそうになった大輔を、亜久斗が抱きとめた。

「……よく、やったぞ」

 亜久斗が言うと、大輔は小さくうなずいた。

 

おわり

 

この短編は、10月13日発売のこの本にのっているよ!


絶体絶命ゲーム10 人形館の呪いを解け!?

  • 作:藤 ダリオ 絵:さいね
  • 【定価】 748円(本体680円+税)
  • 【発売日】
  • 【サイズ】新書判
  • 【ISBN】9784046320292

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コミックも大好評!


絶体絶命ゲーム 1

  • 漫画 佐藤 まひろ 原作 藤 ダリオ キャラクター原案 さいね
  • 【定価】693円(本体630円+税)
  • 【発売日】
  • 【サイズ】B6判
  • 【ISBN】9784046802743

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